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第1章 冒険者デビュー編

第3部

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Dランク昇格試験まであと一週間を切った。
私とエルは現在、グリークの森で狩りの真っ最中である。
「グゥルォォォ!!」
今、目の前にいるお肉、いや魔物はファイターベアと呼ばれる独自の格闘術を使うDランクの熊の魔物である。
当然、食える熊肉である。
「もらったよ![サイレント・キル]!」
背後から隙を突いて首をエルが斬り飛ばした。
「よし!お肉ゲット!」
「キュルウ~♪」
「ウォン♪」
家の改装にほとんどのお肉を使ってしまった為ヴェルデとエレスの食糧調達と試験前の簡単な小遣い稼ぎである。
「ボアなんかも結構狩れたし、薬草類も結構見つけたから今からファルトの町に帰りましょう?」
「オッケー、それでいいよ~♪」
その後、森から出ると昼過ぎだった。
「よし!それじゃヴェルデお願いね?」
「キュルルウ!」
「やっぱ不思議だよね~」
「ワン!」
どうやらヴェルデは、自分の体の大きさをある程度自由に変える事が出来るようになったみたいである。
それこそ熊より一回りは大きいので、私とエルにエレスを乗せて飛ぶくらいは出来るようである。
だから、ヴェルデ用の鐙を作り私とエルとエレスが乗れるようにした。
後は飛んでみるだけである。
グリークの森まで試しに飛んできたが、僅か30分で森に到着した。
その時間短縮で出来た時間を利用して他にも色々と手を出す予定である。
「まずは先立つモノがないとね!」
「お洋服の開発の話?」
「そ!お母さんが頑張ってくれるって言ってたから試着はもう出来てるかも?」
「リアナの下着、可愛いよね~」
「ちょっと!外でそういう話はやめてよね!?」
「じゃ空を飛びながらしよ?ヴェルデ、はっし~ん♪」
「キュルウ~♪」
「ウォ~ン♪」
エルに言われて普通に飛び立つヴェルデ。
「それでさ、私の下着の色なんだけど・・・」
「もう!そういうのは外でしちゃダメだってば~!?」
「ウォ~ーン♪」
喋りだしたエルを宥めながらの空の旅に私は狩りよりも疲れを感じた。


町の門の傍で降りた私達は門番さんにギルドカードを見せる。
「こう、早く帰れるって良いよね~!」
エルが無防備に伸びると、
「エル、ちょっと無防備だよ?」
「何が?」
エルにはまだ周りの視線はわからないようである。
案の定、冒険者ギルドに向かう途中で、
「おう、お嬢ちゃん俺達と遊んでいこうぜぇ?」
「きっと楽しいぜ?ひへへ!?」
「わかったらとっとと・・・ブベラッ!!!?」
よくわからないチンピラに絡まれたのでとりあえず殴った。
「てめえ!?いきなり・・・ひぃ!?」
粋がろうした男にエルが無表情で剣を突きつけ、
「ちっ!?・・・アビヒャ!!?」
最後の一人も私に殴られた。
そして、私はまだ殴っていない男の前で斧を一振りする。
「ぴ!?」
「私はね、ゲスとクズと無能なバカが大ッ嫌いなの・・・」
「あ、あぁ、・・・」
私の闘気を目の当たりにしてガクガクと震えるクズに私は一言発した。
「次は?」
「あ、ひ!?・・・(ブクブク)」
ビクンビクンと泡を吹きながらのたうち回るクズを尻目に、
「行くわよ?エル、一々相手してらんないわ・・・」
「は~い」
後ろを歩くヴェルデとエレスが、
「キュ!」
「ワフ!」
汚いモノを脇に寄せた。
「もう!そんな汚いモノを触っちゃダメだってば~」
「エレスもだよ~」
私とエルはハンカチでヴェルデとエレスを綺麗にする。
「報告が終わったらまたみんなでお風呂に入りましょ?」
「お風呂に入ったらエレスはブラッシングもしよ?」
「ワォ~ン♪」
「ヴェルデは鱗を綺麗に磨いてあげるからね?」
「キュルルウ♪」
その後、事態を聞きつけチンピラを見つけた警備兵は周りの人に事情を聞き、
「バカだなぁ~、こいつら・・・よりによって竜をテイムしてるリアナちゃんに絡むとは・・・」
「ホントだよなぁ~、いつも通り後ろを歩いてたんだろ?それなのに絡みに行くとは・・・アホなのか?」
「とりあえず兵所の牢屋で一晩お泊まりだな、それよりもリアナちゃんは彼氏とかいるのか?」
「「!!?」」
3人いる兵士のうち一人がある話題を口にする。
「おまっ!?それは口にしちゃ不味いやつだろ!?」
「というかあの子はまだ成人前なんだぞ!お前は犯罪に手を染めるのか!?」
「違っ!?そうじゃね~って!?ただ、リアナちゃん自体がもうDとかCとかそういうランクの強さじゃね~だろ?だから、リアナちゃんに選ばれる男はどんな男なんだろうな?」
一生懸命に弁解する仲間の話を聞いて一考してみる。
「・・・とりあえず、生半可な男だとまず俺らが認めね~な!」
「そうだな、あの子は俺達みんなの妹だ!」
「俺の場合は娘だな、エルちゃんも少し心配になる時があるが・・・」
「「わかる!!」」
馬鹿者を引きずりながら、警備兵達はバカな話を続けて上司に怒られたのは言うまでもない。


「「くしゅん!?」」
ギルドに入った私とエルは同時にくしゃみをした。
「エル、風邪?」
「体調は特に普通だよ?リアナだって、風邪?」
「私も別に普通なのよね、誰かに噂でもされてたりして?」
「その時は是非イケメンがいいです!」
「キュルウ?」
「ワフ?」
心配そうにすり寄ってくるパートナーの頭を撫でながら、私達は受付の方に行く。
「ネイラさ~ん、お仕事終わったよ~♪」
エルが元気に副ギルドマスターのネイラさんに声をかける。
「あら?もう狩り終わったの?」
「とりあえず解体場に獲物を置いてきた方がいい?」
「私も行くわ、一緒にチェックした方が早いでしょ?」
私達は解体場の方に移動する。
「それじゃあ、この台に大物を乗せて小物は周りに置いてくれ」
今回はファイターベアと、プッシュボアをかなり狩った。
額に角が生えているウサギ、ホーンラビットも少しいた。
「全く、早いとこダンジョンに潜れるようにしないと嬢ちゃん達にすべて食べ尽くされるんじゃねぇか?」
「マイクさんそれはちょっとヒドイ・・・」
私が頬を膨らませると、
「はっはっはっ!そいつはすまねぇな!」
「ただ、実際問題ちょっと物足りないだろ?」
「まぁ、リアナが本気で戦える相手なんて基本的にいないですからね~」
「エル、何でそんなに遠くを見るの?」
「そう、エルちゃんも大変なのね?」
「ネイラさ~ん!」
「みんな、何かヒドイ!?」
ヘソを曲げた私は、お肉を少し分けて貰う事で手を打った。
「もう!みんなヒドイんだから・・・」
ちょっとだけ膨らみながらブーブー言うと、
「リアナちゃんが拗ねてるのが可愛くてね・・・今度、お姉さんの家に泊まりに来ない?」
ネイラさんはそう言って、私の顎を手で少し持ち上げて、潤んだ瞳で私を見つめる。
「あうあうあう!?」
「ネイラさん!?ストップして~!?」
頭から湯気を出しながら思考停止した私を他所にエルとネイラさんは話を進める。
「試験の日程なんだけど、3日後の朝9時の鐘がなる頃に受付に来てもらえる?」
「わかりました、エレスやヴェルデは連れて行っても大丈夫なんですか?」
「えぇ、大丈夫よ、今回は盗賊や山賊なんかの索敵調査に殲滅も入っているわ」
「了解です、じゃあ3日後にまた来ますね!」
私はどうにか再起動して、
「はっ!?ネイラさん失礼します!」
「次来たら続きをしましょ?」
「いえ!?遠慮させて下さい?!」
「もう~、昔からカッコいいお姉さんに弱いんだから!?もう行くよ~!?」
「エル?そこは引っ張っちゃダメ~!?」
そうして家に帰ってから、私達はすぐにお風呂に入った。


その翌日、私は裁縫に手を出していた。
「むぅ~、デザインと実用性と着心地を全部取り入れる事が出来たのはいいんだけど・・・」
「そうね、少し作るのが大変ね・・・何か補助する魔道具とかあればいいのだけど・・・」
全ての作業を母と二人とはいえ、手縫いでこなしていくのは中々辛い。
「私達だけの分ならまだいいのだけど・・・」
「間違いなく他にも作る羽目になるわ、その為にもどうにかしないといけないのだけど・・・」
やらないといけない事はわかるが、それをどう解消していいかがわからない。
の開発に着手するべきかな?」
ポロっと溢れた私の一言に母が食いついた。
「リアナ?そのミシンって言うのは前に言ってた前世の記憶にあるものかしら?」
「えっ?うん、こっちの世界で言うと高速で糸を縫う魔道具だよ?」
「どんな形をしているのかしら?」
そう聞いてきた母にミシンの概要を伝えると、
「それは・・・なんて画期的な!よし!お母さんがそれを作っちゃうわよ!」
「えぇ~!?」
「ドワーフの民はモノ作りの民!作れないモノなんてないわ!お父さんとおじいちゃんに相談してくるからあなたはエルちゃんの分だけ作っておきなさい!?」
どうやら母も動き出したら止まらないようだった。
その翌日にエルに作ったばっかりの下着を渡す。
「というわけで、エルはを私に着て見せて。」
「えぇ~!?ちょっと恥ずかしいんだけど!?」
「ちょっとなら大丈夫よ!?着替えから見せる必要はないし、一応付け方もあるのよ」
そう言ってエルに着心地とかを聞きながら色々とレクチャーする。
「うぅ、リアナにおっぱい見られた・・・」
「一緒にお風呂入ったりしてるんだから今更でしょ?」
「やっぱ私だけ見られるのは不公平だと思うの!?」
「私は脱がないからね!」
「えいやっ!?」
「ひゃん!?」
「今日は鎧を着けてないし、服の上からでも・・・」
「やん!?ちょっと人の胸で遊ば・・・やぁ!?」
「お!?リアナの弱点はっけ~ん♪」
「後で・・・覚えて、んぅ!?」
その日はぐったりするまでエルに纏わりつかれた。


その翌朝、Dランク昇格試験前日に私は槍を振るっていた。
「しっ!せい!えいやっ!」
これはヴェルデに乗った状態でも戦えるように考えた結果だ。
「ふぅ~、さすがに槍と斧は同時に使えないしなぁ~」
使っている槍の種類は、穂先が斧に近い形の斧槍ハルバードだ。
「ステータス」


❴リアナ・フレーベル❵❴13才❵❴レベル22❵
❴職業:竜騎士❵
❴加護・祝福:八神の寵愛❵
❴身体能力:SS❵
❴魔導能力:SS❵
❴各能力値成長率:S❵
❴身長:155メル❵
❴体重:45ガル❵
❴スリーサイズ:85・58・80❵
❴スキル・取得魔法:ステータス・魔力操作(レベル9)・剣の心得(レベル1)・槍の心得(レベル5)・斧の心得(レベル9)・盾の心得(レベル7)・治癒魔法(レベル7)・火魔法(レベル3)・水魔法(レベル3)・風魔法(レベル2)・土魔法(レベル3)・雷魔法(レベル4)・テイミング・収納魔法(レベル7)・守護魔法(レベル7)・裁縫(レベル3)・料理(レベル7)・細工(レベル2)・気配察知(レベル8)❵
❴称号:竜姫❵
❴パートナー:ヴェルデ(エメラルドグリーンドラゴン)❵


「・・・変わってる箇所がいくつかあるわね?」
そう言って私はステータスを閉じる。
「まぁいいわ、今は槍の練習をしましょ!・・・せいや!」
変わった箇所には特に触れず、私は槍を振るった。
その後ヴェルデと一緒にお風呂に入り家の中でのんびりと過ごした。
「そういえばリアナってあまり外を出歩かないよね?」
「食事中にそれを聞くの?」
「リアナは昔から外のが嫌いだからな~」
「その為だけに魔道具を作った時は流石にたまげたわい」
「料理の方にも手を出したりしてね?凄かったのよ~!?面白かったわ~!?」
母は興奮気味にそうエルに教える。
「えっ?でも前世の記憶が戻ったって話はリアナが神託の儀の時なんだよね?」
「そうよ、その前からのが嫌だったの・・・正直、自分で言うのもなんだけど、前世の記憶があろうがなかろうがあまり変わってないのよね~」
「まぁリアナはリアナって事よね!」
「エルちゃんはよくわかってるなぁ~!」
「なんか恥ずかしいからやめてよ!?」
「え~!?」
「エル、後で覚えておきなさい?こないだの事も兼ねてお返ししてあげるわ!」
「もう、年頃の女の子がをしちゃダメよ?」
「「どんな事だよ?」」
男二人が女の会話にツッコミを入れつつ賑やかに食事は進み、床に入った。


今日はDランク昇格試験当日である。
「エル?忘れ物はない?杖を忘れたとかやめてね?」
「リアナは私をどういう目で見てるのかな?」
「子供のころのあだ名がドジッ子エルちゃんなエルに・・・」
「うわぁ~!?何で知ってるの!?」
「一昨日、ウチに用があって来た時に少し、ね?」
「あう~!?お母さんのバカー!?」
「キュルル~」
「ワッフゥ~」
そんなやり取りをしながらギルドの前に到着した。
「ネイラさ~ん!」
中に入り、受付にいたネイラさんに声をかける。
「あら?来たわね二人とも、会議室でやるから2階の方に行ってもらえる?」
「うん、わかったよ~!エレス、おいで~♪」
「ワウ!」
「ヴェルデ、私達も行こ?」
「キュルウ~♪」
2階に行った私達は会議室に入る。
「失礼しま~す」
人数は私達以外だと8人いた。
「!?竜姫がなんで!?」
その中の一人が驚いた顔でこちらを見る。
「?竜姫ってリアナの事?」
「・・・知らないわよ」
そう言って私達は席に座る。
「ちっ!?こんなガキがなんでいる・・・ひっ!?」
「ギュルウ!」
「ガルルゥ!」
ケンカを売ろうとしたチンピラはヴェルデとエレスに怯んで距離を取った。
「ヴェルデ、平気よ?」
「エレスも大丈夫だからね?」
私達がそれぞれヴェルデとエレスを宥めると脇にいたあまり年が変わらなそうな二人がこちらに来た。
「あなたが竜姫、リアナ・フレーベル?」
片方の猫の獣人の女の子が私に質問する。
「確かに私がリアナ・フレーベルだけど・・・竜姫ってなに?」
もう一人のエルフの少女が答える。
「冒険者ギルドに登録して僅か1ヶ月でDランク昇格試験を受ける期待の新人って言われているわ、後、私の名前はセナ・フォレス、見ての通りのエルフ、よろしく。」
「私はアカネ・キサラギよ、いきなりごめんね?」
「私はエル・クレバスだよ!よろしくね、アスカちゃん、セナちゃん!?」
「改めて、リアナ・フレーベルよ、細かい話はこの試験が終わった時にね?」
「う~ん、既に女の魅力で負けてる気がする。」
「ドワーフの女は背が低いけど出るところ出るスタイル・・・羨ましい・・・」
「ちょっ!?」
「全員集まっているな!?」
すると大柄な男が一人入って来た。
「俺がDランク昇格試験の試験官をやるアーガスだ!お前らには、盗賊や山賊などの賊どもをかを試させてもらう!」
試験官は更に詳しく説明をする。
「今回仕留める目標の賊は、南のラール河近辺に住み着いている賊の殲滅が試験内容だ!」
「その殲滅は俺達全員でやるのか?」
「そうだ、他のやつとケンカなどしたらその場で失格だ!」
「目標についてはどこまでわかっているの?」
一人が質問した後に私は目標についての情報を求める。
「ほう、既に目標の情報を得ることを注視するか?」
「既に私とエルは一番最初の薬草を取りに行くところで、10人は倒してるわ。」
「グリークの森の南東にある岩場に出る山賊の事か?確かにここしばらく聞かなくなったな、誰か依頼で仕留めたのだと思っていたがお前らがヤったのか?」
「えぇ、襲ってきたから返り討ちにしたわ。」
「遺体は?」
「燃やした。」
「出来れば山賊等を仕留めた情報はギルドに報告してもらいたい。」
「わかったわ、次はそうする。」
試験官は周りを見渡し、
「他に何かあるか?」
と聞いた。
「無いようなので、これより互いの実力を把握する為の模擬戦を行う。全員、訓練場までついて来てくれ。」
私達は試験官の案内に従って訓練場に足を運ぶ。
「ここでそれぞれの獲物と戦い方をお互いに把握する為にこれから模擬戦を行う!何か質問とかあるか?」
「どの程度の力で戦えばいいの?」
「この後の試験に影響が出ない程度で、頼む。」
「わかったわ。」
「ちっ!余裕ぶってんじゃねえよ!」
「・・・・・」
「てめえ!?」
「やめないか!!」
さっきから絡んでくる雑魚に試験官から注意が飛ぶ。
「これから実戦に行くのに仲間割れなどするな!」
「ちっ!?」
「ねぇ?試験官さん?」
私は試験官に提案をする。
「面倒だからとりあえず彼と模擬戦をさせてもらえないかしら?」
「む!?いいのか?」
「何回も言うけど正直面倒だし、それにタダで受けてやるつもりもないわ。」
「タダでないというと?」
「私が勝ったらあなたはこの試験を受けずに辞退しなさい、私があなたに負けたらあなたの好きにするといいわ。」
私が淡々とそう告げると、
「はっ!いい度胸だ!?後で後悔するんじゃねぇぞ?」
「フフフッ!?その言葉そのまま返してあげる。」
私が楽しそうに微笑みながら告げているところをエルは遠くから眺め、
「うっわ~、あいつ死んだな・・・掃除とか手伝いたくないからあんまりバラバラにならないといいなぁ~・・・」
「バラバラってそれって心配する事なの?」
先ほどの猫の少女、アカネがエルに質問する。
「うん、リアナ既に実力だけならSランク以上だし、今は個人で戦うけどこれにヴェルデが交ざったら・・・まぁ、私は1抜けかな?」
「一番最初に負けるの?」
「一番最初に逃げるの!怒ったリアナの相手ほど損なモノはないわ!!料理は作ってもらえなくなるし、かまってもらえなくなるし!」
「なるほど、それは確かに大事・・・」
フードをとって、ふむふむと頷くエルフのセナ。
「セナちゃんもそう思ってくれるんだ!」
そう言ってセナに抱きつくエル。
「ひゃっ!?」
「・・・はぁ、なにやってんだか?」
3人の様子を遠目で眺めながら私は斧と盾を構えた。
「まだ準備が出来ないの?・・・くぁ~・・・」
だらだらと準備する雑魚1号に私は欠伸をしながら待つ。
「てめえ!?ぜってぇ後悔させてやるからな!」
「ハイハイ・・・」
「用意が出来たならそろそろ始めるぞ?それと俺からの条件追加だ、勝った方がリーダーをやれ、いいな?」
「ま、仕方ないか・・・了解よ」
「望む所だ!」
「では・・・始め!!」
その言葉とともに試合は始まった。
「とりあえず一発![迅雷脚]!」
私は轟音の一歩を刻み、相手との間合いを潰す。
?[盾打剛拳]!!」
「!?くっ!?・・・ブゲラッ!?」
剣を盾にして防ごうとしたが、盾にした剣ごと顎を砕いた。
そして、彼は空を・・・
他のメンバーの視線の先に飛んでいった雑魚1号。
「エルのパンチを防ごうとした度胸だけは評価してもいいんじゃないかな?私は五点の内の三点かな?」
エルがそんな評価を下す。
「ん~、でもあんだけ大口を叩いてこの結果はちょっとだなぁ~、見た目ちょっと良くても口調とか全然だし、私は五点の内の二点かな?」
アカネも中々辛口のようだ、早いところで私も混ざりたいと思う。
「ああいう男は女は黙ってとか意味のわかんない事を言い出す事が多々ある。将来性も感じないし、ただ世界の広さを知らないガキって感じ、よって五点の内の一点が妥当」
セナがバッサリと切り落とした所で彼は終点に到着した。
ドガァァァァァァン!!!!
彼は訓練場の壁を飛び越え、隣の建物の壁に突き刺さった。
「・・・生存は絶望的だな、とりあえず試験を続けよう!」
「・・・いいんだ!?」
「隣って何の建物だっけ?」
「確か、鍛冶屋だったはず・・・」
「あ~、確かおじいちゃんの弟子がやってるお店だったっけ・・・」
「リアナのおじいちゃんの弟子さんなんだ?確かに生存は絶望的かな?」
「?なんで?」
私が首を傾げると、エルはまるで呆れたと言いたいような目付きで、
「リアナ、おじいちゃんの弟子さん達に可愛がられてるじゃん!!それにリアナのおじいちゃんって鍛冶師だけどかなり強いってウチのお父さんとお母さんに聞いた事あるからね!?」
「え?リアナのおじいちゃんってそんなに強いの?」
「リアナのおじいちゃん、ガウス・フレーベルは神剣鍛冶師で有名だけど、鍛冶を極める為に自ら狩りや採掘なんかを行った事でも有名。」
セナがおじいちゃんの伝説の一つを例えにあげる。
「セナちゃん、結構詳しいね?」
私がそう問うと、
「前から一度話して見たかった・・・」
耳の先まで真っ赤にして、顔をフードで隠した。
「このセナちゃんはすごい可愛い!?」
私は思わずセナに抱きつく。
「ひゃっ!?」
「・・・もう、いいか?」
試験官が呆れた目付きでこちらを見ていた。
「オホンッ!、それでは残りの者達も模擬戦を行う、まずはエル・クレバス!」
「あっ、はーい!」
「続いて、アカネ・キサラギ!」
「はい!」
「では、両名ともに前へ!」
二人は真ん中に出て距離を取り、構える。
「用意はいいようだな?では、始め!!」
合図とともに二人は動き出した。
「まずは小手調べ、[サンダー・ブリット]!」
雷の弾をアスカは難なく避けた。
「次はこっちの番![影縫い]!」
「へっ!?きゃっ!?」
エルが急に動けなくなった。
「うぅ、この!?・・・あっ!?」
「ふふっ、私の勝ちでいい?」
その目の前にアカネが武器をエルに向けて立っていた。
「うぅ~、参りました・・・」
「ふふっ、ごめんね?エルちゃん?」
そう言いながらアカネはエルの影に短剣のような武器を抜く。
「わわっ!?あ、動ける!・・・アカネちゃん!?」
「?エルちゃん、どうした・・・ひゃあ!?」
エルがアカネに抱きついた。
「凄いね!?今のどうやったの!?」
キラキラした笑顔でアカネを問いつめるエル。
「あそこはあのままにして次行くぞ~!次はセナ・フォレス!」
「は~い」
「相手は魔導師、グリス・モリガン!」
「はい!」
猫のようにじゃれあう二人を放置して、試験官は次の組を言い渡す。
「まぁ、ボチボチ行ってこようかな?」
「エルフの魔法、見せてもらうね?」
「一応、期待に応えれるように頑張ってくるよ」
マイペースにセナは前に歩いていった。
「では、双方ともに準備を」
「いいよ」
「こちらも問題ありません!」
「では・・・始め!!」
今度の試合は双方ともに動かず、魔法の詠唱から入った。
「炎よ、槍となりて敵を貫け![フレア・ランス]!」
複数の炎の槍がセナに向かって放たれる。
「水よ護って![アクア・ウォール]」
セナの前に大きな水の壁が出来て、相手の魔法を防ぐ、そしてそのまま
「水よ、数多の蛟となりて敵を縛りて喰らえ![ウォーター・ファング]!」
無数の水の蛇になって相手を捕縛し、
「ひっ!?」
「そこまで!!」
噛みつこうとした所で終了した。
「んっ、まぁまずまず、かな?」
水の蛇を消して、先ほどの試合を思案するセナに今度は私が
「うりゃ~♪」
「きゃっ!?」
「セナちゃん凄いね!?」
エルフのセナは背が高くてモデルのようなスタイルをしている。
私の身長だと、セナの胸に顔を当てる事になる。
アカネはエルと同じくらいの身長だが、エルよりはスタイルがいい。
「べ、別にそんな事ないから!?」
セナがわたわたとしながら喋る。
「わ~、セナが動揺してる~♪」
アカネが良いものが見れたと微笑めば、
「うわぁ、セナちゃん細い、いいなぁ~」
エルが羨望の眼差しを向ける。
きゃいきゃいと私達が女の交流を続けているうちに、全員での手合わせが終わった。
「まったく、一応これも試験の一部なのだが?」
「「「「すいません」」」」
試験官の一言に四人揃って頭を下げた。


模擬戦が終わり、また会議室に戻り今後の日程と試験内容が伝えられる。
「リーダーは最初に伝えた通りリアナにする、何か意見があるやつはいるか?」
「普通のパーティーリーダーと同じでいいの?」
私がそう質問すると、
「あぁ、それで構わない。」
「わかったわ」
「他にはいるかね?」
「彼女の指示を無視した場合は?」
「結果が出ればいいが、最悪逃がす事になった場合は罰則が加わる。」
「具体的には?」
「一年間ランク昇格を見送るなどだ。罰金もある。」
「・・・わかった。」
「他にいるか?」
試験官が見回し他には質問がないことを確認して、
「では、実地試験には明日の早朝、朝7つの鐘がなる頃に南門に集合し出発する。その際に馬車を運用してもらうのでそのあたりもリーダーの指示で動いてもらう。」
私は再び手を上げる。
「どの辺りまで移動するのかしら?」
「ファルトの町から南東から東に進み、竜鉄山脈の南側の辺りまで行く。」
「移動にどれくらいの時間がかかる予定なの?」
「片道5日に山賊の捜査と討伐に2日で全部で12日くらいだな。」
「賊を殺せるか、要は悪党を殺せるかを見る為の試験みたいだけどに指定はあるの?」
「今回のターゲットになっている山賊はかなりの規模となっている。その為事になっている。」
「了解したわ、他には特に質問はないわ。」
「そうか、後はいるか?」
皆じっと試験官の一言を待っている。
「特にないようなので、今日はこれで解散、各自準備を怠らないようにな!」
そう言われてみんな退室していく。
その中で私はエルと二人で仲良くなったばかりの二人に声をかける。
「アカネとセナはどこに泊まってるの?」
私がそう切り出すと、
「南西区画にある宿だよ?ただまた泊まるかは、今考え中」
「安い宿にしては、そこそこ綺麗だし悪くないと思う。ただお風呂ないし、ベッド硬いし、ご飯も微妙・・・」
「じゃあさ!じゃあさ!私みたいにリアナの家に来ない?リアナの家大きいから多分大丈夫だと思うよ!?」
「エル、それ私が言うことじゃない?」
「あとあと、お風呂もあるし、リアナのお母さんの料理スッゴく美味しいよ!?」
その時私は、二人が唾を飲む音を確かに聞いた。
「えっと、リアナちゃんいいの?」
「いいわよ、ウチは特にエルフとかそういう差別がある家じゃないから」
私がそう言うと、
「じゃあ、宿に荷物を取りに行くからちょっと待ってて!?」
「持ってくるだけだからそんなにかからないから!?」
二人とも走って荷物を取りに行った。
「あっ、今アカネに鳥が止まった」
エルがそんな事を言い出して、
「ヴェルデがいるんだから、鳥が1羽いても今更じゃない?」
「それもそっか」
私はエルにここで二人を待って家まで連れて来てもらうように言う。
「一応、準備したいから私は先に戻るからエルは案内の方をよろしくね?」
「オッケー、ご飯は盛り盛りでよろしく~♪」
「ハイハイ、ヴェルデ行くよ?」
「キュルウ~♪」
そう言って私は一人先に家に帰った。


家に帰った私はまず母に新しく出来た友達が来ることを伝えた。
「エルちゃん以外に気を許さないリアナが他の友達を作って連れてきてくれるなんて!」
「お母さん、それちょっと失礼・・・」
母のあんまりな一言にじとっとした目付きでこちらも一言、文句を言った。
「お母さん張り切っちゃうわよ~♪」
「私の部屋の隣使わせてあげてもいい?」
「いいわよ~、軽く掃除してあげて♪」
「は~い」
お父さんが顔をひょっこりだして、
「どうした?」
「リアナが新しいお友達を連れてくるって♪」
「あ、お父さん、もしその子達とパーティー組んだらまた頼むと思うからお願いね?」
「お、おう・・・ちゃんと貯金しとけよ?お父さんのお小遣いはそんなに無いんだからな?」
「大丈夫、いっぱい狩るから!」
「そ、そうか・・・」
私は自分の部屋の隣にある客間に入る。
「あの鳥さんが止まる所があった方がいいかな?」
掃除もそこそこに空気の入れ換えもして、アカネの従魔の事を思い出す。
「おじいちゃ~ん、ちょっといい?」
「どうした?リアナ?」
「鳥型の従魔が止まりやすい枝みたいなのを作れない?今日泊まりに来る友達の従魔がね、鳥型の従魔みたいだから」
「あぁ、あの枝みたいな奴な、わかった用意しよう!」
「流石!ありがとう、おじいちゃん!」
私は祖父にお礼を言って、再び居間に戻って来ると、
「リアナ~、帰ったよ~♪」
「お邪魔しま~す」
「あらあらあら?」
セナとアカネが母にロックオンされていた。
「あなた達が娘の新しいお友達?」
そう質問されてセナが、
「初めまして、エルフのセナ・フォレスです。」
少し緊張気味に自己紹介をすると、
「あら?エルフの子は珍しいわね?でも大歓迎よ、ウチははないの、相手が喧嘩を売ってこない限り(ボソッ)」
やはり昔エルフ関係で何かしらあったようだ。
「そのひょっとして、エルフのの事を知ってます?」
セナが意味深な事を質問すると、
「えぇ、冒険者をしている時に少し、ね・・・でもあなたみたいな可愛い子は大歓迎よ♪」
「ひゃっ!?」
「あ~、お母さんも抱きつくんだ~」
「そういえばアカネにまだ抱きついてないね?えいやっ♪」
「ひゃあ!?こ、こらぁ!?」
「もう~、リアナもリールおばさんも早く部屋に案内してあげなよ~!?」
珍しくエルがまともな事を言った。
「リアナ?なんか失礼な事を考えてない?」
「そんな、事、ないよ?」
そんな私の答えを聞いて、
「むぅ~!?」
エルの頬っぺたは凄く膨らんだ。
「プッ、フフフフフ!?」
「フフッ、アハハハハ!?」
それを見てセナとアカネは笑い出してしまいへそを曲げたエルのご機嫌も取ることになった。
二人が荷物を部屋に置いた後、早速ご飯となった。
「「うわぁ~!?」」
並びに並んだ料理の数に貴族でもあるかどうかというレベルであの短時間で用意しまくった我が母に感心してしまう。
「お母さん、あの短時間でどうやって?」
「今のお母さんに料理に関する事で不可能はないわ!」
「ついにその領域に辿り着きおったか・・・」
おじいちゃんがしみじみとそう呟き、
「おめでとう、リール」
お父さんが賛辞を送って、
「どういう事?リアナ?」
「お母さんの料理スキルのレベルがMAXに達したんだと思う。」
「それ、お城の料理人とかより凄いんじゃ・・・」
「正真正銘、ここでしか食べられない神飯かみめし?」
神飯かみめし、言い得て妙ね・・・」
私達はテーブルの上で輝きを放つ皿達を見つめる。
「「「「美味しそう~」」」」
私達は神飯の時しんぱんのときを待つ。
「ふふっ、待たせたわね?じゃあじっくりと味わって食べてね?」
「「「「いただきます!」」」」
その一時を表すには、私の語呂に乏しい言葉では上手く表現できないが、ただ一言で表せば、幸せの一言に尽きた。


あれだけあった料理やご飯を悉く平らげ、私達はお風呂で幸せの余韻に浸っていた。
「リールおばさんのご飯、凄く美味しかった~♪」
エルが湯船に寄りかかりながら、今日の幸せを反芻していた。
「私じゃまだあんなのは作れないなぁ~」
「いや、リアナの料理もかなり美味しいからね?私なんてどんなに頑張っても微妙な味にしかならないのに・・・」
エルが私の一言に反論して、
「確かに、私もセナも料理するけどあそこまでの料理は作れないよ~」
「うん、正に神飯かみめしだった。」
「ふふっ、気にいってくれて嬉しいわ♪」
すると普通に母が入ってきた。
「もう~、普通に入ってきすぎ!?」
「良いじゃない、新しい娘達とお母さんだってお話したいのよ?」
母は体と頭を洗い出す。
「リールさん、相変わらずのスタイルよね・・・」
「うぅ、羨ましい・・・私ももうちょっとあればなぁ~・・・」
「アカネはまだある方だと思う、私も少し憧れる・・・」
するとみんなの目線がこっちを向いた。
「な、何!?」
「リアナ、また大きくなった?」
「リアナちゃん、まだ成長してるんだ?」
「えいっ!?」
「ひゃあ!?セナちゃん?!」
セナは私の胸を鷲掴みにして、
「羨ましいから少し分けて?」
「やん!?で、出来ないから!?ひゃあ!?エル!?アカネちゃんまで!?やぁ!?そこはらめ~!?」
私は三人の魔の手から身を守れず、最終的には母を巻き込んで事なきを得た。
お風呂から上がった後、寝る前に、
「ねぇねぇ、ギルドカードを見せっこしよ?」
エルがそんな事を言い出した。
「ん、いいよ」
「はい、これ」
二人が見せてくれたので、私とエルも取り出して見せる。


❴アカネ・キサラギ❵❴14才❵❴女性❵
❴レベル14❵❴職業:くノ一見習い❵
❴ランクE❵


❴セナ・フォレス❵❴158才❵❴女性❵
❴レベル20❵❴職業:フォレストハンター❵
❴ランクE❵


「セナちゃん凄い年上だった」
「タメ口聞いてごめんなさい」
「やめて、普通でいいから」
「エルフって良いよね~、年取っても変わらないし、女の子の憧れだよね~」
私とエルがセナが凄い年上なのを知って驚き、
アカネがセナの肌をプニプニする。
「私と同じ宿にいたのに、この肌の質感、嫉妬を禁じ得ないわ」
「アカネのしっぽもふわふわだから、手触りすべすべ」
「ふにゃ!?ちょっ!?」
「うわ~、私も触りたい!?」
「エル、いきま~す!?」
「にゃぁぁぁ!?」
そして、騒がしく一晩明けて。


昨晩リフレッシュした私達は朝7つの鐘がなる前に南門に着いていた。
「私のアイテムボックスにみんなの荷物を積めたけど他の子達はどうするのかな?」
「ん~、どうにかするんじゃない?」
「あまりお節介もいいもんじゃないよ?」
「ん、クズほど調子に乗られると面倒、取捨選択は大事」
みんなの辛辣な意見を聞いて、
「お?いいとこにいた?」
意味のわかんない男が声をかけてきた。
「なぁ~、リーダーちゃんさぁ~お願いがあるんだけど俺の荷物をアイテムボックスに入れてくれない?」
前髪を手で靡かせながらこの上ないくらいウザイ口調で話かけてきた。
「目的地と日程と試験内容がわかってんだからそこを考慮して荷物を持ってきなさいよ!?」
「いやぁ~、今回はリーダーちゃんが入るわけじゃん?なら適当に・・・ひぃ!?」
「それ以上口を開くと叩き斬るわよ?」
ふざけた事を言い出したので、彼の首に斧を当てる。
「今回は仕事はみんなのを担う試験!あなただけのモノじゃないってわかる?」
首を立てにガクガクと動かす彼に、私は言葉を続ける。
「ましてや、今回の討伐目標の規模はかなりの規模なると試験官は言っていたわよね?なら最低限生き残る為の備えをするって言うのが普通じゃない?」
私はこの上ないくらい冷たい瞳で彼を見つめる。
「それをただ、私が全てをやればいいと押し付けるのであれば、私はあなたをこの場で切り捨てるわよ?」
余りにもイラついた事で私の殺気が滲み出ると、
「ひっ!?ひぃ!?」
と漏らしたので、
「試験官、彼は失格でいい?」
「そうだな、このまま連れて行くのは危険だな、置いていこう。」
雑魚2号に失格を言い渡された。
「そういう訳で、お前は帰っていいぞ」
試験官にそう言い渡されて愕然としながら自分浅慮で持ってきた荷物を引きずって帰っていった。
「他は大丈夫なようだな?」
いつの間にか、他のメンバーも揃ったようだ。
「馬車は3台用意してある、ここから先はリーダーの指示に従って動いてくれ」
「はぁ、了解よ」
そして、私は馬車を見る。
「?ひょっとして馬車は私達が動かす必要はないのかしら?」
馬車の手綱を手に御者を務めてくれる人が三人いるようだ。
「あぁ、今回の試験はいつもに比べればかなりの遠出になるからな、だから今回従魔の同行も許可している。」
「なら、交代で警戒をする人を各馬車に一人ずつ配置しましょう。」
私は全員の顔を見渡して問う。
「とりあえず野営の経験の有無、はみんなあるでしょうから、そう言ったスキルがある人は何人いるかしら?手を上げてもらっていい?」
すると私とエル、アカネとセナを含めた6人が手を上げた。
「?お前らはそんなスキルを持ってるのか?」
メンバーの一人が疑問を呈すると、
「私は気配察知のスキルがあるわ、それに従魔のヴェルデがいるから下手な人よりは強力よ?エルもウルフのエレスがいるから人並み以上でしょうね。」
そう言って、私は彼を見据える。
「エルフでハンターのセナやくノ一であるアカネは言わずもがな、それのどこが疑問なの?」
「い、いやその・・・」
男はまごまごしながら、
「く、くノ一って何だ?」
「・・・・・・」
その瞬間、確かに時が止まった。
「・・・まず私達が住むファルトの町が所属する国、それが❴エクレール王国❵そこは良いわよね?この国の東にある隣国が❴ヤマト帝国❵、その国の忍びと呼ばれる情報収集や潜入調査などの仕事をする人達がいるそうよ。その忍びの男性が忍者、女性はくノ一と呼ばれるらしいわ。」
私が詳しく説明すると、
「な、なるほど、じゃあ今回の仕事だと・・・」
「えぇ、正に適任でしょうね、山賊どもの規模もわからないしね。後は何かある?」
「い、いや、もうない・・・その、説明してくれてありがとう。」
「そこまで礼を言われる事じゃないわ、リーダーとしての務めを果たしただけよ。」
私はもう一度周りを見渡して口を開く、
「さて、他に質問は無いかしら?なければ出発するけど」
皆はこちらを見るだけなので、
「無いようね、では見張りの順番を決めましょう。」
そう言って簡単に見張りの順番を決める。
「先頭の馬車に私とエル、真ん中の馬車にはあなた達二人が、一番後ろの馬車はアカネとセナが見張りを務めてもらうわ。」
そして、残り二人には一番前と一番後ろの馬車に乗ってもらうことにした。
「えっとあなたはグリス、だったかしら?」
「あぁ、かの竜姫と同じ馬車に乗れるなんて光栄だな」
グリスはそう口にすると、
「はぁ、その渾名はやめてちょうだい。私、お姫様なんて柄じゃないし・・・」
「あぁ、模擬戦を見て俺もそう思った!」
「どういう意味かしら?」
「ぷっ、クスクス」
エルがそんなやり取りに吹き出した。
「エル~!?」
「フフフッ、ゴメンゴメン!?」
「ぷっ、君たちは本当に仲がいいんだな?」
「もう!?ふふっ」
私達はひとしきり笑い、
「さぁ、出発よ!」
山賊どもを蹴散らしに出発した。


遠征は順調で当初5日かけて竜鉄山脈の南まで来る予定だったのを3日で移動していた。
「もう竜鉄山脈の南まで移動したみたいね。」
私はヴェルデに乗って下を確認していた。
「さすがにまだ仕掛けては来ないか・・・」
まだ山賊どもの姿は見えていないが、
「何かおかしいのよね~、妙に遠いし、試験官の人もちょっと胡散臭いし・・・」
そもそもの話、
「竜鉄山脈の南での山賊の被害ならもっとギルドに話が来ていてもおかしくはないはず・・・」
考えるが答えは出ず、
「とりあえず、不意討ちとには気をつけておきましょうか。」
そう言って私はヴェルデとみんながいるところへ戻った。
私がみんなの所に戻ると、日が大分傾いていた。
「あぁ、もう野営の準備を始めているのね」
「あっ、リアナ~」
エルがこっちに気づいて歩いてくる。
「どうだった?」
「さすがに影も見当たらないわ・・・」
肩をすくめながら、私はエルにそう答えると
「ならやっぱり山の中に入らないといけないか?」
グリスがその後を歩いてきた。
「そうね、それしかないと思うわ。ただ・・・」
「ただ?」
「色々と腑に落ちない点がいくつかあるのよね~」
私がそう言うと、
「まぁ、俺も昔からファルトの町に住んでるからちょっとけどな・・・」
「?何の事?」
「それは、火の番をしてる時にでもね?今はご飯の支度をしましょ?」
「そうだな、俺はリアナのご飯を今しか食えないし!」
「むむ!?」
妙な反応をしたエルを放置して私は料理の支度に入る。
「エル?さすがにこの人数の分を一人じゃ厳しいから手伝って~」
「あ、うん、わかった~・・・やっぱり料理は出来た方がいいのかな?戻ったらリーアおばさんに教えてもらお!」
「ん?」
グリスにブツブツと独り言を言いながら歩いて行くところ見られながら、エルはリアナの方へ歩いていった。
晩ごはんも終わり、結界を張って見張りをそれぞれの馬車のグループごとに立てる。
「真ん中は色々とキツいわよね・・・くぁ~」
「もう~リアナ、人前ではしたないよ~」
「気持ちは分かるけどな、ふぁ~・・・欠伸が移った。」
グリスが欠伸しながら、話を切り出す。
「それで?どんな違和感を感じてるんだ?」
「とりあえず御者の人って今回の遠征に必要?たまに一人いない時ない?」
私にそう言われて、
「確かに、飯の時とかあまり見かけないよな、試験官とは割と話をしている所を見てるけど、それ以外に話をしているのを全然見ないな・・・」
私はもう1つの疑問点を問う。
「竜鉄山脈に山賊がいる話なんて私は聞いた事が無いんだけど、それも疑問なのよね。」
「ん?あ~、いや?まさか?ん~?でもこれなら・・・」
「どうしたの?グリス?」
エルがブツブツと言い出したグリスに話しかけると、
「相手は、盗賊や山賊では無い可能性もある。」
「盗賊や山賊でも無いのに拠点を作るなんて、はっきり言って相当特殊よ?」
「だろうな・・・」
グリスは私の言葉を肯定する。
「つまり、盗賊でも山賊でも無くて、御者の人達みたいな人達と一緒に行かなくちゃならなくて、尚且つに拠点を作らないといけない人がいるって事?」
「あぁ、その条件でいいと思う。」
グリスは首肯しながら、自分の考えをまとめている。
「なるほどね、そうなると・・・」
私は月を見て、自分達と次のグループの交代時間である事を確認して、
知ってそうな人に聞くのが一番かな?」
東の国の衣服、着物を着ている少女に私は問いかけた。
「アカネ、何か知らない?」
「・・・リアナ」
「別に責めるつもりはないの、ただこのままだとかなり危険で死人が出る可能性が高いから・・・」
どんな些細な事でもいいから教えて欲しい、そう切り出そうとしたら、
「わかった、協力する。」
アカネはそう言って私達同様、焚き火の傍に座った。
「多分私の故郷のヤマト帝国の間者が入ってるんだと思う。」
「アカネがヤマト帝国の生まれなのにこっちの国エクレール王国に来てる理由と関係あるの?」
「えぇ、おいで?」
木々の間から赤色の羽を纏った一羽の鳥がアカネの肩に降り立った。
「この子は、アスカ・・・聖獣“朱雀”の子どもよ・・・」
「ヤマト帝国にいる4匹の守護獣、そのうちの一匹でいいのかな?」
エルが珍しく知識を披露する。
「聖獣の子どもが、そう簡単に国外に出るわけ無いわ、どういった理由なの?」
「簡単に言うと、濡れ衣が発端かな・・・」
「それってどういう?」
「私の家のキサラギ家は、サクラギ家という宗家の分家にあたるのだけれど、祖父の代から私のキサラギ家の方が手柄を立てるようになってしまったの・・・」
そう言いながらアカネは、肩に止まっているアスカを膝の上に抱いて撫でる。
「そして、私の父も手柄とか取っちゃったんだけどそれ以上に不味かったのが、聖獣“朱雀”に気に入られてしまったの・・・」
「聖獣に気に入られると何かあるのかい?」
グリスがそう問うと、
「そもそも私の一族自体が聖獣“朱雀”のパートナーだったの、でもここ数百年近く朱雀に認められる人はずっといなかった。」
アカネは悲しそうに、
「そう、私達の一族ね」
と続けた。
「私達の一族は影の一族、いち早く危険を察知して帝にお知らせするのが、我が一族の使命・・・だけど、いつの間にか私達の一族は権力に目が眩んでいて、それに固執するようになっていた。そのため聖獣様が私達に愛想を尽きたんでしょう、誰も選ばれなかったのが証拠だわ。」
アカネは自らの一族の歴史を語る。
「その腐敗に満ちた歴史を変えたのが、お爺様とお父様、そこに幼子の私までもが聖獣“朱雀”に気に入られて、卵を或いは朱雀様本人が手を貸してくださる状況に宗家の人達は焦ったのでしょうね・・・」
「クルル・・・」
アスカがアカネを気遣うように少し鳴いた。
「お爺様が天命を全うして、少ししたら宗家の人達は暴挙に出たの、それは私達家族、キサラギ家が国家転覆を企んでいると・・・」
当時の状況を思いだし、恨めしいのだろう唇を噛みしめアカネが語る。
「そして、その時まだ卵から孵ったばかりのこの子を狙ったものだとお父様は気づいたわ。」
再びアカネはアスカの頭を撫でる。
「もしこの子が、アスカが奴らの手に渡ったりしたら、この子はその場で死に絶える・・・その瞬間聖獣“朱雀”は人にとっての災厄になるでしょう、お父様はその事を危惧して自らを囮にして私を逃がしたわ。」
泣きそうな顔でアカネは続きを語る。
「その時ここよりも南にあるエルフの森の近くまで逃げたの、セナと会ったのはその時で私はまだ9才だったからセナに頼んで匿ってもらってたの」
「で、もうすぐ15才になるし、そろそろ向こうの様子を探ろうと思ってこの町に来た」
急に声がしたので振り向くとセナが立っていた。
「起きたのね、でももうちょっと早く声をかけても良かったんじゃない?」
私がそう問うと、
「アカネの家がどういうものか、私も聞いた事はなかったし、私は追われて逃げて来たしか知らない・・・」
ジロッとアカネを見るセナに気づいてエルは苦笑を浮かべて、
「アカネを責めちゃダメだよ?セナちゃん」
「・・・私はアカネを妹のように感じているのに、最初に話したのがのリアナ、この状況で嫉妬するなという方が無理」
「あ、ここでエルフとドワーフを持ってくるんだ・・・」
エルが呆れて、私の方を見ると私は肩を竦める事しか出来なかった。
「今度ウチでお風呂に入った時にでもすればいいんじゃない?」
いくらでも貸すわよ?そう付け加えると、
「あうあうあう~!?」
「あらあら?」
アカネは顔を真っ赤にして、セナは美しく笑みを浮かべてその提案を飲み込んだ。
「ふぅ、グリス君もいるんだからあまり過激な事は言うものじゃないよ?」
ポニーテールにした銀髪が特徴の美少女剣士が焚き火の傍に来た。
「アルフェリア様も来ましたか、お加減はどうですか?」
私がそう問いかけると、
「体調は良好だ、ただ君の家のお風呂に興味が尽きないよ、これでも女だからね。後、敬称は要らないよ、畏まった言い回しも無用でお願いできるかな?リアナ?私の事はアルと呼んでくれ」
「わかったわ、アル。この仕事が終わったらもちろんあなたもウチに招待するわ!」
私とアルの気安いやり取りにグリスが、
「王女様に何でそんなに気安いんだ?」
と頭を抱える。
「まぁ、初対面ではないもの、昔、何回か様と一緒に来ていたもの」
「あぁ、あれは懐かしい話だ。母専用の剣を打って貰う為についていった時の話だったね」
「エルも一緒だったわね~」
「ホントだよ、後でお母さん達に話をしたら大騒ぎだったんだからね!」
「ふふっ、その光景はなんとも見てみたかったかな?」
「アル様~!?私にリアナと同じ事を求められても無理ですからね!?」
「クスクス、わかってるよ」
、ウチの国最強の王族親子と知り合いとかリアナの周りってどうなってるんだ?」
そうグリスが呻く。
そう、彼女はアルフェリア・エクレール、我がエクレール王国の第一王女である。
ただ王族でありながら普通に冒険者としてあちこちを旅している。

王女アルフェリアは本来であれば、いつの日にか説明したように聖教教会が貴族、王族用の学校も運営している学校に通わなければならないのだが、その学校の授業を好成績を叩き出す事で授業をある程度免除してもらいあちこちを旅しているようだ。
「友達の顔を見に行くのにこれ程都合がいい事は無いからね」
「でも正直アルがDランクって違和感しかない」
アルが嬉しい事を言うが、それよりもアルの強さを知っている私としてはあるのランクが気になる。
「ランクはホントだよ?王都の周りは基本的に暇なんだ、我が国の騎士団、警備軍は優秀だからね、暇があると他の領地の査察にまで手を出してしまう有能ぶりだよ・・・ただ、たまに母上がストレスの発散に一個大隊規模の魔物をで仕留めてしまうのも理由なんだがね・・・」
「アル様、その光景を見たの?」
アルは遠くを見るように、
「あぁ、あんなに暴れているのに衣服は汚れず、顔色変えずに魔物だけが減っていく・・・さすが母上と心の底から思ったよ」
「確かに王妃様なら殺りかねないわね~、アルのお母さんだけあって強い相手を求めまくってるし・・・」
私がそう同意すると、
「ちょっと待ってリアナ、確かに母上は強い相手を求めているけど、私はそこまで酷くないぞ!?せめて結婚するなら私よりも強い・・・のが・・・あっ!?」
アルを除いた、この場にいた女の子全員が笑顔になったのは言うまでもなく、あれこれと質問しようとしたら、
「危ない!?」
何かが煌めき、いち早く察したグリスが警戒を発した。
「「わかってるよ!」」
私とアルは二人で飛んできたものを叩き落とす。
私は一振りでまとめて吹き飛ばし、アルは剣を素早く振るい的確に落とした。
「さっすが~!?」
「リアナもすごいけどアル様の剣も速い・・・」
「!?みんな気をつけて!?」
エルが当然と声をあげれば、セナがアルの剣の腕に感心を示す。
そんななか、周囲を警戒していたアカネが警告を告げる。
「ふむ、奇襲は無意味だったか・・・本当に忌々しい小娘どもだ」
東の戦闘服、忍び装束に身を包みのアーガスがゆっくりと影から出てきた。
「貴様らは既に包囲している大人しくその朱雀の子どもをこちらに・・・何!?」
「ギュルルウア!!」
ヴェルデがいきなり[エア・ブラスト風の咆哮]を放った。
「っく!?」
アーガスは間一髪でそれを避けたがその奥にいた二人を吹き飛ばした。
「ウォォォォォ~ン!!」
「ひぎゃあ!?」
「あぎぃ!?」
すると遠吠えが聞こえてくると同時に奴らと同じ服装の男が二人馬車の影から出てきた。
極めつけが、
「アスカ!!やってしまいなさい!!」
「ピュオォォ~!!」
朱雀のアスカがアカネの腕から飛び上がり周囲の森を焼き払った。
「うわぁぁぁあ!?」
森に隠れていた者達は慌てて私達の前に出てきた、その数は敵の頭を含めて11人。
出てこなかった奴等は、
「ぎゃ!?・・・!?!?」
悲鳴もあげる事も出来ずに燃え尽きた。
「ぐ!?バカな!?」
炎が消えると木々が燃え尽きて広くなった広場で私は宣言した。
「殲滅開始!生け捕りは考えても仕方ないわ!片っ端から蹴散らすわよ!」
「オッケー、リアナ!エル!いっきま~す!」
私の宣言エルが真っ先に答えて、
「[バインド・ランサー]!からの~エレス![ランブル・ダッシュ]!」
「ワオ~ン!!」
3人固まっていた所にエルは動きを阻害する魔法を使い、エレスが牙と爪で切り裂いた。
「ぎゃあああ!?」
更にそこにグリスが、
それは太古より現れし炎、邪悪を滅しめっし希望を照らし新たなる生をなさん![フェニックス・ブレイズ]!!」
鳳の形をした炎が止めを刺しにいった。
止めを刺された者達は骨すら残さず灰になり、
「せめてその罪を浄化し世を清めん!」
魂は天へと還った。

アカネとセナも3人の所に狙いを定めて、
「アスカ、空から陽動して!行くわよ![忍法 風炎華の術]!!」
アスカが空から炎の羽を飛ばして、敵を足止めする。
その隙にアカネが術を炸裂させた。
炎を纏った旋風を浴びせ、動けない所を
「見えた![スナイプ・ヘッドショット]三連射!!」
セナの弓が頭を捉え、
「せめて苦しまないで死んで?」
死神の笑みを浮かべた。

残りは5人、私とアルで真っ直ぐに突っ込んで行った。
「まずは一人!」
「ふふっ、こっちは二人だ!」
「逃がさないわよ~!?二人目!」
抵抗という抵抗も出来ずに白刃の餌食になっていく部下達を見てアーガスは気が狂いそうだった。
「バカな!?何だその動きは!?何でそんな簡単に人を殺せる!?貴様らはまだEランクだろう!?」
「何でって悪党を殺すのに理由がいるの?」
私がそう言うと、
「少なくとも私達のを苦しめた罪は重い!」
アルはアーガスに剣を向けてこう言った。
「しかも我が国の許可もなくこのような行いをやるというは、わかっているのだろうね?」
「ひっ!?」
「貴君の首は私が確実に奴等に送り届けよう、アカネ君を狙うサクラギ家にも責任をとってもらう為にもね」
「く、くそっ!?」
逃げようとするクズを私は逃がさない、周り込み立ちはだかる。
「私の友人を苦しませる人に容赦はしないわ。」
「黙れぇ!?・・・ひぎ!?」
「[天断蒼月斧]!!」
私の闘気を斧に纏わせ蒼く輝く斬光を残しながら縦真っ二つに絶ち斬った。
「己が罪を地獄で数えなさい!」
こうして悪党を殲滅して、私達のDランク昇格試験は色々と特殊な形で幕を閉じた。


あの戦闘の後、私達6人とヴェルデ達3匹は馬車が壊れてしまった為、徒歩でファルトの町に帰ることになった。
「うぅ~、ゴメンね?」
「いいのよ、別に」
私がアカネに気にしてないと伝えると、
「そうそう、こういう時のリアナは凄く頼もしいだから大丈夫だって、アカネは気にしなくていいんだよ?」
エルが意味の通じない励ましを口にして、
「エル、多分そういう事じゃないと思うよ?」
「アル様に同意、まぁアカネも気にしすぎは良くない」
アルとセナがエルの発言を訂正して励ましていた。
「セナの言う通りだよな、まぁリアナの事だから食材や素材関係を見つけたらあげたらいいんじゃないか?」
そして最後にグリスが私が喜ぶポイントを押した。
「へぇ?」
「フムフム」
「むむぅ・・・」
「えっと、リアナ?それでいいの?」
「え?えぇ、だってそっちの方が元気出るでしょ?」
アルが感心した顔をして、セナは理解を示した表情をして、エルは何かと闘って苦戦するような表情をした。
そんな3人に気づかず、私とアカネはグリスの提案を検証してオッケーを出した。
「それじゃ、くノ一の真価を見せちゃうからね!アスカ、行くよ!」
そう言ってアカネは従魔とともに偵察に出た。


結論から言うと、アカネの本気は凄まじかった。
魔物を片っ端から引き連れてきて、私達が狩るというルーチンが完全に成り立っていた。
「結構狩ったね?」
エルがアイテムボックスに収納している私を見ながらポツリと呟く。
「そうね、デッドスネークにマンドリーツリーにレッドブル、パニッシャーポークまでもういいでしょ」
私はアイテムボックスの中身を確認しながら、
「アカネ?獲物はもう充分だからファルトの町に帰ろ?」
「え?あ、うんわかった!役に立てたかな?」
「これで役にたってなかったら嘘になるよ・・・」
私がアカネに一声かけて、アカネが恐縮そうに言うとグリスが呆れたようにそう呟いた。
「まぁ、リアナのご飯がより美味しくなるからオケー!」
セナが少しテンションを高めにアカネを褒めて、
「それじゃ、そろそろ真っ直ぐ帰ろう!」
アルが号令を出して私達は歩きだした。


ファルトの町まであと半日、時間はお昼頃でそろそろ準備しようかと考え始めた頃、事が起きた。
いや、正確にはではなく
そう、馬車が盗賊に襲われていたのである。
「みんな、私が先に行くわ!ヴェルデ!」
私はみんなに先行すると伝えて、ヴェルデの背に飛び乗って、いつもの盾と斧をアイテムボックスにしまい、槍を一振り取り出した。
「さぁて、特訓の成果を見せるわよ!」
「キュオォォ!」
「エレス!撹乱して!」
「アスカ!!妨害しなさい!!」
私とヴェルデに続くようにエレスとアスカに指示を出すエルとアカネ。
「さぁ、私達も走るよ!」
「この距離なら私に
アルが前へと駆け出すと、エルは手頃な木の上に登り、
「見えた![ロングスナイプ・ソニックショット]!!」
ボッ!!!
空を駆けるヴェルデよりも速く、セナの放った矢は盗賊の頭を撃ち抜いた。
「な、なんだぁ!?」
「ひ、ひぃ!?」
見える範囲にいる盗賊はおよそ12人、その内の一人の頭をセナの矢が撃ち抜いた。
だがこのままでは今度は私が間に合わない、こちらに気づく前にもう一撃与えたい。
そう考えた私はヴェルデにこう頼んだ。
「ヴェルデ!!」
「!キュルルウ!」
私は上に飛び、ヴェルデは勢いを殺さずにしっぽを横に振るった。
私はヴェルデのしっぽを足の裏で受け、流星の如く空を駆けた。
「てぇぇぇりゃぁぁぁぁぁ!!!」
私は槍を振り上げ、
「[流星竜牙槍]!」
横一文字に槍を振るった。
その瞬間、一番手前にいた盗賊5人の首が上に飛んだ。
遅れて吹き出る血飛沫に盗賊達は、
「ひ、ヒィィィィィ!?」
「に、にげ・・・」
「ギュルア~!」
「ピュオ~!」
大分近い位置まで近づいてきたが、それでもまだ遠いヴェルデとアスカが遠距離から攻撃を放った。
「ぎゃ!?」
「ひぎ!?」
それによりまた二人地獄へと堕ちた。
そして私は馬車に一番近い位置にいる盗賊に突撃し、
「[無双疾風槍]!」
「ぎっ!?」
風の速さで突きを繰り出し、盗賊の体に風穴を開けた。
返り血で馬車が少し汚れたが気にする事も無いだろう。
「ヒィィィィィ!?」
一人は森の中に逃げ、もう一人は、
「死ねぇ!!・・・!?」
無謀にも私に向かってきたが、セナの狙撃により頭が吹っ飛んだ。
そして、逃げた一人は、
「ぎゃあああ!?」
回り込んだエレスにより八つ裂きにされたようだ。
「はぁ、さすがに間に合わなかったか・・・」
盗賊を全員仕留めた頃にアル達が馬車の傍に到着した。
馬車はアルとエルに任せる事にした。
「何で私?」
エルはしきりに首を捻っていたがそれでもアルの後ろに控えていた。
「我々はファルトの町で冒険者をやっている者達です。私はアルフェリアと申します。どうやら貴族に連なるお方なご様子、もしファルトの町まで行くのであれば私達とともに行きませんか?」
アルのその言葉に馬車の中から、
「その声は、本当にアルフェリア様なのですか?」
と声が響き、馬車の扉が少し開いた。
「・・・あぁ!?本物のアルフェリア様でしたのですね!よかった、護衛の方々に裏切られた時にはもうダメかと思いました」
「?護衛に裏切られた?」
後ろにいるエルが首を捻る。
馬車の中から出てきたのはな感じのお嬢様だった。
「その顔は確かファルト伯の娘のラミスだったかな?」
「!?覚えていて下さったのですか!?」
アルがそう言い当てると、お嬢様はとても感激したように目を潤ませる。
「しかし、裏切られたとは穏やかでは無いね。だが、このままここで状況を確認しても仕方ない、このままファルトの町まで行き領主であるレアード・ファルト伯の所まで貴女を送って行こう。」
アルがエスコートの誘いをラミスにすると、
「まぁ!でしたらどうかよろしくお願いいたします。」
ラミスはそれを快諾した。
「という訳でリアナ、馬の代わりにヴェルデの力を借りられないかい?」
その後クルッとこっちを向き無茶ぶりをしてきた。
「馬が無いのにそんな事を言ってどうするのかと思えばこっちに丸投げするのね・・・」
アルの提案に呆れつつ、
「普通に走るなら行った方が早いわ」
私はアイテムボックスから太い綱のようなワイヤーを取り出した。
「一応、しゃべっておくけどこの馬車しばらくは使い物にならなくなるからそこは覚えておいてね?」
「わかりましたわ」
ラミスは首肯して私にやらかす許可を出した。
「ヴェルデ、大きくなって?」
さっきまで虎と同じくらいの大きさのヴェルデが今度は馬車よりも大きくなる。
「よしよし、鐙の自動調整機能も良好ね!」
私は自作した魔道具が正常に作動しているのを確認して、
「とりあえず、狭いかもしれないけどエルとエレス以外は馬車の中に入ってちょうだい?」
私が何をしようとしてるか察したアルとセナの顔の色が変わる。
「リアナ、もうちょっと大丈夫か試して欲しい・・・」
「そうだよリアナ、私達が大丈夫でも伯爵令嬢の彼女が耐えられないと思う」
アルとセナが顔を青くして穏やかに私を諫めようとするが、
「あのワイヤーならヴェルデのブレスでも千切れないし、エルの魔法でも燃えないのよ?硬度強化の魔法付与もしてあるし・・・その分凄く重いけどね」
リアナは呆れた顔で、3人の顔を見て、
「はい、そんなわけで諦めて馬車に乗る!」
「うぅ、こんなことになるとは・・・」
「もっと早く気づいていれば・・・」
「アル様、後で責任をとってもらいますね?」
私がそう言って馬車に乗るように言うと、ラミスとお付きのメイドが先に乗り、その後をアル、セナ、アカネの順に恨めしそうに一言、言いながら馬車の中に入っていった。
エルはエレスを抱っこしてヴェルデに既に乗っており、準備は万全だ。
「さて、とりあえずぐるぐると巻いて適当に結んでヴェルデに持ってもらいましょ」
私は馬車が落ちないようにしっかりとワイヤーを巻いてヴェルデにワイヤーの綱を前足の両方に一本ずつ握らせる。
「よし、ヴェルデ少しだけ持ち上げて見て?」
「キュルウ」
ヴェルデが高度をあげると馬車も浮いた。
「問題なさそうね!、よっ!っと」
私はその場で高くジャンプし、
「[迅雷天駆]」
空中で後2回ジャンプしてヴェルデの上に着地する。
私は鐙に座り、
「なんだかんだで時間を食ったわね、ヴェルデ手加減してあげなさい?」
「キュルウ~?」
「口から戻したモノを片すのは面倒だわ」
「確かに・・・」
「ワウン!」
すると、聞こえていたのか
「ちょっと待って!!今すごい不穏な言葉が聞こえたんどけど!?」
「安全第一、安全第一でお願いします!?」
アカネとセナが大声を出す。
「よし、それじゃ主発!」
「キュルウ!」
私はそれをスルーしてヴェルデを飛ばせた。
甲高い悲鳴とともにヴェルデは空を飛んだ。
飛んでいた時間は10分にも満たなかったが、それでもアル達が立てなくなるには充分な時間だったが誰も口から戻す事はなく、乙女の尊厳は死守したようだった。
グリスだけが目を輝かせ、外の景色に目を奪われていて子供のようにはしゃいでいたのは後にアカネやセナから聞いた。
更には、到着した時に門番の人達を慌てさせたのは言うまでもない。
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