始まらないラブストーリー

樫和 蓮

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遠距離恋愛

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「亜依は遠距離恋愛できる派?」
「えーどうやろ、そんな経験ないからわからんけど、私はいけるんちゃうかと思う」
「亜依は大人やな……」
「今度は何?」
「私は遠距離無理やと思うねんけど、遠距離でも余裕な大人な女性には憧れるやん」
「確かに」
「また見かけた話なんやけどさ」
「最早自分の話じゃなくなってきたな」
「こういう恋バナもいいやろ」
「恋バナなんかなこれ」
「いいからいいから」

◆◆◆

千紗はマクドで宿題を広げていた。今日は両親ともに夜は外出してしまい、夕食の確保が必要だった。
「夕飯にマクドもな……」
ぼやきつつセットを頼み、亜依と残る放課後だけでは終わらなかった宿題に取り掛かる。
前のボックス席には同じ高校の生徒が二人。きゃいきゃいとはしゃいでいるのが見える。

そして後ろのボックス席にはカップルがいた。座る前に軽く見ただけだが、二十代だろうか。二人とも会社帰りのような、スーツっぽい恰好をしていた。会話だけが聴こえてくる。

「ついに来週からかー」
「寂しいー!!」
「二年もすれば帰ってくるから。俺やって寂しいし」

どうやら男性のほうが二年海外赴任になるらしい。

「あのさ、俺が帰ってきたらさ、その……」
「何?」

待ってまさかプロポーズ?ここマクドですけど…??

「プロポーズなら聞かへんから!」

女性のほうが牽制する。
見えないけれど男性のほうがびっくりしたような、肩を落とすような雰囲気が伝わってくる。
やっぱり、遠距離で二年はしんどいのかな……。

「私だってもっと魅力的になっておくし、健くんももっと魅力的になって帰ってきてくれないと結婚しないから!」
「え、それって……」
「ばか!」

見えないけれど男性のほうが元気を取り戻したのが伝わってきた。

「しかもマクドでその話はなくない?」
「確かに」
「連絡寄越さんかったら許さへんから!」
「わかったわかった」

◆◆◆

「なんかさ、かっこよくない?」
思い出しながら斜め上のほうを見つめる千紗が言う。
「わかる。寂しいって言いながら突き付ける感じ、かっこいい」
亜依もうんうんと頷く。

「いやあ、おかげで宿題まったく捗らんかったわ」
千紗の目の前には昨日から出ている宿題が広がっている。
「昨日終わらせるって言ってたやつやん」
「無理やったわ。家帰ってからは遠距離になった場合のシミュレーションしとった」
「そんな予定あったっけ?」
「ないんよなーそれが」

「でもな、シミュレーションの結果、かっこいい大人の女性になるために、遠距離でも大丈夫って言えるようになろうと思ってん」
「それ結果になってるんかな」
胸を張る千紗に、亜依は苦笑いを向けた。
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