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決勝編

THE FINAL COUNT DOWN

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 場内から沸き起こる大音量の「テル」コール。 そして、それに同調するかの如く獣と化した干支乱勢達は鳴く。雄叫びをあげる。

「シン、ヴィーカ、ピエレ、マイ、ヒカル、アサヒ、レヴィ、ジュリエッタ、リコ、エリ、ウィン!!お前たちの魂を、俺に預けてくれ!!!」

 テルの呼びかけに同調するが如く、各国の王の手に抱えられていた獣達は光に姿を変えたかと思えば、その光は矢の様にテルの体へと飛び、その矮躯に次々と入り込んでゆくではないか。

「さあ神様《ヤンセ》、俺たち12人の“闘魂”を受けてもらおうじゃねえか!!」

 黄金に輝く光を纏ったテルは、ヤンセへと疾駆。牛の突進力は丑《ブル》の干支乱勢・シンの能力だ。
 ヤンセはテルのショルダータックルを食らい、吹っ飛ばされながら思う。
 ああ、何という 事だろう。このパントドンという世界を造り幾千年。世界を造った神に挑んだ者が現れたのも初めてならば、一人の干支乱勢に12人分の魂が宿る事など神である自分すら知り得なかった事だ。

「ウラーー!!!」

 ロープの反動で跳ね返ってきたヤンセを、テルは巴投げで更に投げ飛ばす。柔道の猛者である寅《ティガ》の干支乱勢ヴィーカの技。
 空中から落下するヤンセの背中に向かってテルは跳ぶ。卯《ヘア》の干支乱勢・ピエレが見せた飛び膝蹴り。
 着地と同時にヤンセの鳩尾に掌を当てる。

「ホァタアっ!!!」

 辰《ドラガォン》の干支乱勢マイが使う発勁。効果のほどは定かではない。
 そしてテルは片手を床に付き、逆立ちする勢いで回し蹴りを放つ。カポエラの蹴り技、ハボ・ジ・アハイア!優勝を争い死闘を演じた最大のライバルであるヒカルの技だ。

「どすこい!!」

 ヤンセが倒れる隙すら与えず突っ張り。午《ンマ》の干支乱勢アサヒのそれと同じく重い。
 更にヤンセの喉へ、すかさず地獄突き。元は未《ラム》の干支乱勢・レヴィの使う名も無きクラヴマガの殺人技。
 テルの攻撃は止まらない。申《エイプ》の干支乱勢・ジュリエッタから継承したテコンドーの蹴り・トゥルリチャギを放つと、今度はラ・ミスティカ。盟友であるリコのフィニッシュホールドである。
 立ったまま脇固めの体勢になるが、あえてそれを解く。

「フラッシュ・ピストン・マッハパンチ!!!」

 連続拳を上半身の至る所に叩き込む。戌《カニス》の干支乱勢エリの必殺ブロー!
 そして顔面に頭突き。亥《バビルサ》の干支乱勢・ウィンが使うラウェイ殺法。

『テル選手、自分以外の干支乱勢11人の技を立て続けに連発!最後はもちろん、自身の技でしょうか!!?』

 テルはフラフラになったヤンセを担ぎ上げる。

「これで……」

 跳躍。
 
「終わりだぁぁぁぁぁっ!!!」

 全力を以て、ヤンセの背中をリングへ叩きつけた。

『出たああああ!!アトラス・ボムーーー!!!』

 干支乱勢12人分の技を受けたヤンセは、仰向けに倒れる。

 テルは全ての力を使い尽くす寸前で何とか立っている。どんなに身体が強靭であろうと、この技の応酬を受けて立ち上がれる生命体などいるものか。しかし、 その予想は甘かった。

 相手はこの世にである神なのだから。

「我が手により作られし命よ、魂よ。その成長を見せてくれて嬉しいぞ……」

 倒れたままヤンセは話し始める。その顔に浮かぶは満面の笑み。体のどこにも負傷は見えない。

 テルを始めとする全ての生物は信じられないといった顔である。

 ヤンセはゆっくりと立ち上がる。
 
「参った。お前の勝ちだよ、テル」

 その言葉に、会場が静寂に包まれた。
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