聖犬伝説(ひじりいぬレジェンズ)~愛犬とともに異世界召喚されたけど、チートスキルはボクじゃなく犬の方に宿ってました~

たかはた睦

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第11ワン 勇者と敵襲

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 空を飛ぶ怪鳥や翼竜《ワイバーン》、飛翔鬼《フライングデビル》。地表を埋め尽くす多種多様な魔物の群れ。その中心を征くのがキマイラに騎乗した魔王四天王の一人、魔獣遣いタモン。

「進め進めモンスター達よ!聖剣と勇者の居場所は目前ですよ!!」

 派手な装飾が施された槍を振りかざし、配下のモンスター達に命じる。 彼の槍は未だかつて敵の血を吸った事がない。彼が出るまでも無く、敵はモンスター達の餌食となるからだ。



-シソーヌ王国広場

 突如として訪れた敵襲に、右往左往する民衆。

「早く皆を避難させなければ……しかし何処へ」

 王位襲名以来初めての出来事に、女王は迷いを見せる。

「おばさん、じゃなかった女王さま」

 しのぶが話し掛ける。

「集まった人達をこのまま宮殿と宝物殿に入れちゃうのはどうだろう。 壁が丈夫だから安全だと思うんだけど」

 広場の奥は宮殿、更に奥はしのぶとジローが召喚された宝物殿へと直結している。しのぶは、自らが足を踏み入れ、目にした場所の安全さを加味し提案する。もちろん漫画やゲームから引用した知識でもある。

「選ばれた者しか入れぬ宮殿と、神聖な宝物殿に平民達を入れるというのかね!?」

 驚くように言うハッセ。王族貴族にその考えがあるからこそ、しのぶの提言した発想が思いつかなかったのだ。

「そんな事言ってる場合じゃないよ!人の命が懸かってるんだよ?兵隊でもない人達の命が!!」

 しのぶが暮らしてきた環境には、貧富の差はあれど身分の差はほぼ無かった。戦争や災害が起これば自衛隊や警察、消防が市民を守るーこの国では兵士や騎士がそれに該当するのだろうから、彼らと勇者であるしのぶとジローが戦えぬ民を守ればいい。しのぶの考えは至ってシンプルだった。

「解りました。シノブ様の案を採用します!!」

 女王は目下の民に大声で告げる。

「落ち着くのです我が民よ!皆さんはこれより宮殿並びに宝物殿へと避難してください!子供、女性、お年寄り優先です!兵士の誘導に従って避難なさい!」

 女王の指示に従い民衆は列を成して宮殿へと続く道を進んでゆく。

「国を生かすのは民であり、その民を守るのが王である……先代の勇者様はそう、我が先祖 に説いたと聞きます。シノブ様、私はあなたの言葉が無ければ起を避難させる事はできなかったでしょう。……どうか、我々をお導きください勇者様!!」

「勇者様!」「シノブ様!」

 女王、重臣、騎士や兵士ら大人達の視線がしのぶへと注がれる。

「そんな、ボクは……」

 そんな大それた存在ではないと言いたかった。プレッシャーに押し潰されそうなしのぶを、更なる声が叱咤する。

「陛下!勇者どの!我々も戦いますぜ!!」

 避難した民達から外れて数十人の武装した集団が近づく。

「あれは冒険者《ヴァガボンダー》の方々!」

 ナイーダの言う冒険者とは、旅をしながら護衛や賞金首の捕縛、モンスター討伐、傭兵などの依頼をこなし報酬を得る者たちである。当然ながら彼らは旅の途中でたまたまシソーヌ王国に居合わせただけであり、国のために戦う義理などは無い。

「伝説の勇者と共に戦える機会なんざ、そうそう無えからな!」 
「それに勇者サマのお手並み拝見といきたいですからなぁ」
「大臣のおっさーん!財務もあんたの担当だろ!?報酬は弾んでもらうぜ?」

 がははと笑う冒険者達は年格好、性別、生業《クラス》も様々だったが、一人として怯える者などいなかった。

「あの人たち、 何でそこまで出来るんだろう……」

 しのぶは不思議に思う。

「あの方たちは冒険者としての誇りがあります。戦いに生きる人生でモンスター相手に逃げるという選択は出来なかったのでしょう。ましてや私の様な女や子供のシノブ様が逃げていないのですから」

 ナイーダはそう言うが、しのぶは本心では逃げ出したい、家に帰りたいという気持ちで一杯だった。 だが、 元の世界に帰る手段も無いまま逃げる先などない。

「……やるぞ、ジロー!これは強制イベントだ。ボク達に逃げるコマンドは無いから戦うしかない!!」
「ワン!!」

 これが負けイベントでないことを願いつつ、しのぶは覚悟を決めた。
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