アルトリアの花

マリネ

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エディルとエステザニア

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「エステザニアの公爵家の方が何故…。」
「母が亡くなってからは、家を出て平民として暮らしております。エステザニアでは精霊の加護など嫌悪の対象です。公爵家からすれば長生きな末子など、邪魔な存在でしかなかったのですよ。」
遠い昔を懐かしむ。
あちこちを放浪し、迷い込んだ森で精霊王と出会った。
「精霊王にとっては、レティシアを預けるのに都合も良かったのでしょう。引き取ってから、反乱の動向には注視して参りました。数年は変化が無かったのですが…。」
胸元に入れていた地図を広げる。
カルストリアとエステザニアの中でも、アルトリア周辺を拡大して描かれた物だ。

「ここ最近、旧王家派に動きがあります。ここが今回の道、エステザニアとアルトリアが繋がってしまいました。そして、ここが私が襲撃を受けた場所。旧王家の拠点はこの先、エステザニアの聖山と言われているクルス山の麓だと聞き及んでおります。」
「見事に一直線だな。」
指差した地図を覗き込んだソウンディックが唸る。

「今回の奴らは旧王家なのか?」
「王権奪還に精霊の加護を持つ者を奴隷として集めていると、先ほど捕まえた者達は言ってましたよ。」
「恐らく、旧王家で間違い無いかと。反乱の折り、レティシアの生家が襲撃された話はご存知ですか?」
見渡すと、全員が同時に頷く。
何も調べず勘だけでレティシアを受け入れたとは思っていなかったが、短時間でよく調べたものだ。
「王家の為に白金の精霊使いを差し出せ。それがレティシアの両親に通知された後日でした。どのようにして存在が明るみに出たのか、確認したのかは分かりません。ただ幼い頃のレティシアは、悪意がある者が近づくと白金に包まれるのだと、両親から相談を受けた事があります。」
商家に業者として出入りし、レティシアの家とは交流していた。
襲撃の際には連絡を受けて駆けつけたものの、両親を救うには時間が足りなかった。密かにレティシアだけを託され、そのままエステザニアを後にした。

「私がアルトリアに連れて来てからは、捜索も下火だったのですが、先日からクルス山周囲の旧王家派の領土に密かに通知がありました。白金の精霊使いを見つけ公爵家に差し出せば報奨金と安寧を保証すると。」
旧王家派は、クルス山が領土の貴族に匿われている。
新王家派の体勢が整ってない現在、有力貴族全てを排除出来ていないのに起因していた。
「公爵家か。オーディル家ではないのだな?」
「いえ、残念ながら。今のオーディル家は旧王家派筆頭です。」
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