わたしは

momo

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第一章

わたしは…平穏さと葛藤

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中学校入学。
小学校3つ分が集まって出来ている地元では有名なマンモス校だ。
1学年9クラス全校生徒1000人級である。

当然昔のわたしを知る人間も3分の1であり、残りは今のわたしをわたしとして初めから認識することとなる。

相変わらず女子女子した群れには馴染めずにいたけど、授業が面白く積極的に、手を上げてると先生とも仲良くなり、歴史の授業は毎回よく手をあげる上位5人に入った。
面白かったし、張り合いもあった。
理数系は苦手だったが、暗記でなんとかなる歴史や読書習慣のおかげで、わりと出来た国語は特に楽しかった。
そうこうしてるうちに、同じくクラスの中で積極的に授業に参加している優等生グループから声を掛けられることもあった。
宿題の話やら授業の話やら今読んでる本の話などで盛り上がった。

となりの席になったバスケ部の中田くんもその内の一人だ。
彼はわたしが変わるきっかけともなった彼と同じ部活だ。 自然と気になってわたしからも情報を得ようと話しかけた。

中田くんのバスケ部が体育館を使う日は、わたしが所属する女子バレー部は運動場という具合にマンモス校がゆえに体育館は交代制をとっていた。

春秋はともかく夏冬ともなると屋外と屋内で全然環境が違ってくる。
雨の日ともなれば運動場の場合、校舎内で筋トレ&ミーティングだった。

「ねぇねぇ、今日バレー部は外かな?中かな?」

わたしに訪ねてくるのが日課となった。
それは席が離れても続いた。

優しいし勉強も出来る、何よりケンカや嫌がらせという形じゃなくわたしに接してきてくれる男子が、小学のわたしを知ってるメンツじゃありえなかったから新鮮だった。

「大丈夫?手伝おうか? よいしょっと、」

部活で使う道具を倉庫から出してると、重たい機材もひょいっと持ち上げてくれた。

『あ、ありがと。』

「君は女の子なんだから、ねっ。」

とウインクしてみせる。


お、おんなのこ…。

今までガサツだの男勝りだの狂暴だのと罵られることはあっても女の子扱いされることなんて全くなかった。
むしろ周りより早く背も伸び体格もよかったわたしは、重たい荷物などチビッこい男子にも頼られていたぐらいだった。

そんな、わたしが…。


自分のなかでも恥ずかしいようなムズ痒いような感覚にとらわれて下向き加減になる。

「だ、大丈夫?やっぱどっか痛いの?」

心配そうに覗きこまれる。

『だっ、だいじょうぶ。あ、ありがとっ、じゃっ。』

恥ずかしくて足早に逃げ去る。



12月の中頃、技術の授業で、度々体育館下の工作室に移動していた。
そんななか、中田くんにいつもちょっかいかけているチビの飯川が、歩いてる途中でわたしを振り返り、

「ねえっ、中田くんがお前のこと好きだってさ~。」

ニヤニヤニヤっとしながらわたしの周りをうろちょろしている。

『ま、またまたそんな冗談言って…。』

動揺したわたしは必死に平静を取り繕おうとする。

「ほんとだって!オレっ中田から直接ぅ」

フガフガフガっ!

突然現れた中田くんが飯川の口をふさいで無言で連れ去った。



わたしのこと好き?

わたしのこと…大人しくて真面目で女の子らしい今のわたしが…。

偽物のわたしが…。

うれしい話だったはずなのに、裏腹に心が沈んでいく…。
今のわたしを認めるということは、
過去の、本来のわたしを否定することになる。

望み通り、女の子らしくなって。
男子からも優しく接しられる様になった。

望んでたハズだったのに…心から喜べないのはどうして。
変わったわたしが認められたんだよ。
いいじゃない。


でも…ふと思い出す。
思うがままに振る舞い毎日追いかけっこして過ごしてた無邪気な日々が。

わたしは…わたしは…。

涙がほほを、伝った。
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