食に恋せよ乙女たち

圍 杉菜ひ

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この愛、届け(前)

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 いつもと何かが違う、家を出た時から嫌な予感がしていたんだよ。
 その予感は見事的中し、放課後に食べ部の部室へ行くと美食謳歌部との対戦が待っていた。

「現在、二勝一敗で食は人を幸せにする部がリーチをかけています。そこで最後に勝った方には二勝分の価値を与えたいと思います」

 あの理不尽ルール発動ですね。クイズ番組などで最初は地味な点数しかもらえないのに最後は一気に逆転できちゃう点数が得られるという。ただ、提案している人が美食謳歌部の人たちではなく、帆並ちゃんだったことに少し驚いてはいます。

「最後の勝負を審査してくれるゲストを呼んでいます」

「ゲスト?」

 帆並ちゃんは一旦部室から出て行き、ゆっくりとした足取りで戻って来ました。帆並ちゃんに支えられるように部室に入ってきたのはとても可愛らしい美少女でした。

「なぜ? なぜここに」

 御堂先輩は普段の様子とは違い、明らかに戸惑っています。帆並ちゃんに連れられた来た美少女は御堂先輩の知り合いでしょうか? でもよく美少女さんのお顔を見ると御堂先輩と似ている気もしなくもない・・・・・・もしかして妹さん?

「初めまして、御堂みどう幸羅さらです。十四歳です」

 やっぱり妹さんだったよ。御堂先輩とは対照的にニコニコ笑顔が可愛らしいです。気になる点を挙げるなら幸羅ちゃんは目が見えなみたいだった。

 それにしても外部から招いて平等な審査の下で対決するかと思えば、審査ゲストが御堂先輩の妹さんって。私たちに不利な内容な気がするんだけど。

 御堂先輩は普段見せる優雅な表情から想像できないほど剣幕になり帆並ちゃんを廊下に連れ出して何か話しているようです。


「心配しなくても大丈夫ですよ、食べ部の人たちが勝ったようなものです」

「幸羅ちゃん?」

 幸羅ちゃんにどういうことか尋ねようとしたけど、髪を乱しふらふらな帆並ちゃんと怒りが収まらない御堂先輩が戻ってきたので機会を失った。このピリッとした雰囲気は今までにない雰囲気だ。この雰囲気からまるで逃げるかのように空気と化しているのが米野さんと鈴木先輩だった。脱力し、気の抜けた表情で真っ白になったペラペラの姿・・・・・・着色前の絵か!


「最終決戦は幸羅ちゃんが食べたいものを作ってくることです」

 いやいや幸羅ちゃんの食べたいものなんて初対面の私たちには分かりませんよ~このお題はお手上げじゃないですか。
 どうしよう? なんて考えている間に御堂先輩はきつねうどんを作って来ました・・・・・・はや。幸羅ちゃん、きつねうどんが食べたいんだね。

「食べなさい、幸羅」

「お姉ちゃん。いただきます」

 幸羅ちゃんは目が見えているかのように慣れた手つきで箸を使いうどんを食べる。
 早々に敗北するかと思うと、無駄な戦いをしてきたのもだと過去を振り返った。


「どう? 美味しいでしょ」

「うん、美味しい・・・・・・でも、これは違う」

「なにが違うの? あなた私が何作ってもいつもいつも違うって」

「ごめんなさい、でも違うんだよ」

 今までのアホな展開丸出しだった私たちの活動を振り返ると理解できるでしょうが、少しばかり場の雰囲気が重くなると嘔吐しそうです。だけど、御堂先輩手作りのその美味しそうなきつねうどんの何が違うのか知りたくて隠れて食べさせてもらいました。


 ――いざ、試食――

 ちゅるちゅるとした喉越しでコシのある麺、どうやればこんなにもコシがでるのですか。混ぜて捏ねて足踏みでコシを出す。時には壁に叩きつける、床に叩きつける・・・・・・て、これは女性の憧れであるイケメン男子の得意技、壁ドン、床ドンじゃないですかー。

 つゆは鰹節でとった出汁の旨味が最後の一滴までうどん、そして私を包み込む。

 コンコンとうるさいほど存在をアピールできるのはちゃんと味に自信があるからの油揚げさん。食べてみ、食べてみとコンコンと言ってくるので食べれば食べた私もコンコン狐さん。

 そうか、イケメン男子と思っていたけど、今までの全部は狐さんに化かされていたのかい? そうに違いない。私は最初から最後まで狐さんに化かされ続けたのね――by墨名 樹季。

 
 なんてことでしょう。恥じらいも無く一人で食の表現をしていた。もはや完全に食べ部に染まっていたんだね私。


「墨名ちゃん、さすがに隅で一人できつねうどん食べて美味さ表現をされると引くわー」

 指摘されると恥ずかしいけど、なんか米野さんに言われるとかなり傷つくわー。

 それにしても幸羅ちゃんはこんなにも美味しいきつねうどんの何が違うって言うんだろう?
 理由が分からないだけに私には何も言えないけど。悲しい表情をしながら部室を出ていく御堂先輩の姿を見ていると少し心が苦しくなった。


「ほら、大丈夫だったでしょ?」

「どうして、何が違うの?」

「それは内緒ですよ。だって一応勝負中なんですよね?」

「そうだったね」

「だけど、少しだけ昔話をしますね。あれは、五年前の出来事なのです」

 幸羅ちゃんは笑顔でゆっくりと過去の話してくれた。



「その日、私はお姉ちゃんと一緒にハンバーグの材料を買いにを行ったんです」

 仲の良い姉妹なんですね。

「その帰り道に私は、ちょっとテンションが上がっちゃったようで点滅し始めた信号機を見て、猛ダッシュで歩道を渡りきる姿をお姉ちゃんに見せたくなりって、確認もせずに走って渡ってしまった結果ですね。左折中の自動車と・・・・・・命は助かりましたが転倒した際に頭の打ち所が悪く光を失ってしまいました」

 ・・・・・・なんて言葉をかければいいのか分からぬ。

「最初こそショックではあったけど、これも人生の一つなのだからとすぐに受け入れたんです。じゃないと楽しいこと見つけられないですから」

 私より年下なのに偉いな~て言うか、これだけ人間がしっかりしている年下を見ていると私や米野さんの存在自体に恥ずかしさを感じる。
 
「だけどあの日以来、お姉ちゃんは自分に責任があると考えたようで」

 御堂先輩の気持ち、なんとなく分かるような気がする。

「今まで通りに優しくて、私が頼めば美味しい料理も作ってくれるし、食べに連れて行ってもくれる。だけど・・・・・・以前までのお姉ちゃんが作る料理の味とは何かが違うんです」

 
 食べものはお腹を満たすもの。それと同じ、あるいはそれ以上に満たすものがある。 
 ・・・・・・いけない、御堂先輩は最も大切なことを忘れてしまっているんだ。
 これでは、どんな料理を作ったとしても幸羅ちゃんの求める味にはならない。
 私の考えが正しければだけど。
 
 
 ふと、視線を感じたので、視線の方を見て見ると帆並ちゃんが私を見ていた。ダメな雰囲気を醸し出すことの多い先生ではありましたが、今の帆並ちゃんの目は何かを私に願うというか託したような感じがした。


 そうか、そうだったんだ。
 
 よく分からないまま変な部へ入部させられたものだと思っていたけど、帆並ちゃんの目を見て何となくだけど部の存在の意味を知ったような気がした。

 なら、最後の最後まで私は食は人を幸せにする部の秘密兵器として頑張ってあげようじゃないですか。
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