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決勝編

怒りの獣神

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 テルの言葉を聞いたヤンセは即答する。

「なめてんのか?そんなもんが罷り通るなら、何のためにトーナメントを開いたと思ってやがる」

 しかし、テルもその答えは予想済みだったようだ。

「もちろん無条件でとは言わねえよ。……俺とお前で闘って、俺がお前に勝ったら叶えてくれや」

 テルがヤンセを指差す。

「成る程。ボーナスチャンスをくれってわけか」

 そう言うと、ヤンセは一瞬でテルの至近距離にまで歩を詰めた。

「テル、ちょっと俺っちの顔を一発ぶん殴ってみ(r

 テルは躊躇なくヤンセの顔面に渾身の右ストレートを叩きこんでいた。だが、その拳には何の手応えもない。

「おいおいおい、ちったぁ手加減しろよ。初対面の奴に思い切りグーパンするか?フツー」

 テルの腕はヤンセの頭部を貫通していた。正確には実体のない立体映像《ホログラム》を突き破っているのだ。

「神なだけあって、肉体を持たねえってことか。こりゃチェーンソーがあってもバラバラには出来ねえな」

「おっ、“魔界塔士” か。若い子には解んねえぞ?そんなネタは」

 頭を貫かれたまま笑うヤンセから、テルは伸ばした拳を引っ込める。

「というワケで、生物のお前がである俺っちを攻撃する事など不可能なワケだ。『人生どこにも逃げ場はねえのさ。 天王星まで逃げたって、 弥勒菩薩の手の上』。そんな存在を前にして『戦うか?この俺と、君は?』」

 ヤンセの問いにテルは答える。

「ああ。闘う前に負けることを考える馬鹿がいるかよ!っつーか“バトル野郎” だって充分古いじゃねえか!サガもスト2も発売時期はそんなに変わらねえぞ」

 超次元的存在を前に、臆する事のないテルにヤンセは感心する。

「そこまでして、俺っちに勝負を挑む理由は何だ?」

「人の魂をゲームの駒にする傲慢なクソコテ神が気に入らねえだけだ。その面をブン殴らせろ」

「ほほう。では星野輝臣よ、生き返りのチャンスと引き換えに、俺っち……神に挑む権利を行使するか?」

「何度も言わせんな!俺が負けたら、俺をネズミにするなり何なり好きにしやがれ!」

「いいだろう。ならば、俺っちがお前のステージまで降りてやろう……ヒナ、体を借りるぜ!!」

「オッケー、ダディ!」

 ヤンセが解説席のヒナコに告げると、答えたヒナコは両目を閉じる。すると、リング上からヤンセは姿を消した。



「……転移完了!」

 目を開けたヒナコがそうつぶやく。彼女の瞳孔は縦に長くなり、頭部からは三毛猫の耳、そして後ろ腰の辺りからは3本の尾が生えているではないか。その姿はまさに妖怪・猫又のそれである。

「我が名はヤンセ・ライマン……或る時は運命を司る閻魔、また或る時は聖剣の造り手、はたまた或る時は橙龍《タンジェロン》の救星主《メサイア》……そして此度は零《ゼロ》番目の干支乱勢なり!!」

 本来存在せぬ貓《フェリス》の干支乱勢となったヤンセは、軽やかな身のこなしであれよあれよという間にリングへとその姿を現した。
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