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第三章

第103話 そりゃヤることヤったら、まあ……そうなるわな?④

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 殺した……?

「君が兄貴を……?」

 私とサブロウは失礼と思いながらも、嘲るように葵咲あおらへとそう問う。ありえないと思ったからだ。

「ふっ……気持ちは分かるわ。こんな新参者の小娘にブリッツが殺せるわけないって思ってるんでしょ?」
「ああ。あの兄貴が間違っても他人に後れを取るとは思えない。君だから殺せないって言ってるわけじゃないよ? あの人は誰にも負けない。……ただ、それだけのことさ」

 こう見えてもサブロウはブリッツに絶大な信頼を置いている。自分をここまで伸し上げてくれたのは誰であろうブリッツだし、誰よりも傍で、その強さを目の当たりにしてきたからだ。だから負けるはずがない。……いや、負けてほしくないと言った方が正しいか。

「確かに全盛期のブリッツだったら、当然勝ててなかったでしょうね。でも、私が殺した時は、ただのお爺ちゃんだったから。こんな風に言いたくはないけど、あれじゃ誰でも殺せる状態だったわ」
「ありえない……。兄貴が……そんな……」

 押し寄せる偽りの現実に、サブロウが額を押さえていると――

「こんにちはー! 葵咲ちゃーん! 遊びに来たよー!」

 謁見の間に聞き馴染みのある快活な声が響き渡る。

「あら。また来たの……明芽あやめ?」

 葵咲の放ったその名にサブロウは、「明芽だと……?」と開かれた扉へと振り返る。
 そこには己が弟子である明芽だけでなく、エミリアとハルフリーダの姿もあった。

「あれ? 師匠も来てたんですね? もういいんですか……?」

 明芽のその意味深な台詞に、サブロウは更に惑い、明らかに瞬きの回数が多くなる。

「もういいって……どういう意味……?」

 すると、エミリアが一歩前に出て代わりに答える。

「だって仮にもサブロウの兄弟子であるあの人を、その……殺しちゃった人なんだからさ? あんまり関わり合いになりたくないのかなって……」
「君たちまでそんなことを……。それを分かってて何故、あの葵咲って子と……?」

 失望と疑念渦巻くサブロウの問いに、ハルフリーダが少々驚いた様子で答える。

「え? お師匠様が仰られたのですよね? 『勇者と魔王が手を組めば、世界に対して平和だと主張できる。だから僕のことは気にしなくていい』と」
「僕がそんなことを……? いや、知らない……僕は言ってない!」

 サブロウはかぶりを振りつつ語気を強め、引き攣った顔で後退っていく。

 本来、【無幻廻牢むげんかいろう】から抜け出せたサブロウであれば、幻惑魔術程度、今頃解いていてもおかしくはないはず。あくまでこの状況が幻惑魔術であればの話だが。

 しかし、依然としてその兆候はなく、この世界は身に覚えのない現実を突き付けてくる。まさにカオスコードの成せる技。だが、その当の執行した本人は死んでいるという……。一体、どうなってるんだ?

「大丈夫ですか、師匠……?」

 こんな時でも心配気に語りかけてくれる天使な明芽。
 しかし、今となってはその優しさも、悪魔が囁いているようにしか見えなかった。

 歪む視界の中、後退っていくサブロウ。
 すると、そのズボンを掴み、引き止める存在に気付く。

「サブロウ……」

 そう語りかけてきたのはロリエル。幾分か憐れむような視線で、サブロウを見上げていた。

「社長……」
「社長じゃなくて会長なのだ。いや……今はそんなことどうでも良いのだ。ブリッツのことは、その……残念だったのだ。でも、世界の安寧の為には致し方ない犠牲だったのだ」
「じゃあ、本当に……?」
「ああ。……そうだ。墓参りに行ってみてはどうなのだ? 生前、よくサブロウの話をしてたと聞いたし、きっと奴も喜ぶのだ」
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