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村の隅にある畑に、アマナは居た。農作業で衣服も顔も土で汚れた彼女からは「聖女」と呼ばれる雰囲気の様なものは感じられなかった。
「彼女がアマナ様です」
「……思っていたのと違うな」
コレートが指さした方に見えた少女の姿を見た、カスターの第一印象である。聖女などと呼ばれ、崇められ、村人達をいいように使う悪女の様なものを想像していたからだ。
「あ、コレートのおっちゃんだ」
「殿下もいるわ!」
パンセとポンセは、こちらに歩いてくる二人に気付いた。
「殿下?」
「オーバーン王国王子カスター殿下よ。この国で2番目に偉い人!」
アマナの問いに、そう答えるパンセ。
「えっ?王子様!?」
そうこうしている内に、カスターとコレートはアマナ達の直近で立ち止まる。
「ご、ご機嫌麗しゅう、王子殿下!わわわ私はタロウ・アマナと申しまひゅっ……」
跪いて頭を垂れるアマナ。
「顔を上げたまえ。そこの双子のようにね」
カスターが言うと、アマナは左右に立つパンセとポンセを交互に見やる。
「オッス、殿下!」
「遊びに来てくれたのね」
「な、何でそんなにフランクなの!?王子様だよね、相手!」
敬語すら使わないパンセとポンセに問う。
「だってオイラ達、殿下が子供の頃から一緒に遊んでるし」
「友達だから、今更かしこまっても……ねえ」
すると、カスターは自ら片膝を突き、アマナと目線を揃える。
「では、私が君に合わせよう」
目と鼻の先に、美男子の、それも王子様の顔がある…それだけでアマナの心臓は強く脈打った。
「本当に黒い髪と瞳をしているのだな」
「は、はい…だから東方の只人じゃないかって言われてます…」
「君は、どこから来たのかを自分でも知らないのか?」
カスターの問いに対し、順々に答えるアマナ。
「すまない。君の事が知りたかったのだ」
そう言うと、カスターは立ち上がり、
「嘘をついているとは思えないな。そんなに綺麗な瞳をしているのだから」
アマナの前に手を差し出すと、アマナはその手を取り立ち上がる。
「殿下!」
アマナはカスターの手に置いた掌から、円形の菓子を生み出した。
「これが、『奇跡の菓子』か…」
「召し上がって下さい、殿下…私に出来るのは、そのくらいしかないのです」
記憶を失い、名前と掌から菓子を生み出せる以外の情報が無い彼女にとって、この菓子は 彼女自身を象徴する数少ないアイデンティティでもあるのだ。
「…いただこう」
菓子を口に運ぶカスター。香ばしくほんのりと甘い皮、中に詰まった紫がかった黒く甘く、熱い謎のジャムのようなもの…今までに無い味と食感が味覚、嗅覚、そして満腹中枢を満たしてゆく。
「甘く、暖かく、心地よい…まるで…」
幼き日に死別した母の温もりに包まれたかのようだ、とカスターは思った。そして気付けば公務と鍛錬により疲弊した体が軽くなっている様だった。
「まさに“奇跡の菓子”!君、これに名前は付けていないのか?」
「はい。考えてはみたのですが、いずれもしっくり来ず…よろしければ、殿下がそれに名前を付けてあげてください」
アマナに言われ、カスターは食べかけの“それ”を見つめる。
「見たところ、焼き菓子の様だな…そして、これには我が国の未来を感じる…ならば、国の名を背負う焼き菓子、“オーバーン焼き”というのはどうだろう!」
「オーバーン焼き!素敵な名前ね」
「アマナ姉ちゃんの名前から取って“アマタロー焼き”とかも候補だったけど、オーバーン焼きがしっくり来るな!」
パンセとポンセは飛び回りながら。
「国の名前をなんて、恐れ多いです」
申し訳なさ気なアマナの手を、カスターは再び掘る。
「そうでもないさ。そして私は君を、国王陛下にお目通しせねばならなくなった」
「えっ」
「これから宮殿へ行き、王に……私の父に会ってくれ!」
「ええ~~っ!!?」
アマナを見つめるカスターの熱い眼差しは、真剣そのものだった。
「彼女がアマナ様です」
「……思っていたのと違うな」
コレートが指さした方に見えた少女の姿を見た、カスターの第一印象である。聖女などと呼ばれ、崇められ、村人達をいいように使う悪女の様なものを想像していたからだ。
「あ、コレートのおっちゃんだ」
「殿下もいるわ!」
パンセとポンセは、こちらに歩いてくる二人に気付いた。
「殿下?」
「オーバーン王国王子カスター殿下よ。この国で2番目に偉い人!」
アマナの問いに、そう答えるパンセ。
「えっ?王子様!?」
そうこうしている内に、カスターとコレートはアマナ達の直近で立ち止まる。
「ご、ご機嫌麗しゅう、王子殿下!わわわ私はタロウ・アマナと申しまひゅっ……」
跪いて頭を垂れるアマナ。
「顔を上げたまえ。そこの双子のようにね」
カスターが言うと、アマナは左右に立つパンセとポンセを交互に見やる。
「オッス、殿下!」
「遊びに来てくれたのね」
「な、何でそんなにフランクなの!?王子様だよね、相手!」
敬語すら使わないパンセとポンセに問う。
「だってオイラ達、殿下が子供の頃から一緒に遊んでるし」
「友達だから、今更かしこまっても……ねえ」
すると、カスターは自ら片膝を突き、アマナと目線を揃える。
「では、私が君に合わせよう」
目と鼻の先に、美男子の、それも王子様の顔がある…それだけでアマナの心臓は強く脈打った。
「本当に黒い髪と瞳をしているのだな」
「は、はい…だから東方の只人じゃないかって言われてます…」
「君は、どこから来たのかを自分でも知らないのか?」
カスターの問いに対し、順々に答えるアマナ。
「すまない。君の事が知りたかったのだ」
そう言うと、カスターは立ち上がり、
「嘘をついているとは思えないな。そんなに綺麗な瞳をしているのだから」
アマナの前に手を差し出すと、アマナはその手を取り立ち上がる。
「殿下!」
アマナはカスターの手に置いた掌から、円形の菓子を生み出した。
「これが、『奇跡の菓子』か…」
「召し上がって下さい、殿下…私に出来るのは、そのくらいしかないのです」
記憶を失い、名前と掌から菓子を生み出せる以外の情報が無い彼女にとって、この菓子は 彼女自身を象徴する数少ないアイデンティティでもあるのだ。
「…いただこう」
菓子を口に運ぶカスター。香ばしくほんのりと甘い皮、中に詰まった紫がかった黒く甘く、熱い謎のジャムのようなもの…今までに無い味と食感が味覚、嗅覚、そして満腹中枢を満たしてゆく。
「甘く、暖かく、心地よい…まるで…」
幼き日に死別した母の温もりに包まれたかのようだ、とカスターは思った。そして気付けば公務と鍛錬により疲弊した体が軽くなっている様だった。
「まさに“奇跡の菓子”!君、これに名前は付けていないのか?」
「はい。考えてはみたのですが、いずれもしっくり来ず…よろしければ、殿下がそれに名前を付けてあげてください」
アマナに言われ、カスターは食べかけの“それ”を見つめる。
「見たところ、焼き菓子の様だな…そして、これには我が国の未来を感じる…ならば、国の名を背負う焼き菓子、“オーバーン焼き”というのはどうだろう!」
「オーバーン焼き!素敵な名前ね」
「アマナ姉ちゃんの名前から取って“アマタロー焼き”とかも候補だったけど、オーバーン焼きがしっくり来るな!」
パンセとポンセは飛び回りながら。
「国の名前をなんて、恐れ多いです」
申し訳なさ気なアマナの手を、カスターは再び掘る。
「そうでもないさ。そして私は君を、国王陛下にお目通しせねばならなくなった」
「えっ」
「これから宮殿へ行き、王に……私の父に会ってくれ!」
「ええ~~っ!!?」
アマナを見つめるカスターの熱い眼差しは、真剣そのものだった。
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