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夏の物語
また、夏が始まる
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わたしは重たいトロンボーンを手に、竜の谷に向かっていた。
1学期の期末試験前の土曜日。部活は休みだ。3年になったわたしには、内申点がかかった大事な試験。でも、最後のコンクールも控えている。最後のコンクールももちろん大事だ。
試験休みもいてもたってもいられず、許可を得て学校の楽器を持ち帰ってきた。
大きな音の鳴るトロンボーンを家で吹くわけにもいかない。
「竜の谷に行けばいいじゃん」
そうすれば、いつもわたしを見守ってくれているみんなに音を聴いてもらうことができる。我ながらいい思いつきだ。
とはいえ……。いつもはほぼ荷物もなく歩いていた道はトロンボーンを持って歩くには少しハード。
じんわり額にかいた汗をぬぐいながら、いつもより遠い竜の谷を目指す。
やっと着いた竜の谷には、みんな揃っていた。
「やあ、夏さん」
「やっほー!なっちゃん!」
「今日も暑いね!」
「木陰はちょっと涼しいよ!」
「おいでおいで!」
相変わらず穏やかなリュウと元気なクロシロ。この1年でクロとシロからはなっちゃんと呼ばれるようになった。
「暑いね~楽器重くて遅くなっちやった」
ようやくトロンボーンを下ろす。
「夏さん、楽器聴かせてくれるの?」
土田さん呼びから夏さん呼びになった龍平くんは、単語帳を手に持っている。あー、竜の谷に来ててもちゃんと勉強してる……!
「うん、コンクールの練習もしたくて」
楽器を組み立て始めると、クロとシロが目を輝かせて飛んできた。
「楽器!」
「ピカピカ!」
「なんていうの?」
「どんな音が鳴るの??」
次々に聞かれて思わず笑ってしまう。
「これはトロンボーンっていう楽器でね、ここのスライドを動かして音を変えるの」
説明しながら組み立て終え、立ち上がった。
「ちょっと待ってね」
軽く音を出し、ウォーミングアップ。
この時点で、みんなキラキラした目でわたしを見てくれている。龍平くんも。
「では、ちょっと曲も披露するね」
わたしはトロンボーンをまっすぐ構え、コンクールで演奏する曲の一節を吹いた。
思いっきり吹いた音が、青い空に吸い込まれていく。
みんなのキラキラした笑顔が見える。
ああ、また夏が、始まる。
1学期の期末試験前の土曜日。部活は休みだ。3年になったわたしには、内申点がかかった大事な試験。でも、最後のコンクールも控えている。最後のコンクールももちろん大事だ。
試験休みもいてもたってもいられず、許可を得て学校の楽器を持ち帰ってきた。
大きな音の鳴るトロンボーンを家で吹くわけにもいかない。
「竜の谷に行けばいいじゃん」
そうすれば、いつもわたしを見守ってくれているみんなに音を聴いてもらうことができる。我ながらいい思いつきだ。
とはいえ……。いつもはほぼ荷物もなく歩いていた道はトロンボーンを持って歩くには少しハード。
じんわり額にかいた汗をぬぐいながら、いつもより遠い竜の谷を目指す。
やっと着いた竜の谷には、みんな揃っていた。
「やあ、夏さん」
「やっほー!なっちゃん!」
「今日も暑いね!」
「木陰はちょっと涼しいよ!」
「おいでおいで!」
相変わらず穏やかなリュウと元気なクロシロ。この1年でクロとシロからはなっちゃんと呼ばれるようになった。
「暑いね~楽器重くて遅くなっちやった」
ようやくトロンボーンを下ろす。
「夏さん、楽器聴かせてくれるの?」
土田さん呼びから夏さん呼びになった龍平くんは、単語帳を手に持っている。あー、竜の谷に来ててもちゃんと勉強してる……!
「うん、コンクールの練習もしたくて」
楽器を組み立て始めると、クロとシロが目を輝かせて飛んできた。
「楽器!」
「ピカピカ!」
「なんていうの?」
「どんな音が鳴るの??」
次々に聞かれて思わず笑ってしまう。
「これはトロンボーンっていう楽器でね、ここのスライドを動かして音を変えるの」
説明しながら組み立て終え、立ち上がった。
「ちょっと待ってね」
軽く音を出し、ウォーミングアップ。
この時点で、みんなキラキラした目でわたしを見てくれている。龍平くんも。
「では、ちょっと曲も披露するね」
わたしはトロンボーンをまっすぐ構え、コンクールで演奏する曲の一節を吹いた。
思いっきり吹いた音が、青い空に吸い込まれていく。
みんなのキラキラした笑顔が見える。
ああ、また夏が、始まる。
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