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「あっ…」
地面に落ちるオーバーン焼き。
「なめるんじゃないわ東方人!お前の様なモノが私に口を聞くなんて、何百年かけても早いのよ!!」
畳んだ扇をアマナの鼻先へと向けるチェルン。その振る舞いに、カスターの我慢は限界となった。
「チェルン皇女!それ以上の狼籍は止めていただこう!」
扇を掴み、奪い取る。
「狼藉ですって!?」
「彼女も、この村の亜人達も、我がオーバーンの民。それを愚弄するなど我が国を嘲るも同じ!そして、そのオーバーン焼きは我が国の名を背負わせた国宝にも等しいものである!」
そう言うと、カスターはチェルンに扇を返すかの様に差し出した。それを奪い返すと、チエルンは再び口を開く。
「竜駆士《ライディーン》!」
「はっ。ここに」
チェルンの召呼に応え、一人の帝国兵が彼女の傍らに現れる。
その兵士は、まるでコモドオオトカゲをビッグスクーターほどの大きさにしたような魔物“地竜”に跨がっていた。牛馬だけでなく魔物をも乗りこなす戦士をこの世界では竜駆士《ライディーン》と呼ぶ。
「それの処理を、お前の竜に任すわ」
「御意」
チェルンが扇で指したオーバーン焼きを、地竜が先の割れた舌を伸ばして口に運ぶ。
「食べ物を粗末にしたことだけは謝ってあげましょう。でも王子、貴方は自身の振る舞いを後悔することになるわ!……皆の者、帰るわよ」
従者の引く馬に乗ると、チェルン達は村の入り口へと戻ってゆく。
「……ごめんなさい、殿下。私のせいで皇女様を怒らせてしまって」
「君のせいではない。前々から私は、皇女のあの態度は気に入らなかったのだ」
カスターはアマナの手を取り、彼女を見つめる。
「……私は、いずれオーバーン王国の王位を継ぐことになる。その暁には王制を廃し、国を共和制へ変えるつもりだ」
「どうして……?」
カスターは続ける。
「王族も貴族も平民も、只人も亜人も関係なく皆が平等。民が民の中から選んだ者により政《まつりごと》を治める……それこそが真の平和な国への一歩だ。そして……」
「そして?」
「身分の差などというものが無くなれば、私は君を……妻に娶ることが出来るだろう」
「殿下……!」
「すまない、君の私に対する気持ちも知らぬまま……」
カスターは握っていたアマナの手を離す。
「嬉しいです…殿下。私も、あなたのことが……大好きですから」
アマナはカスターの胸に抱きつく。一見細身に思える彼の体は、日々の鍛錬により培われた筋肉による硬さを持っていた。そして、アマナの肩と首を抱き返す腕も力強い。
「アマナ……名前で呼んでくれないか。僕を」
「……愛してるわ、カスター」
重ねられる唇。そこには微かにオーバーン焼きの、餡子の残り香があった。
地面に落ちるオーバーン焼き。
「なめるんじゃないわ東方人!お前の様なモノが私に口を聞くなんて、何百年かけても早いのよ!!」
畳んだ扇をアマナの鼻先へと向けるチェルン。その振る舞いに、カスターの我慢は限界となった。
「チェルン皇女!それ以上の狼籍は止めていただこう!」
扇を掴み、奪い取る。
「狼藉ですって!?」
「彼女も、この村の亜人達も、我がオーバーンの民。それを愚弄するなど我が国を嘲るも同じ!そして、そのオーバーン焼きは我が国の名を背負わせた国宝にも等しいものである!」
そう言うと、カスターはチェルンに扇を返すかの様に差し出した。それを奪い返すと、チエルンは再び口を開く。
「竜駆士《ライディーン》!」
「はっ。ここに」
チェルンの召呼に応え、一人の帝国兵が彼女の傍らに現れる。
その兵士は、まるでコモドオオトカゲをビッグスクーターほどの大きさにしたような魔物“地竜”に跨がっていた。牛馬だけでなく魔物をも乗りこなす戦士をこの世界では竜駆士《ライディーン》と呼ぶ。
「それの処理を、お前の竜に任すわ」
「御意」
チェルンが扇で指したオーバーン焼きを、地竜が先の割れた舌を伸ばして口に運ぶ。
「食べ物を粗末にしたことだけは謝ってあげましょう。でも王子、貴方は自身の振る舞いを後悔することになるわ!……皆の者、帰るわよ」
従者の引く馬に乗ると、チェルン達は村の入り口へと戻ってゆく。
「……ごめんなさい、殿下。私のせいで皇女様を怒らせてしまって」
「君のせいではない。前々から私は、皇女のあの態度は気に入らなかったのだ」
カスターはアマナの手を取り、彼女を見つめる。
「……私は、いずれオーバーン王国の王位を継ぐことになる。その暁には王制を廃し、国を共和制へ変えるつもりだ」
「どうして……?」
カスターは続ける。
「王族も貴族も平民も、只人も亜人も関係なく皆が平等。民が民の中から選んだ者により政《まつりごと》を治める……それこそが真の平和な国への一歩だ。そして……」
「そして?」
「身分の差などというものが無くなれば、私は君を……妻に娶ることが出来るだろう」
「殿下……!」
「すまない、君の私に対する気持ちも知らぬまま……」
カスターは握っていたアマナの手を離す。
「嬉しいです…殿下。私も、あなたのことが……大好きですから」
アマナはカスターの胸に抱きつく。一見細身に思える彼の体は、日々の鍛錬により培われた筋肉による硬さを持っていた。そして、アマナの肩と首を抱き返す腕も力強い。
「アマナ……名前で呼んでくれないか。僕を」
「……愛してるわ、カスター」
重ねられる唇。そこには微かにオーバーン焼きの、餡子の残り香があった。
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