わたしは

momo

文字の大きさ
上 下
5 / 36
第一章

わたしは…迷い

しおりを挟む
あれから中田くんとおしゃべりするのが何だか気恥ずかしくなり、話しかけられても、

『う、うん。』

っとそっけなく答えて、逃げてしまう。

好きだと言ってくれてうれしい気持ちと、私だけどわたしじゃないという気持ちが複雑にせめぎ合い。
自分でもよくわからなくなっていた。
 
そんな中、わたしを変えるきっかけとなった彼が彼と同じバスケ部のリサちゃんに告ったという噂を聞いた。
リサちゃんは明るく活発で可愛い、男子女子にも分け隔てなく笑顔で接している広末涼子似の女の子だ。

そっか…、やっぱり好きな子いたんだ。
リサちゃん可愛いもんね。男子はみんな可愛いとデレデレしているもん。

大人しくはないけど…女の子ちっくな天真爛漫さがオーラに、にじみ出ている。

告白する前にフラレちゃった。

沈む。
わたしはじゃあどうしたらいい?
今さら元の自分になんか戻れないのに…。
大人しく真面目で先生や優等生と仲良く過ごしていればいいじゃない。
でも、もう大人しくしている理由も失った。

ぼーっと廊下を歩いていた。

ドタンっ、階段で足を踏み外しくるぶしをひねった。

ツっ、立ち上がろうとすると痛みが襲った。


「おいっ、大丈夫?
    今日の女バレーの予定聞こうと思って追いかけてみたら急に君の姿が消えたからビックリしたよ。」

っと手を差し伸べてくれたのは、中田くんだった。


『ありっ、がと…。』

ポロポロポロポロ…
自分でもわからないうちに涙が溢れていた。

「た、大変だ!そんなに痛いの?
    保健室で休むといいよ。さぁ、」

わたしの腕を掴みながら体を支えてくれて保健室まで付き添ってくれた。

幸い怪我は大したこと無く湿布を貼って終わりだったのだが、メンタルの傷が致命的だったのか、わたしは教室に戻らずに保健室のベッドにうずくまり泣いていた。

多感な年頃だからね、っと保健室の先生の計らいで一時間寝てから下校して良いということになった。

頭んなかがグシャグシャで何も考えられない。

もう何も…なにもしたくない。


その日は母に迎えに来てもらって帰宅した。

帰ってすぐに二階の自分の部屋に入りベッドにうずくまる。


次の日、学校に着くなり中田くんに呼び止められた。

「昨日大丈夫だった?授業後様子を見に行ったらもう帰ったというから心配したよ。足まだ痛む?」

ほんとに心配そうに、真っ直ぐにわたしを見てくる。
今こんなに迷いのないストレートな瞳で見つめられると、
偽物のわたしはどんな風に写るんだろう、どす黒く曖昧でドロドロしたものだろうか。

苦しくなってきて、

『ありがと、大したことなかったからもう大丈夫。』

そう答えて立ち去ろうとしたら、

「これっ、俺の電話番号。」

まだ中学生にはケータイが普及していない時代だから、連絡を取り合うといえば家電だった。

「昨日…心配であんま寝れなかったから。」

『あっ、ごめん。』

「君のもおしえて。」

『う、うん。○○○ー○○○○』

『ありがとっ。じゃっ。』

そう言って中田くんは爽やかに立ち去っていった。


さすがのわたしも中田くんの気持ちは伝わってきた。

もう、失恋したんだし、新しい恋に進んだほうが…
でも…。

夕方の食事時に電話が鳴った。
うちは2コール以内に取らないと全部じいちゃんが出てしまうのだ。

慌てて廊下に出て受話器をとる。

『もしもし、○○です。』

「こんばんは。○○さんと同じクラスの中田と申しますが、○○さんに代わって頂けますか。」

さすがの優等生、電話対応も丁寧だ。

『わたしです。中田くん。』

「あっ、そ、そっか。」

動揺が耳元から伝わってくる。

「明日の宿題ってプリントと何だっけ?」

『あぁ、たぶん英語の和訳だよ。』

「あ、そっか~、ありがと。また明日なっ。」

ツーツーツー


何だったんだろう。中田くんいつも連絡帳忘れずに記入してるのに。
用事ってそれだけだったのかな。

うれしい…のかな。必要としてくれるのはありがたい…。でも、わたしは中田くんのこと好きなのだろうか…。

時々そうやってたわいもない用事で中田くんから電話がかかってきた。

友達にも付き合っちゃえっとけしかけられたりもした。

バレンタインデーの日、何かを話したそうな中田くんを気づかないふりをして帰宅をした。

だけど…。中田くんは優しいし、きっと一緒にいたら穏やかに微笑みあって過ごせるんだろうな…。

プルルルルル…

ちょっと、ちょっとだけ声をきいてから考えよう。

そう思い、勇気を出して初めて中田くんの電話番号にかけてみる。

「はい、中田でございます。」

あっ、お、お母さんが出ちゃった!!
すっかり抜け落ちていた。 いつも中田くんからかけてくれていたから考えもしてなかった…。

『すっ、スミマセン。お、同じクラスの○○ですが、○○くんい、いらっしゃいますか。』

しどろもどろに、なりながら必死に話す。

「○○でしたら今は塾に行っておりますが、何のご用事ですか。」

『く、クラスの事でお伝えしたいことがありましたが、ま、またにします。失礼しましたっ。』

かろうじて、そう言い残すと慌てて受話器を下ろす。


ハアーーーーー


まだ心臓が、バクバクいって呼吸が出来ない。
おまけに胃も痛くなってきた。

ダメだ…。
そう言えば前に、中田くん家のお母様は厳しいお方らしく、確かエリート家系だとクラスの友達が言っていた。

わ、わたし…。
そんな上品な人間じゃない。
むしろ…男子を泣かせてたくらい野蛮だった。

ぜっ、絶対ムリだ。
中田くんに、…わたしは相応しくない。

すっかり意気消沈したわたしは、その次の日に中田くんが電話くれてありがとう。何の用だったのかなっと、荒い呼吸で慌てて訪ねてきてくれても、

『ああ、突然電話して、ごめんね。宿題聞こうと思ってたけど他の子に聞いたから。ありがとね。』

と言って、それ以降訪ねられた最低限の答えしか言えなくなってしまった。
しおりを挟む

処理中です...