食に恋せよ乙女たち

圍 杉菜ひ

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入部!!

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 百小鉢ももこばち高校一年三組、墨名とな 樹季いつき
 入学して間もないですが、心は既にゴールデンウィークを待ち望む帰宅部です。

「墨名、墨名」

 どこか遠くから私を呼ぶ声が聞こえる気がする。誰かな? 私を呼ぶのは。

「墨名、いつまで寝てるんだ。授業はとっくに始まっているぞ」

 私を呼ぶ声の主は担任教師の小川おがわ 小納吉こなきち、五十二歳でありまして。イケメンとは程遠いオジサンの顔を目の前にして目覚めるのは幻滅でしかないよ。精神的ショックを受けたので何らかの形で弁償してもらいたいものです。

 お昼のお弁当を食べた後に睡魔に襲われて、快眠していたのだから空気を読んで普通は起こさないはずなんだけどね。年齢を重ねると空気が読めなくなるものなのかしら。

 小納吉の担当教科は英語。くどくど、ねちねち、同じことを何度も強調してくる小納吉の授業。この人の発音は本当に正しいのか? 翻訳できているのか? 外国人と流暢に会話できるんかいな? 目の前で外国人と会話してたら尊敬してあげてもいいけど、小納吉の英語は全てにおいて怪しさ満点なんだよね。


 ――放課後(あっという間に訪れる至福の時間)


 今日も一日ありがとうございましたと心でつぶやき、即座に鞄に教科書詰めて帰宅準備。


「墨名さん、ちょっと言いかな」


「なんぞや?」


 私に話しかけてきたのは、クラスメイトの米野よねの 百々良ささらさん。名前と顔を覚えているだけのクラスメイトであって、特に会話をしたことがなかっただけに話し掛けられたことにちょっとだけ驚いた。


「墨名さんって部活動はしてないよね?」


「帰宅部だよ~」


 私が右手を挙手しながら返答するや否や口角が上がり満面の笑顔に変貌していく米野さん。


「入部、助かります。ペコリ」


「・・・・・・え?」


 今、一連の会話の中で私は入部しますって返答したでしょうか? ひょっとして挙手か? 挙手したことが入部の合図だったってことですか? 


「待って、私は入部するなんて一言も、それに何部?」


「エッヘン。よくぞ聞いてくださいました。その名も食は人を幸せにする部です」


「・・・・・・な、なんて無駄に長いのでしょう。それに食は人を幸せにする部ってなんぞや?」


「その名の通り、自分たちが美味しいものを食べて幸せになったり、不幸な人を見つけては食べものを通じて幸せを提供する部なのです」

 ・・・・・・ヤバいっすよね。

 
「それ、正式に部として認められているの?」


「もちろんです。でも部員が一人ほど足らなくて困っていたところに墨名さんの存在を思い出したのです」


 思い出さなくても良いものを。


「残念だけど、私はどこの部にも属さない生き方をしているもので」


「スポーツ系や文化系でもないんですし、それに金曜日だけの週一回しか活動してないから、無理のない範囲で参加してくれるだけでいいんで入部してちょ」

 ・・・・・・してちょって。さっきからペコリやら時々語尾に何か付くのねこの子は。

「ひょっとして墨名さんはダイエットとかしていますか?」

「特にダイエットはしてないけど」

「太りやすい体質とか?」

「それも特に関係ないかな」

「持病とかお持ちですか?」

「いや、健康体かな」

「じゃあ、特に問題ないですね」


 屈しました。もう無理、断りきれ無さそうだね。

          

 結局、入部届の手続きと歓迎会を行うということで私は米野さんに連れられ、食は人を幸せにする部の部室までやって来ました。

 食は人を幸せにする部と言っていたけど、部室の引き戸には簡略して食べる部って紙が貼ってあるんだね。
 ガラガラ~と引き戸を開けると、中央に工作台が置かれている。
 私の視線を釘付けにしたのは工作台の上に置かれた たくさんのお菓子たちでした。

 本当に食べるだけ? 部費とかもらえるものなのかな? 大学生ならまだしも高校生が食べることだけを楽しむ部ってどうなんだろう?


「ウェルカムお菓子~墨名ちゃん、座って座って、食べて食べて」

「え、はい。いただきます」

 米野さんは私を背後から押すような形で椅子まで誘導し、軽く肩をポンポンと叩きながら座らせてくれた。

 対面に座る米野さんは悪巧みを一切考えない天使のような笑顔で見てくる。少し机に身を乗り出して・・・・・・何かを期待でもしているのでしょうか? マジマジと見られながら食べるのって恥ずかしくなる。とりあえず市販のものではなく、手作りぽっいカップケーキを手に取って口に運ぶ。


 ・・・・・・想像以上に口の中に広がる幸福な甘さに噛むことを止めてしまった。


「何これ? うま過ぎ」

「そのカップケーキを作ってくれたのは、高條たかえだ 帆並ほなみ先生だよ」

「誰?」

「あら? 御存じないんですか」

「ごめんなさい、知らない」

「何言ってるんですか、食は人を幸せにする部の顧問ですよ」

 急に連れてこられて、顧問の先生の名前なんて知るはずがないじゃないですか。

 とは言え、このカップケーキはうま過ぎ。本来ならもう少し口の中の水分を奪い去り、パサパサ感があるはずなのにクリーミーと言うか、まるでカスタードクリームそのものが生地になっているみたい。


「美味しいですか?」

「とっても美味しい~」

「毎週金曜日だけですけど、来てくださいね」

「こんな感じなら参加できるかも」


 カップケーキを堪能していると、勢いよく引き戸が開けられる。


「こんにちは~今日も食べてますか~」

 どうやら顧問の先生が来たようです。

「こんにちは、帆並ちゃん。お先に食べてますよ」

「今日も良き返事ね、百々良さん」

「あ、そうでした。こちら入部希望者の墨名さんです」

「にゅ、入部希望者・・・・・・いたんですね」


 先生が入部希望者に驚いているのってなんか変だよね。


「一年三組、墨名 樹季です」

「はいはい、私は高條帆並だよ。帆並ちゃんって呼んでね」

「はい」

「呼んでみて」

「は?」

「呼んでみて」

「・・・・・・ほ、帆並ちゃん」

「は~い、帆並ちゃんだよ~」


 ヤバい、この人、面倒な人間だ。


「あ? ちょっと待って」


 帆並ちゃんは慌てた様子に変わった。


「どうかしました?」

「いえ、ここに置いてあったカップケーキって食べちゃった?」

「今まで食べたことが無いくらい美味しいです、コレ帆並ちゃんが作ったんですよね」

「えぇ、でもコレ生焼けの失敗作なのよ。それに一週間前のごにょごにょ……。間違えて持って来ちゃったのね。おっちょこちょいな私」


 おっちょこちょいな私と言いつつ、帆並ちゃんは自分のおでこを軽くコツンと叩いた後に下をペロリと出し可愛らしさをアピールしている・・・・・・。

 美味しいと絶賛して食べていたカップケーキ、クリーミーだったのはただの生焼けでしたか。更に一週間前……私、お腹壊すかもしれないね。
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