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一章「火の女神アナトとオークの叛乱」
6話 「透明の壁」
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「デュアルさんは、どうして冒険者になったんですか?」
一行は、遅れるアーシェを気にしながらオークの根城へ向っていた。アーシェにはアナトがついている。
道なき道を進む。生い茂る木々を掻き分けながら、ミカエルがデュノスに尋ねた。
「ム、なぜだ」
「なぜって……なんとなく気になっただけなんですけど……」
「……フム……」
デュノスは歩きながら考えた。何かいい言い訳はないものか。
「あっ、いや、もし言い辛いことなら無理して言わなくても……」
「いや、そうではないのだが……そうだな、金のためだ」
「お金かー、そうですよね、お金大事ですもんね、僕たちは万年貧乏だからもう慣れちゃったけど」ハハハ、と笑っている。
「ミカエルはなぜ冒険者になったのだ」
「…………」
「なんだ、言いたくないのか」
デュノスの質問にミカエルは少し俯き沈黙する。少し間を置いてミカエルが口を開いた。
「……魔王を倒すため」
ミカエルの表情がかげりを見せる。その表情は怒りや悲しみ、色々な感情がない交ぜになっているようだ。
「ほう、過去に何かあったようだな」
「……まぁ、そうですね」
「そうか、まぁ、その先を言う必要はない」
「……はい」
ミカエルの心情を察し、デュノスはそれ以上聞かなかった。
暫く進むと、延々続いた森の木々に終わりが見えた。
「……フゥ、やっと森を抜けましたね」
「そうだな、この先にある山一帯がオークたちの根城だったな。おい、ミカエル気をつけろ」
「えぇ、このもうすぐでオスロ村の人たちを――ぐあっ!」
デュノスの先を行くミカエルが、突然声をあげ倒れる。
「……何をやっているのだ、気をつけろと言っただろう」
呆れながら、デュノスがミカエルの腕を掴み立ち上がらせた。
「と、突然何かにぶつかったみたいで――あっ!」
ミカエルが何かに気づいたように言う。
「そうだ、どうやらこれが透明の壁というやつらしいな」
丁度、森の木々の終わりにあわせる様に、目には見えない〝壁〟が張られているらしい。
「あれ? なんでとまってるのよ」
アーシェの腕を引きながら、遅れて追いついてきたアナトが不思議そうに尋ねる。
「ここに透明の壁があるんです」とミカエルが伝える。
「え? 何も見えないよ」
よほど体力を消耗したのだろう、ゲッソリとしたアーシェが言う。
「……確かに、あの時感じたのと同じオーラがあるわね」
「アリアさん、わかるんですか? そういえばデュアルさんも僕に気をつけろって」
「大したことではない、お前たちも経験を積めばそのうちわかるようになる」
「へぇ……」とアーシェが言うと「やっぱり、デュアルさんたちって只者じゃなかったんですね!」とミカエルが羨望の眼差しで、デュアルとアリアを見る。
デュノスは特に反応することなく、ミカエルが衝突した〝壁〟に触れる。
「……おい、アリア。お前も触れてみろ」
デュノスに促されアナトも〝壁〟に手を添える。
「これ、魔法じゃないわね」
「あぁ、……少し嫌な予感がするな」
二人の会話を理解できない様子でミカエルとアーシェが見つめる。
「でも魔法以外でこんなことできるんですか?」
ミカエルが尋ねる。
「お前たちも触れてみろ」
デュノスに言われ、二人もおずおずと手を伸ばし、壁に触れる」
「……うーん、僕には全然わかんないや」
「……なんとなくだけど、違う感じがする」
「わかるのか!?」
ミカエルが驚く。
「本当になんとなくだよ」
「アーシェ、お前は魔法が得意なのか?」
「は、はい……といってもまだ全然なんですけど」
「アーシェは昔から魔法が使えるんです、でも関係あるんですか?」
「……あぁ」
と、言いながら、今近くにセアルが居ないことを思い出し、自ら説明することに少し煩わしさを感じつつ、デュノスが説明する。
「魔法というのは一部の例外を除き、生まれついての才能だ。器だと思えばいい。その器に魔法の源である魔力が溜まっている。器の大きさはそれぞれ決まっており、どんなに鍛錬しようと、その器以上には増やすことはできぬ。そしてその器が大きい者は、共通して魔力に敏感だ」
「だから、アーシェちゃんは微かな違いを、感じることができたのよ」
デュノスの説明にアナトが付け加える。
「アタシの、その器というのが大きいってことでしょうか」
「そうだ、この程度の微かの違いを感じることができるのであれば、かなりの収容量があるだろう」
「へえ~、いいなぁ、僕魔法の才能ないからなぁ」
ミカエルが少し拗ねたように言う。
「でも、その分アタシ、運動神経ないし。お爺ちゃんにも『お前は戦闘のセンスがない』ってはっきり言われちゃったから。ミカエルくんはべた褒めだったけど」
「えー、でも僕もなんかこう、雷とかでドカーン! と攻撃したいんだけどなぁ」
ミカエルは大きな動きをつけて表している。
「お爺ちゃんって?」
アナトが尋ねる。
「あぁ、アタシたちの育ての親なんです。戦い方とか全部お爺ちゃんに教えてもらったんです」
「…………」
ミカエルが先ほど、過去のことについてデュノスと話していた時と同じ顔をする。恐らく魔王を倒したい理由も、そのお爺ちゃんに起因しているのだろう。
「二人共そのお爺ちゃんに育ててもらったの?」
「は、はい。アタシたちは二人共、戦争孤児なので――」
「――おい、アーシェ」
ミカエルが強い口調でアーシェを止める。
「あ、……ご、ゴメン」
「…………」
重たい空気が四人の間に流れる。
「まぁ、よい。先ほどの話の続きだが、アーシェ、魔法とどう違うのかわかったか?」
デュノスは話を切り替える。
「いえ、そこまではわかりませんでした」
「そうか、ならば説明が必要だな」
「ごめんなさい、僕たち何も知らなくて」
ミカエルが申し訳無さそうに謝る。
「いいのよ、デュアルがちゃんと説明するから」
アナトがなぜか偉そうに言う。
「…………」
「なによ、私を見つめて、はっ!? まさか――」
「黙れ、それ以上言うな、また話が拗れる」
デュノスは何やらアナトが面倒な勘違いをしていることを察し、止めてから次の言葉を遮るように説明をする。
「これは、魔術だ」
「魔術? 魔法と違うんですか?」ミカエルが言う。
「あぁ、魔法とは先ほども行ったように、体内に蓄えられた魔力を源に使用することができる能力だ」
二人はコクコクと頷く。アナトも黙って聞いている。
「しかし、魔術の源はアーティファクトと呼ばれる物体だ」
「アーティファクト?」
「あぁ、そうだ。色や形は様々、石のような見た目の者から、中には鏡や花瓶の形をしたものまである」
デュノスが続ける。
「そのアーティファクトを媒介に様々な〝魔法のような〟能力を発揮できる。アーティファクト自体はこの世界に無数に存在するが……そうだな、お前らの良く知る〝女神の落し物〟もアーティファクトの一つだ」
「知ってます! 魔王を倒すために必要な、この世界のどこかにあるって言われてる伝説のアイテムですよね。でも、あれって本当に存在するんですか?」
「えぇ、存在するわ」
アナトが断言する。
「そうなんだ……お爺ちゃんが昔、よくお話してくれたよね」
「……あぁ、いつも寝る前に……」
また二人が俯く。
「一々落ち込むな。つまりこの〝壁〟もアーティファクトが使われているとみて間違いない」
「……でも、それなら、この〝壁〟を抜ける方法って……」
「……うーん……」
二人が頭を抱えて考え込む。
「基本的にはアーティファクトを壊すしかないな」
「え? でもアーティファクトってこの中にあるんじゃ」
ミカエルが言う。
「断言はできぬが、恐らくそうだろう。それが一番安全だからな」
「それじゃぁ、アタシたちにはどうすることもできないんじゃ……」
「そんなぁ、ここまで来て助け出すことを諦めるなんてできないよ」
「でも、中にあるんじゃどうにもできないよ」
「なんか方法があるかもしれないだろ! やってみなきゃわかんないよ!」
「何をどうやったらいいかもわからないのに、じゃあミカエルくんがなんとかしてよ!」
二人はまた、言い争っている。
「こらこら、ケンカはダメよ」
アナトが仲裁に入る。
「アリアさんたちはどうしてそんなに落ち着いてるんですか! ここまで来て、村のみんなを助けることができないんですよ! ……僕、村長さんと約束したのに……」
ミカエルは声を荒らげ、悔しそうに下唇を噛む。手に握られた拳は微かに震えている。
「そう、興奮するな」
「で、でも――」
「まぁ、少し離れて見ていろ。アリア」
「えぇ、ほら二人共、下がって」そう言ってアナトは二人の腕を掴んで、森の中へ下がらせる。十分に距離を置いて、三人は大木の陰に身を隠した。ミカエルとアーシェは顔を出してデュノスを見つめている。アナトは大木に背中を預け、特に興味さなそうに腕組みをして目を瞑っている。
「では、やるか」
デュノスがもう一度、〝壁〟に右手を添える。スーッと息を深く吸い込み、手に神経を手中させる。
すると、デュノスの右手が、炎を纏ったように光を放つ。
デュノスの身体を渦巻くように風が発生し、辺りの木々を揺らした。
「す、すごい……」とアーシェの口からこぼれる。
「僕でもわかる……尋常じゃない量の魔力……」
二人の瞳にはデュノスの燃えるような光が反射している。二人は全身がひり付くような錯覚を覚える。
「――ハァッ!!」
デュノスが、肺に溜めた空気を一気に吐き出す。同時に右手の赤い光が爆発するように大きく膨らんだ。
――パリーンッ。
ガラスが割れるような大きなと共に、目視可能になった〝壁〟の破片が空から降ってくる。
〝壁〟の破片は地面に触れた瞬間、粒子状の粒となって霧散する。
なんらかのアーティファクトを媒介に展開された魔術、透明の壁は一瞬で塵となって消え去った。
一行は、遅れるアーシェを気にしながらオークの根城へ向っていた。アーシェにはアナトがついている。
道なき道を進む。生い茂る木々を掻き分けながら、ミカエルがデュノスに尋ねた。
「ム、なぜだ」
「なぜって……なんとなく気になっただけなんですけど……」
「……フム……」
デュノスは歩きながら考えた。何かいい言い訳はないものか。
「あっ、いや、もし言い辛いことなら無理して言わなくても……」
「いや、そうではないのだが……そうだな、金のためだ」
「お金かー、そうですよね、お金大事ですもんね、僕たちは万年貧乏だからもう慣れちゃったけど」ハハハ、と笑っている。
「ミカエルはなぜ冒険者になったのだ」
「…………」
「なんだ、言いたくないのか」
デュノスの質問にミカエルは少し俯き沈黙する。少し間を置いてミカエルが口を開いた。
「……魔王を倒すため」
ミカエルの表情がかげりを見せる。その表情は怒りや悲しみ、色々な感情がない交ぜになっているようだ。
「ほう、過去に何かあったようだな」
「……まぁ、そうですね」
「そうか、まぁ、その先を言う必要はない」
「……はい」
ミカエルの心情を察し、デュノスはそれ以上聞かなかった。
暫く進むと、延々続いた森の木々に終わりが見えた。
「……フゥ、やっと森を抜けましたね」
「そうだな、この先にある山一帯がオークたちの根城だったな。おい、ミカエル気をつけろ」
「えぇ、このもうすぐでオスロ村の人たちを――ぐあっ!」
デュノスの先を行くミカエルが、突然声をあげ倒れる。
「……何をやっているのだ、気をつけろと言っただろう」
呆れながら、デュノスがミカエルの腕を掴み立ち上がらせた。
「と、突然何かにぶつかったみたいで――あっ!」
ミカエルが何かに気づいたように言う。
「そうだ、どうやらこれが透明の壁というやつらしいな」
丁度、森の木々の終わりにあわせる様に、目には見えない〝壁〟が張られているらしい。
「あれ? なんでとまってるのよ」
アーシェの腕を引きながら、遅れて追いついてきたアナトが不思議そうに尋ねる。
「ここに透明の壁があるんです」とミカエルが伝える。
「え? 何も見えないよ」
よほど体力を消耗したのだろう、ゲッソリとしたアーシェが言う。
「……確かに、あの時感じたのと同じオーラがあるわね」
「アリアさん、わかるんですか? そういえばデュアルさんも僕に気をつけろって」
「大したことではない、お前たちも経験を積めばそのうちわかるようになる」
「へぇ……」とアーシェが言うと「やっぱり、デュアルさんたちって只者じゃなかったんですね!」とミカエルが羨望の眼差しで、デュアルとアリアを見る。
デュノスは特に反応することなく、ミカエルが衝突した〝壁〟に触れる。
「……おい、アリア。お前も触れてみろ」
デュノスに促されアナトも〝壁〟に手を添える。
「これ、魔法じゃないわね」
「あぁ、……少し嫌な予感がするな」
二人の会話を理解できない様子でミカエルとアーシェが見つめる。
「でも魔法以外でこんなことできるんですか?」
ミカエルが尋ねる。
「お前たちも触れてみろ」
デュノスに言われ、二人もおずおずと手を伸ばし、壁に触れる」
「……うーん、僕には全然わかんないや」
「……なんとなくだけど、違う感じがする」
「わかるのか!?」
ミカエルが驚く。
「本当になんとなくだよ」
「アーシェ、お前は魔法が得意なのか?」
「は、はい……といってもまだ全然なんですけど」
「アーシェは昔から魔法が使えるんです、でも関係あるんですか?」
「……あぁ」
と、言いながら、今近くにセアルが居ないことを思い出し、自ら説明することに少し煩わしさを感じつつ、デュノスが説明する。
「魔法というのは一部の例外を除き、生まれついての才能だ。器だと思えばいい。その器に魔法の源である魔力が溜まっている。器の大きさはそれぞれ決まっており、どんなに鍛錬しようと、その器以上には増やすことはできぬ。そしてその器が大きい者は、共通して魔力に敏感だ」
「だから、アーシェちゃんは微かな違いを、感じることができたのよ」
デュノスの説明にアナトが付け加える。
「アタシの、その器というのが大きいってことでしょうか」
「そうだ、この程度の微かの違いを感じることができるのであれば、かなりの収容量があるだろう」
「へえ~、いいなぁ、僕魔法の才能ないからなぁ」
ミカエルが少し拗ねたように言う。
「でも、その分アタシ、運動神経ないし。お爺ちゃんにも『お前は戦闘のセンスがない』ってはっきり言われちゃったから。ミカエルくんはべた褒めだったけど」
「えー、でも僕もなんかこう、雷とかでドカーン! と攻撃したいんだけどなぁ」
ミカエルは大きな動きをつけて表している。
「お爺ちゃんって?」
アナトが尋ねる。
「あぁ、アタシたちの育ての親なんです。戦い方とか全部お爺ちゃんに教えてもらったんです」
「…………」
ミカエルが先ほど、過去のことについてデュノスと話していた時と同じ顔をする。恐らく魔王を倒したい理由も、そのお爺ちゃんに起因しているのだろう。
「二人共そのお爺ちゃんに育ててもらったの?」
「は、はい。アタシたちは二人共、戦争孤児なので――」
「――おい、アーシェ」
ミカエルが強い口調でアーシェを止める。
「あ、……ご、ゴメン」
「…………」
重たい空気が四人の間に流れる。
「まぁ、よい。先ほどの話の続きだが、アーシェ、魔法とどう違うのかわかったか?」
デュノスは話を切り替える。
「いえ、そこまではわかりませんでした」
「そうか、ならば説明が必要だな」
「ごめんなさい、僕たち何も知らなくて」
ミカエルが申し訳無さそうに謝る。
「いいのよ、デュアルがちゃんと説明するから」
アナトがなぜか偉そうに言う。
「…………」
「なによ、私を見つめて、はっ!? まさか――」
「黙れ、それ以上言うな、また話が拗れる」
デュノスは何やらアナトが面倒な勘違いをしていることを察し、止めてから次の言葉を遮るように説明をする。
「これは、魔術だ」
「魔術? 魔法と違うんですか?」ミカエルが言う。
「あぁ、魔法とは先ほども行ったように、体内に蓄えられた魔力を源に使用することができる能力だ」
二人はコクコクと頷く。アナトも黙って聞いている。
「しかし、魔術の源はアーティファクトと呼ばれる物体だ」
「アーティファクト?」
「あぁ、そうだ。色や形は様々、石のような見た目の者から、中には鏡や花瓶の形をしたものまである」
デュノスが続ける。
「そのアーティファクトを媒介に様々な〝魔法のような〟能力を発揮できる。アーティファクト自体はこの世界に無数に存在するが……そうだな、お前らの良く知る〝女神の落し物〟もアーティファクトの一つだ」
「知ってます! 魔王を倒すために必要な、この世界のどこかにあるって言われてる伝説のアイテムですよね。でも、あれって本当に存在するんですか?」
「えぇ、存在するわ」
アナトが断言する。
「そうなんだ……お爺ちゃんが昔、よくお話してくれたよね」
「……あぁ、いつも寝る前に……」
また二人が俯く。
「一々落ち込むな。つまりこの〝壁〟もアーティファクトが使われているとみて間違いない」
「……でも、それなら、この〝壁〟を抜ける方法って……」
「……うーん……」
二人が頭を抱えて考え込む。
「基本的にはアーティファクトを壊すしかないな」
「え? でもアーティファクトってこの中にあるんじゃ」
ミカエルが言う。
「断言はできぬが、恐らくそうだろう。それが一番安全だからな」
「それじゃぁ、アタシたちにはどうすることもできないんじゃ……」
「そんなぁ、ここまで来て助け出すことを諦めるなんてできないよ」
「でも、中にあるんじゃどうにもできないよ」
「なんか方法があるかもしれないだろ! やってみなきゃわかんないよ!」
「何をどうやったらいいかもわからないのに、じゃあミカエルくんがなんとかしてよ!」
二人はまた、言い争っている。
「こらこら、ケンカはダメよ」
アナトが仲裁に入る。
「アリアさんたちはどうしてそんなに落ち着いてるんですか! ここまで来て、村のみんなを助けることができないんですよ! ……僕、村長さんと約束したのに……」
ミカエルは声を荒らげ、悔しそうに下唇を噛む。手に握られた拳は微かに震えている。
「そう、興奮するな」
「で、でも――」
「まぁ、少し離れて見ていろ。アリア」
「えぇ、ほら二人共、下がって」そう言ってアナトは二人の腕を掴んで、森の中へ下がらせる。十分に距離を置いて、三人は大木の陰に身を隠した。ミカエルとアーシェは顔を出してデュノスを見つめている。アナトは大木に背中を預け、特に興味さなそうに腕組みをして目を瞑っている。
「では、やるか」
デュノスがもう一度、〝壁〟に右手を添える。スーッと息を深く吸い込み、手に神経を手中させる。
すると、デュノスの右手が、炎を纏ったように光を放つ。
デュノスの身体を渦巻くように風が発生し、辺りの木々を揺らした。
「す、すごい……」とアーシェの口からこぼれる。
「僕でもわかる……尋常じゃない量の魔力……」
二人の瞳にはデュノスの燃えるような光が反射している。二人は全身がひり付くような錯覚を覚える。
「――ハァッ!!」
デュノスが、肺に溜めた空気を一気に吐き出す。同時に右手の赤い光が爆発するように大きく膨らんだ。
――パリーンッ。
ガラスが割れるような大きなと共に、目視可能になった〝壁〟の破片が空から降ってくる。
〝壁〟の破片は地面に触れた瞬間、粒子状の粒となって霧散する。
なんらかのアーティファクトを媒介に展開された魔術、透明の壁は一瞬で塵となって消え去った。
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