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第1章 冒険者デビュー編

第2部

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エルに見張りは任せて私は眠ってた。
が、私が作った結界に入ろうとしたバカがいることを察知した。
「リアナ?どうしたの?」
「バカが来たわ、殲滅するわよ・・・」
枕元に置いておいた斧と盾を持ってバカどもの方へ向かう。
「そういえばリアナって途中で起こされるの嫌いだよね・・・」
岩場の影から対象の様子を伺う。
「ちっ!?くそがぁ!!なんなんだよこれはぁ!?」
「久々の獲物だっつーのによぉ、邪魔してんじゃねぇよぉ~」
「ひゃは!?誰に向かって言ってんだお前?」
賊の人数は目視で8人。
「どうする?」
「あれで全部ならいいけどそうじゃない可能性も考えて最初に私が突っ込むからそれに続いて追い討ちをかけて、その後は私が殺るからもし誰か不意討ちをしようとしたら任せるからね?」
「うん、わかった!殲滅するよ~!!」
エルがそう応えた後、私は早速突撃した。
「なんだぁ?」
「ひゃは!?わざわざ自分から食わ・・・げびゃ!?」
奴らの視界に入った途端に私はトップスピードで駆け抜け、適当に1人盾で殴り付けた。
「なっ!?・・・がぺ!?」
驚愕に染まったもう1人の頭を斧で斬壊する。
「てめぇ、調子に・・・ギャァ!?」
再び距離を詰めてまた1人斧の汚れにする。
「くそがぁ!?相手は1人だ!かこ・・・ばびあ!?」
「[スナイプ・エアショット]」
リーダー格と思われる男が指示をしようとした時、エルの魔法でその男の頭が爆散した。
「ちょっ!?汚いわねぇ~!!全部あんた達のせいよ!!」
そのまま棒立ちだった残りの4人をまとめて仕留めた。
「[天舞無双]」
私は飛び上がりながら複数回、斧に魔力を込めながら振るう。
その瞬間、彼らの上半身は消し飛んだ。
「うわぁ~、大惨事・・・」
「自分だって頭を吹き飛ばしたでしょう?」
ジロッとエルを睨むと、
「いやぁ・・・!?リアナ!?」
!」
不意討ちで私達を狙った矢を私は盾で、エルは剣で切り払う。
「もう逃がさないよぉ~!![バインド・ランサー]!!」
エルの杖から迸る雷が逃げようとした2人を拘束して上から降る雷の槍が彼らを貫いた。
悲鳴すらあげることが出来ずに残った賊も殲滅した。
「そういえば最初に殴り飛ばした奴は?」
「そういえば止めを刺してないわね、あぁいたわ、結構元気そうね?」
「ひぃ!?」
短く悲鳴を上げて逃げようとした賊に、
「[フレア・ブラスト]」
私は盾を持つ左手の人差し指からの火球を撃ち込んだ。
「ぎゃっ!?ぁ!?!?!?」
短い声とともに骨すら残さず最後の1人は塵となった。
「相変わらず攻撃魔法の威力がおかしいよね?」
「もう少し威力をコントロールできるようになれば戦闘でもっと使うんだけどね・・・」
「まぁ、コイツらを全員燃やして、後少し休も?」
「そうね、さっさと帰ってお風呂に入りたいわねぇ~」
残り7つの遺体もまとめて燃やして私達は再び野営に戻った。
「とりあえず、また結界を張り直すわね?」
「うん、よろしく~!!」
結界を張り直した後、私は鎧を脱いで体を拭いていた。
「エル、ちゃんと見張っててよ?」
「はいは~い、リアナが作った結界もあるんだから私以外は見てないって」
「もう!?女同士でもジロジロ見るな!?」
そう言ってエルに籠手を投げる。
一通り拭いて幾分かマシになった所で今度はエルが体を拭う。
「リアナ~、ちゃんと見張っててよ~?」
「大丈夫よ、リアナの体なら見られても大丈夫、帰ったら覚えてなさい?」
「ひぃぇぇぇ!?根に持ってるぅ~!?」
「うふふふふふふ!」
「ひぃぇぇぇ!?」
そんな事をしながらエルが仮眠をとって、夜が明けた。
「よし、忘れ物は無いわね?」
「全部リアナのアイテムボックスの中だよ」
確認が終わった私達は、
「それじゃあ、❴ファルトの町❵に帰るわよ!」
「おー!」
初めての野営でハイテンションで私達は歩き出した。


「着いた~!!」
エルが嬉しそうに声を上げる。
「ほらエル、早く並ぼ?」
「はいは~い」
私は早く入りたいので門の入口の列に即座に並びエルを呼ぶ。
そう私達は早朝、無事に故郷ファルトの町に帰ってきた。
門でのチェックが終わったら私達はとりあえず家に向かう。
「早くお風呂に入りたい・・・」
「匂いとか気になっちゃうよね・・・」
と、女の子にとって死活問題なので一刻も早くお風呂に入る為、歩くスピードはかなりのモノだ。
「入ったらギルドに行く?」
「そうね、行ってもいいんじゃない?とりあえずお風呂よ!」
などと言っているうちに家に着いた。
「ただいま~」
「あら?おかえりなさい。」
家に入ると母が顔を出した。
「仕事は終わったの?」
「報告はまだ、期日までまだまだ余裕があるから先にお風呂に入りにきたよ。」
「もう、そういうのは先に済ませるモノよ?」
「だって・・・」
母の小言に私は口を尖らせた。
「まぁいいわ、お風呂沸いてるからさっさと入っちゃいなさい。」
「「は~い」」
「ご飯は食べるの?」
「食べる~!?」
「是非いただきます!!」
「あらあら、2人とも育ち盛りね?」
母がニコニコと微笑ましい表情をしている。
「もちろん!まだまだ成長するんだから!」
「え?リアナこれ以上まだ!?」
「そういう意味じゃな~い!!そこばっかり見るな~!?」
「今度ステータスの見せっこしよ?」
「やだ!」
「けち!」
「いーのよ、ケチで!それよりお風呂お風呂♪」
「あっ!私も一緒に入るってば~!?リアナ~?」
私達のやり取りを見た母は、
「本当に仲良しね、フフフッ!?」
堪えきれずに笑っていた。


お風呂でいつもの攻防をエルと繰り返し、私達は母が作ってくれた昼食を食べる。
「う~、おいし~!!」
「本当に幸せでふぅ~!!」
「ふふっ、エルちゃんもリアナもおかわりはいっぱいあるからね。」
「それじゃあおかわり!!」
「私もお願いします!!」
私達の食べっぷりを見ていた父と祖父が、
「おぉ!?よく食べるのぅ・・・」
「後で後悔してそうだね~・・・」
呆れた表情でこちらを見ていた。
「なによ?良いじゃん別に、美味しいんだから!それより食べないならお父さん達の分も食べちゃうよ?」
「おぉ!?食いっぱぐれはさすがに困る。」
「冒険者になってますます容赦がないな・・・」
父と祖父に驚かれながら、私達は昼食を食べた。


その後、後片付けを少し手伝って私とエルは冒険者ギルドに向かった。
「ふぁ~、さすがに眠いわね・・・」
「もう、そんなに大きく口を開けてちょっとはしたないよ?」
「ほっといてよ、くぁ~・・・」
欠伸をしながら受付の方へ歩いていき、ネイラさんを呼ぶ。
「あら?早かったのね?もう少し時間がかかると思ったわ。」
「採取した素材の確認いい?」
「いいわ、見せて頂戴」
そう言われたので、私は素材を並べていく。
「あら?この魔石は?」
「魔石の粉も材料に入っていたから、途中でゴブリンとか狩ったし、魔石の粉の生成方法って魔石を砕くだけなんでしょ?」
「えぇ、だから魔石のままでもいいのだけどちょっと量が多くない?」
「あ~、向かってきたの全部リアナが狩っちゃいましたからね~、私の出番なかったです。」
「そこまで暴れてないでしょうが!?」
「でも、暴れはしたのね?」
「ネイラさ~ん!?」
ネイラさんまで私をいじり出した。
「ふふっ、冗談よ、リアナちゃんが可愛いからついね?」
「あう~、可愛いとか言わないでください・・・」
「うわ~、何このリアナ?めっちゃ可愛い・・・」
「もう!エルまでそんな事言わないで!?それより次は何をすればいいのですか?」
私はどうにか話題を逸らそうとする。
「次は指定した魔物を狩ってもらうのですが、一つ聞きたいのだけど倒したゴブリンは何匹いたの?」
「?全部で10匹ぐらい群れで出てきましたけど?」
「それがどうかしました?」
「はぁ~、その規模の群れになれば最低でもDランクのパーティーかCランクの冒険者に頼まないといけないレベルなの、正直ランクFの駆け出し冒険者が手を出していい相手じゃないんだから勝てそうにない相手からは逃げるようにしなきゃダメよ!」
ネイラさんにそう叱られて、
「あ~、ゴブリンって結構危険なんだ?」
「ふつ~に蹴散らしたよね?」
私達は顔を見合わせて驚く。
「はぁ~、あなた達2人は本当に規格外ねぇ~」
ネイラさんがなんとも言えない表情でぼやく。
「とりあえずゴブリンをまとめて10匹も狩れる子を遊ばせておくほどギルドは暇ではないわ。ゴブリンと同ランクに分類する魔物を討伐に行ってもらいます。」
ネイラさんは課題内容をそう修正すると、
「あなた達には、グラスリッパーとウルフの群れを討伐してもらいます。」
グラスリッパーは簡単にいうと犬と同じくらい大きいカマキリで、ウルフはまんま狼。
「場所はどこですか?」
ネイラさんに討伐対象の出現場所を聞くと、
「両方とも町のすぐそばにある西の平原、❴ガルド平原❵で目撃されています。」
「ガルド平原か~、結構広いよね?」
エルが探索場所の広さを心配していると、
「そうですね、グラスリッパーは平原の北東側で目撃される事が多いです。ウルフの群れは平原中央に集まりやすいと情報があります。」
「わかりました、討伐したらどこを切り取ればいいですか?まぁ全部持ってきてもいいですけど。」
「ウルフはしっぽが討伐証明部位となっています、グラスリッパーはどちらかの腕の鎌の部分を持ってきてもらえればそれで大丈夫よ。」
「おっけ~、わかりましたよネイラさん!今回の期限はどれくらい?」
「そうねぇ~・・・」
「おう、ちょっと待ちなぁ?」
急に後ろから声が割り込んできた。
振り返ると、簡単にいうとガラの悪そうな男が立っていた。
「ネイラさん、こいつ誰?」
私が不快そうにそう聞くと、
「ランクEからなかなか上がれないジャコさんよ、事あるごとに絡んでくるから面倒なのよね~」
ネイラさんも流石に怒っていた。
「んだと!?何でそんな小娘がDランクの依頼をやって俺がEランクの依頼をやらなきゃならねぇんだよ!?」
「そんなのあなたが私達より弱いからに決まってるじゃん?」
エルが言ってはいけない事を言ったら男はプルプルと震え出した。
「エル~?」
「エルちゃん?」
「だって~!?」
「ふざけてんじゃねぇぞぉ!!」
男が剣を抜いて向かってきたので、
「はぁ、面倒ね・・・せい!!」
「がぶぁ!?」
しぶしぶと私は男を面倒臭そうに殴り飛ばした。
「べぷっ!?・・・がふ・・・」
殴り飛ばされた男は2、3回ほど跳ねてギルドの入口付近でようやく止まった。
「その小娘相手に剣を抜く男が粋がってんじゃないわよ!」
私が魔力を迸るほど不快感を表に出すと、
「嬢ちゃん落ち着けって!?」
「そうそう、俺達まで一緒にされちゃたまんないよ!」
「もしなんか困った事があったら俺らがどうにかしてやるからさ!?」
「お願いだからしまってくれよ!?」
及び腰で両手を前に伸ばしながら冒険者の先輩方が私を諌めた。
「リアナ?」
「はぁ、わかったわよ、お兄さん達の言うことを聞いてあげる。」
「ふふっ、ありがとうリアナちゃん」
微笑むネイラさんから顔を逸らして私がそう言うと冒険者のお兄さん達も嬉しそうにする。
「お兄さん・・・なんて言うか・・・」
「あぁ、最初はあんな可愛い娘にと同一視されるのは嫌だったから必死だったが・・・」
「俺はあの娘を守る為なら神にすら挑める!」
「俺もだ!」
後ろの方で何かよくわからない事を言っているのが聞こえるがここで振り返ってはいけないと私の勘が言っていた。
「そういえばネイラさん、討伐の期限は?」
「明日から一週間って所かしらね、後の質問はある?」
「いえ、他には特にないです。」
「私もないです。」
「そう、じゃあ気をつけてね?後、リアナちゃんとエルちゃんはこれからも2人で冒険者としてやっていくのよね?」
私とエルは顔を見合せ、
「はい、そうですけど?」
「ならパーティー登録も後でお願いね?パーティー名も考えてきてね?じゃないと私がとびっきりパーティー名を付けちゃうから、ね?」
ネイラさんは、自分の大人の体を魅力的に見せながら私とエルにウインクした。
「う~!?なんだろうスッゴい悔しい!なんか負けた気がする!?」
「エル、どんな勝負をしてるのよ?」
エルが意味不明な事を呟きだし、
「リアナ!私達も対抗するのよ!?悔しいけど私だけじゃ足りないから、リアナもとりあえず鎧を脱いで腕をするの!?」
「やるわけないでしょぉぉぉ!?」
私ではとても出来ないポーズを強要されて恥ずかしくなった私は、
「ほら!もう帰るわよ!またね、ネイラさん!?」
「えぇ、2人ともまたね~」
「えっ!?ちょっと!?リアナ?きゃ~~~!?」
強引にエルをお姫様抱っこして冒険者ギルドを飛び出して家に帰った。


家に帰ったらとりあえず抱っこしてるエルを降ろした。
「リアナ~!?」
エルが顔を真っ赤にしてお怒りだ。
「よくも、よくも私のを奪ったわねぇ~!?」
そして、とんでもない事を言い出した。
「やめてよ、エル!?スッゴい人聞きが悪いんですけど!?」
私がそう言うと、
「私の初めてのお姫様抱っこは、お姫様抱っこは私の理想の王子様にやってもらうはずだったのに~!!」
「あ、そうですか・・・」
「リアナには責任をとってもらうんだかね!?」
興奮したエルは止まらない。
「罰としてリアナの体を一晩堪能させ・・・ふにゃぁ!?」
「自分だって結構持ってるんだから変な事言ってんじゃないわよ?」
「ん!?ひゃん!?やぁぁぁぁ!?も、もう言わないからぁ許してぇ~!?」
エルが反省したところで私は手を離した。
「はぁはぁはぁ・・・もうお嫁にいけない・・・」
「自分だって私にお嫁に行けなくなる事をしようとしたじゃない!?」
「うぅ~、リアナの手があんなに気持ちいいなんて・・・」
「はぁ~、もう1人でやってなさいよ・・・」
そう言って私は居間に入っていく。
「あっ!?ここまでして置いていくなんて!?リアナ待って~!?」
この日のエルは私にべったりだった。


その翌日、私達は早速ファルトの町の西にある平原、ガルド平原に出発した。
「簡単に見つかればいいね?」
「そうね、野宿は辛いしね~」
その事にちょっと憂鬱になったがそれよりも考えないと行けない事がある。
「パーティー名はどうしようか?」
私がエルにその事を相談すると、
「セクシーダイナマイトでどう?」
「それは恥ずかしすぎでしょ!?その名前にするならエルがリーダーね!?」
「え~!?」
エルが面倒そうな顔して、
「リーダーはリアナじゃないとダメだよ~!?じゃぁ、セクシーキャット!?」
「そんな色気全開で路線は組んでないから却下!」
「う~ん、プリンセスファイターズ!?」
「私は別にお姫様じゃないから却下!」
「え~、アルティメットガーディアンズ!?」
「男の子のごっこ遊びじゃないんだから却下!」
「もう~!?じゃリアナが決め手よ~!?」
「む~、風の護り手?」
「う~ん、ちょっとこだわり過ぎじゃない?護り手の響きはなんとなくいいかもだけど、風じゃなくて緋とか?」
「紅い鎧を着けてるの私だけじゃん!?それならエルのローブからとって蒼の護り手とかは?」
「それだと私がリーダーみたいじゃん!それだけは却下!」
2人でむ~っと唸りながら歩いていると、
「う~ん・・・!?エル!なんか来た!?」
「んっ?あっ!?本当だ!?あれはオークかな?」
「ブォォォォ!!」
「女の敵その2ね!?殲滅あるのみ!」
「あっ、そうだ!?殲滅天使は?」
「それだと自分もそう呼ばれるんだよ?」
「あ、すいません却下で!」
そう言ってエルは杖の先を先頭のオークに向けて、
「もう!?今忙しいんだから邪魔しないでよ!?[マルチブル・フレイム・ランサー]!」
エルの周りに無数の炎の槍が現れ、発射された。
「プギャァァァ!?」
「おっ!?今ので3匹仕留めたわね!残りは5匹?いや・・・そこね!?」
私は正面の群れから少し外れてくる2匹のオークを察知する。
「悪いけどするわ![闘斧双閃]!」
「ピギッ!?」
私は二度、斧を閃かせて2匹のオークの頭を粉砕した。
「リアナ!ペース上げるよ!?[ファスト・ムーブメント]!」
「オーケー、エル!?突っ込むわよ!」
私はエルの援護を受けて弾丸のように真っ正面からオークの群れに突っ込む。
「飛びなさい![盾破絶衝]!」
「プギ!?」
私は先頭の1匹に盾を抉りこむ。
短い悲鳴を残してオークは吹き飛ぶどころか内部から背中にかけて爆発した。
「ちょっと!?返り血とか面倒なんだから血の雨とかやめてよね!?」
背中に大穴を開けたオークの近くにいたオークに向かって斧を叩きつけながら、
「わざとじゃないのよ!?」
「わざとなら怖いよリアナ!?[ファントム・ムーブ]!」
軽口を言いながらエルの体がぶれる。
「更に[ダンシング・マジック]!」
残る3匹のオークの中央に入りこみ、踊りながら剣を閃かせ、魔法を放つその様子は悔しいけど綺麗だった。
「ピギャァァァ!?」
最後の断末魔を響かせて私達は肉の回収に移る。
「とりあえず全部収納しちゃえ!」
「え!?出来るの?」
有り余っている魔力のおかげで10匹もオークをアイテムボックスに収納できた。
「リアナ、あり得なくない?」
「そう?出来たんだからいいじゃない、ほら行こう?」
そうして私達は北に向けて足を進めた。


わかっていた事だが西の平原は広かった。
「北側に着いただけで日が暮れちゃった。」
「そこは仕方ないわ、とりあえず野営の準備をしましょ?」
「オーケー!」
今回はテントを持ってきたのでテントを張る。
「これでよし!後は・・・」
私はテントを中心に結界を張った。
「リアナがいると格別に野宿が楽よね~」
「そう言うなら少しくらいご飯を作ってくれてもいいんじゃない?別に作れないわけじゃないし」
「せっかくリアナの手料理が食べれるんだからそっちを選ぶよね!」
「もう調子いいんだから!」
前回の野宿での反省を活かして今回はアイテムボックスの中に調味料を入れて持ってきた。
「この前に狩った猪のお肉を鍋で煮込んで猪鍋~♪」
「調理器具もバッチリなんだ?」
「当然よ!ハーブも入れて風味豊かに作っちゃうんだから!」
気合い充分な感じで私は魔法を発動させ、
「[イマジネイション・クレイドル]」
これはドワーフの民が壺などの陶器や釜戸などを作る際に使う魔法である。
種族専用の魔法ではないが、他の種族の民には使いにくい魔法の為ドワーフ以外だとたまに鍛治師の人が使うくらいである。
「うわ~、野宿でキッチンを作っちゃった・・・」
「無いよりあった方がいいでしょ?」
「う~ん、そうなのかな?」
そう言いながら私は調理を進めていく。
「オークも適当に串に刺して焼いて食べましょう?」
「あ、早速食べるんだ?」
「生きてれば有害だけどこうなったら只のお肉よ!」
野営としては充分過ぎるメニューを作って、私達は平原で一晩明かした。


その翌朝、何も問題なく出発した。
「北側にいるグラスリッパーって大きなカマキリみたいな魔物よね?」
エルがそう聞いてきたので、
「そうよ、問題は探すのにどれくらいかかるか、かなぁ~」
エルが懸念してる事を私もわかっていると口にする。
「リアナって探知魔法は使えないの?」
「まだ練習中・・・使えない事は無いけど魔力のコントロールが上手くいかなくて使ったら多分逃げられると思う。」
「あ~、じゃあそれは最後の手段かな?」
「そうね、まずは足で探しましょ」
そう言って歩いているうちにお昼になってしまい昼食を食べてから再び探索を開始して、しばらくしたら腰ぐらいまでの高さの草むらを見つけた。
「ここならあり得るんじゃない?」
「気配はあるわね、ただ気配察知のスキルだけじゃどこにいるかまではわからないわ、不意討ちに気をつけてね?エル・・・」
そう言って草むらに入ろうとすると、
「!?エル!?下がって!?」
急に何かが攻撃してきたので私は攻撃を盾で防ぎながら前に出る。
「こいつがグラスリッパーね!?」
「他にもいる可能性が高いわ!?エル、奇襲を受けないようにね!?」
「オッケー、リアナ!やっちゃうよ~!?」
そう言ってエルは前に出ながら、
「[スロウ・ムーブメント]!」
相手のスピードを落としてから、
してるのはリアナだけじゃないんだから!?[スラッシュ・ダンス]!!」
流れるような動作で5回斬った。
そして、残心に入ったところでグラスリッパーは崩れ落ちた。
「剣の腕も大分上がったんじゃない?」
私がそう褒めると、
「そう?一緒にいるのがリアナだし普通だと思うよ?」
「どういう意味よ?・・・っと!?」
そう問い詰めようとしたら今度は2匹同時に襲ってきた。
「それくらいじゃ私は倒せないよ!」
私は片方を盾で防ぎ、もう片方に斧を振るった。
「ギィィィィ!?」
斧を振るった方は片腕が飛んだ。
「ギギィィィ!!」
盾で受け止めた方が威嚇音を発しながら襲いかかってくるが、
「[瞬斧双閃]!」
私が斧を振るう方が早かった。
「ギィィィィ!?」
断末魔を残しながらバラバラになったグラスリッパーから視線を外して残る1匹に照準を定める。
「[迅雷脚]!」
これは移動系の体術スキルで雷のような踏み込みを体現するスキルだ。
轟音を残してグラスリッパーの後ろに一瞬で回り込み。
「終わりよ!」
斧を閃かせて首を叩き落とした。
「これで終わりかな?」
エルが周りを確認しながらそう呟く。
「・・・まだいると思う。」
私は草むらの方を睨みながらそう返す。
「でも今回の依頼はグラスリッパーの討伐だわ、本来なら1匹でいいのを3匹仕留めたのだからここでの仕事はもう・・・!?エル!?」
「ひゃあ!?」
するとどこからか攻撃が飛んできた。
「今のは、斬撃?斬撃を飛ばしたの?」
「リアナ!?あそこ!?」
エルが指をさす方を見れば、
「また随分と大きいわね・・・」
熊のような大きさの青いグラスリッパーがそこにいた。
「こいつは、ブルーリッパーって奴かしら?確かランクはBランクのモンスターでキング系のモンスターと同じくらい強い・・・強そうね!本気でやれそうだわ!」
そう言って私は[迅雷脚]を使い間合いを詰める。
「まずは小手調べよ![天舞無双]!」
私は飛び上がりながら斧を振るう。
ガガガァァァァン!!!!!
轟音を撒き散らしながら少し後ろに下がったくらいで普通に私の攻撃を防がれた。
「へぇ!」
「もう!?リアナ1人で暴れすぎ!」
エルが側面から魔法を放った。
「[ライトニング・ランサー]!」
一本の雷の槍がブルーリッパーを貫くが、
「ギシャァァァァ!!」
すぐに雷の槍は砕けた。
「ウソ!?レジストされた!?」
「エル!?避けて!?」
エルに向けてブルーリッパーは再び斬撃を飛ばした。
「うひゃあ!?あぶな!?」
「こっちを向きなさい![盾斧連撃打]!!」
私はその攻撃してる時の隙をついて側面からの十連撃を叩き込んだ。
「これで最後!」
最後の十撃目で片腕を叩き斬り、後一押しのところで、
「ギシャァァァァ!!」
ブルーリッパーが強力そうな風魔法を放った。
「やばっ!?」
「させないよ![リフレクト・シールド]!」
援護に回っていたエルのファインプレーでブルーリッパーの魔法をやり過ごし、
「今出来る1番の大技見せてあげる!」
そう言って私は魔力を迸らせ踏み込む。
「いくよ!!奥義[天斧流星断]!!」
斧に魔力を集中させ流星の煌めきを残しながら、私は神速とも言える速さで斧を振り下ろし、ブルーリッパーを真っ二つに断ち斬った。
「ギ?ギィィィ?」
私の攻撃に反応すら出来ずブルーリッパーは動かなくなった。
「ふぅ~」
私は全力を出して戦ったので自分の体をチェックしてからエルの方を向いた。
「エル、そっちは怪我とかしてない?」
「平気だよ~、リアナも平気そうだね?流石!」
そうエルが褒めるので、
「別にそんな大した事じゃないわよ。」
そう言って顔を逸らした。
「あっ!?リアナ、照れてる?」
「照れてない!」
私はこほんと咳払いをして、
「とりあえず獲物を回収してここを離れるわよ?」
「オッケー!このお話は後でじっくり?」
「しないわよ!」
エルにそう言って私はグラスリッパー3匹とブルーリッパーをアイテムボックスに収納する。
「じゃあ、ここをこのまま南に移動しましょ、丁度真ん中から北の方みたいだし」
「じゃ南に向かってゴー!」
「元気ね~、エルは・・・」
「リアナ、おばあちゃんみたいだよ?」
「なんですって?」
「ひゃあ!?まずい!?」
逃げようとするエルに抱きつき私は結界を張った。
「あの草むらからある程度離れたし、今日はここで野宿しましょ?ね?エル?」
「待ってリアナ!?て、テントも張らなきゃだし!?は、話せばわかると思うの!?」
「そうね、テントを張って二人きりでじっくりとお話しよっか?」
「あわわわわ!?」
その後テントを組み立て、ご飯を支度している時に、
「あら?」
「リアナが光ってる!?」
急に私の体が光りだした。
「体調には特に変化はないわね?・・・エル、ちょっとお鍋の中を掻き回してて?」
「う、うんわかった!」
エルにお鍋を預けて、私は今の持ち物をチェックする。
「おかしいわね?特に光る物なんて持ってないし・・・あ、ひょっとしてアイテムボックスの方かしら?」
そう言って私はアイテムボックスの中身を思い浮かべる。
「ん~、グラスリッパーの死骸は違う・・・これは調理器具で、調味料に食料も除外でしょ・・・となると後は素材関係なんだけど・・・あっ!?これかな?」
そう言って私はアイテムボックスから卵を一つ取り出す。
「うわ、その大きい卵どうしたの?」
「ほらグリークの森で拾った卵があったじゃない?それよ」
「あの卵そんなに大きくなかったよね?」
「魔力吸われても大した事なかったからすっかり忘れていたわ・・・」
「も~、リアナってば・・・」
珍しくエルが項垂れて、
「もう生まれるって事かしら?まだ魔力を吸ってるからもっとあげちゃえ!」
「ちょ!?リアナ!?」
するとさっきよりも光が強くなって、
「きゃ!?」
「ひゃあ!?」
物凄く発光した後に、
「キュルルル?」
大型犬より2周りくらい大きい竜がそこにいた。


卵から竜が出てきた事に驚いたエルが、
「うわ~、リアナの伝説にまた1ページ・・・」
「どんな話よ!?」
と現実逃避を少しだけして、改めて私は竜の姿を見る。
「深緑って言えばいいのかしら?宝石のエメラルドみたいな鱗がとても綺麗だし、触っても大丈夫かな?」
ドキドキとしながら手を伸ばすと
「キュ~♪」
頭を私の手に擦り付けてきた。
「か、可愛い~!?」
あまりの可愛さに私は両手で竜の頭を撫でる。
「キュルルウ♪」
竜と楽しそうにしてる私を見かねて、
「リアナ~、ご飯食べちゃおうよ~?」
「そうね、一緒にご飯を食べましょ!」
そう言って皿をいくつか余分に出してスープを竜にあげる。
「キュウウウウ!!」
「ふふっ、美味しい?」
「キュルウ!!」
「良かった・・・量がちょっと足りなそうなのがネックだけど適当にお肉でも焼こうかな?」
「リアナ~、私のご飯を忘れちゃやだよ~」
「も~、わかったわよ!」
エルにもスープを器に盛って渡す。
「えへへっ、いただきま~す!・・・ん~美味しい!」
エルが嬉しそうに食べてくれる。
「こっちの塩パンも美味しい~!スープと一緒に食べると更に美味しい!」
塩パンは料理を始めた頃に作った保存期間が長いパンで冒険者がダメと言われた時に冒険者ギルドの厨房で働く為に開発したパンだ。
「リアナ、このパンの作り方をギルドに教えないの?」
「だってまだ実地研修も終わらないのに教えても仕方ないじゃない?」
「あ~、それはあるかも・・・」
「それにレシピにそんな工夫があるわけじゃないわよ?作る途中に塩を混ぜるだけだし、調味料に関しては、ウチの場合はお父さんとおじいちゃんの稼ぎに感謝かな?塩以外の調味料ってすごい高いしね~」
ファルトの町の市場を見て歩き、普段家でポンポン使う調味料がこんなにすると知って子供ながらに足が震えた。
「丁度その頃だったよね?お金の計算を習ったの」
「そうね、冒険者がダメだったら料理人って思ってたし・・・あら?お肉がいい感じね、はい、熱いからゆっくりね?」
竜に焼きたてのお肉をあげながらエルと子供の頃の昔話を咲かせる。
「東にあるグリューデン大深緑地帯はダンジョンになっているって話だわ、そこなら薬草とかは勿論、果物やここら辺にない調味料が手に入る可能性があるわ」
私は当面の目標をエルに聞かせる。
「とりあえず私達の目標はグリューデン大深緑地帯のダンジョンを潜れるようになること、でどう?」
「ん~、その目標だと私達だけだと無理だと思うよ?」
「だから、他にも仲間を増やそ?そうすればもっと色々な事が出来ると思うし、いろんな場所を一緒に旅してくれる人が増えるのは嬉しいじゃない?」
「それもそっか、うんいいよ、リアナがちゃんと考えているなら私も楽チンだし・・・」
「あっ!?一応言っておくけど男の人はダメだからね!?エルが騙される未来しか見えない・・・」
「失敬な!?私だってちゃんといい男にモテるんだから!?」
「ハイハイ、そんなことよりこの子の名前考えましょ?」
「リアナ~、そういう扱いは傷つくよ~」
「帰ったら一緒にお風呂に入ってあげるから機嫌を直して?」
「子供か!?」
一通りのやり取りを終えて、
「まずこの子はオス?メス?そこが問題だわ・・・」
「そうだね、私達竜の判別方法なんてわからないし」
「となると、オスでもメスでもいい名前を考えなければならないわ・・・」
「いや、町に戻るまで保留でもいいんじゃ?」
「いいえ、この子は既に私の子よ誰の手にも渡さないわ、たとえ神が相手でも・・・」
「スト~ップ!?リアナ、この子の名前を考えるんでしょ?神様とケンカする事なんてないと思うな!?」
「そうね、この子の名前は・・・」
「スッゴい大事なところをスルーしやがったこの女!?神様とケンカする事なんてないって否定してよ!?」
「ヴェルデ、でどうかな?」
「ちょっと女の子よりじゃない?」
「そうかな?」
「キュルウゥ!」
「あっ、嬉しそう」
「なら、いいんじゃない?」
無事に竜の子の名前が決まったので、
「ヴェルデもテントに入れるかな?」
「ちょっと狭いかもしれないけど、これはこれで密着出来るからアリね!」
「何の話をしてるの!?」
「キュルウ!」
「ひゃん!もうくすぐったいてば?」
「キュルルウ♪」
「はぁ、こののけ者感、寂しいよう・・・」
「エル?エルもこっちに・・・」
「行くっ!」
「きゃ!?ちょっと!?」
「リアナの柔らかいお胸を堪能・・・あいたっ!?」
「調子に乗らない!?」
「キュルウ~?」
こうしてヴェルデに名前をつけて私達は眠りについた。


よく朝、私は1人だけかなり早い時間に目が覚めた。
「ちょっと密着しすぎたかしら?」
右には昨日卵から孵ったばかりのヴェルデが、左にはエルが密着して寝ている。
「まぁ、2人とも暖かいからいいんだけどね」
季節的にいえば春にあたるが、まだ入ったばかりで夜はかなり冷える。
「いい機会だし、久しぶりにステータスでもチェックしよっかな?」
そう言って私はステータスを浮かべる。


❴リアナ・フレーベル❵❴13才❵❴レベル:15❵
❴職業:斧騎士❵
❴加護・祝福:八神の寵愛❵
❴身体能力:S+❵
❴魔導能力:S+❵
❴各能力値成長率:S❵
❴身長:155メル❵
❴体重:45ガル❵
❴スリーサイズ:85・58・80❵
❴スキル・取得魔法:ステータス・魔力操作(レベル7)・剣の心得(レベル1)・槍の心得(レベル3)・斧の心得(レベル7)・盾の心得(レベル5)・治癒魔法(レベル5)・火魔法(レベル3)・水魔法(レベル2)・風魔法(レベル1)・土魔法(レベル3)・雷魔法(レベル3)・テイミング・収納魔法(レベル5)・守護魔法(レベル5)❵
❴称号:竜の主❵
❴パートナー:ヴェルデ(エメラルドグリーンドラゴン)❵


「正直、色々覚えすぎだわ・・・」
私はしばらく見ないうちに充実したスキルと技能を見た後に呆れ、
「いつの間にか、ヴェルデがパートナーになってるわね?」
最後に追加されてる項目を見て首を捻り、
「おまけに称号っていつ出てきたのよ?」
と1人でツッコミを入れた。
とりあえずヴェルデと既にパートナー契約できているのがわかったのは行幸なのでそこだけは収穫だった。
「見れば見るほど自分が化け物みたいになっていくわね・・・」
「そんなことはないと思うけどな~?」
「キュルウ!」
両隣の2人がいつの間にか起きていた。
「・・・エル?ひょっとしてまたのかしら?」
「いいよね~リアナは、そんなに大きくてさぁ~」
「だからといって私の胸を指で突っつくな!!」
「ひゃ~!?リアナが怒った~!?」
逃げようとしたエルに私は後ろから抱きつき、
「そ~いえば、昨日のがまだだったわよね?」
「えっと・・・そんな事はないと、思うかな~?」
「ふ~ん?」
「ひゃん!ダメ!?リアナ、そんなに強くしちゃ・・・やぁん!?」
「結構イケない感じで責めてあげよっか?」
「やぁ~!?お嫁にいけなくなるから~!?らめ~!?」
「ふふふふふふふっ!?」
一通りのお仕置きを終えた頃にはエルは動けず、朝食の準備を終わった頃に両手で顔を隠しながらテントから出てきた。
「しくしくしく、もうお嫁に行けない・・・」
「もう何回目よ?そのネタは・・・」
「まだそんなに使ってないし!?どうしてリアナの手つきはあんなにイヤらしいの!?ちょっと気持ち良かったし(ボソッ)」
「ん?ごめん、最後よく聞こえなかったんだけど?」
「な、何でもない!?」
「そう?じゃあ朝ご飯食べよ?」
「う、うぅぅぅ!?私、既にリアナ無しじゃ生きていけない体になっちゃった・・・」
「スッゴい誤解を生みそうだからやめて!?」
「キュウルル?」
そんな賑やかな朝ご飯を食べ終えて私達は再び獲物を求めて歩きだした。
「平原の中央に来てもウルフの機動力だと一網打尽にしないと何匹か逃がしそうなのよね・・・」
「ならヴェルデちゃんに手伝ってもらったら?」
「ん~まぁ、竜だからウルフぐらいならいくらでも戦えると思うけどぶっつけ本番はちょっと危ないかな?丁度いい練習相手がいるといいけど・・・」
「キュルルウ!」
ヴェルデが一鳴きしてある方向を見るとオークが3匹、西に向かって歩いているのを見つけた。
「丁度いいわ、で練習しましょ?」
オークを倒せるならウルフぐらいなら相手にもならないだろう。
「とりあえず一人一殺で行こうか?」
「うん、いいと思うよ!」
「ギュルウ!!」
「ヴェルデ!まずは牽制をお願いするわ、その後に私達がオークを一匹ずつ仕留めるから、残りの一匹をお願いね?」
「キューーウルルルルゥ!!」
私のお願いを聞き終えると同時に雄叫びをあげて空へと飛び上がった相棒を確認してから私とエルはオークに向かって駆け出す。
「先手必勝!!」
「見敵必殺ってね!!」
オークは私達に気づいて構えとり後ろにいる弓を持ったオークが私達に向けて矢をつがえる。
「ギュオオオオ!!」
その瞬間、ヴェルデの[ソニック・ダイヴ]によって矢をつがえたオークは吹き飛び、
「[マジック・ボム]!!」
「[天旋斧]!!」
私とエルはそれぞれのやり方で首を吹っ飛ばした。
そして、ヴェルデに吹き飛ばされたオークは反撃をしようと起き上がり、
「ギュオオオオ!!」
上空から風のような速さで急降下をして、自らの前足の爪に風の魔力を纏わせて、
「ぴぎ!?」
オークを縦に真っ二つに引き裂いた。
「キュウルルウ!!」
ヴェルデの勝鬨の声が上がった。
「ふふっ、よくやったわヴェルデ!」
「ヴェルちゃん偉い!」
私とエルがヴェルデを褒める。
「さ、オークも全部収納したし、本命を探しに行きましょう?」
「オッケー、頑張っちゃうよ~!?」
「キュルルゥ!!」
私達は再びオークを探して歩きだした。


平原の中央部に近づいてきたのでヴェルデに一仕事を頼む。
「ヴェルデ、上空からウルフを探して頂戴?見つけたら、戦わずにまず私に知らせてね?」
「キュルウ!」
そう一鳴きして空へと羽ばたいた。
「見つかるかな?」
「なんとかなるって思うしかないわ、ヴェルデ頼みかしらね?」
「そっか~」
そんな事を言いながら平原の中央部に向かって歩いていると、
「キュキュルル!」
「見つけたの?」
「キュウ!」
「そう、じゃあ案内して?」
「キュ~!」
私とエルはヴェルデの後をついていくと、
「確かにいたね・・・」
「でもなんか随分と数が多いような、しかもあの大きいのは何かしら?」
「!?大変!?」
「ちょっ!?エル!?もう、そういうときは先に相談しなさいとアレほど言ったのに!?ヴェルデ!先行して敵を撹乱して!あの襲われている仔犬は守るようにね!」
「キュルウ!」
ヴェルデに走りながら指示を出して私は本格的に加速する。
「S+は伊達じゃない!」
私は音速の壁を感じながら平原を駆け抜けエルを追い越す。
「うひゃあ!?」
仔犬は既に囲まれており、痛めつけるかのようにウルフ達が攻撃し、デカイウルフ、ボスウルフは高見の見物のようだ。
「狼の分際で・・・ギルティ確定!」
その呟きが出た直後にヴェルデの撹乱が始まる。
「ギュルルウ!!」
ヴェルデが[ソニック・ダイヴ]でウルフの包囲の一部を崩して、そのまま仔犬の傍に降りて、
「キュルウ!」
「ワン!」
仔犬を抱いて私の後ろにいるエルに向かって飛んで行った。
私はヴェルデが下がったのを確認して、走っている勢いを乗せて技を放った。
「[烈震爆砕断]!」
すると爆発のような衝撃が私を中心に広がり、傍にいたウルフは勿論、遠くにいたボスウルフにも衝撃は届いた。
「ガルルゥ!」
仲間を殺された怒りなのか、それとも邪魔をされた怒りかはわからないがどうやら私と戦う気になったようだ。
「エルちゃん到着!おいしい所をもらっちゃうよ~!」
エルがいいタイミングで奇襲を仕掛けた。
「[スロウ・ムーブメント]!プラス、[ファスト・ムーブメント]!」
相手のスピードを下げて、自分のスピードを上げたエルは、今までの中で一番のスピードで動き出す。
「いっくよ~![スキルコンボ・マジックス]!」
剣で連擊を加えたと思えば、魔法の追撃を加え、更にその隙に背後に回り込み再び剣で連擊を加える、その後すぐにまた魔法を浴びせてその隙にまた死角に回り込み攻撃する。
かなり一方的に攻撃する技ではあるが、
「ちょっと攻撃力が足りないかな?」
そろそろエルの攻撃が途切れると察知して盾を構える。
「これで最後!!」
エルが最後の魔法をあて、ボスウルフはよろめいたが、すぐにエルに向かって攻撃を加えてきた。
「させないわよ![守護盾壁陣]!」
この技は自分の後ろにいる一定の範囲の仲間を守る技である。
「ありがと、リアナ!上級魔法[ライトニング・ブレイバー]!」
巨大な雷の剣がエルの手のなかに現れ、それを手にエルはボスウルフに向かって雷の剣を振り下ろす。
その速さは雷挺の如くボスウルフは反応出来ずに断ち斬られた。
「いぃやった~ぃ!!?」
エルがよくわからない掛け声を上げる。
「それよりあの子は?」
「キュルウ~」
ヴェルデが情けない声を出しながら私の元に降りてきた。
「!?これは不味いわ、奴ら毒を持っていたのね![キュアライト]!」
毒が消えたのを魔力の流れを見ながら確認して次の治癒魔法を使う。
「[ハイヒール]!」
呼吸が安定したのと、魔力の流れが正常になったのを確認して私は大きく息を吐いた。
「はぁ~~~~、どうにかなったよ・・・」
「リアナ、とりあえずその子は私が見てるからアレを回収しちゃいなよ?」
「何よ?まだ働かせる気?」
「早くここを離れる為だよ、その子がいたら戦い辛いし・・・」
そこでエルはチラッと私を見て、
凄い格好だし・・・」
「へっ!?・・・・き!?」
「き?」
「きゃあぁ~~~!?」
私の鎧はどうやら私の走る速度に負けてバラバラに分解したようです。
私は全速力で倒したウルフを回収して、その場を離れた。
ある程度の距離を離れたらテントを張り、着替えた事は言うまでもない。


着替えた後は結局そのまま野宿する事になり、
「む~、なんかイマイチ・・・」
一応、用意していた母と訓練していた昔の防具を着てみたのだが、
「胸がキツい・・・」
「リアナ、それ私に対する挑戦かな?」
「別にいいわよ?食べたいだけ食べさせても構わないわ、ただし体重が5割増しになっても私は知らない・・・」
「ぬぬっ!?なんと甘い誘惑・・・乙女として体重5割増しは困る、という絶対イヤだけどリアナのご飯が食べ放題・・・まさに悪魔の囁き・・・」
「誰が悪魔よ!?」
「じゃあ、悪女?」
「よし、エルもお着替えしましょ?」
「えっ!?私は特に必要ないと思うかな~?」
「ダ・メ・よ?エルも女の子なんだからちゃんと体を拭くぐらいはしなきゃね?」
「リ、リアナさっき拭いてないじゃん!?」
「やっぱり覗いてたのね!?」
「あわわっ!?逃げるが・・・ひゃあ!?」
「ねぇ、エル?追い駆けっこであなたが私を捕まえた事あった?」
「やぁぁぁん!?お嫁にいけなくなる~!?」
「大丈夫、綺麗にしてあげるから・・・」
いつものやり取りをして体を拭いて、ご飯の支度に入る。
「オークがいっぱいあるから、オークのシチューからステーキまで沢山作ろっと!」
私が串にお肉を刺したり、シチューを煮込んでいるとエルが復活した。
「リアナ誰も見てないと獣になるんだから・・・」
「なってないし、エルの方が手つきイヤらしいし!?」
「いやぁ、照れるなぁ~」
「褒めてないし!?」
料理が出来る頃にさっき助けた仔犬が起き上がった。
「あっ!?目が覚めた?」
そう言ってエルが仔犬の頭を撫でる。
「くぅ~ん」
くぅと鳴き声と一緒に仔犬のお腹の虫が鳴ったのが聞こえた。
「エル、とりあえずお水を飲ませながらこの小さく切ったお肉を上げて?」
「うん、わかった!」
「ヴェルデはこっちよ?」
「キュルウ~!」
仔犬はがつがつとお肉を食べながら水を飲んでいる。
「あの様子なら大丈夫そうね・・・エル、おかわりいる?」
「うん、ありがとーリアナ!今日も美味しいよ~!」
「キュルルウ~!」
「そう、オークはまだいっぱいあるからおかわりがいるなら言ってね?」
「あ、仔犬ちゃんもうちょっと食べたそう・・・口の周り汚して、かぁわいいなぁ~!」
「わかったわ、もう少し焼いておくね!後、ほどほどにしないと嫌がられるよ?」
「わかってる、少しだけだから・・・」
「視線が変態のようだわ・・・」
「キュルル?」
ご飯を食べた後に後片付けをして、
「竜の場合は多分卵の状態の時に魔力をあげる事が条件の可能性が高いわ、ならウルフとかの動物の場合は?」
「う~ん、とりあえず魔力を渡して見よっか?」
「それでダメだと町に戻って調べないとわからないわね・・・」
「後、名前を決めなきゃ!可愛い名前を考えちゃうよ~!?」
「あまり変な名前は可哀想だからやめてね?」
「失礼な!?これでもネーミングセンスに定評のあるエルちゃんだぞ?」
「そう、それでなんて名前にするの?」
「リーアちゃんで・・・」
「却下!」
「何でさ~!?」
「私の名前と被りすぎじゃない!?」
「ちっ!?」
「エル?」
「ひぃっ!?冗談です、ちゃんと考えてます!」
「まったく、で?名前は?」
「エレスにしたいと思います。」
「ワン!」
「あら?」
「エレスが光ってる?」
「エル、このまま魔力を流してエレスの名前を呼んでみれば?」
「えっ!?うんやってみる・・・ひゃあ!?」
すると光は閃光になって煌めいた。
「これって・・・」
「う~、目がチカチカする・・・アレ?エレスのおでこになんか出来てる?」
「あら?本当だ、という事はヴェルデのおでこのマークも私との契約紋かしら?」
「キュルウ!」
ヴェルデが返事を返しながら私にすり寄る。
「ふふっ、もう仕方ないんだから」
「むむっ!?中々見せつけてくれるじゃない!?エレス~私達もギュッてしよ?」
「ウォン!」
そう一鳴きしてエルの膝にエレスが乗った。
「はぁ~可愛いよぉ~!?」
「ほら?明日も早いんだからある程度満足したら寝なさい?」
「リアナ、お母さんみたい・・・」
「何ですって?」
そうして今回の冒険で私とエルはそれぞれの相棒を仲間に出来た。


目覚めたよく朝、朝食を済ませて真っ直ぐに東へ移動を始める。
「エレスとの連携の練習もかねてお肉、じゃなくてオークを狩りましょうか!」
「オークの魔石だけでも結構貯まってるんでしょ?」
「甘いわ、エル!あなたと私のパートナーがどれだけ食べるのか考えなくてはダメよ!私はこの子達に飢えを感じさせるつもりはないわ!」
「リアナ、男前すぎ・・・」
「だから、帰る途中に見つけ次第お肉を狩るの!お肉は正義よ!そして手に入った魔石はお金になるわ!更に新しく入ったエレスやヴェルデの経験にもなる!正に一石三鳥よ!」
「あ、ダメだ、これスイッチ入っちゃってる・・・」
「そんなわけでいざ、出陣!!」
「ウォン!」
「キュルウ!」
こうしてヴェルデとエレスによる偵察をしながら私達は獲物を次々に狩っていき、後日、他の冒険者達があまりオークを狩れない事が続いた。
そして私達は、1日余分に時間をかけて❴ファルトの町❵に帰ってきた。


町に入る時にテイミングした魔物、従魔についての話を門番さんに聞いてみた。
「そうだな、とりあえずうちの町だとこの首輪を着けて貰って後、大銅貨を3枚余分に通行料として貰う。基本的に身分証があれば通行料はタダなんだが、従魔はたまに暴走させたりする奴がいるからな、もし万が一の保証の為でもある。後、首輪もあるけどそれはフリーパスみたいなモノで冒険者ギルドの方で発行してるから行ったら受付に聞いてみるといい。」
「なるほど、じゃあエレスとヴェルデの分で大銅貨6枚渡せばいいのね?」
この世界の貨幣は銅貨、銀貨、金貨、白金貨の順に価値が上がっていく。
更に大小の大きさに分ける事で価値の差分化を施している。
小銅貨でおおよそ100円ぐらいの価値で大が1000円。
小銀貨で10000円で、大銀貨で100000円。
小金貨が1000000円で、大金貨が10000000円という感じで0が増えていく。
白金貨の価値は一億を超えており、大小ともに正直持ち歩くモノではない。
手の平サイズのコイン一つで一億円・・・そんなものを手にしたらどんな輩が近づいて来るかわかったモノではない。
「後、そっちのウルフの子もそうだが、竜の子も狙われないようにな?バカな貴族が手を出して来るかも知れないからな・・・」
「平気よ、その時は私も安心してを出せるもの・・・」
「・・・そうか、嬢ちゃんとは対峙したくね~な、まじで・・・」
「まぁ、そうそうないと思いますけどね?リアナを怒らせるバカなんて・・・」
「一応、上司を通して上に報告して貰うから何かあれば相談してくれ、俺は嬢ちゃん達の味方だ。」
「でもこの町の領主様だって欲しがる可能性はあるんじゃないの?」
「普通の領主ならまずそういう事はしない、やるのは領主ではなく、さ、それもそういう輩程、よその土地で騒ぎを起こす。」
「領主のご家族にあたる人って事?」
「そうだ、うちの領主様のご家族はそんなことはないんだが、他の領主様の中にはそういう所もあるらしい、だから一応領主様と一回ぐらい顔合わせしておけ。」
「う~、スッゴく気が重いけどこの子達の為なら仕方ないかな?」
「そうね、いざって時に味方についてくれるのは嬉しいわね、けどもし、その領主様がをしたらこの町ごとぶっ壊すわよ?」
「それで構わないよ、俺は領主様を信じてるからな!」
「わかったわ、ギルド経由で連絡をくれると嬉しいわ、自宅を探られるのはちょっと面白くないし・・・」
「わかった、それも伝えて貰う。」
「後は何かあるかしら?」
「いや俺からはもう無いな、時間を取らせて済まない、中に入って大丈夫だ。」
「ありがと、色々気にかけてくれて」
「ありがとー、門番さん!」
「何かあったらギルドに連絡しとくから、よろしくな!」
そう言って手を振って門を通って町に入った。


そして、私達は冒険者ギルドの前に到着した。
「とりあえずヴェルデもエレスもそんなに大きくないし、中でエイラさんに相談しよっか?」
そうして中に入って受付の方に歩いていく。
「あら?あなた達、冒険者ギルドに何か用かしら?」
「低ランクの研修依頼を終わらせてきたんですけどネイラさんいますか?」
「あぁ、あなた達がネイラが担当してる期待の子達ね?ちょっと待ってて、今どうせギルマスとイチャイチャしてるだけだから呼んで来るわ。」
「えっ!?ネイラさんとギルドマスターってやっぱ関係なんですか!?」
エルがいらない所に食い付いた。
「そうよ、あの二人は元々同じパーティーを組んでいてその中でも特に息の合ったコンビって言われていたのよ。」
「ネイラさんAランクって話を聞いた事あるんですけど、ギルマスは確かBランクだってあの時言っていたような・・・」
「えぇ、ネイラが切り札であること自他ともに認めていた伝説とも言えるパーティー、焔の護り手ほむらのまもりて、ネイラの炎魔法とギルマスの盾、その二つ以外にも色々とユニークな人達が組んだパーティーだったわね。」
「ギルマスは確か怪我をして引退って・・・」
「うん、それでネイラはね、押し掛け女房やって今ここで働いているって訳・・・」
「・・・へ~、後は・・・そうだ!従魔用の首輪があるって聞いたんですけどどうなんですか?」
エルが視界に入ったネイラの表情微笑みを見て話題を変えた。
受付の人もエルの態度と背後からの威圧感で既にいる事を気づいている。
「えぇ、あるわよ!今用意するからちょっと待っててね?あっ、値段は小銀貨二枚だから用意しておいてね?」
「それは私が用意するから大丈夫よ?あなたにはちょっと話があるからちょっとこっちに来なさい?」
「えっ!?イヤだなぁ~、副マスの教え子に手なんて・・・ひぃっ!?」
「ん?どうしたのかしら?とりあえず来なさい?」
首根っこを捕まれ、奥に引き摺られて行った。
「待って!?そんなに変な事は教えてないから!?あの子達なら大丈夫だって!?だからお願い!?許して~!?・・・」
「エル?」
「はい!?」
「ネイラさんを怒らせちゃダメよ?」
「はい!以後気をつけます!」
そして、ちょっとだけ待つと、
「はい、これが従魔用の首輪よ」
ネイラさんが従魔用の首輪を持ってきてくれた。
「普通に首に着ければいいの?」
「そうよ、それは一応魔道具マジックアイテムだからサイズ調整機能が付いてるわ」
マジックアイテム魔道具、もしくはエンチャットアイテムか~」
「エルちゃんは変な所で博識よね?どこで覚えてくるの?」
「気になった事は基本的に図書館で調べますよ?」
「えっ!?」
「あら?意外ね?」
「二人ともちょっとひどくない!?」
こんなやり取りをしながらヴェルデとエレスに首輪を着ける。
「ヴェルデ、苦しくない?」
「キュルウ~♪」
「エレスも平気?」
「ワォ~ン♪」
「大型の従魔はさすがに中に入れる事は出来ないから、もし成長して大きくなったらギルドの横に従魔専用のスペースがあるから、そこで待たせてあげてね」
「ヴェルデは竜だからありそうだな~・・・」
「エレスはわかんないや・・・」
首輪を着けた所で研修依頼の報告と道中で倒したオークの魔石をギルドで換金する。
「グラスリッパーが3匹に、オークが数十匹仕留めたのはまだいいわ。あなた達が言うデカイウルフはシルバーウルフと呼ばれる魔狼よ?ランクでBの危険度を持っているのよ?」
「やっぱそれなりのランクだったんだね?」
「雑魚は私とヴェルデで仕留めたし、そいつはエルが仕留めたからね~」
「リアナだってブルーリッパーを仕留めてるじゃん!?」
「ブルーリッパーまで仕留めちゃったの?」
「うん、リアナのテンション凄かったよ~!?あまり全力を出せる相手がいないからスッゴくテンション高かった!」
「別にそこまでじゃないし!」
「それにウルフの時にリアナったら全力で走っただけで・・・」
「エル?そこまでにしよっか?」
「ひゃい!?」
「はぁ~、ランクDどころか、ランクBまで一気にやらせないと不味いわね・・・」
「そうなの?」
「まぁ、先にランクDの試験の日程を教えるわね、2週間後に試験が行われるからあなた達にはそれに参加してもらいます。」
「わかりました。」
「試験の内容はその時教えます、それまでの間は好きに過ごしていいわよ?」
「まぁ、体が鈍らない程度には依頼をやろうかな?ね、リアナ?」
「まぁ、そうね、この子達のご飯も狩らないとだし」
「いっぱい食べそうだものね~」
「実際食べるよ、ヴェルデでオーク丸一匹、エレスでも半分は食べるし・・・ひょっとして、あまり休んでられない?」
エルがこの子達の食料確保の難しさを知る。
「まぁ、今回狩ってきたオークで多少は持つと思うけどね、あっ!?ブルーリッパーとか解体しないで持ってきたけど、どこで渡せばいいですか?」
「それならあっちに解体場があるからそっちに持って行きましょう、リアナちゃんのアイテムボックスの中?」
「はい、だから痛んでませんよ」
「なら、いいわ」
そう言ってネイラさんは案内してくれた。
訓練場に向かう手前に解体場への入口があった。
「ここにあったんだ~」
「前に通った時は気づかなかったわね」
そして、解体場に入る。
「ふぇ~」
エルが間抜けな声を出す。
「ちょっと待ってね?解体長、いますか?」
「なんだ?」
そう言って前掛けをきたおじさんがこちらに来る。
「ネイラの嬢ちゃんか、何かあったか?」
「グラスリッパーとブルーリッパー、ウルフにシルバーウルフの解体をお願いしたいのだけれど・・・」
「・・・その獲物を後ろの嬢ちゃん達が狩ったのか?それにその更に後ろにいる竜と仔犬はなんだ?」
「ええ、そうよ。この子達は今年一番の期待の星よ!もうDランク試験を受けるぐらいにはね!」
ネイラさんの豊かな胸を張って自慢気答える。
「なるほどな、嬢ちゃん達、どっちがアイテムボックスを持っているのかい?」
「あ、私です」
思わず手をあげながらそう答えると、
「中身は実際どれくらいだ?」
「えっと、グラスリッパーが3匹、ブルーリッパーが1匹、ウルフが12匹、シルバーウルフが1匹で全部ですね」
「結構多いがそのぐらいなら間に合うな・・・それと嬢ちゃん、おっさんの余計なお節介になっちまうが、一応言っておく。アイテムボックスはあまり人前で使わない方がいい、特に貴族の連中の前ではな。間違いなく面倒事になるぜ?」
「大丈夫です!迷う事なくぶっ飛ばしますから!」
私がはっきりと迷う事なくそう答えると、
「・・・ネイラが肩入れする気持ちがわかるな」
「理解が出来たところで仕事に取りかかってもらってもいいかしら?」
「おう、嬢ちゃん一番デカイのを空いてる台に乗せてくれ、残りはその周りおいてくれて構わない。」
「わかりました。」
私は指示通りにブルーリッパーとシルバーウルフを空いてる台にアイテムボックスの中から出す。
「よし!それで大丈夫だ!っとそうだ、俺の名前を言ってなかったな?俺はギルドの解体長を任されているマイク・シザーだ。嬢ちゃん達なら長い付き合いなるかも知れんからよろしくな!?」
「リアナ・フレーベルです。竜の子が私のパートナーのヴェルデです。」
「キュルウ~♪」
「エル・クレバスです。仔犬のこの子が私のパートナーのエレスです。」
「ワン!」
「「よろしくお願いします。」」
「おうよ、任せな!」
「それじゃ解体長さん後はよろしくね?」
そう言ったネイラさんの後をついて行き、解体場を後にした。


「さて、とりあえずお金の方を先に渡すわ。」
受付の方に戻りネイラさんが報酬を手渡す。
「今回の仕事で小金貨2枚なんだけど、それだと使い勝手が悪いから小金貨は1枚にして残りは銀貨と銅貨に分けておいたわ。」
「ネイラさん、ありがと!」
「フフッ、いいわよこれくらい」
「じゃあ家に帰る?」
「そうね、お母さん達にこの子達を紹介しないと」
「そうなさい、それじゃ2週間後の試験を忘れないでね?」
「は~い、ネイラさんまたね~♪エレス行くよ~♪」
「アウン♪」
「ネイラさんまたお願いするね!?ヴェルデも行こ?」
「キュルウ~♪」
これでギルドでのやり取りを終えて私達は家に帰った。
家にいたお父さんが卒倒したのは言うまでもない。
お母さんとおじいちゃんは普通に平気だった。


その翌朝、とりあえずこの2週間で私がやる事は防具の修理と家の拡張である。
「とにかくこの子達のスペースを作らなきゃ!」
私だってドワーフの端くれ、家の拡張くらいは手伝える。
「もう、女の子なんだからもうちょっとおしゃれしても・・・」
「町に売ってるの、可愛くないから自分で作る!」
「そう、ならいいわ。」
「良いのか?」
私と母の会話を聞いてお父さんが首を捻る。
その後私は、まず最初に祖父の元へと向かった。
「おじいちゃん、ちょっといい?」
「どうした?リアナ?」
「鎧の代金を渡しておこうって思って、はい!」
「・・・馬鹿者、小金貨を1枚ポンポン渡すモノがあるか・・・」
祖父がため息をついた。
「エルちゃんはいいのか?」
「エルは今のところ必要ないって、とりあえず私がお洋服作るのを待ちわびてるみたい。」
「あぁ、男のワシにはわからんが何か作ったのだろう?」
「うん!」
「作りたいモノを作ってこそドワーフよ!その事に男も女もない、じゃが素材集めには危険が伴う、気をつけて行うようにな?」
「わかった、ありがと!おじいちゃん!」
私がニパッと笑うと祖父も嬉しそうに頷いた。
「鎧はワシに任せよ、今度は絶対壊れないモノを作ってみせよう!それはそれとしてリアナや、ヴェルデの事なんじゃがあの子は脱皮はしたのかえ?」
「生まれてからまだしたことはないかな?」
「ならなるべく屋内で寝かせた方がいいのう」
「何で?」
「竜の皮と鱗は最高の素材の一つだからのう、それで鎧を作ればリアナが全力を出しても応えてくれよう。」
「わかった、見つけたら持ってくるね!」
「それと部屋の拡張はギールのやつに言えば良かろう。」
「わかった、お父さんに聞いてみる!ありがとね、おじいちゃん!」
そう言って私は父の方に向かった。
「お父さん!」
「どうした、リアナ?」
「ヴェルデとエレスが中に入ってもいいようにお家改造しよ?」
「・・・いくらお父さんでもそこまで出来ないなぁ~・・・」
「えぇ~、ダメ?」
上目遣いを駆使して父に頼むと、
「うぅ、む、娘が久しぶりにおねだりに来たらなんという無茶ぶり!」
「改造用の資金もあるし、後はお父さんが頑張ってくれれば出来るんだけどな~?」
「うぅ!」
「ヴェルデとエレスだけ外で寝かせるのは可哀想だし・・・」
「むぅぅぅぅ!!」
「やっぱ家を出て、ヴェルデとエレスが一緒に暮らせる家を・・・」
「よし!わかった!お父さんが一肌脱ごう!!」
「ホント!?」
「今から知り合いの大工達を呼んでくるからそれまでに具体的にどうするか説明できるように考えておきなさい、いいね?」
「うん、わかった!お父さん、大好き!!」
「はっはッはッ!お父さんに任せなさい!」
そう言って父は家を飛び出して行った。
父が戻って来るまでに大工さん達に振る舞うお茶と茶菓子を用意する。
そして、そろそろエルが起きてくる頃なので、エルの朝食兼昼食を作る。
ヴェルデとエレスには既に臨時で作った解体場で母がオークを解体して料理したやつを食べている。
母は2匹にごはんをあげる事が出来てご満悦の様子である。
「考えてみたら昨日も親方さんには無理をお願いしちゃったのよね~、そう考えるとお昼と晩ごはんは食べさせてあげるべきよね!」
そう言って私は今、私のアイテムボックスにある使える食材を使って料理を作る。
「あら?リアナ?誰の分を作るの?」
母がヴェルデとエレスと触れ合いに満足してこちらに来た。
「昨日から親方さん達に我が儘ばっかりだから、せめてごはんだけでもって思って・・・」
「ふふっ、そうじゃあ私も手伝うから二人で作ろっか?」
「えへへ、やった!」
こうして父が頑張って説得して連れてきた親方さん達にごはんを食べてもらい、仕事を引き受けてもらった上に一週間で改装を終えた事で、親方さん達の会社はこの町では一番の腕を持った大工達だと言われるようになった。
その裏でドワーフ母子が大工達に色々と振る舞われていたが、それがどれ程美味しいかは語り継がれていない、この一言以外は。
の一言以外は誰も知らない、誰も語らなかった。
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