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大会編

ギャラクシーエクスプレス

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「俺とリコは反対のブロックみてえだな。そしてシードだなんて少しラッキーだ」

 テルは隣に立つリコに言う。トーナメントは完全に抽選で決められているとの事なので、一戦ぶん闘わずに済んだのは僥倖と言えるだろう。

「僕はDブロックを勝ち抜けば準決勝でヒカルと当たるかもしれないね。でも、勝つのは僕だ。テル、決勝で会おうぜ!!」

「おうよ!アトラス星野とスペル・リンピオのシングルマッチだ。東京ドームもアレナ・メヒコも満員に出来るカードだぜ!!」

 テルとリコがグータッチをしようとした、その時だった。

「おい、聞き捨てならねえぞ!てめえら!!」

 振り向くと、そこにいたのは卯の干支乱勢・ピエレ。転生前の名をピエール・ド・ゴール。サバットという格闘技をバックボーンに持つ総合格闘家だった。

「プロレスラーが優勝だぁ!?笑わせてくれるぜ。本気 (ガチ) の世界じゃ通用しねえ奴らがよ!!」

 テルとリコは、ピエレの挑発を鼻で笑い受け流した。

「プロレスを馬鹿にするムーヴは、あそこのヘビ野郎がもうやってんだよ」

 テルは少し離れた場所のヒカルを指さした。

「オレをオマエらのくだらねえ小競り合いに巻き込むな。オマエら雑魚どもは誰が相手だろうと同じだ」

 ヒカルはピエレとは目すら合わせずに言った。

「ざ、雑魚だと!?このピエール・ド・ゴール様を雑魚呼ばわりとは、命が惜しくねえのか!!」

 ピエレは今にも手が出かねない勢いだ。彼は転生前も荒々しいケンカファイトで何人もの格闘家を再起不能に追いやり、表の格闘技界からは追放に近い扱いを受けていた。
 12人の干支乱勢達は、それぞれ怒る者、煽る者、冷静を貫く者様々で一触即発の空気となる。

『皆さん、お静かに!続いてルールの説明に移ります!試合開始前の乱闘は失格になりますよ!!』

 ケロン・タナカがマイクを通した声で警告すると、干支乱勢たちは黙りルール説明に向き直る。

『大武檜試合規定に則り、大会のルールは全試合一編して次の通りとなります。試合は武器の使用以外、一切の攻撃が認められ目潰し・噛みつき、頭髪を引っ張る行為等あらゆる攻撃手段が可能です。 また、武器の定義についてですが、リング外から持ち込み、手に持って使うものを言い、着用している服の襟や袖を使っての絞め技は認めますが、帯やバンテージを外して首を絞めたり手足を拘束する事は武器の使用とみなします。そしてリング内の床や鉄柱に相手を叩きつける・ロープを用いて締めや関節を極める攻撃は武器ではなく環境利用とみなし、認められます』

「ほぼノールールだね」

「元の世界じゃ頭突きや肘打ちすら禁止の格闘技が多かったもんな」

 ルールに感想を述べるリコとテル。彼らのいたプロレスのリングは反則行為が5カウントまで許される珍妙なルールや、演出として椅子で殴り合う、毒霧を顔に吹きかけられる、ロープの代わりに電流の流れる有刺鉄線が巻かれたリングで闘う等のデスマッチも行われていたため、今更驚く事ではない。
 そしてストリートや裏社会での戦いを経験しているピエレやヒカル、軍隊で殺し合いをしているヴィーカやレヴィ、ジュリエッタらも大して驚く事なくルールを静聴する。

「既においどん達は一度死んどる身でゴワスからな!今更命など惜しくはなかばい!!」

 午の干支乱勢アサヒはスパッツの上から巻いたマワシをスパンと叩きながら言った。 転生前の彼は大相撲の横綱並びにモンゴル相撲最強の戦士でもあった。

「左様。それに転生してひと月、我らはパワーホールにて魔物どもを相手に死闘をしてきたのですからな。人同士の試合など恐るるに足りますまい」

 とは丑の干支乱勢・シン。

『そして、勝敗の決し方ですが、前述の反則行為、場外へ転落するリングアウト、及びセコンドのタオル投入、ダウンからの10カウント、失神や負傷、戦意喪失などにより試合の続行が不可能となった時点で負けの裁定が下り、相手をそれらの状態へ追い込んだ方を勝ちとします。制限時間やポイント、判定での決着はありません。最後まで立って いた者が勝者です!!』

 ケロン・タナカのルール説明が一通り終わると、 干支乱勢達は試合開始まで一時解散となった。

「おい八百長ネズミ野郎!!」

 ピエレがテルを喧嘩腰で呼び止める。

「オマエとメキシコ野郎は俺様が直々にボコボコにしてやる!Aブロックを勝ち上がって来い!!」

 テルが言い返そうとしたその時だった。

「ちょい待つヨ!Bブロックを勝ち上がるのはワタシね」

 辰の干支乱勢・マイ。転生前の彼はアメリカの映画界で活躍していた俳優マイケル・リーという。

「テメエはアメリカのインチキ空手家!!プロレス以上にナメた野郎だ!!今の言葉、後悔させてやるぜ●●● (放送禁止用語)!!」

 ピエレは中指を立てながら、控え室へと去って行く。

「おい、あんたマイケル・リーなのか!?俺、『マッスル・リベリオン』シリーズのファンなんだよ!!」

 テルは興奮気味に言う。

「お、ワタシの主演作を知ってるとは、ジャパンでも大ヒットなのカ!?」

「いんや。すげーマイナーでB級映画扱い。でも俺はあの味のある作風、大好きだぜ!」

 生前にマイの出ていた映画は、よく午後のロードショーで放映されていたがテルはDVDまで集めるほどコアで珍しいファンだった。

「ハハハ、ならばワタシは生き返ったらシュワチャンやスタローンを超える大スターになってやるヨ!キミも一緒に復活出来たら『バキ・ザ・グラップラー実写版(仮)』 のキャストに加えたいところヨ!」

 マイとテルの会話は他愛もないもののつもりであったが、最後まで勝ち残り、生き返る事の出来る干支乱勢はただ一人であるという事を改めて思い出した。そして、テルには一つの疑問が浮かぶ。


 この大会で負けた干支乱勢は、どうなるのだろうか?

 と。
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