僕らが吐いた息がいつか世界の風になるように

綾瀬雲母

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鮮やかな時間の中で

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それは永く深いの暗闇を抜けた後だった。
眩しさに目を細めて、初めて見る世界の色彩は未だ言葉を知らない僕たちにいったいどんな感情をもたらしただろうか。
それは恐怖だったろうか。
それは驚きだっただろうか。
そうやって僕らは生まれてきたんだ。
いつしか言葉を覚え、
歩き方を覚え、
少しずつこの世界との関わり方を覚えた。
僕らの中で、何かが変わるたびに僕は過去の自分の抱いた新鮮な感覚を忘れていく。そうしてアップデートした自分の感覚もまた、いつしか古いものとして脱ぎ捨てていく。進歩や進化は良いことばかりじゃない。前に進むために捨てなくては行けないそんな残酷な取捨選択を強いることもある。
それに、たとえ自分がそのままでいたくても周りと協調することを強いられる時だってある。それを個人の自由だとか個性だとか言って突っぱねることもできる。
でも僕らにはきっと気の許せる隣人が必要で、話し相手が必要で、そのために社会だとか秩序だとか堅苦しいこともまた必要なんだろう。だから周りに合わせる、そうさせられる。
僕らは結局生まれた時も死ぬ時も1人だけれど、その合間を一人ぼっちでは生きれないから、全て感情や欲求をぶち撒けられはしないんだ。
死ぬまで抱えて生きていくか、その焦燥や葛藤を何かに昇華させられるか、それともそれすらぶつけ合える出会いに巡り会うこともあるかもしれない。
僕らの毎日は続いていく。終わりの見えない日々も、ある時ぷつんと糸が切れるかも知れない。不確かな道行きだ。
与えられる機会も時間も環境も平等なんか何もない。みんな平等なんて言葉はこの世で1番汚い嘘だ。
じっとしていても、泣いていても、何かに必死に打ち込んでいても、幸せの絶頂でさえ、時間は確実に過ぎていっている。僕らは確かに終わりに向かっている。死んだ先に何があるのかどこにいくのかなんて知らない。
でも僕らは終わりに向かって走らなくちゃいけない。死んで終わってしまうと知っても生きなくちゃいけない。
人生を、この日々を、この鮮やかな時間をどうしていきたいのかを迷って探して足掻かなければ行けない。
僕はいつかこの自分で良かったと思いたい、今までいつだって後ろめたさを隠してきた自分を間違ったこともあったけれどそれでもこの自分が好きだとこの人生が僕の人生なんだと肯定したい。そんな人生にしたいんだ。
僕らはきっとどうやったって後悔するんだ。完璧なんてことはなく必ず綻びに気づいて気に病むのだ。でもやりたかったことをやらずに終わらせて悔やむのだけは僕は嫌なんだ。
人生は長くて短いものだから鬱屈した日々は長く、幸せは一瞬で過ぎ去るものかも知れない。
それでも、僕らは鮮やかな時間の中で、
生きて、生きて、生きて行く。歩いて行くんだ。
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感想 1

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みんなの感想(1件)

関谷俊博
2016.08.10 関谷俊博

流れていくような文章がとても好きです。比喩が巧み。さしたる事件は起きないのだけれど、文章の力だけで読ませてしまうのは、さすがです。

2016.08.18 綾瀬雲母

関谷様
貴重なご感想ありがとうございます。
とても励みになります。
これからも精進してまいります。

解除

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