アルトリアの花

マリネ

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ソウンディックとアルベルトの宴会

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エディルとレティシアを遠目で見ながら、空のグラスを弄んでいた。
レティシアにとっては、長年の肉親同然のエディルだが、ソウンディックからしてみれば彼女が一番に信頼している男性である。
分かってはいるものの、おもしろくはない。

「顔に出てるぞ。ほれ、新しいワイン。」
「そんな馬鹿な。顔に出さないのが貴族の嗜みだろう。」
アルベルトから差し出された新しいグラスを受け取って、口をつける。
「さっきのより旨いな。」
「だろう。お前の部屋からくすねてきた。」
ニカッと笑う。

「フィンは何だと?」
王宮からの手紙が届いていたのを、アルベルトが確認していた。
「第二王子の耳にレティシアの事が入ったらしい。フィン王女や周りが止めているが、そのうちアルトリアまで来てしまいそうだと。」
「シュタインか。いずれはレティシアと会わせるが、今じゃないな。第一、次期国王となる者が、ふらふらしてどうするんだ。」
「シュタイン殿下からすれば、大好きなお兄様が継承すると思ってんだろ。まだまだお子様だよ。」
若干12歳。子供と言えば子供だろうが、そろそろ分別は付いても良い年頃だ。
子供たちに激甘な国王夫妻は強く言わないだろうし、姉のフィンが諌めても反抗期なのか聞き流す。
少し厳しめの侍従か学友でも着けた方が良いのかもしれない。

「私にはお前が居てくれて良かったよ。」
物心着く頃には宰相から紹介を受け、精霊の加護が無くとも、継承権を手放しても、深遠を極めようとも、変わることなく供に居てくれた。
「何だよ、しおらしくして。」
間違った事をすれば諌め、努力をともに喜べる、貴重な存在だ。
「助かってるよ。」
「おお、何の頼み事だよ。気持ち悪りぃから、早く言え。」
そんなつもりは無かったのだが…。

「そうだな。エディル殿に連絡用の精霊の装身具を渡してくれ。レティは扱えないから、カルテットと連絡を取ると良いだろう。」
「分かった。でも良いのか?エステザニアでは精霊の物なんて嫌われるぞ。」
取り上げられるかもよ?と心配する。
錯綜する情勢を確認出来るなら、録に使える者の居ない所で取り上げられても痛くもない。
「そのエステザニアの情報が得られる機会だ。彼なら隠し持つなんて訳ないだろう。それに、兄君の様子が分かれば、レティが喜ぶ。」

はいはい。と飽きれ顔をしているが、しっかり整えてくれるのを知っている。
お前がいつか、その手腕を自分のために発揮する時は私も微力ながら助力しよう。
約束するよ。
くっと残ってたワインを飲み干すと、空いたグラスをアルベルトに向けた。
「お前の残ってるだろ。」
「…分けるのは少しだぞ。ここには安ワインしかないんだからな。」
分け入れられたグラスを掲げる。

「良き友人に。」
「親愛なる我が君に。」

カツンとグラスが当たり、ワインの赤さが篝火の灯りとともに揺らめいた。
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