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―イマーガワ帝国
皇帝ゴザソール4世は焦っていた。地上人と魔族の戦から数百年間常勝無敗の帝国で皇位に就き五十余年、当代にして初の敗北である。
「オヤキンめ……あれだけの威勢を張りながら、おめおめと敗走するなどッッ」
息子の失態を口には出しつつも、事実としてオヤキンという帝国最強の男が敗れたのは事実であり、王国を嘗めていたことは自身も変わらないため、表立って彼を責めることは出来なかった。
「お困りの様ですね、陛下」
と、声のした方を向く。誰かと誰何した先に立っていたのは宮廷の女中、特に目立つ特徴も無い只人のため、名前なども覚えていない。
「何だ貴様、いち女中の分際で断りも無く皇帝の私室に入るとは……」
皇帝はそこで、この女中が何の気配もなく室内へと侵入していた事に気付く。よく見れば、 その立ち振る舞いからは只人と思えない雰囲気を醸し出しているではないか。
「我が“真の主”より、言伝を預かっております……」
女中がエプロンの内側より取り出したのは、一個の水晶玉。
『はじめまして、ゴザソール陛下。君の曾祖父ゴザソール1世には、我が父がお世話になったようだ』
水晶玉から流れる声。イマーガワ帝国初代皇帝ゴザソール1世は、かつて魔族との戦で戦果を上げた英雄として知られる。
「まさか…貴様…?」
『我が名はアージマン2世。諸君らによって地の底へ封印されし魔界の王子だ』
魔王アージマン。かつて地上の支配を企てた魔族達の首魁であり、地上の半分近くを戦火に呑み込ませるに至った災厄である。
『地上の様子は、彼女らを始めとする魔族の残党たちを通じて把握させてもらったよ。時に皇帝陛下、今貴殿は大変な窮地に立たされているのではないかね?』
アージマンは皇帝の考えを全て見抜いていた。帝国の不敗神話が瓦解し、周辺国家たちに示しが付かず、いつ徒党を組んだオーバーン王国らや東方から攻め入られるのではないかという焦りをだ。
『東方の言葉ではシメンソカと言うらしいね。だが、天は……いや、地は君たちを見放して はいないぞ陛下』
「……何が言いたい」
大方の察しは付いているが、皇帝はアージマン2世の目的を確認する。
『我々、魔族と手を組め』
予想通りの答えだった。そしてアージマン2世は続ける。
『我々も、聖女と奇跡の菓子が欲しいのだ。しかし、地の獄に封じられた我々では文字通り 手も足も出ない。そこで困っている者同士、助け合おうではないか。過去のことは水に流して、な?』
「……解った。その申し出を受けようではないか、魔王子よ」
まさしく悪魔との契約。これが数日前までの帝国ならば断るどころか聞く耳すら持たなかったであろう。だが今の彼は、猫の手を借り藁にも縋る、後には退けない状態なのだ。
『フハハハハ!交渉成立だな、イマーガワ帝国皇帝よ!』
水晶玉に映るシルエットが消えると、女中に化けた魔族は一礼して退室した。
「見ておれオーバーン王国……いや、世界中の国々よ!余を…帝国を敵に回した事を後悔するがいい!!」
怒れる皇帝の顔と心は、只人でありながら、人ならざるものへと変わったかのようだった。
皇帝ゴザソール4世は焦っていた。地上人と魔族の戦から数百年間常勝無敗の帝国で皇位に就き五十余年、当代にして初の敗北である。
「オヤキンめ……あれだけの威勢を張りながら、おめおめと敗走するなどッッ」
息子の失態を口には出しつつも、事実としてオヤキンという帝国最強の男が敗れたのは事実であり、王国を嘗めていたことは自身も変わらないため、表立って彼を責めることは出来なかった。
「お困りの様ですね、陛下」
と、声のした方を向く。誰かと誰何した先に立っていたのは宮廷の女中、特に目立つ特徴も無い只人のため、名前なども覚えていない。
「何だ貴様、いち女中の分際で断りも無く皇帝の私室に入るとは……」
皇帝はそこで、この女中が何の気配もなく室内へと侵入していた事に気付く。よく見れば、 その立ち振る舞いからは只人と思えない雰囲気を醸し出しているではないか。
「我が“真の主”より、言伝を預かっております……」
女中がエプロンの内側より取り出したのは、一個の水晶玉。
『はじめまして、ゴザソール陛下。君の曾祖父ゴザソール1世には、我が父がお世話になったようだ』
水晶玉から流れる声。イマーガワ帝国初代皇帝ゴザソール1世は、かつて魔族との戦で戦果を上げた英雄として知られる。
「まさか…貴様…?」
『我が名はアージマン2世。諸君らによって地の底へ封印されし魔界の王子だ』
魔王アージマン。かつて地上の支配を企てた魔族達の首魁であり、地上の半分近くを戦火に呑み込ませるに至った災厄である。
『地上の様子は、彼女らを始めとする魔族の残党たちを通じて把握させてもらったよ。時に皇帝陛下、今貴殿は大変な窮地に立たされているのではないかね?』
アージマンは皇帝の考えを全て見抜いていた。帝国の不敗神話が瓦解し、周辺国家たちに示しが付かず、いつ徒党を組んだオーバーン王国らや東方から攻め入られるのではないかという焦りをだ。
『東方の言葉ではシメンソカと言うらしいね。だが、天は……いや、地は君たちを見放して はいないぞ陛下』
「……何が言いたい」
大方の察しは付いているが、皇帝はアージマン2世の目的を確認する。
『我々、魔族と手を組め』
予想通りの答えだった。そしてアージマン2世は続ける。
『我々も、聖女と奇跡の菓子が欲しいのだ。しかし、地の獄に封じられた我々では文字通り 手も足も出ない。そこで困っている者同士、助け合おうではないか。過去のことは水に流して、な?』
「……解った。その申し出を受けようではないか、魔王子よ」
まさしく悪魔との契約。これが数日前までの帝国ならば断るどころか聞く耳すら持たなかったであろう。だが今の彼は、猫の手を借り藁にも縋る、後には退けない状態なのだ。
『フハハハハ!交渉成立だな、イマーガワ帝国皇帝よ!』
水晶玉に映るシルエットが消えると、女中に化けた魔族は一礼して退室した。
「見ておれオーバーン王国……いや、世界中の国々よ!余を…帝国を敵に回した事を後悔するがいい!!」
怒れる皇帝の顔と心は、只人でありながら、人ならざるものへと変わったかのようだった。
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