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始まらない部内恋愛
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「そういえば千紗、河本先輩といい感じかもって言ってなかったっけ?」
ここのところ、放課後の話題は始まらない恋の話に偏りつつある。
初めは少し呆れながら聞いていた亜依も、段々乗ってきていた。
「あー。それも始まってないなあ」
千紗はこれまでより明らかに興味なさそうである。
「なんでそんなやる気ないんよ、詳細聞いてなかったし教えて!」
「んー、じゃあ話すけど……」
◆◆◆
河本先輩は、所属している文芸部の先輩で、いかにも小説が好きそうな眼鏡をかけ、いかにも小説が好きそうな髪形をし、いかにも小説が好きそうな歩き方をしている。
◆◆◆
「待った、さすがに偏見の塊すぎん?」
「亜依、つっこむの、もうちょっと待って、どんどん待てんくなってる」
「ごめん、続けて。偏見だらけやけど、納得できんことはない」
◆◆◆
そのいかにも小説が好きそうな河本先輩は期待を裏切らずに文芸部で活動している。だがしかし何より顔がいい。
いつも小説を読み、物静かで、そうしているだけで横顔が絵になる。
千紗と亜依が入部した春、先輩は二年生で、書記をしていた。
新入部員に優しく話しかけてくれる部長や副部長とは違って、ずっと黙ったままだったが、時折静かに微笑んでいて、その雰囲気に千紗は少し惹かれていた。
文芸部室には、全体で集まる日は月に1度しか決まっておらず、それ以外は好きなときに部室を利用していいことになっていた。お昼休みにお弁当を食べに来る人もいれば、放課後、執筆に励む人もいた。部員は全部で15人もいないくらいだったが、授業時間以外は3人以上絶対にいるような空間だった。
河本先輩は、そのなかでもよく部室にいる人だった。本を片手にお弁当を食べているときもあったし、小説を読みふけっているときもあったし、原稿用紙に小説を書き連ねているときもあった。
たまたま千紗と河本先輩が部室で二人きりになったことがある。
千紗は部室にある漫画を片っ端から読んでいた。その日は用事があると言って先に帰った亜依を見送ってから、下校時間ぎりぎりまで部室で過ごしていたのだ。
最初から先輩と二人だったわけではなく、途中部員が入れ替わり立ち替わり、二人きりになったのは下校時間の15分前。
「そろそろ鍵を閉めて出ようと思うけど、そろそろ出ますか?」
それが初めて聞く先輩の声だったかもしれない。顔に似合ういい声だった。
「あっ、はい!もう片付けます」
きりよく読み終わった巻を手に、千紗は立ち上がった。
「急がなくていいですよ、いつもこれくらいに鍵返しているので」
後輩に対し敬語の先輩は他にいなかったが、河本先輩が話すとしっくりきた。
「その漫画、いいですよね。僕、既刊一晩で読んでしまいました」
漫画について話しかけられると思わなかった千紗は、思わず河本先輩をじっと見てしまった。
「よっ、読み始めると止まらないですよね!」
どごまぎしながら返すと、河本先輩はにっこりと微笑んだ。
どきっとした。
いつも黙って微笑んでいるだけではない。話しかけてくれたうえで微笑んだのだ。
とはいえそこから特に話が盛り上がるでもなく、静かに片付けて静かに帰路についたのだった。
◆◆◆
「え!いいやん!めちゃ雰囲気いいやん!」
亜依はうきうきと先を促した。
「で?そっから??」
「なんにもないよ」
「え?」
「なんにもないねん、話しかけてくれた先輩は素敵やったけど、そっからほんまに声聞いたか覚えてへんレベルでなんにもないんよ」
「えーそうなん?!」
亜依はあからさまにがっかりした。
「いやでもここ半年くらい私ら部室行ってへんからな。先輩と話す機会もまあないんよな」
千紗は苦笑する。
「せやったな、幽霊部員極めてるんやったわ」
幽霊部員に部内恋愛は一番縁遠そうな話題である。
ここのところ、放課後の話題は始まらない恋の話に偏りつつある。
初めは少し呆れながら聞いていた亜依も、段々乗ってきていた。
「あー。それも始まってないなあ」
千紗はこれまでより明らかに興味なさそうである。
「なんでそんなやる気ないんよ、詳細聞いてなかったし教えて!」
「んー、じゃあ話すけど……」
◆◆◆
河本先輩は、所属している文芸部の先輩で、いかにも小説が好きそうな眼鏡をかけ、いかにも小説が好きそうな髪形をし、いかにも小説が好きそうな歩き方をしている。
◆◆◆
「待った、さすがに偏見の塊すぎん?」
「亜依、つっこむの、もうちょっと待って、どんどん待てんくなってる」
「ごめん、続けて。偏見だらけやけど、納得できんことはない」
◆◆◆
そのいかにも小説が好きそうな河本先輩は期待を裏切らずに文芸部で活動している。だがしかし何より顔がいい。
いつも小説を読み、物静かで、そうしているだけで横顔が絵になる。
千紗と亜依が入部した春、先輩は二年生で、書記をしていた。
新入部員に優しく話しかけてくれる部長や副部長とは違って、ずっと黙ったままだったが、時折静かに微笑んでいて、その雰囲気に千紗は少し惹かれていた。
文芸部室には、全体で集まる日は月に1度しか決まっておらず、それ以外は好きなときに部室を利用していいことになっていた。お昼休みにお弁当を食べに来る人もいれば、放課後、執筆に励む人もいた。部員は全部で15人もいないくらいだったが、授業時間以外は3人以上絶対にいるような空間だった。
河本先輩は、そのなかでもよく部室にいる人だった。本を片手にお弁当を食べているときもあったし、小説を読みふけっているときもあったし、原稿用紙に小説を書き連ねているときもあった。
たまたま千紗と河本先輩が部室で二人きりになったことがある。
千紗は部室にある漫画を片っ端から読んでいた。その日は用事があると言って先に帰った亜依を見送ってから、下校時間ぎりぎりまで部室で過ごしていたのだ。
最初から先輩と二人だったわけではなく、途中部員が入れ替わり立ち替わり、二人きりになったのは下校時間の15分前。
「そろそろ鍵を閉めて出ようと思うけど、そろそろ出ますか?」
それが初めて聞く先輩の声だったかもしれない。顔に似合ういい声だった。
「あっ、はい!もう片付けます」
きりよく読み終わった巻を手に、千紗は立ち上がった。
「急がなくていいですよ、いつもこれくらいに鍵返しているので」
後輩に対し敬語の先輩は他にいなかったが、河本先輩が話すとしっくりきた。
「その漫画、いいですよね。僕、既刊一晩で読んでしまいました」
漫画について話しかけられると思わなかった千紗は、思わず河本先輩をじっと見てしまった。
「よっ、読み始めると止まらないですよね!」
どごまぎしながら返すと、河本先輩はにっこりと微笑んだ。
どきっとした。
いつも黙って微笑んでいるだけではない。話しかけてくれたうえで微笑んだのだ。
とはいえそこから特に話が盛り上がるでもなく、静かに片付けて静かに帰路についたのだった。
◆◆◆
「え!いいやん!めちゃ雰囲気いいやん!」
亜依はうきうきと先を促した。
「で?そっから??」
「なんにもないよ」
「え?」
「なんにもないねん、話しかけてくれた先輩は素敵やったけど、そっからほんまに声聞いたか覚えてへんレベルでなんにもないんよ」
「えーそうなん?!」
亜依はあからさまにがっかりした。
「いやでもここ半年くらい私ら部室行ってへんからな。先輩と話す機会もまあないんよな」
千紗は苦笑する。
「せやったな、幽霊部員極めてるんやったわ」
幽霊部員に部内恋愛は一番縁遠そうな話題である。
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