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年の差なんて
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年の差なんて関係ない。
そう言ってもらえるのは、何歳差までだろうか。
絵美は祐三さんの横顔を盗み見た。
祐三さんは今日も男前だ。
絵美は満足げに手元のカフェオレに視線を戻す。
ほんとうは、甘い香りのするカフェオレにさえ、お砂糖をたっぷり入れたいくらい、絵美の味覚はまだまだお子さまだ。
これも祐三さんに相応しい女性になるため。
涼しい顔を装って、絵美はカフェオレをすする。
祐三さんはこのカフェのマスターで、深緑のエプロンが似合う、素敵なおじさまである。
還暦を過ぎてもなお引き締まった身体は、現役バリバリ、という風貌だ。
絵美は高校生になったばかり。このカフェに一人で来られるようになったのも最近だ。
絵美が幼いころから両親に連れられてよく来ていたこのカフェ。
ここに来ると、祐三さんは絵美のことを一人前の女性として扱ってくれた。
その挙動が美しかったのがきっかけだっただろうか。
父親よりも歳上の祐三さんのことを、絵美はすっかり好きになっていたのだった。
絵美もはじめは、優しい親戚のおじさんを好きだというような「好き」だと思っていた。
しかし、そんな慕うだけの気持ちではなく、もっと温かい気持ちであること、微笑みかけられるとどきどきしてしまうことに気付いてしまった。
気付いてしまった気持ちには蓋をすることができなかった。
祐三さんの所作が、祐三さんの微笑みが、祐三さんの作るコーヒーが、そのすべてが愛しくなっていった。
両親に連れられてカフェに来られるのは月に1、2度だった。それに、あまり子ども向けのお店ではない。小学生の絵美には一人で訪れる勇気は出なかった。中学生の絵美も、まだ早いかなとためらって少ない機会を待ち望む生活だった。
しかし、いよいよ高校生になった。
幼く見られがちな絵美は、高校生になったことを主張するように制服に袖を通し、意を決して一人でカフェに訪れるようになった。
始めは土曜か日曜に制服に着替えて通うことにしていたが、段々一人でのカフェも慣れてきた。
習慣として、週に一度、学校が早めに終わる水曜日の放課後に宿題を片付けるという名目で長居するようになった。
大好きな祐三さんが作るカフェオレを飲みながら、大好きなカフェで過ごす大人な時間。
宿題が捗るあまり、終えてからもゆっくり過ごすことが常だった。
そんな絵美の気持ちを知ってか知らずか、祐三さんは静かに気をかけてくれる。
自分がお客さんだから当たり前だ、と言い聞かせながら、それでも自分に向けられる笑顔にどきどきしてしまう。
誰にもこの気持ちは打ち明けたことがない。同級生の男の子に恋をする友だちの話を聞いていると、絵美自身の恋心は、同じようで、違うような、なんとなく一歩下がった気持ちになってしまう。
家庭教師の大学生に恋する友だちには、みんな「歳の差なんて関係ないよ!」と励ますのが常だ。
でも、その何倍もある歳の差は、関係ないと言ってもらえるだろうか。
人の目だって関係ないのかもしれない。ただしそれは独りよがりかもしれない。
カフェオレをかき混ぜながら、絵美は自分の気持ちもかき混ぜるのだった。
祐三さんの困る顔は見たくない。
カフェに通う度に募る想いに、やんわり蓋をしながら、それでも絵美は好きな人の居る場所へ今日も通う。
そっとしまった恋心を、確かめたり、混ぜてみたり、蓋をしてみたり……。
せめて、歳の差が気後れにならない時代に生まれればよかったのに。
きっと近い歳に生まれれば、今度は前に進めるのに。
生まれ変わりがあるとして。
そう言ってもらえるのは、何歳差までだろうか。
絵美は祐三さんの横顔を盗み見た。
祐三さんは今日も男前だ。
絵美は満足げに手元のカフェオレに視線を戻す。
ほんとうは、甘い香りのするカフェオレにさえ、お砂糖をたっぷり入れたいくらい、絵美の味覚はまだまだお子さまだ。
これも祐三さんに相応しい女性になるため。
涼しい顔を装って、絵美はカフェオレをすする。
祐三さんはこのカフェのマスターで、深緑のエプロンが似合う、素敵なおじさまである。
還暦を過ぎてもなお引き締まった身体は、現役バリバリ、という風貌だ。
絵美は高校生になったばかり。このカフェに一人で来られるようになったのも最近だ。
絵美が幼いころから両親に連れられてよく来ていたこのカフェ。
ここに来ると、祐三さんは絵美のことを一人前の女性として扱ってくれた。
その挙動が美しかったのがきっかけだっただろうか。
父親よりも歳上の祐三さんのことを、絵美はすっかり好きになっていたのだった。
絵美もはじめは、優しい親戚のおじさんを好きだというような「好き」だと思っていた。
しかし、そんな慕うだけの気持ちではなく、もっと温かい気持ちであること、微笑みかけられるとどきどきしてしまうことに気付いてしまった。
気付いてしまった気持ちには蓋をすることができなかった。
祐三さんの所作が、祐三さんの微笑みが、祐三さんの作るコーヒーが、そのすべてが愛しくなっていった。
両親に連れられてカフェに来られるのは月に1、2度だった。それに、あまり子ども向けのお店ではない。小学生の絵美には一人で訪れる勇気は出なかった。中学生の絵美も、まだ早いかなとためらって少ない機会を待ち望む生活だった。
しかし、いよいよ高校生になった。
幼く見られがちな絵美は、高校生になったことを主張するように制服に袖を通し、意を決して一人でカフェに訪れるようになった。
始めは土曜か日曜に制服に着替えて通うことにしていたが、段々一人でのカフェも慣れてきた。
習慣として、週に一度、学校が早めに終わる水曜日の放課後に宿題を片付けるという名目で長居するようになった。
大好きな祐三さんが作るカフェオレを飲みながら、大好きなカフェで過ごす大人な時間。
宿題が捗るあまり、終えてからもゆっくり過ごすことが常だった。
そんな絵美の気持ちを知ってか知らずか、祐三さんは静かに気をかけてくれる。
自分がお客さんだから当たり前だ、と言い聞かせながら、それでも自分に向けられる笑顔にどきどきしてしまう。
誰にもこの気持ちは打ち明けたことがない。同級生の男の子に恋をする友だちの話を聞いていると、絵美自身の恋心は、同じようで、違うような、なんとなく一歩下がった気持ちになってしまう。
家庭教師の大学生に恋する友だちには、みんな「歳の差なんて関係ないよ!」と励ますのが常だ。
でも、その何倍もある歳の差は、関係ないと言ってもらえるだろうか。
人の目だって関係ないのかもしれない。ただしそれは独りよがりかもしれない。
カフェオレをかき混ぜながら、絵美は自分の気持ちもかき混ぜるのだった。
祐三さんの困る顔は見たくない。
カフェに通う度に募る想いに、やんわり蓋をしながら、それでも絵美は好きな人の居る場所へ今日も通う。
そっとしまった恋心を、確かめたり、混ぜてみたり、蓋をしてみたり……。
せめて、歳の差が気後れにならない時代に生まれればよかったのに。
きっと近い歳に生まれれば、今度は前に進めるのに。
生まれ変わりがあるとして。
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