アルトリアの花

マリネ

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「お嬢さん、ソウンディック様の知り合いか。力を使わせるなんてすごい大事にされてるんだな。」
「いつもなら放っておくか、鞘で払ってたよな。あんな笑顔も初めて見た。」
「英雄の力なんて、第五の奴らしか見る機会ないしな。」
茶色の軍服を着たアルメリアの騎士団の人々が、鍛錬の手を止めて次々と傍にやって来る。
集まってきた人々が次から次へと話しかけてくるが、中にはなかなか物騒な発言が含まれているのが気にかかる。
いつもなら放っておく?剣が人に向かってきても?
レティに見せる優しい言動からは、想像もつかない。
「皆さんはソウンディック様とは長いお付き合いなんですか?」
「ああ、昔ギルデガンド様が王都から連れてきて、騎士団に入るまではここで鍛えてたんだ。他人に無関心なあいつが女の子を連れてくるなんて感慨深いよ。」
「まぁ、あんな訳のわからん力持ちだからな。他人を受け入れられなくなるのも分かるが。」
「力など使わなくても、もう誰も勝てないしな。ほら、見てみなよ、嬢ちゃん。」
指さされた方向に目を向けると、ソウンディックとアルベルトがちょうど相対していた。
アルベルトが何度も打ち込んでいくが、それを微動だにせず受け流している。
流し、受け止め、刃をつぶしてある模擬剣で隙のみえるとこを打つ。
「圧倒的な実力差ですよね。」
ポンと肩に手を置かれて初めて、背後に人が立っていることに気が付いた。
明るい茶髪にそばかすが可愛らしい少年だが、着ているのは黒い軍服だ。
「第五騎士団のご到着ですか、カルテット様。」
今まで気さくに話しかけていたアルメリア騎士団の人々は、一斉に少年に敬礼する。
黒い軍服は王都の騎士団、茶色い軍服はアルメリアの騎士団らしい。
「僕だけ先に着いたんだよ。団長の服を着てるってことは、君がレティだね。僕は第五騎士団のカルテット。よろしく団長の最愛の人。」
「はい、初めまして。カルテット様。」
ふむと、カルテットはレティを眺めると囁いた。
「ねぇ、ソウンディック様の本気の姿を見てみたくない?」
「え、それは。」
見てみたい。
アルベルトとの打ち合いは、先ほどからソウンディックの優勢で変わらない。
ソウンディックは力は別にしても、持てる実力の寸分も出していないのは明白である。
「あぁ、騎士団の皆は離れてね。レティ嬢、ちょっと失礼。ソウンディック様!」
カルテットは呼びかけるが早いか、ソウンディックの軍服ごとレティを抱きしめてブンブンと手を振った。
「あ、カルテットのバカ。」
ソウンディックに相対していたアルベルトが異変にいち早く気づく。
ぶわっと足元一面に黒の靄が広がり、剣を振り上げたソウンディックを包み込んだ。
「やめろ、ソウンディック。」
振り上げた剣はすごい勢いでアルベルトへ下ろされ、受け止めようとしていた剣もろとも体ごと弾き飛ばされた。
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