ガレキの楽園

リョウ

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3・ガレキの楽園

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3.ガレキの楽園



星川ナナツは学校から居なくなった。

けれどナナツがいなくなっても僕の世界は変わりがなかった。

毎日の授業と友人達。



坂上華一はあれから授業には出るようになった。

けれど以前と同じようにあまり人とは親しくしていない。

また動物の世話にかかりっきりだった。

僕達はあの丘での事には触れない。

ウサギ殺しについても何も言わなかった。



道標直弥は相変わらずだった。

以前と何一つ変わらない。いつもマイペースで無神経で僕や周りの人間に話しかけている。

僕は相変わらず直弥がニガテだったが、そんな事は直弥にはどうでも良いようだった。



そして僕の親友の白崎優。

優はあの日からちょっとおかしくなった。

それはあの一面のコスモスのせいなのだろうか?

優はあまり僕にかまってくれなくなった。



兄のように慕っていた優と疎遠になり、僕は落ち込んでいた。

そしてそんな優の変わりじゃないけれど、僕に近づいてくる人物が居た。

それは黒瀬カタルだった。





黒瀬カタル。

黒い服に黒い髪の少年。

彼はいつの間にか僕の部屋にやってくるようになった。

最初、ドアをノックして会いに来たカタルを見た時は驚いた。

けれど今ではノックもなしに入ってくるし、気が付くと当たり前のように僕の部屋に居座るようになっていた。

最初は躊躇したが、優と疎遠になった淋しさのせいか、カタルを受け入れるようになった。



「何考えてるの?」



カタルに聞かれて、椅子に座る彼を見つめた。

僕は優の事を考えていた。

やさしかった優の事を。



「白崎優の事ならもう忘れた方がいいよ」

「何で?」

「何でって、彼はもう君には必要じゃない人間だからさ。彼はもう壊れかけてるんだよ」



悪意ある言い方に不愉快になりながら聞く。



「意味がわからないよ」

「……そのうち判るよ」



僕はカタルの言った不吉な言葉に怯えていた。

けれど優を忘れる事はなかった。

そしてその恐怖を打ち消すためにも、優に会いに行こうと決意した。









今の時間、優はどこに居るだろう?

考えながら寮の中を歩いた。

図書室にでも行ってみようか?

そう思い立って行き先を決めた。



図書室に行くと、窓辺の机に優はいた。

中には他に誰もいなくて静かだった。

僕はゆっくりと優に近付いた。



「ユウ、話をしようよ」

優は僕を振り向きもしなかった。

「ユウ?」

呼びかけても優は窓の外を眺めていた。



整った優の顔を見ながら不安な気持ちになっていた。

不安で不安で、ズキズキと胸が痛む。

優に無視されたことが辛かった。いつだって優は僕にはやさしかったのに。

他の誰が冷たくても、優だけは僕にやさしくしてくれたのに……。



その時、優がノートを広げている事に気付いた。

勉強でもしていたのだろうか?

そう思ってそのノートを覗きこんでみた。

そこには絵が描かれていた。人物が二人。大きい人と小さい人。



「これは誰? 誰を描いたの?」



優はようやく僕を見た。



「ああ、マサト、居たんだ」

胸が締め付けられた。

目の前に立っていた僕に気付かなかった? 見えていなかった?

信じられない気分だった。

優の手元からノートを掴んで、正面から見ながら聞いた。



「ねえ、何を描いていたの?」



すると優はなんでもないように言った。



「ああ、僕と兄さんだよ」

「お兄さん? お兄さんがいるの?」

聞くと優は笑った。



「何言ってんだよ。マサトが知らないわけないじゃないか?」

「え?」



意味がわからなかった。

なんとなくノートのページを捲ってみた。

前のページには違う絵が描かれていた。そこには花が描いてあった。赤い空と花。

これは先日の丘での出来事だろうかと思った。赤い夕焼けと咲き乱れるコスモス。



更にページを捲った。衝撃を受けた。そこにあった絵は不気味なものだった。

倒れた人の絵。そしてその人の周りは血のように赤い。これは……。



恐怖に震えながら優を見つめた。けれど優はいつものように美しい顔で微笑んでいた。



「どうかした?」

「どうかって、だって……これ……」



優は微笑んだまま言う。



「ああ、だから、それも兄さん」

「兄さん……」



僕は呟いた。その瞬間、不思議なデジャブに襲われた。



いつか、いつだったか誰かに向かって「兄さん」とそう呼びかけたことがあったような気がしていた。

僕に兄などいないのに。

いない? いないんだろうか? 本当に?

僕は混乱しだしていた。更にノートを捲った。

そこにはやさしげな女の人が描かれていた。



「これは誰?」



僕は聞いた。すると優は不思議そうに首を傾げた。



「誰って……それはマサトのお母さんだよ。イヤ違う。僕達のお母さんだ」

お母さん?

眩暈がした。優が何を言っているのか判らない。

優が何を描いているのか判らない。

優は何をしているのだろう?



僕は優が怖くなっていた。僕はその場に優を残して図書室をあとにした。

すごく嫌な、不安な気持ちだけが残った。







僕は優がおかしくなってしまったと思った。

あんなに完璧で兄のようにやさしかった優が壊れてしまった。

優はどうなったと言うのだろう。ずっと一緒に居ようと誓ったのに。



そういえば前に「エデン」には行けないのではないかと優は言っていた。

それはどうしてだったのだろう?

今のこの変化と関係があるのだろうか?











僕は時折見かける自分の知らないエデンの教師に怯えていた。

彼らの多くはいつも白衣を身にまとっている。



自分の担当である教師は信頼していたが、その他の教師には少し疑いを抱いている。

ナナツの様子がおかしくなった事に「エデン」の教師と「特別授業」が関係しているのではないかと。

もしかして優の変化も「エデン」と何か関係があるのではないか。







その日、授業が終った後で優の姿を探した。

優も「特別授業」を受けているのではないか。それを確認したかった。



僕は「特別授業」が行われている部屋の側までやってきた。

廊下の壁に隠れるようにしながら、部屋の入り口を見ていた。

すると白衣の教師が部屋に入っていくのが見えた。



教師の姿を見ただけで怖くなった。

不吉な予感がする。

けれど優の事が気になって、その場を動くことが出来なかった。



もしもあの白衣の教師に、隠れて見ている事がバレてしまったらどうなるんだろう?

その時、一人の生徒が部屋の前にやってきてドアをノックするのが見えた。

それを見て安堵した。

優ではなかったからだ。

この部屋は一対一での授業が基本だと知っている。

だから今日はもう優はここには来ないだろうと思った。





その場を離れると優がどこにいるか探しに行った。

ただ闇雲に不安になるよりは、直接会って不安を打ち消す方が良いと思ったからだ。



寮に帰ると優の姿を捜して歩き回った。とにかく優に会いたかった。







僕が1階の玄関前のホールに来た時だった。



「にゃん、にゃん、にゃーん。子猫が鳴いたよ。にゃんにゃんにゃーん♪」



軽やかだが、何故か腹立たしさを感じさせて歌う、その人物をじっと見つめた。



「やー、マサト君久しぶりだにゃん」

「……」



無視してホールを通りすぎようとした。



「冷たいな。どこに行くの?」

「ユウを捜してるの」

「……ユウ君ね。最近は黒瀬君じゃなかったの?」



カチンとして道標直弥を睨むように見つめる。



「なんちゃってね。そうだな、ユウ君なら中庭のバラ園の東屋にでも居るんじゃないかな?」

直弥を睨みながら言う。



「何で、お前がユウの居場所を知ってるんだよ!」



直弥は怯えたフリをしながら、そのくせ笑顔で答える。



「別に。でも君が本当に会いたいって望んだら、会えないワケがないと思ったんだよ」



黙って直弥を見た後で踵を返した。直弥を置き去りにバラ園に向かう。

直弥の事はニガテだけど、その情報を信じてみる事にした。

優に会いたくて藁にもすがりたい気分だった。





バラ園に行くと、言われた通りに優は東屋のベンチに座っていた。

僕は久しぶりに優と向かい合っていた。

先日の図書室の時依頼、まともに会ってはいなかった。



「久しぶり」

そう言う僕を優は虚ろな目で見つめる。

それは僕が知っている優とはまるで別人のようだった。



震える足を動かし優の座るベンチに腰掛ける。

ベンチからは色とりどりのバラが見えた。



バラは5月と10月に咲く。今は10月のバラが見ごろだった。

チャールストーン、プリンセスミチコ、聖火などの種類が咲いている。

思えば西暦2448年もあとわずか。あと2ヶ月で今年も終わり2449年になる。



暫く前方をぼんやりと眺めていた優が、ふいに言った。



「ねえ、マサト、こないだ君も見ただろう?」

何を言われたのか判らなかった。

「何のこと?」



声が少し震えた。すると優は前方を見たままで言う。



「あの丘の花だよ」

「コスモスのこと?」



優は正面のバラを見たままで、虚ろな目で言う。



「生き物は生まれ変わるんだよ」



僕は考える。生まれ変わり。

それはウサギのクロがコスモスに生まれ変わったという意味だろうか?

でも、そんなのは殺した側の、華一の勝手な解釈でしかない。

実際は生まれ変わりなんかない。

ウサギがコスモスになるなんてありえないんだ。



「僕はね、今まで決して許されないと思ってたんだ。なのに死んだ者は生まれ変わって会いにきてくれるんだね。なら僕だって許されるのかもしれない」



優が何を言っているのか判らなかった。



「何を、言ってるの?」

優は僕を見た。虚ろだった目に光が宿りまっすぐに僕を見ている。



「忘れちゃったの? 僕が前に何をしたか。ここに来る前に何をしたのか?」

体が震えた。

何故震えるのか判らない。けれど身体の震えは止まらない。



「僕とカイチは実はすごく似ていたんだ。僕はカイチと同じなんだ」



これ以上聞きたくないと思った。けれどそんな僕に優は淡々と言う。



「僕は兄さんを殺したんだ」

その告白に目を瞑った。身体が震える。怖い、怖い、怖い、怖い……。



「兄さんは完璧で、僕はいつも比べられて、それがイヤだった。兄さんも人間が出来てなくてね、僕に気遣うような事もなくて、いつも僕に意地悪だった。だからついナイフで刺して殺してしまったんだ」



僕は耳を塞いでいた。これ以上聞きたくなかった。



「血があんなに出るなんて思わなかった。僕はビックリして母さんに助けを求めた。その時の母さんはヒドク驚いた顔で、呆然としてた。後で僕は母さんに責められた。なんて事をしたんだって。僕は判ってなかったんだ。人が死ぬって事が。でも両親の悲しむ顔を見て知ったんだよ、僕は許されない罪を犯したって。絶対に許されるハズがない。だから僕はエデンには行けない。そう思ってずっと罪の意識に苦しんでいた」



僕はその言葉で、普段の達観したような様子の優を思い出していた。

夢を語らなかった優。

僕とずっと一緒に居られたらそれだけで良いと言っていた優。



「でもコスモスは咲いていた。君も見ただろう? あの花を。人は生まれ変わるんだ。生まれ変わったなら、それは殺したものが生き返ったって事じゃないかな?」



理解出来なかった。優が何を言っているのか。



「もう元には戻らないと思っていたものが、生まれ変わって生き返るんだ。それは僕の罪が許されたって事だと思わないか? 僕が兄さんを殺した事は間違いでも許されない事でもなかったんだ!」



今までの優とは別人のようだった。僕は怖くてただ首を振る。



「……判らない、判らないよ……君が何を言っているのか。生き返るなんて僕には理解出来ない……」



優は僕を見つめた。それは今まで見た事がない位冷たい目だった。



「マサトはズルイよ」



衝撃を受けた。僕の何がズルイと言うのだろう?

僕は恐々と優を見つめる。



「僕は今までさんざん君に付き合ってあげたじゃないか? なのにマサトは嫌な事だけ僕に押し付けて知らないフリするの?」



それこそ意味が判らなかった。けれど優は強い瞳で僕を見て言う。



「僕がやっと見つけた救いを君は否定するの? 僕は君の話を一度だって否定したことはないのに!」



優は怒りながら言う。僕はその迫力に気おされていた。

確かにこの学校施設の中では誰かの考えを否定しない。

それが暗黙のルールだった。

けれど……。



優はふいにベンチから立ち上がった。そして僕を見下ろしながら言う。



「今まで僕は全部君の言葉に従ってきた。君の言う言葉を全部肯定した。ならば君も僕のためにそうするべきだろう!」

「……」



何が何だか判らなくて言葉が出てこない。

するとそんな僕に焦れたように優が叫ぶ。



「僕は君の言う「エデン」にケチをつけた事はないだろう! ここが「学校施設」だって言う君を否定した事は一度もない! 僕は君が作ったニセモノの世界に相槌を打ったじゃないか!? 何で君は同じ事をしないんだ!?」



優の変わりように愕然として体が震える。優が何を言っているのか判らない。

そんな僕に苛立ったように優は言った。



「ここは「学校施設」なんかじゃない! ここはただの精神病院だよ! もっと言ってしまえば犯罪を犯すような頭のおかしな人間を収容する矯正施設だよ! 今が「2448年」だなんていうのも夢だ! 今は2008年だ! 君は僕達と同じ、ただの精神病患者なんだよ! 「エデン」なんて「砂漠」なんてこの世の中には何も存在しないんだよ!!」



僕は目の前の景色が崩壊していくのを感じた。

優が言っている言葉が判らない。優は狂ったように話し続ける。



「ここは精神異常者が来るところだよ! 事件を起こして入れられた人間がいっぱい居る! 君の言う「転校」って言うのは退院の事でしかないんだよ!」



僕はナナツの事を思い出した。

銀河鉄道が見えると言っていたナナツ。

そして銀河鉄道なんて知らないと言って去っていったナナツ。

ウサギ殺しの華一に、いつもおかしな直弥……。



僕の中でたくさんの映像がフラッシュバックする。

丘で西の空を見るナナツ。

ナナツの肩を掴んだ白衣の教師。イヤ、白衣の医者? 特別授業?



ウサギを殺す華一。イヌを殺す華一。丘で泣き崩れる華一。



微笑む直弥。踊るように歩く直弥。歌う直弥。



微笑む優。丘で呆然とする優。今見知らぬ顔で立っている優。



「う……うわーーーーーーーーーーーー!!」



僕は上を向いて叫んでいた。

そしてそのまま前方も見ずに走り出した。

がむしゃらに走る。走る。走る。走る。

胸が痛い。腕が痛い。顔が痛い。足が痛い。どこもかしこも痛い。痛い。痛い。痛い。







「もう、暴れないで……」



その言葉で僕は目を開けた。

目の前に大輪の赤いバラが見えた。

そして次に大きな無数のトゲが目にとまる。



僕は自分の状態に気付いた。

僕はトゲのいっぱいついた大輪のバラの植えこみに突っ込んでもがいていた。

まるでバラの植え込みで溺れるように。

顔をあげるとそこにはカタルが立っていた。



カタルは今まで見た事がない位にやさしい瞳で僕を見ている。



「ユウに話を聞いたんだね」



僕は小さく頷く。



「大丈夫、ユウの事は気にしなくて良いよ」



カタルが手を差し出すのでその手を掴んで立ち上がる。

更にトゲで傷が増えたが、もう痛みは麻痺している。



僕は地面に立つとカタルを見つめる。

西の空が暮れてきて黒い服のカタルがオレンジ色に染まっている。



「言っただろう。もう君にユウは必要ないって。君には俺が居るから大丈夫ってさ」



涙がこぼれる。

やけにやさしいカタルに、くすぐったいような複雑な気持ちになる。

けれど優は僕の支えだった。

そんな優を必要じゃないと言われて、僕は悲しくて、ぐしゃぐしゃに泣きだす。



「でも……でも……大好きだったんだ。僕はユウの事が……。だってユウはすごく優しくて兄のようで、いつも僕を守ってくれていて……だから、僕は優の居ない世界でなんか生きていけないよ……」



僕の手を掴むと、カタルは両手で握り締めた。



「マサト。ユウなんて人間は居ないんだよ」

「え?」



僕は目を見開いてカタルを見つめる。

カタルはゆっくりとやさしく僕に言う。



「ユウという人間は君が作り出した幻だよ。君は実のお兄さんと仲が悪かった。そしてそのお兄さんを殺してしまってここに入れられた。君はその罪の意識から別の世界を作り出したんだ。「エデン」もそうだけど「優」という存在自体が君の作った幻の友達だったんだよ」



言葉が出てこなかった。



「ユウは君の理想とする優しいお兄さん像だったんだ。だから名前も「優」にした。そして君の犯した罪もユウに押し付けた。そして君はこの精神病院の中で空想の世界に浸ってたんだ」

「僕は……僕は……」



言葉が何も浮かばない。ただカタルを見る事しか出来ない。



「エデン」それは僕が作り出した幻の楽園。

「優」彼も僕の作った幻の友達。



ならば僕にはもう何も残っていない。友達も居なければ、夢もない。厳しい現実しか残されていない。

「僕は……」



繰り返す僕をカタルが強く抱きしめた。耳元で声が聞こえる。



「大丈夫。マサト、君には俺が居るから。だから大丈夫だよ。俺は君を裏切らない。ずっとずっと側に居るから。君と俺だけはずっと永遠に一緒だ……」



その言葉に僕はやっと安堵した。そしてゆっくりと瞼を閉じた。



僕は世界を失い、親友を失った。

けれどカタルという新しい親友が残された。

だから僕はまだ生きていけるとそう思った……。









世界が崩壊してから、数日が、数週間がすぎていった。

僕は毎日カタルと会い、お互いの事を語り合う。彼は僕の本当の親友となった。

僕は彼のお陰で生きていける。

いつかこの病院を退院する日が来ると信じられる。

そう、カタルが居れば……。

















香苗は中庭を歩きながら一人の少年に目を止めた。

少年は美しい顔立ちをしていた。白い肌に茶色の髪が映えている。

その少年に香苗は近づく。すると少年が小声で歌っていた事に気付く。



「にゃん、にゃん、にゃーん。子猫が鳴いたよー♪ にゃんにゃん子猫は銀河の鉄道にのるんだ、にゃんにゃんにゃーん♪」



そのメルヘンチックな歌に香苗は微笑む。



「こんにちは。確か君は道標直弥君ね?」



少年、直弥は微笑んで頷く。



「やーやーやー、これはマサト君のお母様ではないですか? 今日は面会の日でしたかにゃ?」



その独特の言葉使いを気にした風もなく、香苗は微笑む。



「ええ、そうよ。いつもうちの真人がお世話になっててありがとう」

「いえいえ、こちらこそですにゃ。お母様」



直弥はスキップするように香苗の周りを歩く。



「これからお帰りですかにゃ?」

「ええ。今、真人と会ってきた所なの。最近は私のこともちゃんと判ってくれるから嬉しくて」



微笑む香苗に直弥は聞く。



「調子良さそうですよね。最近のマサト君は」

香苗は微笑む。



「そうなのよ、ありがとう。これも直弥君みたいな良いお友達が居るからね」

「いやー。こちらこそですにゃー」

香苗は微笑んだが、ふと思い出して聞く。



「そうそう、最近はカタル君ていうのが真人のお気に入りのお友達みたいね。ついこの前まで、会えばユウ君の話ばかりだったのに」



直弥は微笑みながら、何でもないように言う。



「ああ。ユウ君は幻の友達だって気付いちゃったんですよ。ちょっとした矛盾で架空の友達って消えちゃうから、むずかしいのですよ」



「でも、カタル君とは上手くいってるみたいね」

「そーですね。今の所はカタル君が幻の、自分の生み出した架空の友達って気付いてないですからね」



香苗は少し淋しげな顔になる。

その事に直弥は気付いたのか、励ますように笑顔で言う。



「でも大丈夫ですにゃ。カタル君が幻だって気付いたって、ちゃーんとこの僕ちゃんがついてますから!」



香苗は嬉しそうに微笑んだ。



「ありがとう、直弥君。あの子をよろしくお願いします」

直弥はそんな香苗に美しい笑みを浮かべる。



「はい。だいじょーぶですよん。僕はマサト君が大好きですから!」



香苗は少し涙ぐみ、そして病院の出口に向かって歩き出した。







真人は今も夢を見ている。

今までの世界が崩壊した後に、新しい世界をまた築き上げて。

世界を壊すのも、世界を作るのも、すべて自分だけの力で可能なのだから……。





マサトが夢見た「エデン」はもうない。

マサトが夢見た「優」ももういない。

ガレキの楽園でマサトは今も夢を見る。

新しい「エデン」を築き、新しい「親友」を作って……。













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