異世界の恋は、大判焼きのように甘く……

たかはた睦

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 アマナが王への謁見をする事になった理由…それは、国王の難病をオーバーン焼きにより治療する、というものだった。結果的に王の体調は回復し、アマナは王都でも聖女として称えられたのだった。

「はぁ……」

 いつものように農作業をするアマナ。しかし、どこか上の空である。昨日、村と王宮の行き帰りをカスターと二人で一頭の馬に乗って往復した。その時、馬に乗り慣れぬ彼女をカスターは優しく気遣ってくれたのを思い出した。

「アマナ姉ちゃん、殿下に…」

「恋してるわね」

 パンセとポンセはアマナの様子を見て悟っていた。亜人の二人から見ても、カスターという人物は非の打ち所が無い好青年であった。ましてや一国の王子且つ次期王位継承者である。同じ只人であるアマナが惚れるのも無理からぬというもの。

「だけどなぁ、姉ちゃんの恋路には大きな壁があるんだよ」

「な、何よ急に?」

 アマナがカスターに恋い焦がれている前提で話し掛けてきたポンセに若干戸惑う。

「まず殿下はあたし達亜人にも優しいけど、王族なのよ。アマナは平民どころか身分すらあやふやじゃない」

 パンセの言い分に、アマナの表情が曇る。

「それに、何たって殿下は隣国イマーガワ帝国の皇女と婚約が決まってるんだ」

「な、何ですってー!?」

 アマナらがいるツヴァンの森の向こう側を領有する大国イーマガワ帝国。オーバーン王国とは同盟関係にあり、帝国の皇女が次期王の妃となる事で国家間の繋がりを強くしようというのが両国の目論見である。

「さようなら…私の王子様……」

 膝から崩れるアマナ。

「“私の”とか言い出したぞ?姉ちゃん日に日に面白い女になってるな」

「ともかく、そういうわけだから殿下の事は諦めなさいな」

 と、そこへ……

「おや、私の話かな?」

 爽やかな通る声がした方にアマナ達は振り返る。すると、そこに居たのは……

「で、殿下!?」

「殿下、昨日来たばかりなのに」

「今日も視察なの!?」

 白馬に跨がったカスターの姿があった。

「いや、今日は……アマナに会いに来たんだ」

「わ、私に……?」

 馬を下りたカスターはアマナの手を引く。

「パンセ、ポンセ。少し彼女を借りるぞ」

「ええ。ごゆっくりー」

「良かったな姉ちゃん!」

 手を振る双子を尻目にアマナとカスターは村の外れへと駆け出した。


 それからというもの、カスターは暇を見てはアマナに会いにツヴァン村まで足を運ぶようになる。限られた時間の中、語り合うだけでもアマナとカスターは幸せだった。

 しかし、そんな時間も長くは続かなかったのだ。ある日のこと、いつもの様にカスターとアマナがツヴァン村に二人でいると……

「カスター王子!」

「チェルン皇女…… 」

 小川の畔に腰掛け語らう二人に背後から声を掛けたのは、金髪縦ロールに瀟洒なドレスを纏った少女。年の頃はアマナより数歳若い。現代でいうところの中学生くらいである。

「殿下、この方は……?」

「イーマガワ帝国のチェルン皇女だ……私の、婚約者でもある……」

 相手が他国のとはいえ王族であると知り、アマナは片膝を突く。

「王宮へと会いに来てみれば、こんな亜人臭い村にいるだなんて。それに、その娘の髪と目…東方人じゃない。王子様は婚約者である私を差し置いて、そんな東方人の平民……いえ、蛮族にお熱なのかしら?」

 チェルンは侍らせた帝国兵から受け取った扇で顔の前を仰ぎつつ、もう片方の手で鼻をつまむ。

「……ご紹介しましょう。彼女はアマナ。我が父の難病を治した“聖女”です」

 カスターは聖女の傍若無人な振る舞いに腹を立てつつも、平静を取り繕う。

「聖女ぉ?ああ、そんな話も聞きましたわ。何でも奇跡の菓子なるものを生むだとか」

 チェルンはアマナの顔を見やる。西方人の多くは東方人を同じ只人であっても未開の蛮族として見下すきらいがある。中でも自尊心の強い帝国の皇族となれば尚更だ。

「皇女殿下、私はタロウ・アマナと申します」

 アマナはいたまま挨拶をし終えると、立ち上がり、カスターとアイコンタクトを取り、純白のハンカチを受け取る。そして、その上に掌から生み出したオーバーン焼きを乗せる。

「これが、奇跡の菓子ことオーバーン焼きにございます。どうぞ、お召し上がりください」

 笑顔でそれを差し出すアマナだったが……

「いらないわよ!」

 チェルンは扇でアマナの手ごと打ち払い、オーバーン焼きは草地に落下した。
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