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大会編

Déjà-vu

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『大暴僧(ランペイジ・モンク) VS イロモノ武術、果たして勝つのはどちらか?今、仕 合のゴングが打ち鳴らされました!!』

 先手を打ったのはウィン。走りながらの右ストレートがマイの顔面を狙う。彼のファイトスタイルに牽制や様子見は存在しない。猪突猛進、一気呵成。勢いで圧し殺すのだ。

「ホワチャア!」

 マイはそう叫ぶと、まるでバレエダンサーの様に体を横に回転させながらストレートを受け流す。
 そして、二周目の回転と同時に右手を少し伸ばすし、回転のエネルギーに乗せた手の甲をウィンの顔面に叩きつけた。

『マイ選手、何とも奇妙な動きですが、カウンターでバックハンドブローを炸裂させました!』

『しかも、指を両目に当ててるね。 大会のルールでサミング (目潰し)は認められてるから反則にはならないよ』

「ぐっ!?」

 一瞬だが、視界を塞がれウィンは後退した。 1回戦でピエレから同じくサミングを食らったが、今回は防ぐ事が出来なかった。

「ほあたっ」

 マイは跳躍し、空中で体を捻りながら右の足刀を振り下ろす様に繰り出す。ウィンはそれを左腕を上げて防ぐ。
 マイが着地すると同時にウィンも右のミドルキックを相手の右腹部に叩き込む。しかし、 マイはそれをブリッジするかのように反り返って回避。

『マイ選手、何ともトリッキーな動きで相手を翻弄しております!ヒナコさん、この動きは 一体何なのでしょう!?』

『知らん』

『ええっ!?』

『実際、あたいも知らないんだよ、こんなメチャクチャな動きをする武術は!』

 ヒナコがマイの動きを解説出来なかったのも無理はない。 多くの武術には型と呼ばれる基本動作が存在する……しかし、マイの動きはどの武術にもある様で無い動きなのだ。

『 一つ前の試合でエリが漫画の技を再現してたのも十分めちゃくちゃだったけど、あれはボクシングという原型をまだ保ってた……でも、マイの動きは「原型が無い」……っていうか、その場その場で咄嗟に上手い具合に技を出してる。言わば「アドリブ」だよ!』

 ヒナコが言う通り、マイの創設した武術は型を持たない無形の武術である。その理由は、ある信念に由来する。

─Don't think, feel-考えるな、感じろ。

 それは、とある昔に香港出身の武術家であり世界的なアクションスターとなった男の遺した言葉である。 同じ華僑であり武術家の俳優であるマイケル・リーはその男に多大なる影響を受けているのだ。

 ウィンの右ハイキック。しかし、マイはそれを顔の高さまで上げた左前腕で防ぐ。 ウィンの蹴りが持つ重さは、マイの体が辰の能力で強化されていなければ受けきれなかっただろう。

 再び間合いを取る両雄。

『マイはスタントマンとしては一流でも、格闘家としては二流三流の腕前だったんじゃないかな』

 ヒナコの言葉に、試合を見るテル達5人の干支は無言で頷く。 

『天性の身体能力が辰の能力で強化されて、一流の強さに追いついてる……珍しい例だよ』


 このまま攻防を続けていても、徒《いたずら》にスタミナを消費してしまう…否、持久力すらも能力で底上げされているであろうマイと違い、不利になるのは自分だけ……ウィンはそう判断すると、早期決着を試みる。 そう、己が持つ最大威力を持つ技で。

『ウィン選手、走り出しました!』

 頭突き。ラウェイの達人にしてイノシシの能力を持つウィンにとって最強の技である。
 体当たりの要領で突進しながら突き出されたウィンの頭。先の仕合で人体における最も硬い武器である膝を破壊したそれが、マイへと迫る。

「ホアタッ!!」

 マイがそれを受け止めたのは、なんと足の裏!カンフーシューズを履いた両足の裏である。彼の体は支えるものもなく、背後のロープへと吹っ飛ぶ。そして、ロープへ叩きつけられた体をすぐさま跳躍させ、トップロープへと二本の足と鱗の生えた尾で支えながら立つ。

「覚えておケ、我が名は李成龍《リー ゼンロン》! “能を継ぐ者”ナリ!」

 ロープの上から跳び、空中で前方へ一回転。そして、両腿でウィンの頭部を挟むと、後方へ回転しながら相手の頭をリングに叩き付けた。

「ドッ……」

「ドラゴン・ラナ!!」

 テルとリコがその名を口に出す。それは紛う事なきプロレス、それもルチャリブレ由来の技である。孤漫道はプロレス及びルチャリブレの技術すら取り入れていたのだ。
  ウィンのダウンカウントは10まで経過。

「勝負あり!勝者・マイ!!」

 そしてウィンの体は光に包まれたのち、小さな瓜坊へと姿を変えた。

「謝謝《シィエシィエ》、朋友《ポンヨウ》……」

 右拳を左手で包む様に握り胸の前に添えたマイは、そう言い残しリングを去る。

『何と、大方の予想を覆して勝利したのはマイ選手です!!』

 リング上では辰国の女王と大臣がムチン(魚の表面を覆う粘液)と涙にまみれながら抱擁を交わしていた。
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