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大会編

キャプチュード

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『Aブロックはテル選手、Bブロックはマイ選手が、それぞれ準決勝に駒を進め対決する事が決定致しました。続いて2回戦Cブロックの仕合が始まります。 黒鼈の門よりヴィーカ選手の入場です!!』

 漆黒のゲートから姿を現したのは、寅の干支乱勢ヴィーカと虎と豹の獣人。獣人二人は、寅国の皇帝と宰相である。特にパフォーマンスをするでもなくリングに上がるヴィーカ。

『続いて、紅禽の門よりヒカル選手の入場です!!』

 朱色に彩られたゲートから姿を現したヒカルは、開会式とは違う出で立ちであった。

『おっとヒカル選手、青いジャケットのようなものを纏っていますね。 ヴィーカ選手の着ているものと似ていますが……』

『ヴィーカのは柔道着でヒカルのは柔術着だね。基本的には同じ様なものなんだけど、柔術着の方は袖口が若干狭く作られてるよ。あとは色の種類とパッチっていうワッペンを付けられるのが柔道着と柔術着の違いかな』

 柔道着は通常、色が青と白の二種類である。そして、これは世界大会規模の試合で対戦する者の陣営を見分けやすくする為の配色である、それゆえ試合では一方が白、もう一方が青を着用する事になる。
 そしてブラジリアン柔術における道着の色は実に様々だ。しかし試合で着用が認められるのは白、青、黒の3色のみであり、更に襟と道着本体の色が同じでなければはらない等の規定もあるが、柔道と違い同じ色の道着を着た者同士で試合をする事は可能だ。

『帯の色はヴィーカ選手が黒、ヒカル選手が紫ですね。地球の武術では黒帯を巻いた者が強いと聞きますが』

『地球の武術には帯の色で強さを分けるものが幾つかあって、柔道や空手・柔術は黒帯が一定の強さの証なんだ。でも、柔道の黒帯が中学生から取れるのに対して柔術は黒帯になるための条件がメチャクチャ厳しいの。だからヴィーカとヒカルの強さを帯の色だけで判断するのはナンセンスだね』

 ブラジリアン柔術の帯色は白→青→紫→茶→黒の順に昇格し、柔道のような昇段審査があるわけでなく、所属するアカデミー(道場)の主から実力を認められた際に与えられる─というものである。
 柔術の青帯が柔道でいう一級ないし初段、紫帯は指導者 (トレーナー)、茶帯が師範、黒帯が柔道の紅白帯……即ち達人クラスほどの違いとなるのだ。



「お前、それを着たまま仕合をするのか?」

 ヴィーカがヒカルの道着を指して問う。

「オマエはギを着たまま闘うみたいだから、オレも合わせてやるよ。尤《もっと》も、ギの有無を理由に負け惜しみを言われても困るからな」

 ブラジルでは、柔術着ないし柔道着の呼称を「ギ」又は「キモノ」と呼ぶ。

「大した自信だな」

 先の一回戦において、ヴィーカは申の干支乱勢・ジュリエッタに対し送り襟絞めで絞め落とした末に勝利している。
 送り襟めは、その名に襟という字がある事からも解るように、相手の着衣並びに襟の部分を使って頸動脈を絞め上げる技である。対戦相手のジュリエッタが跆拳道着を着用していた為、ヴィーカは易々と投げ技と絞め技を仕掛ける事が出来たのだ。
 従って、柔道家のヴィーカに対して開着を着用して戦いを挑むことは自殺行為とも言える。

『……それが、並の使い手ならね』

『と、言いますと?』

 ヒカルのバックボーンの一つであるブラジリアン柔術は、柔道を源流に持ち寝技における攻防の技術を磨く方向へと進化した武術である。故に道着を用いた技は柔術にもあり、柔道の技術への対策は用意されている。
 いや、それどころか寝技においては手首や足を極《き》める関節技、道着の裾《すそ》を使った絞め技、各種ガードポジション等、柔道の先を行く技術すらあると言ってよいだろう。

「そして、もう一つ。オレは打撃を一切使わないと約束してやろう。もし使ったら反則負けを認めてやる」

 ヒカルはヴィーカに対し、言い放つ。 

「自信過剰ではなく、嘗められていたか。……審判、この仕合のみルールに“如何なる体勢においても一切の打撃を禁止する”と追加するのは可能か?」

 ヴィーカの問いに、3体の審判ゴーレムが協議するかの素振りを見せる。

「仕合を行う両者と、主催者側の合意があればルールの追加・変更は可能です」

 主審ジャガー・ハトリは無機質な音声で答える。

「オレは構わんぜ。言い出しっ屁だからな」

「私も望むところだ」

 そしてヒカルとヴィーカは解説席のヒナコへと視線を移す。

『主催者側もオッケーだよー!じゃあ、この仕合は「グラップリングルール」で始めちゃって~』

 ヒナコは手元にあるタブレット端末を操作する。審判ゴーレム達のプログラムに追加ルールを書き込んでいるのだ。

「ルール変更、承認致しました。この仕合は「干支乱大武繪・グラップリングルール」に則り行います。……それでは両者、構えて」

 ヒカルとヴィーカはおのおの構える。

「開始めぇ!!」

 突然のルール変更の後、審判ゴーレムはゴングの音声を鳴らした。
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