干支乱勢(えとらんぜ)~12人のおじさん格闘家、ケモミミ少女に異世界転生しバトルトーナメントに挑みます!~

たかはた睦

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大会編

STONE PITBULL

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「スポーツ格闘技VS戦場格闘技!果たして勝つのはどちらだ!?今、第一試合の火蓋が切って落とされましたッッ」 

 ツジナリの実況を聞きながら、リングサイド直近の関係者席に座るテル、リコ、マイは試合を観戦する。この3人とヒカルのシード組は自身の試合まで時間と余裕があるのだ。

「どっちが勝つってそりゃあ」

「決まってるよね」

「何だ、キミも同じ予想カ?これじゃ賭けも出来ないヨ」

 観戦する3人とは対照的にリング内の二人─エリとレヴィの間には緊張が走る。

 先に打って出たのはエリの左ジャブ。だが、これはレヴィがバックステップでかわす。続く右フックも同じようにかわされてしまう。

 「レヴィ選手、エリ選手の攻撃を全て避けてはいますが、後ろに退いてかわす事により、追い込まれています!」

「いや、これはレヴィの方がエリを誘導してるよ。誘うように受けている……“誘い受け”だ!!」

「サソイウケ……格闘技用語でありましょうか?」

「いや、ゴメン忘れて」

 ツジナリの言うとおり、防戦一方のレヴィは六角形リングの角に追い込まれてゆく。もうレヴィには退路が無いと確信したエリは、渾身の右ストレートをレヴィの顔面へと向けて放つ。が、それが来る瞬間、レヴィは口角をつり上げて笑っていた。羊の横長をした瞳孔と相まって何とも不気味な笑顔ではないか。

 「!!」

 ばしっと音を立て、エリの右ストレートは弾かれた。 レヴィの左手が内側から弧を描くように回転し、高速のパンチを打ち払ったのだ。そして、すかさずレヴィは右手を『抜き手』の形で勢いよくエリの右肩口に突き刺した。それは比喩でもなく肩の関節へと抉り込む様にめり込んでいた。

「ぐぉっ!?」

 苦悶の表情で動きの止まるエリ。レヴィは追撃の手を緩めず、先ほどエリのストレートを打ち払った左手で掌底をエリの顎めがけて放つ。咄嗟に左腕で顔を覆うようにガードするエリ。しかしレヴィの体重を乗せた一撃を受けダウンを許す。

「おおっと、エリ選手、ダウンです!!」

 ボクサーにとって屈辱となるダウン。 そしてこの仕合はボクシングではない。倒れた相手への攻撃は如何なる手段も認められているのだ!

 レヴィの右足がエリの顔面を踏みつけようと迫る。エリは体を回転させながら回避、距離を取ったところで立ち上がる。

「レヴィの使うクラヴ・マガはね、近接格闘でナイフによる一撃を避ける訓練があるからね。エリのパンチを最初はわざと避けながら下がってたんだよ。 そして見切った後で持ち前の反射神経を使って反撃に出たんだよ」

 ヒナコが言う通り、クラヴ・マガでは二人一組で近く向き合い、片方が繰り出す打撃をもう片方が手で弾くという訓練が行われている。世界中の軍隊や警察もこれを取り入れるほど効果的とも言われているのだ。

「それに、レヴィは羊でしょ?ヤギやヒツジは視野がとても広いから、どこから攻撃が来ても見えちゃうんだ」

 ヒツジの視野とクラヴマガで鍛えた反射神経。これにより、レヴィは完全に近い回避能力を有しているも同然なのだ。

「エリック・ジョーンズ、ここが戦場なら貴様はパンチを払われた後にナイフで喉を一突きだ。武器禁止のルールだからこそ貴様は右腕だけで済んだのだぞ。 降参するなら今の内だ」

 右肩関節の腱に与えられたダメージにより正しく肩で息をしながら立ち上がったエリに対し、レヴィは言う。だが、

「百万歩譲ってココが戦場だったとしても、何でテメーだけナイフ持ってる前提なんだよ。じゃあ俺はクルセイダー戦車でテメーを踏み潰してるかもしれんぜ?」 

 エリは右肩の痛みに耐えながら、口先で応戦する。

「お前がヒツジの干支乱勢だったのが運の尽きだったな。おれはイヌ……そう、 牧羊犬《シープドッグ》だぜ」

ファイティングポーズを取るエリ。

「貴様のは覚悟は解った。 来い!エリッ!!」

 レヴィは胸の前で「八」の字を書くように両手を構えた。そこへエリが大きく息を吸い込み、突っ込んでゆく。

「笑止!」

 エリの左右の手から放たれるジャブの嵐をレヴィはことごとくいなしてゆく……が、今度はレヴィに反撃の余裕を与えぬほどエリの拳が飛んでくる。それが一分近く続いた時だった。

「ほぁたぁ!」

「!!」

 レヴィのこめかみに、エリの左ジャブがクリーンヒット。 続く右のジャブも顎へ。

「何と、エリ選手の猛ラッシュを抜き切れなかったかレヴィ選手!もらってしまったー!!」

「エリは戌だからねー。犬の持久力(スタミナ)は動物の中でも相当なもんだよ」

 普段は時間の短いラウンド内を戦うボクサーにとって、無制限の時間内を戦い抜く上で弱点となる持久力をエリは犬の特性で克服していた。そしていかにレヴィが反射神経に優れようと、カウンタースタイルに対し反撃の暇を与えぬほど途切れる事の無い手数の多さは非常に相性が悪かった。

「オラオラオラオラオラオラオラ!!」

 エリの猛攻は続く。

「ケンシロウがジョータローなのか、どっちなんだよアイツ」 

「というか、相当なコミックオタクみたいネ、エリは」

「いい加減に止めないとレヴィが死んじまうぜ!?」 


「これで終わりだぜ!ジェットアッパー!!」

 リコ、マイ、テルの心配をよそに、エリはアッパーカットで連撃を終えた。
 

「YOU’RE NOT MY MATCH.(目じゃないゼ!)」

 顎を打ち抜かれ、どさりと倒れたレヴィに対し、言い捨てるエリ。レヴィは既に失神している。

『試合続行不可能と確認!勝者エリ!!』

 ジャガー・ハトリはロボットアームでエリの右手首を掴み、それを天へと揚げる。

 「やれやれだぜ」

 またも漫画から台詞を引用したエリは両腕を突き上げて勝利の雄叫びを上げ、観客達は戦いを終えた戦士に喝采を浴びせる。しかし、彼女も仕合を観戦していた干支乱勢達もレヴィの体に迫る変化に気付かずにいた。
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