17 / 17
夏の物語
また、夏が始まる
しおりを挟む
わたしは重たいトロンボーンを手に、竜の谷に向かっていた。
1学期の期末試験前の土曜日。部活は休みだ。3年になったわたしには、内申点がかかった大事な試験。でも、最後のコンクールも控えている。最後のコンクールももちろん大事だ。
試験休みもいてもたってもいられず、許可を得て学校の楽器を持ち帰ってきた。
大きな音の鳴るトロンボーンを家で吹くわけにもいかない。
「竜の谷に行けばいいじゃん」
そうすれば、いつもわたしを見守ってくれているみんなに音を聴いてもらうことができる。我ながらいい思いつきだ。
とはいえ……。いつもはほぼ荷物もなく歩いていた道はトロンボーンを持って歩くには少しハード。
じんわり額にかいた汗をぬぐいながら、いつもより遠い竜の谷を目指す。
やっと着いた竜の谷には、みんな揃っていた。
「やあ、夏さん」
「やっほー!なっちゃん!」
「今日も暑いね!」
「木陰はちょっと涼しいよ!」
「おいでおいで!」
相変わらず穏やかなリュウと元気なクロシロ。この1年でクロとシロからはなっちゃんと呼ばれるようになった。
「暑いね~楽器重くて遅くなっちやった」
ようやくトロンボーンを下ろす。
「夏さん、楽器聴かせてくれるの?」
土田さん呼びから夏さん呼びになった龍平くんは、単語帳を手に持っている。あー、竜の谷に来ててもちゃんと勉強してる……!
「うん、コンクールの練習もしたくて」
楽器を組み立て始めると、クロとシロが目を輝かせて飛んできた。
「楽器!」
「ピカピカ!」
「なんていうの?」
「どんな音が鳴るの??」
次々に聞かれて思わず笑ってしまう。
「これはトロンボーンっていう楽器でね、ここのスライドを動かして音を変えるの」
説明しながら組み立て終え、立ち上がった。
「ちょっと待ってね」
軽く音を出し、ウォーミングアップ。
この時点で、みんなキラキラした目でわたしを見てくれている。龍平くんも。
「では、ちょっと曲も披露するね」
わたしはトロンボーンをまっすぐ構え、コンクールで演奏する曲の一節を吹いた。
思いっきり吹いた音が、青い空に吸い込まれていく。
みんなのキラキラした笑顔が見える。
ああ、また夏が、始まる。
1学期の期末試験前の土曜日。部活は休みだ。3年になったわたしには、内申点がかかった大事な試験。でも、最後のコンクールも控えている。最後のコンクールももちろん大事だ。
試験休みもいてもたってもいられず、許可を得て学校の楽器を持ち帰ってきた。
大きな音の鳴るトロンボーンを家で吹くわけにもいかない。
「竜の谷に行けばいいじゃん」
そうすれば、いつもわたしを見守ってくれているみんなに音を聴いてもらうことができる。我ながらいい思いつきだ。
とはいえ……。いつもはほぼ荷物もなく歩いていた道はトロンボーンを持って歩くには少しハード。
じんわり額にかいた汗をぬぐいながら、いつもより遠い竜の谷を目指す。
やっと着いた竜の谷には、みんな揃っていた。
「やあ、夏さん」
「やっほー!なっちゃん!」
「今日も暑いね!」
「木陰はちょっと涼しいよ!」
「おいでおいで!」
相変わらず穏やかなリュウと元気なクロシロ。この1年でクロとシロからはなっちゃんと呼ばれるようになった。
「暑いね~楽器重くて遅くなっちやった」
ようやくトロンボーンを下ろす。
「夏さん、楽器聴かせてくれるの?」
土田さん呼びから夏さん呼びになった龍平くんは、単語帳を手に持っている。あー、竜の谷に来ててもちゃんと勉強してる……!
「うん、コンクールの練習もしたくて」
楽器を組み立て始めると、クロとシロが目を輝かせて飛んできた。
「楽器!」
「ピカピカ!」
「なんていうの?」
「どんな音が鳴るの??」
次々に聞かれて思わず笑ってしまう。
「これはトロンボーンっていう楽器でね、ここのスライドを動かして音を変えるの」
説明しながら組み立て終え、立ち上がった。
「ちょっと待ってね」
軽く音を出し、ウォーミングアップ。
この時点で、みんなキラキラした目でわたしを見てくれている。龍平くんも。
「では、ちょっと曲も披露するね」
わたしはトロンボーンをまっすぐ構え、コンクールで演奏する曲の一節を吹いた。
思いっきり吹いた音が、青い空に吸い込まれていく。
みんなのキラキラした笑顔が見える。
ああ、また夏が、始まる。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる