アルトリアの花

マリネ

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ソウンディックとアルベルトが部屋から出て行ってから、一人になった部屋はすごく静かになってしまった。
エディルが旅立つ姿を思い出しそうになる度に、その後のソウンディックの瞳がちらつく。
「んー。」
恥ずかしさで身悶えしてしまうのが、いたたまれない。
バタバタと手足をバタつかせて見るが、思い出す度に動悸が激しくなる。

すると、外からガサガサと木々を揺らす音がする。
「ん?」
気のせいじゃないよね。
ドサッと何かが落ちる音がした後、ガチャガチャと取っ手をいじっている。
マリアなら扉から元気に来るはずだし、アルベルトやソウンディックなら、声がかかるはずだ。
誰か呼んだ方が良いかしら。
その前に、何が居るのか確認した方が良いのかしら?
風の音でしたってなったら、大騒ぎしてもみっともないし…ね。

そっと重いカーテンに手をかけると、外をちらりと覗く。
ふと、顔を上げた瞳と目があった。
「あっ。」
思わず、ぱっとカーテンに隠れる。
くるくるの金髪の巻き毛に、真っ赤な瞳、レティの胸元位の背丈。
間違いない。あの少女だ。
森の中で会った、捕虜の…。
「ん?何で此処にいるのかしら?」

ガシャン。
大きな音とともに、風が吹き込む。
外に流されるカーテンの隙間から、割られたガラスの破片が床へと落ちた。
「お前、あの時の魔女か。」
血まみれの手に、石を握り締めた少女は、ゆっくりと部屋に歩み入る。
「待って。」
足元にはガラスが散らばっているのに、彼女は素足だ。

「あの時、何をした。お前のせいで、話してしまったせいで。」
「待って。怪我しちゃう。」
少しずつ近づいて来る彼女に、手を上げて静止を促す。
彼女は白く小さな足が傷付くのを気にもせず、真っ直ぐにレティから目を反らさない。

バタバタバタ。
扉の外が騒々しい。
ガラスが割れた音が、部屋の外にまで聞こえていたのだろうか。
「レティ。大丈夫?」
ソウンディックの声が聞こえる。
背後からは数人はいるだろう、喧騒もする。
「だ、大丈夫です。」
彼女と向き合ったまま返事をしたせいで、思わず声が上ずってしまった。
しまった。と思った時には遅かった。

「開けるよ。」
掛け声とともに開けられた扉の方へ顔を向けると、険しい顔をしたソウンディックと剣を構えるアルベルトがいた。
「だ、大丈夫ですよ?」
「とてもそうは見えないよ。レティシア。」
首を振る。

血塗れで石を握る少女と、両手を掲げて微動だに出来ないレティ。
確かに、大丈夫そうには見えないかもしれない。
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