FORTH

Azuki

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3話 兆し

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真田諒(さなだ りょう) フォース"氷"
氷を操る力、強く冷たく、0度以下の世界を支配する氷の剣士。
Forsの中では「イケメン」「王子様みたい」など、たくさんの人気を集める貴公子でもある。

両手で剣を構える諒の姿に、黒い剣士は不敵に笑い問いかける。

「君たちの正体は知っているよ。地球上に存在するフォースを宿す者達が結集した団体の人達だろぉ?」

「だからなんだ」

「僕達はね、特に"君たち"に興味があるんだよ」

俺は気を失っている愛を胸に抱えながら話を聞いていた。

(え、ならなんでこいつらは一般人を?)

「悪いが俺たちも貴様に興味がある。ここ最近、東京の色んなとこで殺人事件が起きてるんだ…。お前なんだろ?犯人」

「その通りだよ」

ニヤッと笑う黒の剣士をギラリと睨みつける諒は水色の剣を下に向けた。

「許さねぇ!」

そう叫ぶと、諒は水色の剣を地面に突き刺した。

バリリリッ

その瞬間、刺した剣の元から地面を這うように氷が黒の剣士めがけて流れていく。

「アイスエンドゥリザー!」

「おっと」

突然地面を這うように流れてくる氷を後ろに飛んで避けると、すかさず愛菜が追い討ちをかけた。

キンッキンッ!

諒のアイスエンドゥリザーによって後ろに避けざるを得なかった男は後ろに飛びながら空中戦で愛菜の速い攻撃を受け流す。

何発か愛菜の突きを受け流した後、愛菜は突然突きから斬る方へとフォームを変えた。

「あっ」

俺は驚いた。後ろから見えるその速すぎる連携に。

最後の一撃を突きから斬るフォームへと変えた愛菜は横から剣を入れた。しかしその剣とは逆方向から剣を振る黒の剣士は、おそらく油断していたに違いない。

まさか白の剣士がその反動を使って横に避けるなんて思いもしなかったはずだ。

キンッ

左から入る白い剣士の剣。
右から入る黒の剣士の剣。

その剣がぶつかった瞬間。

「スイッチ!!」

突如白の剣士の背後から現れたのは…

水色の剣士であった。

黒の剣士は目を大きくし、驚いていた。

まさか、この一瞬でこんな連携取れるわけがない、と。

「堕ちろ」

そういうと、水色の剣士は思いっきり下へ剣を振った。

ガンッ

剣でギリギリ受け身は取っていたが、それでも空中戦である。避けるために蹴る地面もない。無防備な状況なため、黒の剣士でもさすがに避けることはできなかった。

その重い水色の剣は容赦なく男を地面に叩き落とした。

ズドーーーン

二人が空中から着地する目の前には、黒の剣士が落ちたことにより発生した砂埃がまたもや辺りを覆い尽くした。

俺は目の前で起きたその並の人間には不可能な超次元の戦いに、二人の巧みな連携に、
衝撃を受けすぎていた。

(す…すげぇ)

目の前に立ち並ぶ二つの大きな背中。
それは命をかけて守るということを表しているかのように大きく偉大に見えた。

(もう、大丈夫だ。もうこれで、俺たちは助かる。よかった、よかった、よかった。)

今までの緊張が一気に取れた。泣きそうになった。すごい安心した。

でも…そんなに甘くはなかった。

どこからか聞こえる足音。
砂埃の中に現れる人影。
腕についた汚れを手でパンパンと払うその姿は、たいしたことないな、と言わんばかりのオーラを醸し出している。

(え、いや…さすがに…死ぬだろあれは。)

「うんうん、いい連携だったよ」

そう言いながら少し認めた顔で手を叩きながら歩いてくる黒の剣士の姿に、二人は分かりきっていたように剣を構える。

「愛菜、お前もう限界だろ、下がってろ」
「後ろに守らないとならない存在があって、これ以上下がるわけにはいかないでしょ」

すると突然黒の剣士は手に持っていた剣を"消した"。

「悪いが、氷の剣士君、僕は閃光と一対一で、やり合いたいんだよ」

その言葉にピクッと反応した愛菜は咄嗟に聞いた。

「なぜ私を"相棒"と呼ぶの?」

その質問に男は少し考えたが、ニヤッと笑うと、後ろを振り向き「それは」と言いながら指をパチンと鳴らした。

「僕と君のフォースが"対等"…だから?」

その直後、下からワープが発生し、黒の男は消えていく。

二人は驚き、追いかけるが流石に間に合わない。

あたりは一気に静まり返る。

ドサッ

膝を落とす愛菜を諒は抱え込むように手を添える。

「おい、大丈夫か?」
「うん、ありがとう、それよりあの二人を」

俺も一安心できたのか、力が一気に抜けた。

(あぁ、少し眠いかもしれない)

おそらく気を失いかけた………

ガコンッ

目を閉じそうになったその時、何か変な音がした気がした。なにか、くずれるような、落ちるような…。

少しだけ開く目の隙間から、何か見える…。
あれは…

それは突然だった。
誰も予想してなかった。

人間とは油断をする生き物である。
常に緊張し続けると、気がおかしくなる。
わずか1秒ほどの油断が、命の決別になりかねない。

諒は愛菜から手を離し、倒れている女の子と抱える男の子に声をかけた。

「そこの二人、どこか怪我はして……え。」

しかしそれは彼らの頭上に突如現れた。
静かに、しかしその様子は恐ろしく。

(危ない)

頭上に現れた、それは巨大な鉄骨だった。

さっきの戦いで倒れたクレーンが鉄骨に倒れ、ギリギリで止まっていた。
しかしバランスを保ちきれず、落ちたのだ。
それも運悪く蓮と愛のもとへ。

諒は咄嗟に手を伸ばした。落ちるギリギリのところで。

「危ないっ!!!」

その瞬間だった。
これも、誰が予想したであろうか。

赤く、いや黒く、突如蓮から放たれた稲妻のような光。

ビリリリッ、ズドーーーン!!

ものすごい音と熱気、光、爆風。

それは鉄骨だけでなく、諒と愛菜も吹き飛ばす。

「なっ…!?」

言葉も出ないほどの規格外な出来事。
それは凄まじい威力であった。
まるで雷が落ちたかのように。

数十メートル飛ばされた諒は、ゆっくりと立ち上がる。

「な…なんだ、今の…。おい、愛菜、無事か!」

「う、うん…。でも今のは一体…」

—————————

(貴方は素敵な方です。)

(貴方を信じています。)

(どうか、"オノル・ムンド"を救って)

(リヴァ、わたしは……)


…………



少しずつ目が開く。隙間から見える。
それは白い景色。何もない。耳鳴りがする。
(意識を失っていたのか?)

(頭が少しいたい)

目を開くとそこには白い景色…と。

「う……、へっ!?」

おれは目の前に何かがいることに驚き飛ぶように離れた。

そこには赤い目、白と黒の髪をした、おそらく同い年ぐらいの男が俺を上から見下すように立っていた。

(だ、だれだ。)

あたりを見回した。

一面が真っ白。何もない。地面もない。

(宙に浮いてるのか…?)

何もない。ただ、"無"であった。

おれは目線をじんわりと目の前に立つ男に向けた。

(ここはどこなんだ、この人はだれなんだ)

「え…、えっと、あの」

とりあえず質問しようと瞬間、彼は俺が何を言おうとしたのか分かったかのように話を遮った。

「藍沢蓮…俺はお前をまだ認めていない」

(え…)

「いや、あのー。ここは一体ど」
「一つだけ答える」

(え…)

一つだけ答える?
どゆこと?
なにを?

「え、一つって、あの、な」
「聞きたいことだ」

なんで話遮るんだこいつ
まるで俺の言いたい事が分かっているかのように…。

そしてちょっと冷静に考えた。
おれはなんでこんなとこにいるんだろう。

たしかさっきまで、愛と一緒にいて、それで…。

(!?)

そういえば、あの時、黒い服を纏った人に襲われて…それで…ある人に助けられ…いや二人か。そしてそのあと…。
そうだ…気を失いかけたんだ。でもそう気を失いかけた時、上からなにか降ってくるのを見た。あれは。おそらく…。

俺はすぐに悟った。

(え、なら待てよ。愛は?愛はどうなった?)

俺はおそらく死んだんだろう。鉄骨の下敷きになったんだろう。超能力者に殺されず、突如落ちてきた鉄骨に殺されるというこの世でおそらく最も運の悪い死に方。
でも…
愛はどうなった?生きてるのか?死ん…。

いや、そんなわけない。あいつはギリギリ避けて…。いや、気を失っていた。

わからない。わからない。でも…。

でも、このまま愛のことを想えず生まれ変わるのなら…
最期は愛のことを知りたい。
家族も大事だけど。親友も大事だけど。
愛は…?
ここがどこなんてどうでもいい。
今目の前にいる人が別に誰だっていい。
俺がどうなったかなんてどうでもいい。
ただ、気になった。

「愛は…、愛は…無事ですか」

目の前にいる男は赤い目を少しだけ見開いた。そして俺の目をじっと見つめている。

それから何秒経ったか。男は突然口を開いた。

「お前は、死んでいない」

(え…ちゃんと聞いてました?)

そう思った。その時どこからか聞こえる。

ーッ

ーーーッ

ブーーーーーッ

…………

はっ

俺は目を覚ました。

静かに鳴る時計の針の音。少しだけ風で揺れる白いカーテン。横には赤いキクの花が花瓶と共に添えられていた。

病院…?なのか?

隣で電話が鳴っていることに気がついた。
俺の携帯だ。なんでこんなとこに。

「あ、はい」

(今日、君シフト入ってるけど。)

「え…」

バイトの店長からの突然の電話だった。
俺はカレンダーを探した。

カレンダー無いし。

「え、ごめんなさい。えっと、今日…」

俺は思った。確かあの日も、次の日もバイトは入れてなかったはず。
日にちを聞こうとした。それだけだった。

(君、もう来なくていいよ)

「え、いや、あの」

(言い訳は聞く気ないよ)

そして切られた。
え、終わった。
まず今日、何日。

ガラガラッ

病室らしき部屋のドアが開いた。

「えっ…」

そこには水を二本、両手に持つ、愛の姿があった。

愛はペットボトルを離すと顔が少しずつ赤くなってきた。そして眉が少しずつ曲がってきた。
泣く前の愛だ。

俺も泣きそうになった。なんだか久しぶりすぎる気がする。愛を失ったかもしれない恐怖と緊張が一気に解けて、手が少し震える。

「あ…愛…!」

愛は何も言わずに俺の胸に飛び込んできた。

「れ"ーーーーーーん」

泣きながら俺の顔を見上げる愛を俺は震える手でぎゅっと抱きしめた。


俺は三日間も眠っていたらしい。
そして三日間、付きっきりで愛がそばにいてくれたという。医者からももう問題はないと言われた俺は不思議とすぐに退院できた。
なぜか肋辺りの痛みも無くなっていた。
あの事件も、現場担当者の点検ミスとして解決されたと後で聞いた。

しかし謎だ。おれはなぜ死んでいないのか。
鉄骨は落ちてきてないのか?そういえば、あの二人は?

「なあ、俺たちを助けてくれた、あの…」
「あぁ、あの人たちなら…」

そうやって病院を出る直前で愛は外へ指をさした。

黒いリムジンが病院入口前の車寄せに止まっている。

「え…。なにあれ」

「あの人はね…」

急に出てくる少し屈強なスーツを着た男がそんなに必要か?ってぐらい長い車のドアを開ける。

俺たちは病院を出るとその車から出てくる人を見ていた。

中から現れたのは、サングラスをかけ短い髪、黒く長いコートを着た女の人だった。

「真由さん!」

そういって愛はその女の人を紹介するように手を出す。

そのサングラスをかけた謎の女の人は黒いハイヒールの音を鳴らしながらこっちに歩いてくる。

(え…俺何かした?てか、ん、だれ?)

近くまで来ると、女の人はサングラスをチラッとずらして、俺をキッと見ると、少しだけ笑った。

「あなたが、藍沢蓮ね?」

おれはすぐに愛を横目で見た。そして聞いた。

「え、誰。」

「真由さん」

「うん、だからそれが、だれ」

すると女の人が口を開いた。

「あなたの話を聞きにきたの、時間ちょうだいね」

そういうと、車の方へ歩いて行き、乗り込んだ。

(え…なんで行かないといけないの)

愛を見ると愛はこっちを見て手を合わせてごめんと言った。

「私、三日バイト飛ばしちゃって…。この後バイトなの。でもこの人たちは私たちを助けてくれた人たちだよ。前の事件の事で少し話を聞きたいって前から連絡くれてて、ごめんね!」

そういうと愛は走って行ってしまった。

(え、まって、退院日ぐらい一緒にいようよ、せめて)

しかし屈強なスーツをきた男の人が近づいてきて、背中に優しく手を添えた。

「さぁ、どうぞ乗ってください」

訳もわからず、俺は流れに乗って車に乗せられた。


車に乗ると、それはまた異様な雰囲気だった。
真正面にはサングラスの女の人。
横には見知らぬ女、まっすぐ前だけを見ている。反対にも見知らぬ男、でもなにかゲームみたいなのをピコピコしている。
そして右斜め前にはおそらく俺を助けてくれた丸眼鏡の女の人がこちらをジーッと見ている。左斜め前には、たしか、氷の剣士って言っていた男の人。たぶん。

「あ…あの。」

「藍沢蓮」

「あ…はい」

「私たちはまだ、あなたを味方とは思っていない」

(え…なんのこと)

「え…あ…え?」

「まずあなたに聞きたい事、あなたは一体、何者?」

質問の意味がわからなかった。
でも、とりあえず正直に答えよう。
そう思った。

「えっと…大学生です。」

氷の剣士が少し吹いた。
それを睨みつける右斜め前の丸眼鏡。サッと姿勢を正す氷の剣士。そしてすぐに俺を睨む丸眼鏡。

(え…おれ怒られてる?)

「君が大学生っていうのはもう知ってるよ。
ただ…。君の中には一体何が潜んでいるの?」

全く意味がわからない質問だった。

少し目を泳がせて考えた俺は答えた。

「何が言いたいんですか?」

手を顎に当て、少し考えた目の前の女は俺の目を見るとこう言った。

「うん、ごめん、質問の仕方が悪かったわね。じゃ、改めて。」

そういうと、目の前の女はサングラスを取り俺の目をじっと見て聞いてきた。

「あなたの"フォース"は一体何?奴らの味方?それとも私たちの味方?」

(いや、質問の難易度というか、何が言いたいか理解できるレベルは、別にさっきと変わらない気がするが)

俺は本当に意味がわからなかった。

「いや…だから」

困っている顔をした俺を左斜め前の男がじっと見ると、少し笑って口を開いた。

「やっぱ俺、悪いやつには見えないけどな」

(悪いやつ?え、おれが?)

いや、まずその前に。

「あの、一体誰ですかあなた達」

少し沈黙が流れた。

すると、突然、目の前の女の人が吹き出した。

「そっかぁ!まだ言ってなかった!ごめんごめん!私は千崎真由!」

「俺は真田諒だ。よろしく!」

そして諒は他の人の紹介もする。

「んで、さっきから俺をお睨みなさっている変な眼鏡の女は、妃愛菜(きさき まな)。
んで、隣にいるなんか変なゲームしてるのが、牧岳瑠(まき たける)。もう片方の、まっすぐしか見れない変なのが、世良陽菜(せら はるな)だ。」

("変なの"しか紹介してねえじゃねーかよ)

「いま、これどこ向かってるんですか?」

「あぁ、ちょっと待ってね」

そういうと、真由は運転手に聞いた。

「ねぇ、これ今どこ向かってるの?」

運転手「!?!?」

運転が少し荒れたのか、車が横に大きく揺れた。

(まあそりゃ運転手も驚くだろうな。なんでお前がわかってねんだよ。)

するとずっと俺を見つめる愛菜と名乗る女が口をようやく開いた。

「私、見たんだから。スーパーでぶつかった時、《超高層ビル爆発事件詳細》についての記事を一生懸命見る姿を。それに、あなたの体から突如現れた、あの黒い光は何。どう見ても怪しいでしょ。かんっぜんに力を隠してるに違いない。あなたは私たちを騙したのよ。そうに違いない」

横目で、言い過ぎだろって言っているかのような顔で少し引く真由と諒の顔を見ると、俺はそれに続けるように言った。

「あの記事は、本当に普通に気になってたんだ。あと、その黒い光ってなんのこと。そんな謎の力もってない」

おれははっきり言った。勘違いしている。こいつらは俺が敵だと勘違いしている。俺が何か力を隠していると勘違いしている。

「そうか、まだ隠すか、ならお…」

疑う愛菜の言葉を遮るように真由が俺に話しかける。

「もしさ、よかったらでいんだけど、本部、寄ってかない?また詳しく話聞きたいんだ。」

(いや、まだ意味わからないことが多すぎるんだけど。)

「いや…、べつに…。」

でも無駄だった。

「そんなこと言わずに、な?」

(真由、言ったろ?やっぱ悪いやつじゃないって)

(何言ってんの私はそんなこと最初からわかってたわよ、ただ…)

二人は心の中でやはり藍沢蓮は悪い人じゃないと確信できていた。なんとなく。

しかし、一人だけ違った。
そしておれはなぜこんなに敵か味方か議論されているのか、なんとなくわかった。

(絶対この丸眼鏡のせいだろ~)

怪しいと言わんばかりの目で俺をじっと見つめる愛菜が、今回俺が誘拐(大袈裟)された一番の要因だと気づいた。

でも、正直超能力について少し興味があったのも事実だった。

「なら、行く」

俺はそういうと下を向いた。
興味はあるけど不安。

最近起こる俺の周りの出来事は急すぎて疲れる。
襲われるし、超能力者といるし、本部に来るよう勧誘されるし

(俺、このまま、無事に帰れるのだろうか)

不安は募る一方で、車は本部へ走りつづけるのである。



——3話 完——
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