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1話 フォース
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——東京 新宿——
2550年 7月16日 20:00
激しいサイレンの音とともに鳴り響く爆発音と人々の悲鳴。激しく燃え上がる炎に包まれた超高層ビルを囲む大量の消防車、救急車、警察、そしてこの様子を必死にカメラにおさめようとする人々。
「今度は新宿のビルだー!」
「また殺人か!?噂の超能力者か!?」
「離れてください!危険です!離れて!」
警察官が必死で人々を押し返す。混雑する人々の群れの中には、ビルの中にまだ同僚がいると泣き叫びながら助けを求める者もいる。その目線の先には、黒煙とともに火の粉を新宿の街に降らせる赤く光る超高層ビルが今でも崩壊しそうな状態で建っている。
—超高層ビル 室内—
無惨に飛び散る大量の血。その背後に揺らぐ巨大な影。
「違う、違う、お前じゃない。」
紫色と黒色の光に包まれた細く長い剣を持つ謎の男は呟きながら怯える人々を無惨に殺し続ける。
「やめてくれ、俺には大切な家族がいるんだ、いやだ、やめて、いy」
大量の血が飛び散り、痛々しい音が響き渡る。頭を紫電一閃のごとく貫かれた人が倒れた目の前には、大量の返り血を受け、フードを被った黒いマントをまとう謎の男が紫色の目で鋭く見下している。
「ここにもいないか。我らから大切な力を奪った者は…」
そして謎の男は、隠れながら見ている、超高層ビルの女の従業員を見つけ、そちらに目線を向けた。
—その瞬間—
後ろから、コツン、コツン、と足音が鳴り響く。
「無差別に殺人、趣味が悪い。」
短い髪に、大きい丸眼鏡をかけ、白いコートを纏った細く美麗な女が、白く光り輝く細い剣を右手に持ち、歩いてくる。
ビリビリ…ガキーン
その瞬間、光と一体化した謎の女は、謎の男の目の前まで瞬足で移動すると電光石火のごとく剣の先を謎の男めがけて突き刺す。
その俊敏な動きにも咄嗟に反応した謎の男も、黒光りした剣を突き刺し返す。
お互いの剣の先と先がぶつかり、白い光と黒い光がビリビリとうなり、激しい音とともに爆風が周りにある机や椅子、紙などを吹き飛ばした。近くにある窓は全て割れて吹き飛び、ビルの下にいる人々はさらに興奮する。
「おい、なんだ今の音、あの光はなんだ!」
爆風でフードが取れた男は、紫色の髪を靡かせ、不敵に笑う。その男の紫色の目は、侮っているかのような目でギラギラと謎の女を睨みつけている。
「よーぉ、閃光ぉ」
凄まじい剣と剣のぶつかり合いによる反動でお互い跳ね返り距離を取った。
「今日は意外と来るのが早かったなぁ、おい」
「なぜ罪のない人々を殺す?」
「君に知る権利はない。そして君とここでやりあうつもりもない。」
謎の女はギラリと男を睨みつける。
謎の男は怯える女の従業員をチラッと見ると、
「まあいい、いずれ"フォース"は世に知れ渡ることになる。今回は見逃そう。閃光、君との戦いはまた今度にするよ、君は僕にとって"相棒"だからね。」
そう言って不敵に笑う男は、突如下にできたワープ状のようなものにゆっくりと降りていき、消えていった。
「さっきの音はこの辺からだ!急げ!まだ生存者がいる可能性がある!」
少し離れたとこから聞こえて来るレスキュー隊の声の方向を謎の女は少しチラッと見た後、怯える女の従業員の近くにサッと行き、「すぐに助けが来る」と告げた後、黒い闇の中へと走って消えていった。
———ビルの屋上———
燃え上がる超高層ビルを少し離れたビルの屋上から眺める5人の黒のマントを纏った者達がいた…
「ゼト、お前は仕事が下手くそなんだよ、大胆すぎて逆に見つからん」
「だまれ、抵抗するから殺したんだ、、、あと顔見られたから」
赤い髪に大柄な男が呆れた顔で言う。それにつられるようにピンク色の髪をしたツインテールの女がニコニコした顔でゼトを見ながら言う。
「マジウケるんですけど、どんなに強くても、"あの方"の使命果たせなきゃ意味ないんですけど、きゃはは」
白い髪をした隻眼の男は、燃え上がる超高層ビルを見ながら言う。
「イーリュン、笑い事ではない。この使命は我らの命運にかかっているのだ。ふざけた覚悟で望むのなら帰れ」
フードの下の影から見える黒く強い眼光をした男が少し前に出て「とにかく」と言った。
「もうあまり時間はない。我らの戦力源を取り戻し、これから起きるであろう"大きな戦い"に備えなければならない。先を急ごう」
そう言ってゼト以外の4人は別のビルに飛んでいく。ゼトは月を眺め、不気味な笑みを浮かべながら呟く。
「これからだ、これからが我らの時代だ」
そう言うと、ビルとビルのくらやみの方へと消えていった。
月明かりに照らされる新宿の街は火の粉の雨によって静かで、しかし人々の声によって騒がしい夜の街となった。
—翌日—
東京の中央区に立ち並ぶ住宅マンションやビルの中に少し自然漂う《ヒデ》という文字がオシャレに書かれた看板が立ってあるカフェがある。
カフェ《ヒデ》
天井のすぐ下にある小さなテレビにうつる女性のニュースキャスターが先日の超高層ビル爆発事件について報じている。
「警視庁は、先日から多発している連続殺人事件と関連性があるとして、調査を進めています…」
「今度は新宿か~、これで何回目だよ、爆発事件に殺人事件。」
「ほんとこえーよなー、なんとかしてほしいぜーまったく。」
「でもやはりあれらしいぞ、最近噂されている、あの"超能力者"の仕業じゃないかって!」
「マジかよ、こーわ」
テレビの下で喫茶店常連のおっさんたち二人が話をしている。
そんな様子を店の端の席で聞く二人の男がいた。
「お待たせしました。コーヒーになります」
「あ、ありがとうございます」
できたてのコーヒーを飲もうとする蓮(れん)にむかって晃(こう)が話す。
「蓮、お前は信じるか?超能力。巷ではこー呼ばれてるらしいぜ、"フォース"って。」
横目でテレビを見ながら話す晃に、蓮はコーヒーを飲みながら少し馬鹿にした顔で言う。
「信じるわけねーだろ?SFとかファンタジーとかじゃあるまいし、、うわ、あちっ」
まだ少しも冷めていないコーヒーを受け皿に置き、スマホを手に取り、メールを送る。
「おいおい、また愛ちゃんかよ、親友と彼女、どっちが大事なんだよ」
「彼女に決まってんだろバーカ」
「な、バカって言わなくてもいいじゃんか、バカって」
そんな会話をしていると、店員が晃のココアを持ってきた。
「お待たせしました。ココアになります」
「ありがとうございまーす」
その様子を見た蓮が少し笑いながら言う。
「お前は相変わらず子供だな」
「ココアを飲んでなんで子供なんだよ。もー立派な大学生だ」
そういってココアを飲もうと口にするが「あつっ」と飲めずに受け皿にカップを置いた。
そのあと目線を上にしたら、喫茶店で働くキラキラ輝く女の子に目線がいく。
「あー、今日も相変わらず可愛いな、凛ちゃん」
女店員に目線を運ぶ晃をチラッと見たあと、少し呆れた顔で蓮が話す。
「で、今日はなんの用なんだ?」
「え?あ、そーそー。忘れてたわ本題」
そう言って隣の椅子に置いてあるバックからチラシを出し、蓮に渡した。
「東京剣道大会?なんでこんなの」
「お前の才能をおれはもったいないって思ってんだよ。高校の時、英雄として讃えられたお前の剣術のスキル、ここで試してみねーかってことだよ。」
晃は誇らしそうに蓮を見つめながら話した。
「俺はもうやめたんだ。大会に出るつもりもない。まず英雄って大袈裟な言い方やめろ」
「なんで、英雄じゃん」
「誰も助けてねーよ」
蓮はやれやれ、といわんばかりの露骨な表情で答える。そしてさっきより少し冷めたコーヒーを全て飲み干し、御銭入れからお金を取り机の上に置いた。
「まあ、ありがたいけど、最近は忙しんだ。このあとは愛と会う約束してっから、じゃ、先帰るぞ」
そういって蓮は立ち上がり出口に向かって歩いて行った。
「え、おい」
先に出ていってしまった蓮を少し眺めた後、小さくため息をつき、ココアを一口飲んだ。
「あちっ、蓮あいつよくこんなあちーのすぐ飲めたな」
蓮と晃は小さい頃からの幼馴染であり、高校まで全て一緒の学校に通うほどの親友だった。先に地方から上京した蓮を追うように、一年後、晃が上京して、もう二年が経つ。
週に何度か会う二人だが、最近は蓮が忙しく、今日もせっかく持ち込んだ剣道大会の話はちゃらになってしまい、少しつまらなさうな顔をしている晃は、結局一人でココアを美味しくいただいたのである。(※猫舌のため時間はだいぶかかりました)
———東京 中央区 ———
司令長室
「まあ、気持ちはわかるわ。でも愛菜(まな)、あなただけ突っ走ってもし何かあったらどうするの?」
「調査結果」と書かれた数十枚ほどのバラバラな印刷物を束ねて机の上でコンコンと整える眼鏡をかけ、白衣を着た女が少し不安げに言った。
「そんなことわかってる、でも真由、このままやつらの好きにさせたら…」
悔しそうな顔でそう言い、うつむく愛菜に、真由はそっと近づくと、両肩に手を差し伸べ、愛菜の目をじっと見つめた。
「だからこそ、"仲間"がいるの。あなたは、ひとりじゃないでしょ?」
自分の目をまっすぐ見つめる真由に、愛菜は少し申し訳なさそうな顔をした。
「うん…ごめん」
確かに私は無謀だった。自分の剣と黒いマントの男の剣がぶつかり合った時、彼のフォースではこんなに巨大なビルを燃やすことは不可能だと思った。
もしかすると火を操るフォースの使い手がいたかもしれない。いや、いただろう。でないとあんなに火が燃え上がるわけがない。
もし相手が複数人で攻撃してきていたら…
胸の中が少しズキっとなった。仲間に大きな迷惑をかけていたかもしれない。
うつむき、何かを考え入っているような沈んだ顔をしている愛菜を見て、真由は少し安心したように口元が緩み、軽くニコッと笑うと愛菜に背を向けて言った。
「もちろん、このまま好き勝手させるわけにはいかない。私だって何も考えていないわけじゃないわ」
愛菜は顔を上げると、真由の背中を見つめた。
「なにか策があるの?それとも…何か"見えた"の?」
「うん、今後、フォースは世間に知れ渡ることになる」
「え、私たちはどうなるの?」
「そこはまだわからない、でも…」
すると、ドアを強く二回ノックする音が鳴り、「どうぞ」と返事をする間もなくドアが開いた。
「おい、愛菜、お前また、大丈夫なのかよ」
右手には腰につけるエプロンを持ち、頭につけた緑色の三角巾を取りながら焦って男が入ってきた。
「諒(りょう)…!」
諒は、まっすぐ愛菜に向かって歩き近づくと、少し目を見つめた後、安心したようにため息をつき、腰に手を当てた。
「お前なぁ、何でもかんでも突っ込めばいいってわけじゃねんだぞ。今朝真由からメールきて、びっくりしたんだぞ?何回目だよ」
「わかってるって、ごめんって」
愛菜より少し身長の高い諒は、少し腰を曲げ、顔をしかめた。
「ならもう、一人で危険なことはすんな。わかったか」
「うん」
少しうつむき、ふて気味な愛菜に、怪我とかはないのか聞いた後、諒は敵はどうだったのかを聞いた。
「"相棒"?ライバル、とかならわかるけど…
なんだよそれ」
「わからないけど、そんなことを言ってきた」
真由は少し考えた顔をした後、他には何か言ってなかったか聞いてきた。
「あとは…あ!そういえば、さっき真由が言ってたのと同じことを言ってた。フォースはいずれ世に知れ渡るって…」
諒はそれを聞くとすこしバカにするように笑った。
「まさか、未来予知か何かか?それとも何か根拠でもあるってことか?」
真由はすこし思いついた顔で諒の発言に繋げた。
「うん、おそらく、なにか根拠があるんだと思う。これから何か事件を起こす予兆みたいに」
「じゃあそれを止めないと。これ以上罪のない人を死なせるわけにはいかないし、私たちの素性も世間に知られては困る。真由、それで、さっきの何か策はあるの?」
真由は社長室にあるような茶色い机の前にある少し大きめの椅子に座ると、愛菜を見つめて言った。
「"私が見た未来"に、まず世間にフォースを知られないと言う道はなかった」
愛菜と諒はえっ、と少し驚き、唖然とした顔で真由を見つめる。
「いつかはわからないが、確かに愛菜の周りにいるフォースを持たない一般の人々はあなたを避けるイメージが湧いたわ。そして愛菜の胸の中心にはフォースと思われる一つの大きな光があり、それを特に避けていた。他のForsの子の手を握っても変わらなかったし」
真由のフォースは"未来"と呼ばれるフォース。未来を見る際は、自分とは別の人物の肌に触れることで、その人を一人称とした景色が大量に脳へと伝達される。その景色は現実にそのまま起こりうる景色ではなく、擬似的なイメージがそのまま脳へと伝達される。しかしその未来はいつ起こるのかはわからず、必ずいつかは起こるが、起こる時間、までは知ることができない。また、自分の未来を見ることもできない。
「なら、どうするの?今まで影で隠れながら戦ってきたことを台無しにして、公でフォースをあらわにするってこと?」
「残念だけど、そういうことになる」
少し下を向いたが、間を開けた後、真由は顔を上げまっすぐ愛菜を見つめて言った。
「もちろん、他の"ライラ"、"アキュラ"全ての司令長、そして"ノア代表"との会議である程度は決まってる」
疑うような顔で諒は真由を見つめて言った。
「その策って、一体?」
真由は立ち上がると、まっすぐ指をさして自身満々に言った。
「ガン待ち作戦!」
「え…」
ガン待ちって、どこで事件が起こるかもわからないのに?無理じゃね?と愛菜、諒は思った。
「とは言っても、どこで起こるかわからないし、場所を的確に予測もできない。」
うんうん、と愛菜と諒は二人揃って確かにわからないよね、と頷く。
確かにそうである。
真由のフォース、"未来"は起こる時間も分からなければ、場所もあまり分からない。その伝達されたイメージの景色の中にここだっ!とわかるようなマーキングポイントがあれば別だが、同じようなビルが沢山立ち並ぶ東京ではそもそもどこの街で事件が起こるかさえもわからない。
「だからこそ、"Fors"の戦士達で協力するの!」
またもや真由は自信満々に2人に話す。
「Fors」とは、フォースを持つ者達が結集した、世間という表には知られない、日本の影を支える団体的存在である。Fors本部は中央区にあり、場所は秘密ではあるが、人には見つからない場所に存在している。
Forsは、三つの戦闘チームを結成しており、シグナス、ライラ、アキュラ、の三角関係の元、成り立っている。その内のシグナスの司令長が、たった今、自信満々に話す、千崎真由である。
「で、協力って?」
理解がいまいちできていない、諒と愛菜からは、沢山の質問が投げ込まれる。
「シグナス、ライラ、アキュラをさらに細かくチーム分けし、東京都全域に等間隔に待機させる。そして事件が起きた時、その場所に一番近いチームが、全てのチームに場所を伝達。たとえ最初が数的不利でもすぐに数的有利へと変化する。ってわけ」
腕を組み、歩きながら話す真由を見て、二人は一番気になる質問をする。
「で、周りの人々の安全確保は?」
真由はよく聞いてくれたと言わんばかりの顔をすると、愛菜をキラッと見つめた。
「それこそが今回の作戦の重要ポイント!」
「は?」
二人の心はだんだんと不安が募っていく一方である。
「私たちはいろいろ考えたの。世間に私たちがフォースを持っていることを伝え、そして人々の味方であると伝える方法を。しかし簡単に伝えられるわけもない。だからこそ、"行動で示す!"、これが大事だと気付いた!」
少し不安げな顔で二人は言う。
「いや、まあそう言われたらそうだけど」
「ちょっと無茶じゃねーか?」
「でも、このまま好き勝手されるのなら、こっちから行動に移さないと何も変わらないでしょ?危ないのはわかってる。でも私たちが味方であると信じてもらうには人々が少しでも危険な目に遭わないと意味がない。」
愛菜と諒、二人の前に立つと、真由は二人の手を握り、言った。
「勝利にリスクは付き物よ。やつらを捕まえると同時に、世間にフォースを伝え、私たちの存在を伝えないといけない。そのためにはあなた達の力が必要なの」
まっすぐ見つめる真由の濃い茶色の目は、二人の心に少し刺さった気がした。
「わかった。」
理解してくれた二人の目を見つめると、真由はニコッと笑い、椅子に歩いていった。
「このことについてはまた他のみんなにも説明しないといけない。ついさっき決まったことだからね。また連絡するわ」
だいぶ自由奔放な司令長を見て、愛菜と諒はやっぱり少し不安な気持ちになった。
——1話 完——
2550年 7月16日 20:00
激しいサイレンの音とともに鳴り響く爆発音と人々の悲鳴。激しく燃え上がる炎に包まれた超高層ビルを囲む大量の消防車、救急車、警察、そしてこの様子を必死にカメラにおさめようとする人々。
「今度は新宿のビルだー!」
「また殺人か!?噂の超能力者か!?」
「離れてください!危険です!離れて!」
警察官が必死で人々を押し返す。混雑する人々の群れの中には、ビルの中にまだ同僚がいると泣き叫びながら助けを求める者もいる。その目線の先には、黒煙とともに火の粉を新宿の街に降らせる赤く光る超高層ビルが今でも崩壊しそうな状態で建っている。
—超高層ビル 室内—
無惨に飛び散る大量の血。その背後に揺らぐ巨大な影。
「違う、違う、お前じゃない。」
紫色と黒色の光に包まれた細く長い剣を持つ謎の男は呟きながら怯える人々を無惨に殺し続ける。
「やめてくれ、俺には大切な家族がいるんだ、いやだ、やめて、いy」
大量の血が飛び散り、痛々しい音が響き渡る。頭を紫電一閃のごとく貫かれた人が倒れた目の前には、大量の返り血を受け、フードを被った黒いマントをまとう謎の男が紫色の目で鋭く見下している。
「ここにもいないか。我らから大切な力を奪った者は…」
そして謎の男は、隠れながら見ている、超高層ビルの女の従業員を見つけ、そちらに目線を向けた。
—その瞬間—
後ろから、コツン、コツン、と足音が鳴り響く。
「無差別に殺人、趣味が悪い。」
短い髪に、大きい丸眼鏡をかけ、白いコートを纏った細く美麗な女が、白く光り輝く細い剣を右手に持ち、歩いてくる。
ビリビリ…ガキーン
その瞬間、光と一体化した謎の女は、謎の男の目の前まで瞬足で移動すると電光石火のごとく剣の先を謎の男めがけて突き刺す。
その俊敏な動きにも咄嗟に反応した謎の男も、黒光りした剣を突き刺し返す。
お互いの剣の先と先がぶつかり、白い光と黒い光がビリビリとうなり、激しい音とともに爆風が周りにある机や椅子、紙などを吹き飛ばした。近くにある窓は全て割れて吹き飛び、ビルの下にいる人々はさらに興奮する。
「おい、なんだ今の音、あの光はなんだ!」
爆風でフードが取れた男は、紫色の髪を靡かせ、不敵に笑う。その男の紫色の目は、侮っているかのような目でギラギラと謎の女を睨みつけている。
「よーぉ、閃光ぉ」
凄まじい剣と剣のぶつかり合いによる反動でお互い跳ね返り距離を取った。
「今日は意外と来るのが早かったなぁ、おい」
「なぜ罪のない人々を殺す?」
「君に知る権利はない。そして君とここでやりあうつもりもない。」
謎の女はギラリと男を睨みつける。
謎の男は怯える女の従業員をチラッと見ると、
「まあいい、いずれ"フォース"は世に知れ渡ることになる。今回は見逃そう。閃光、君との戦いはまた今度にするよ、君は僕にとって"相棒"だからね。」
そう言って不敵に笑う男は、突如下にできたワープ状のようなものにゆっくりと降りていき、消えていった。
「さっきの音はこの辺からだ!急げ!まだ生存者がいる可能性がある!」
少し離れたとこから聞こえて来るレスキュー隊の声の方向を謎の女は少しチラッと見た後、怯える女の従業員の近くにサッと行き、「すぐに助けが来る」と告げた後、黒い闇の中へと走って消えていった。
———ビルの屋上———
燃え上がる超高層ビルを少し離れたビルの屋上から眺める5人の黒のマントを纏った者達がいた…
「ゼト、お前は仕事が下手くそなんだよ、大胆すぎて逆に見つからん」
「だまれ、抵抗するから殺したんだ、、、あと顔見られたから」
赤い髪に大柄な男が呆れた顔で言う。それにつられるようにピンク色の髪をしたツインテールの女がニコニコした顔でゼトを見ながら言う。
「マジウケるんですけど、どんなに強くても、"あの方"の使命果たせなきゃ意味ないんですけど、きゃはは」
白い髪をした隻眼の男は、燃え上がる超高層ビルを見ながら言う。
「イーリュン、笑い事ではない。この使命は我らの命運にかかっているのだ。ふざけた覚悟で望むのなら帰れ」
フードの下の影から見える黒く強い眼光をした男が少し前に出て「とにかく」と言った。
「もうあまり時間はない。我らの戦力源を取り戻し、これから起きるであろう"大きな戦い"に備えなければならない。先を急ごう」
そう言ってゼト以外の4人は別のビルに飛んでいく。ゼトは月を眺め、不気味な笑みを浮かべながら呟く。
「これからだ、これからが我らの時代だ」
そう言うと、ビルとビルのくらやみの方へと消えていった。
月明かりに照らされる新宿の街は火の粉の雨によって静かで、しかし人々の声によって騒がしい夜の街となった。
—翌日—
東京の中央区に立ち並ぶ住宅マンションやビルの中に少し自然漂う《ヒデ》という文字がオシャレに書かれた看板が立ってあるカフェがある。
カフェ《ヒデ》
天井のすぐ下にある小さなテレビにうつる女性のニュースキャスターが先日の超高層ビル爆発事件について報じている。
「警視庁は、先日から多発している連続殺人事件と関連性があるとして、調査を進めています…」
「今度は新宿か~、これで何回目だよ、爆発事件に殺人事件。」
「ほんとこえーよなー、なんとかしてほしいぜーまったく。」
「でもやはりあれらしいぞ、最近噂されている、あの"超能力者"の仕業じゃないかって!」
「マジかよ、こーわ」
テレビの下で喫茶店常連のおっさんたち二人が話をしている。
そんな様子を店の端の席で聞く二人の男がいた。
「お待たせしました。コーヒーになります」
「あ、ありがとうございます」
できたてのコーヒーを飲もうとする蓮(れん)にむかって晃(こう)が話す。
「蓮、お前は信じるか?超能力。巷ではこー呼ばれてるらしいぜ、"フォース"って。」
横目でテレビを見ながら話す晃に、蓮はコーヒーを飲みながら少し馬鹿にした顔で言う。
「信じるわけねーだろ?SFとかファンタジーとかじゃあるまいし、、うわ、あちっ」
まだ少しも冷めていないコーヒーを受け皿に置き、スマホを手に取り、メールを送る。
「おいおい、また愛ちゃんかよ、親友と彼女、どっちが大事なんだよ」
「彼女に決まってんだろバーカ」
「な、バカって言わなくてもいいじゃんか、バカって」
そんな会話をしていると、店員が晃のココアを持ってきた。
「お待たせしました。ココアになります」
「ありがとうございまーす」
その様子を見た蓮が少し笑いながら言う。
「お前は相変わらず子供だな」
「ココアを飲んでなんで子供なんだよ。もー立派な大学生だ」
そういってココアを飲もうと口にするが「あつっ」と飲めずに受け皿にカップを置いた。
そのあと目線を上にしたら、喫茶店で働くキラキラ輝く女の子に目線がいく。
「あー、今日も相変わらず可愛いな、凛ちゃん」
女店員に目線を運ぶ晃をチラッと見たあと、少し呆れた顔で蓮が話す。
「で、今日はなんの用なんだ?」
「え?あ、そーそー。忘れてたわ本題」
そう言って隣の椅子に置いてあるバックからチラシを出し、蓮に渡した。
「東京剣道大会?なんでこんなの」
「お前の才能をおれはもったいないって思ってんだよ。高校の時、英雄として讃えられたお前の剣術のスキル、ここで試してみねーかってことだよ。」
晃は誇らしそうに蓮を見つめながら話した。
「俺はもうやめたんだ。大会に出るつもりもない。まず英雄って大袈裟な言い方やめろ」
「なんで、英雄じゃん」
「誰も助けてねーよ」
蓮はやれやれ、といわんばかりの露骨な表情で答える。そしてさっきより少し冷めたコーヒーを全て飲み干し、御銭入れからお金を取り机の上に置いた。
「まあ、ありがたいけど、最近は忙しんだ。このあとは愛と会う約束してっから、じゃ、先帰るぞ」
そういって蓮は立ち上がり出口に向かって歩いて行った。
「え、おい」
先に出ていってしまった蓮を少し眺めた後、小さくため息をつき、ココアを一口飲んだ。
「あちっ、蓮あいつよくこんなあちーのすぐ飲めたな」
蓮と晃は小さい頃からの幼馴染であり、高校まで全て一緒の学校に通うほどの親友だった。先に地方から上京した蓮を追うように、一年後、晃が上京して、もう二年が経つ。
週に何度か会う二人だが、最近は蓮が忙しく、今日もせっかく持ち込んだ剣道大会の話はちゃらになってしまい、少しつまらなさうな顔をしている晃は、結局一人でココアを美味しくいただいたのである。(※猫舌のため時間はだいぶかかりました)
———東京 中央区 ———
司令長室
「まあ、気持ちはわかるわ。でも愛菜(まな)、あなただけ突っ走ってもし何かあったらどうするの?」
「調査結果」と書かれた数十枚ほどのバラバラな印刷物を束ねて机の上でコンコンと整える眼鏡をかけ、白衣を着た女が少し不安げに言った。
「そんなことわかってる、でも真由、このままやつらの好きにさせたら…」
悔しそうな顔でそう言い、うつむく愛菜に、真由はそっと近づくと、両肩に手を差し伸べ、愛菜の目をじっと見つめた。
「だからこそ、"仲間"がいるの。あなたは、ひとりじゃないでしょ?」
自分の目をまっすぐ見つめる真由に、愛菜は少し申し訳なさそうな顔をした。
「うん…ごめん」
確かに私は無謀だった。自分の剣と黒いマントの男の剣がぶつかり合った時、彼のフォースではこんなに巨大なビルを燃やすことは不可能だと思った。
もしかすると火を操るフォースの使い手がいたかもしれない。いや、いただろう。でないとあんなに火が燃え上がるわけがない。
もし相手が複数人で攻撃してきていたら…
胸の中が少しズキっとなった。仲間に大きな迷惑をかけていたかもしれない。
うつむき、何かを考え入っているような沈んだ顔をしている愛菜を見て、真由は少し安心したように口元が緩み、軽くニコッと笑うと愛菜に背を向けて言った。
「もちろん、このまま好き勝手させるわけにはいかない。私だって何も考えていないわけじゃないわ」
愛菜は顔を上げると、真由の背中を見つめた。
「なにか策があるの?それとも…何か"見えた"の?」
「うん、今後、フォースは世間に知れ渡ることになる」
「え、私たちはどうなるの?」
「そこはまだわからない、でも…」
すると、ドアを強く二回ノックする音が鳴り、「どうぞ」と返事をする間もなくドアが開いた。
「おい、愛菜、お前また、大丈夫なのかよ」
右手には腰につけるエプロンを持ち、頭につけた緑色の三角巾を取りながら焦って男が入ってきた。
「諒(りょう)…!」
諒は、まっすぐ愛菜に向かって歩き近づくと、少し目を見つめた後、安心したようにため息をつき、腰に手を当てた。
「お前なぁ、何でもかんでも突っ込めばいいってわけじゃねんだぞ。今朝真由からメールきて、びっくりしたんだぞ?何回目だよ」
「わかってるって、ごめんって」
愛菜より少し身長の高い諒は、少し腰を曲げ、顔をしかめた。
「ならもう、一人で危険なことはすんな。わかったか」
「うん」
少しうつむき、ふて気味な愛菜に、怪我とかはないのか聞いた後、諒は敵はどうだったのかを聞いた。
「"相棒"?ライバル、とかならわかるけど…
なんだよそれ」
「わからないけど、そんなことを言ってきた」
真由は少し考えた顔をした後、他には何か言ってなかったか聞いてきた。
「あとは…あ!そういえば、さっき真由が言ってたのと同じことを言ってた。フォースはいずれ世に知れ渡るって…」
諒はそれを聞くとすこしバカにするように笑った。
「まさか、未来予知か何かか?それとも何か根拠でもあるってことか?」
真由はすこし思いついた顔で諒の発言に繋げた。
「うん、おそらく、なにか根拠があるんだと思う。これから何か事件を起こす予兆みたいに」
「じゃあそれを止めないと。これ以上罪のない人を死なせるわけにはいかないし、私たちの素性も世間に知られては困る。真由、それで、さっきの何か策はあるの?」
真由は社長室にあるような茶色い机の前にある少し大きめの椅子に座ると、愛菜を見つめて言った。
「"私が見た未来"に、まず世間にフォースを知られないと言う道はなかった」
愛菜と諒はえっ、と少し驚き、唖然とした顔で真由を見つめる。
「いつかはわからないが、確かに愛菜の周りにいるフォースを持たない一般の人々はあなたを避けるイメージが湧いたわ。そして愛菜の胸の中心にはフォースと思われる一つの大きな光があり、それを特に避けていた。他のForsの子の手を握っても変わらなかったし」
真由のフォースは"未来"と呼ばれるフォース。未来を見る際は、自分とは別の人物の肌に触れることで、その人を一人称とした景色が大量に脳へと伝達される。その景色は現実にそのまま起こりうる景色ではなく、擬似的なイメージがそのまま脳へと伝達される。しかしその未来はいつ起こるのかはわからず、必ずいつかは起こるが、起こる時間、までは知ることができない。また、自分の未来を見ることもできない。
「なら、どうするの?今まで影で隠れながら戦ってきたことを台無しにして、公でフォースをあらわにするってこと?」
「残念だけど、そういうことになる」
少し下を向いたが、間を開けた後、真由は顔を上げまっすぐ愛菜を見つめて言った。
「もちろん、他の"ライラ"、"アキュラ"全ての司令長、そして"ノア代表"との会議である程度は決まってる」
疑うような顔で諒は真由を見つめて言った。
「その策って、一体?」
真由は立ち上がると、まっすぐ指をさして自身満々に言った。
「ガン待ち作戦!」
「え…」
ガン待ちって、どこで事件が起こるかもわからないのに?無理じゃね?と愛菜、諒は思った。
「とは言っても、どこで起こるかわからないし、場所を的確に予測もできない。」
うんうん、と愛菜と諒は二人揃って確かにわからないよね、と頷く。
確かにそうである。
真由のフォース、"未来"は起こる時間も分からなければ、場所もあまり分からない。その伝達されたイメージの景色の中にここだっ!とわかるようなマーキングポイントがあれば別だが、同じようなビルが沢山立ち並ぶ東京ではそもそもどこの街で事件が起こるかさえもわからない。
「だからこそ、"Fors"の戦士達で協力するの!」
またもや真由は自信満々に2人に話す。
「Fors」とは、フォースを持つ者達が結集した、世間という表には知られない、日本の影を支える団体的存在である。Fors本部は中央区にあり、場所は秘密ではあるが、人には見つからない場所に存在している。
Forsは、三つの戦闘チームを結成しており、シグナス、ライラ、アキュラ、の三角関係の元、成り立っている。その内のシグナスの司令長が、たった今、自信満々に話す、千崎真由である。
「で、協力って?」
理解がいまいちできていない、諒と愛菜からは、沢山の質問が投げ込まれる。
「シグナス、ライラ、アキュラをさらに細かくチーム分けし、東京都全域に等間隔に待機させる。そして事件が起きた時、その場所に一番近いチームが、全てのチームに場所を伝達。たとえ最初が数的不利でもすぐに数的有利へと変化する。ってわけ」
腕を組み、歩きながら話す真由を見て、二人は一番気になる質問をする。
「で、周りの人々の安全確保は?」
真由はよく聞いてくれたと言わんばかりの顔をすると、愛菜をキラッと見つめた。
「それこそが今回の作戦の重要ポイント!」
「は?」
二人の心はだんだんと不安が募っていく一方である。
「私たちはいろいろ考えたの。世間に私たちがフォースを持っていることを伝え、そして人々の味方であると伝える方法を。しかし簡単に伝えられるわけもない。だからこそ、"行動で示す!"、これが大事だと気付いた!」
少し不安げな顔で二人は言う。
「いや、まあそう言われたらそうだけど」
「ちょっと無茶じゃねーか?」
「でも、このまま好き勝手されるのなら、こっちから行動に移さないと何も変わらないでしょ?危ないのはわかってる。でも私たちが味方であると信じてもらうには人々が少しでも危険な目に遭わないと意味がない。」
愛菜と諒、二人の前に立つと、真由は二人の手を握り、言った。
「勝利にリスクは付き物よ。やつらを捕まえると同時に、世間にフォースを伝え、私たちの存在を伝えないといけない。そのためにはあなた達の力が必要なの」
まっすぐ見つめる真由の濃い茶色の目は、二人の心に少し刺さった気がした。
「わかった。」
理解してくれた二人の目を見つめると、真由はニコッと笑い、椅子に歩いていった。
「このことについてはまた他のみんなにも説明しないといけない。ついさっき決まったことだからね。また連絡するわ」
だいぶ自由奔放な司令長を見て、愛菜と諒はやっぱり少し不安な気持ちになった。
——1話 完——
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