アルトリアの花

マリネ

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レティシアの信者

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マリアが少女を抱え、レティとともに部屋を出て行った。
医者に見せて風呂に入れるのだそうだ。
マリアが付いていれば、相当な手練れでなければレティに危害を与えられないだろう。
邸の者とギルデガルドを呼んで、部屋の片付けをさせている。
「見たか、あれ。光ってたよな?」
「あれが洗礼だろうな。」
「お嬢さんが使ったのか?」
先ほどの光景を目にしたアルベルトと、遅れて駆けつけたギルデガルドは、先ほどから状況をすり合わせている。
「レティ、気がついてなかったよな。無自覚か。すぐ腕輪に吸い込まれたしな。」
「洗礼の効果が分からない以上、様子を見た方が良さそうだな。」
二人と顔を見合わせる。
そもそもは、レティを部屋に送り届けている最中に起きていた。
地下に収容していた捕虜の一部を、事情聴取のために移動させた際、不慣れな収監が数名逃がしてしまったのだ。
アルベルトから報告を受け、レティの部屋から駆けつけた時には、すでに取り押さえられていたものの、あの少女だけは発見出来なかった。

森での一件の時に、すでにレティの力の影響を受けていた可能性もある。
その痕跡でたどり着いたとも考えられるのだ。
「下手に隠して、不測の事態にレティの側に居られても困るな。」
「なぁ、いっそのこと、レティ付きにしたらどうだ。」
「何を馬鹿な事を。」
「いや、良いかもしれん。そもそも洗礼とはどの様な力なのだ?」
ギルデガルドはちらりとソウンディックを見る。
はぁ。と思わずため息が出た。

「あまりはっきりした事は分からないんだが。」
レティシアの事を調べていたカルテットが名付けたようなものだ。
「すっきりした感じなるんだと。」
アルベルトが端的に言う。
「は?」
「罪や後悔の念が洗われるようにすっきりして、新しく生まれ変わったように、生への観念が一新されるそうだ。周りからは特に変わっては見えないが、レティに対しては敬愛してるようにも見えるらしい。」
報告として聞いたものの、確証の持てるものでもなく、アルベルトとともに困惑した。

「お嬢さんに対しては嘘が付けない、危害も与えられないかもしれない。それなら、マリアから従者としての心構えを学ばせ、様子を見つつ情報を引き出して貰った方が進展するのではないか。」
捕虜達の多くは頑なに黙秘し続けていた。
現状の打破には、一手かもしれない。
危険性が無くもないが。

「レティに敬愛か。ソウンディックが増えるんだな。」
「いや、一緒にするな。私は全ての愛だ。」
誇らしげに言ったのに対して、アルベルトはげんなりした顔を見せ、重いな。と呟いた。
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