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第2章 第一回ダンジョンアタック編
第2部
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アルの剣が完成した翌日、私は他のパーティーメンバーと手分けをして買い物に来ていた。
「後、何か買い忘れとか無い?」
私がエルに聞いて、
「平気だと思うけど・・・セナとアカネはどう?」
エルがセナとアカネに話を振り、
「調理器具は買ったし、食材はまた後日だし・・・着替えも買ったし、ポーションとかの薬関係もバッチリ買ったよ?後何かある?」
アカネが真面目に答えて、
「確かに着替えは買ったけど下着は・・・」
セナがボケを入れて、
「何故今日は俺を呼んだのか!?」
グリスのツッコミが入り、
「良いじゃないか?役得だろう?」
アルがニヤッとしながらグリスを弄る。
「流石に下着を買ってる所をグリスに見せるわけにはいかないな~、エルならいいかも知れないけど?」
「良くないからね!?」
私がアルのネタに乗り、軽やかにエルが止めに入った。
「いいよね~、彼氏がいるやつは・・・爆発しちゃえばいいのに(ボソッ)」
「どんまい(親指グッ)」
アカネがダークサイドに堕ちて、セナがいい笑顔で親指を立てる。
「セナはエルフで行き遅れはまだまだ先だもんねぇ~!?」
「あ、アカネ?落ち着いて?やんッ!?」
アカネに襲われるセナを眺めながらグリスが、
「カオスだな~」
そして、アルが
「でも平和だよ?」
この光景に平和を見いだしていた、解せぬ。
その次の日、アルは自らが通う学校を飛び級して卒業するべく西のアカデミー領へ向かった。
「リアナ、アル様はどれくらいで帰って来るの?」
エルの問いに私は、
「多分、行きに1日、手続きに1日、帰りに1日じゃないかしら?アルの事だからゴリ押ししてすぐに戻ってくるわ。」
私の答えを聞いたアカネが
「えっ!?そんなに簡単に飛び級して卒業できるの?」
驚くアカネにセナが冷静に、
「アルの事だから、どんな事をしてもすぐに帰って来ると思う。王族の力を使ってでも・・・」
「あ~、ありえるな・・・て言うかアルアル。」
最後にグリスが微妙に困るボケを披露した。
「だから、それまでは日帰りで浅く探索してある程度の感覚を掴みに行きましょ?みんな、初めてのダンジョンだし。」
私がそう締め括ると、
「オッケー、リアナに任せるよ!」
エルは親指を立てて了承の意を伝え、
「私も特にはないよ」
「一切問題無し(キリッ)」
自然体でアカネは返事を返して、セナ何故かキメ顔を極めていた。
「さて、どこからツッコミを入れるべきか・・・あっ、俺も特には問題無いからな!」
セナのキメ顔に一言申したいグリスが最後に私に特に問題無いことを伝えた。
「それじゃ明日から探索を開始するわよ!」
「「「「おおっ!!」」」」
こうして、アルが戻って来るまでの間に探索をする事が決まった。
探索当日、私達はまず冒険者ギルドを訪れて情報を得ることにした。
「ネイラさん、おはよう!」
「おはよ~、ネイラさん!」
「おはようございます、ネイラさん。」
「お~っす」
「セナ・・・その挨拶は気が抜ける・・・」
私、エル、アカネ、セナの順でネイラさんに挨拶して最後のセナの挨拶にグリスがツッコミを入れた。
「みんな、おはよう。グリス君もおはよう!」
「お、おう、おはようネイラさん。」
みんなに挨拶を返した後、一人挨拶をしていないグリスにネイラさんが視線を真っ直ぐグリスに向けて挨拶する。
ネイラさんの魅力によろめいたグリスがたどたどしく挨拶を返して、それを見たエルが、
「む~!?グリス君どこ見てるの!?」
「ちょっ、エル!?」
「私だって、成長してるんだから私のを見てよ!?」
「いや、何を言ってんの?!」
グリスにタックルをかまして、抱きついていた。
「中々の踏み込みね、エルはまた腕を上げたようね。」
「砂糖吐きそうだから他でやって欲しいんだけど・・・家の中でもずっとイチャイチャイチャイチャしてるし」
「アカネ、意外と嫉妬深いね。そろそろ親指をこうするべき?」
「セナちゃん、女の子がそういう事しちゃダメよ?」
犬か猫のように絡む二人を眺めながら、私達は思い思いの事を口にする。
一方、酒場の方では、
「もげちまえ~!?」
「おい!?落ち着けって!?」
「誰だ?セナちゃんにあんな事を教えた奴は?」
「さぁな~、セナちゃんエルフだし、何処かで教えてもらっていてもおかしく無いんじゃね?」
「アカネちゃんはヤンデレなのか?」
「しっ!?おいやめろよ!?聞こえたらどうすんだ!?あの目はヤバいぞ!?」
「やべっ!?こっち見た!?」
中々臨場感があるハイライトを見せていた。
「まぁ、あの二人は置いといて、今日は初のダンジョンアタックだから色々と情報の確認をしたいんだけど、ネイラさん何かギルドの方に情報とか来てないかな?」
未だに戯れる二人を放置して、私はネイラさんにダンジョンの情報を問い合わせる。
「グリューデン大深緑地帯の情報は特に更新はされてないわね。採取系の依頼が幾つかきてるから、それをリストにして渡しておくわね。」
ネイラさんが気を利かせておいしい話をくれる。
「正式に依頼を受けた事にはならないからもしかしたら、依頼をこなした事にはならないかもだけどその場合はちゃんとギルドで素材を引き取るから安心してちょうだい。」
「一応、貢献度と素材の売却金は貰えるんでしょ?」
「それはもちろんよ、リアナちゃんならそっちの方が稼げるかもね?」
「それはこんもり持って帰って来てもオーケー?」
「モチ、オッケーよ(ハートキラッ!?)」
「イヤン!?ネイラお姉ちゃん大好き!(ギュっ!?)」
等というやり取りを私とネイラさんでしていると、
「ね、ネイラお姉ちゃんだとぉ~!?」
「流石は姐さん!いい仕事してますぜ!?」
「い、いつか俺もお兄ちゃんと・・・」
「アウト~!?兵士さんこいつです!?」
今日も酒場は盛況で、その光景にアカネが、
「今日もカオスだね~」
呟き、そしてセナが、
「だがそれがいい(キリッ)」
受け入れ、最後にグリスが、
「いいのかよ!?」
ツッコミを入れて幕を閉じた。
冒険者ギルドを出て、私達はそのままグリューデンのダンジョンに足を向けた。
街の門から出る時に門番さんが最近、魔物の動きが妙だとダンジョンに入った冒険者たちから話を聞いていると教えてくれた。
「どう思う?」
「さっきの話?」
私がまずエルに話を振って、
「妙ってだけだと、気をつけようがないと思いますよ?」
アカネがそう意見をだし、
「見敵必殺で大丈夫だと思う。」
「確かに・・・」
セナがもっともな事を言って、私が納得した所で、
「いや、納得すんなよ!?」
グリスが冷静にツッコミを入れた。
「とにかく、今日は下見なんだからって油断せずに行くぞ。」
その後にグリスが注意を諭して、
「うん、オッケー!」
エルだけが元気に返事をした。
「な、何で私だけ?ここはみんなで一言いう所じゃないの?」
エルは、自分だけしか反応しなかった事に困惑して、
「いいなぁ~、私も彼氏が欲しいな~」
アカネが物凄く羨ましい事を口にして、
「エルの好感度はバッチリ上昇、デートの掴みは完璧、今夜はお楽しみですか?」
セナが爆弾を投下して、
「その場合、部屋の掃除は自分達でしてね?」
今さらなので私はアッサリと流した。
「これから、ダンジョンに入るのにそんなのするわけ無いでしょう!?」
エルが顔を真っ赤にして怒り出す。
「つ~か、部屋の掃除って・・・」
グリスが呆れた視線を私の方に向ける。
「コイツら、出歯亀する気満々だな・・・親友でも容赦無し・・・」
「私は別にそんな事しないし・・・」
私は意識的に目を逸らしてそう答え、
「の、覗かないよ?き、興味ある訳じゃないから!?」
顔を少し赤くしながらアカネが目を泳がせ、
「一切合切すべてバッチリ納める所存です!」
セナが何故か気合い十分に答えた。
「そんな事させるかぁ~!!て言うか、そういうのはまだしないから!?」
顔を真っ赤にして頭から湯気を発しながらエルが私達3人を怒って止めようとするが、
「「「ほほう、まだ・・・ね?」」」
と3人同じ反応を返した事に
「もぉ~!?知らない!!グリス君、行こ!!」
エルが完全にヘソを曲げてグリスと先に歩いて行った。
「まだ、そこまで進んでないみたいね?」
私がアカネとセナにそう呟くと、
「リアナちゃん、そろそろやめてあげなよ~」
「アカネも結構ノリノリだった。」
「の、ノリノリどころか、ぶっ飛んでるセナには言われたくな~い!?」
アカネとセナがそれぞれ擦り付けつつ漫才を始めたが、
「さすがに、そろそろ行かないと今日は帰って来れなくなるからここまでにしてそろそろ行きましょ?」
「は~い」
「うむ」
私はそれを止めてアカネとセナと共にエルに謝りながら二人を追いかけた。
道中で出てきたオークやゴブリンを屠りつつ、グリューデンのダンジョンにたどり着いた私達はまずは、ダンジョンの前に構えてあるファルト領軍の駐屯地を訪れた。
「すいませ~ん、ダンジョンに潜りたいんですけど~、どなたか手続きをお願いしま~す」
「はいよ、ちょっと待ってな!」
筋肉ムキムキなおっちゃんに受付をしてもらい、ダンジョンアタックをするための通行手形を発行してもらった。
「この手形は入る時に必要でな、ダンジョンの前にも兵士が立ってるからそいつらに見せてやってくれ。で、この手形の使用期限は大体3ヶ月で切れるようになっているが、あくまでこれはダンジョンに入るために必要な物であって、出る時に必要はないからもし何らかのトラブルでダンジョンから出るのが遅れたとしても、安心してダンジョンから脱出してくれ。」
兵士さん(ムキムキ)が手形について細かく説明してくれる。
「ダンジョンに3ヶ月も潜ったりするの?」
私が疑問に思うと、
「未攻略のダンジョンだとそれくらいは普通にかかったりするらしいよ?只、ここのダンジョンは既に何回か攻略されているし、冒険者たちも浅い層には常にいるような感じだから流石に3ヶ月も潜ることは無いと思う。」
エルがまたどこで得た知識かわからない知識を披露する。
「え、エル?だ、大丈夫?」
「どういう意味!?」
「エルちゃん、朝にお腹が減りすぎて何か拾い食いした?」
「ちょっと!?私はそこまで食いしん坊じゃないから!?」
「飢えたエルは危険度増大、とにかくリアナに絡みついておねだりを繰り返す、そのまま放置すると野生化してしまうかも?」
「しないし!?て言うか絡む相手が何でリアナなの!?」
「汝、自分の今までの行いを思い返すべし・・・」
「グリス君まで!?しかもどこかの神父みたいになってる!?」
いつもコメディを止めに入るグレイまでがボケに回りこの流れを止める人がいなくなった。
そして、
「いいもん、私はどーせアホの子ですよ~っだ!?」
エルがイジケた。
「「「あ~!?グリスがエルを泣かせた~!?」」」
「おれのせいかよ!?」
私達の責任転嫁にグレイが生け贄に捧げられた。
「グリスまでこっちに回ったらダメじゃん!?」
「何でだよ!?お前いつもボケに回ってツッコミを入れるのは大変なんだからな!?」
「だからだよ~、エルちゃんはいつもグリス君とツッコミ漫才をしたいんだよ?」
「いやいや、なんだ?ツッコミ漫才って!?そこは普通夫婦漫才だろ・・・あっ!?」
「うむ、ゴチである!大義であった!!」
「何てこった!?アカネとセナに嵌められるなんて・・・」
「「どういう意味よ!?」」
「やれやれ、話が進まないわね~」
「「「「自分一人だけ無関係なふりをするな!?」」」」
私は一人だけ難を逃れようとしたが、逃げれずに終わった。
「とりあえずグリス君、後でどこかに連れて行ってね?」
エルが普通にグリスに話かける。
「わかったよ、じゃ、アル様が帰って来るまでに一回どこか行こうぜ?」
グレイが何でもないようにエルに答える。
そして、その光景を見ていたアカネが、
「リア充が・・・爆散すればいいのに・・・ケッ!?」
闇に取り憑かれていた。
その光景を私とセナが両手を擦りながら呟いた。
「「ナムナム・・・」」
そんな事もありながら、ようやくダンジョンの中に入った。
「入り口が限られてる以外はただの森みたいね?」
私はダンジョンの入り口の中に入ってすぐの所にある広場のような場所を見渡して呟いた。
「グリューデンのダンジョンは森型のダンジョンだからね、奥深くに進む形のダンジョン構造になってるみたいだよ。」
エルがまたもや知識を披露する。
「エルちゃんが真面目だとボケにくいよ~」
「いや、ボケなくていいから!?」
「残念無念・・・また明日(キラッ)」
「明日もやるのか・・・」
「やらんでいいし!?」
アカネ、セナのボケにエルとグリスの夫婦ツッコミが炸裂する。
「ほら、もうここからはダンジョンの中なんだからね?真面目にやりなさい?」
普段は率先しておふざけをする私がみんなを嗜める。
「はいは~い、じゃ昨日の夜の打ち合わせ通りあたしとセナで前を歩くからね!?」
「私とアカネにお任せ(シュピーン!)」
手を上げて元気に返事をするアカネの横でまん丸なお月様が幻視出来そうなポーズをとるセナが斥候役で索敵と罠のサーチを担う。
「私とグリス君が真ん中ね?」
「おう、任せとけ!」
そして、意外に器用な立ち回りを得意とするエルと遠距離からの魔法を得意とするグレイが隊の真ん中に配置して、
「私は背後からの奇襲に気をつけるわ」
私は隊の一番後ろについて、背後からの奇襲を警戒する。
基本的にこのメンバーだと私が積極的に攻撃しなくても大丈夫なぐらい攻撃力が有り余っている。
けど、その反面、防御力はかなり薄く私を抜かすと魔法剣士のエルが一番防御力がある事になるため、私が背後に回り援護に行きやすい形としてこの順番になった。
「とにかく、初のダンジョンアタックなんだから気をつけて行きましょう!」
「「「「おぉ~!!」」」」
みんなに声をかけて私達はダンジョンの中に潜っていった。
第一フロアは特に罠もなく、たまにゴブリンが2匹か3匹歩いているぐらいだった。
「さすがに入ったばっかりの所だとこんなものか~、みんなどう思う?」
私はもう1つ先に進むかみんなに意見を聞くと、
「私はリアナの判断に任せるよ~」
エルは私に判断を委ね、
「あたしはもう少し進みたいな、罠も全然無いし手応えをもうちょっと見てみたい」
アカネはあまりの手応えのなさにもう少し自分の腕を確かめたいと申し出て、
「このままだと今日はボウズになってしまう、せめて食べれる魔獣を狩ろう!?」
セナは目が血走っていた。
「やれやれ、セナが飢えている。もう少し進んでいいんじゃないか?」
グリスがその様子を眺めながら、進む方に1票入れた。
「よし!じゃああと一フロアだけ進んで見ましょ?」
「「オーケー!」」
「りょ!」
「なんだ、その返事は・・・」
私達はもう少し奥へ進む事にした。
第二フロアは第一フロアよりも魔獣や魔物の気配が少し多かった。
「そういえば、魔物と魔獣の違いって何?」
アカネがそう呟くと、
「後天的に体内に魔石が出来たのが魔物、先天的に体内に魔石があるのが魔獣ってなってると思ったよ?」
エルがスラッと答えた。
「だけど、そもそもそういうのを細かく観察していくのは現状ではほぼ不可能に近い、だから結局の所、世間ではどっちも一緒って事になってる。」
それにグリスが補足を付ける。
「グリスはともかく・・・」
「セナちゃん?疲れてるなら揉んであげよっか?」
「いや、大丈夫、まだ疲れてないよ!?元気元気!?」
「ところで今・・・」
「あっ!?オークがゴブリンを引き連れてこっちに来るよ!?」
セナが定番の一言を言おうとして、エルから黒いモノが吹き出した途端に、セナは一生懸命にヘイトをオーク達に移るように誘導したが、
「よし!終わったらセナちゃんを揉む!!」
などと断言してエルはオークに向かって走って行った。
「何を?て言うかどこを・・・?」
グリスがその様子を見ながら首を捻り、
「男の子が知るモノでも見るモノでも無いわ、気にしたらダメよ?」
私がグリスに気にするなと告げた。
戦闘は少しテンションが低いセナの一手から始まった。
「[一矢豪雷弾]!!」
雷を纏った矢がゴブリンを3匹まとめて蹂躙する。
「私は中二病の救世主・・・」
「セナ!?それなんのポージング!?て言うか戦闘中にボケるのやめて!?」
アカネがセナにツッコミをいれながらゴブリンに接敵する。
「キサラギ流忍武術、[影狼]!!」
狼のように跳びはねながら分身して幻惑し、攻撃の気配を読ませずにゴブリン首を刈り取った。
そこから更に、
「キサラギ流忍法、[陽炎の術]!!」
敵の傍に移動したアカネは、更に忍法を駆使して再び分身する。
そして、
「ギャアアアァァァァ!!?」
誤って分身を攻撃したゴブリンが燃え尽きた。
敵のヘイトは今はアカネに向いており、アカネの忍法に二の足を踏んだ敵どもに更に攻撃が降りかかる。
「[サンダー・ランス]!!」
「[フレア・ランサー]!!」
極太の雷の槍がエルから、細かい炎の槍がグリスから放たれる。
「ギギャアアァァァ!??」
これによりゴブリンは掃討され、
「ブルシャァァッ!?」
残ったのはお肉(オーク)になった。
そして、みんなが暴れてる時に私が何にもしてない訳はなく、
「はい、お疲れ様!」
私がオークの視界の外から一気に間合いに入り自前の斧でオークの首を斬り飛ばした。
悲鳴を上げることなくオークは物言わぬお肉となった。
「悲しいけどこれ、戦争なのよね・・・」
「いや、リアナ、これ多分弱いものイジメ・・・」
私の一言にエルが待ったをかける。
「そうだな、弱肉強食の方がいいと思うぞ?向こうは攻撃すらしていない・・・」
グリスもエルの一言に1票を上げた。
「そんな事より、オークを回収してこの辺りをもう少し散策しようよ!?」
アカネが先に進む事を諭して、
「そろそろいい時間、切りのいいところで終わらないとここで一晩野宿になる。」
セナもそろそろいい時間だとこちらに伝える。
「じゃあ次のフロアの通路を見つけても進まないで戻りましょう?」
私達は今後の方針を改めて確認して、索敵しようとした時、
「・・・あっ!?」
「ストップ!?そこに何か!?・・・キャアァ!?」
私が歩き出した先にトラップがあり、みんなを巻き込んで私達は光と共にその場から消失した。
光が収まると私達は先程とは別の場所にいた。
「これってひょっとして転移トラップ?」
「多分ね、リアナ、アウト~!!」
ポツリと呟いた所にいつの間にか横にいたエルが答えてくれた。
「うわ~、森型のダンジョンで転移トラップは無いよ~!?無い無い、どっち行っていいかまったくわからないし・・・」
アカネが変なテンションでウンウン唸っていた。
「まぁ、なんとかなる(キリッ)」
セナがアカネに変顔をして、
「頼もしいな、本当に・・・」
グリスが呆れていた。
「うわぁ~、やっちゃった・・・みんな、ゴメ~ン!?」
事態を把握した私はみんなに謝る。
「うわぁ~、すごいボリューム・・・」
「アレは私達に対する嫌味?嫌味なの?」
「おのれ、ドワーフ族め!?」
エル、アカネ、セナがよくわからない事を言って、グリスは、
「・・・・・」
「あう、ひょっとして怒ってる?」
何故か背中を向けていた。
「いや、怒ってないから平気だよ、それよりどうやって脱出するか考えようぜ?」
顔を少し赤くしながらこちらにそう言って、その背中を何故かエルが睨んでいた。
「???」
私はその様子を見て首を傾げた。
とにかく私達は進む事にした。
食べても大丈夫な物は積極的に回収して食糧と水の確保を第一とする。
1番はとにかく水が重要だと思われがちだが、それはとにもかくにも生き残ることのみに重点を置いた場合だ。
魔物や魔獣が闊歩するダンジョンでそんな甘えは許されない。
弱肉強食の定義に基づいて、トラップに引っ掛かってしまった負い目もあった私は修羅になった。
「敵・・・敵はどこ?大人しく出てきなさい?」
「リアナ~!?正気に戻って~!?ヴェルデちゃん!お願い!!」
「キュウゥン?キュルウ!(ペロペロ)」
「ひゃん!?ヴェルデ?!耳はダメだから~!?やん!?」
ヴェルデに顔をペロペロされて私は力が抜けた。
「ヴェルデちゃん、あの子、恐ろしい子・・・」
アカネが戦慄して、
「うむ、怒ってるリアナが大人しくなった。・・・ちょっとエロい(ボソッ)」
セナが更なる不穏な一言を小さな声で言った。
「??セナ、何か言ったか?」
よく聞こえなかったグリスがセナに問いかける。
「ん、何でもない。」
グリスの問いかけを誤魔化してセナは先を見る。
「これで4フロアぐらい移動した?」
アカネが周囲を確認しながら、トラップがないか確認する。
「今日はここまでだな。ここなら休憩をとっても大丈夫だろ?」
辺りを確認しながらグリスも私に問いかける。
「そうね、なら結界を張っておくわ。・・・とびっきり強力なやつを・・・」
グリスに答えている途中で私の瞳から光が消える。
「ヒィっ!?リアナ、大丈夫だからね?」
「クゥ~ン?」
「キュルキュウ!」
「ピュイ?」
エレスとヴェルデとアスカの3匹が仲良く雑談している横でエルが必死で私を宥める。
私達は野営の準備を終えて、食事の準備に取りかかる。
「とりあえずお昼に狩ったオークのお肉と干し野菜のスープにパンにお肉の串焼きにしようかな?」
「いーと思います!」
「お手伝いなら任せて!」
「アイムハングリー・・・」
「セナ・・・手伝う気は・・・いや、俺が悪かった。リアナ、俺も手伝うぞ?」
エルがテンションアゲアゲで賛成に1票入れて、アカネが手伝いを申し出て、セナが腹ペコを主張し、グリスがそれに呆れて私に手伝いを申し出た。
食事の準備は筒がなく終えて、お待ちかねのお食事タイムに突入すると、
「はぐっ!!はぐっ!!」
「バクッ!!モグモグ、うま!!」
「ズズッ!!はぁ、幸せ~!!」
「・・・おかわり」
みんな一心不乱に食事を食べていて、その光景は鬼気迫るモノだった。
「もう、みんなもう少しゆっくり食べないと・・・ほら、エル?はい、お水。おかわりは一杯あるから、まだ焦らなくても大丈夫よ?」
喉に詰まらせたエルに水を差し出して、私はヴェルデ達の方を見る。
「キュルウ♪」
「ワッフ♪」
「ピュルル♪」
前からいる2匹はともかくアスカも何でも食べる事が出来る。
それでも、オーク3匹半があっさりと消えた。
「オークがいたら積極的に狩りましょう、後はダンジョンらしくドロップアイテムを狙って狩れば野菜や調味料とかも手に入るでしょうからね。」
みんなに軽く今後の方針を打ち出すと、
「「「「イエス、マム!!」」」」
何故か軍隊のような返事が返ってきた。
食事を終えて、皆で見張りの順番を決める。
「リアナは一番最後の見張りでいいと思います!」
「「「異議なし!!」」」
エルの主張から私の見張りの順番があっさりと決まった。
「後は私達がやるから、リアナは休んでて?」
エルが私を甘やかしてくる。
「うぅ~、エル~」
「ちょっ!?リアナ、落ち着いて?むぐっ!?~!?」
私はついついエルをぎゅっと抱き締めてしまった。
「うわぁ~、エルの顔が埋まってるよ!?」
「くっ!?流石はドワーフ族!?」
「いや、助けてやれよ・・・」
驚いた表情をするアカネと悔しそうな表情のセナにエルを助けるようにグリスが言うと、
「あ、アレ?」
「あっ、エルが動かなくなっちゃった・・・」
「救助急げ!?」
「ラジャ!」
こうしてエルの見張る順番は私の前からになった。
翌朝、寝る前に些細な問題があったものの何事もなく朝を迎えた私達は再び移動を開始する。
「今日は結構獲物が多いね?」
先程倒した狼の魔物から出たドロップアイテムを拾いながらエルは私に問いかける。
「以外とかなり深い場所に飛ばされて、奥の方に進んでる可能性はあるな。」
グリスが状況からの推測を喋る。
「でもどのみちダンジョンは一回攻略するんだし、いいんじゃない?」
「間違いなくアルがイジケル・・・」
アカネがもっともな事を言って、セナが忘れていた事を思い出させる。
「あ~、またアルと組手地獄かぁ~・・・」
私は遠い目をしながらそう呟く。
「まぁ、今回は仕方ないよ私も付き合うからリアナ、元気出して?」
「エルゥ~!」
エルが昨日から優しいから惚れそう・・・
「ストップ!?今それやられたら・・・キャ~!?」
そんなじゃれあいを眺めながら、
「いいの?エル、リアナに取られちゃうよ?」
「いや、あの中に混じるのは無理だ・・・」
「リアナのモノは大きいからくんずほぐれつを希望する。」
「希望すんな!?」
私とエルのじゃれあいを見ながらグリスとアカネとセナが話をしていた。
あれから更に5フロアを攻略した。
道中、アカネとセナの索敵と罠の解除がスムーズに行われ、何も問題なく進んで行くと、
「これは扉?」
そう言って私は目の前の扉らしきモノを観察する。
「多分エリアボスの扉だと思うんだけど・・・」
「スイッチあったよ~」
アカネが扉のスイッチを見つけ、みんなで相談を始める。
「どうしよっか?」
私はみんなに意見を求める。
「時間は正直微妙だよね~、暗くなってきたし・・・」
エルは辺りを見渡しながら判断材料の一つを上げる。
「でもここはいわゆる中間地点だからここのエリアボスを仕留めればダンジョンから脱出出来ますよ?」
アカネはこのダンジョンから現在の目的が達成できる状況であることを意見する。
「どんなボスも結局瞬殺な気がする、予想通りに余裕ならこのままこのダンジョンを攻略するのもアリだと思う。」
これまでの流れからセナが余裕でボスに勝ってこのダンジョンをこのまま攻略してしまうという意見を出す。
「確かにどれも一利はあるな・・・」
グリスがみんなの意見を聞いてどれが良いか吟味する。
「そろそろご飯の時間だし、休んでからボスと戦おうか?」
私が戦闘前に食事を提案すると、
「「「「さんせ~!」」」」
満場一致でとりあえずご飯になった。
私が周囲に結界を張って、他のみんなは野営の準備をする。
その途中で、
「いくら結界が頑丈でも見張りはやっぱり必要だと思うんだけど・・・」
エルがあざとく首を傾げながら意見を口にする。
「ヴェルデ達に任せれば大丈夫よ、結界だってそんな簡単に壊れないし、明日はどんなボスが出てくるかわからないんだから今日はしっかりと休んでおくのが一番いいわ。」
私が結界の強度を保証してヴェルデ達のフォローだけで大丈夫だと言うとグリスが
「で、テントは2つあるのか?」
まさに大切な事とばかりな、なんとも言えない表情で確認をしてきた。
「バッチリ!2つあるわよ、エルと一緒に寝ちゃう?」
私がそう冗談を言うと、
「ダンジョンの中にいるのに、これだからリア充は・・・」
アカネが黒いモノを纏い瞳から光が消えた。
「待って!?一緒に寝ないからね!?私はまだ13歳だからね!?未成年だからね!?」
顔を真っ赤にしてアカネに必死に否定していると、
「男なら酒池肉林の夢を見ろ?」
セナが中指と薬指の間に親指を挟んでグリスをエルと同じく顔が真っ赤なグリスをからかっていた。
「もぉ~、セナ?女の子がそんなことしちゃダメだってば!?」
私がセナを宥めて、エルとアカネを見ると、
「アカネちゃ~ん、違うんだってば~!?」
「いいの、エル?ただ私の男運がないだけだから・・・」
「いつかきっといい出会いがあるからその顔やめて~!?」
エルが何故かアカネを励ましてた、というかアカネは私達とそんなに歳が違わないのに何があったのだろうか?
「まぁ、そういう事だから早いところテントを設置しましょ?」
私はこのカオスな状況を打開するべく、みんなに色々と指示をする羽目になった。
テントを2つ設置して、ご飯の支度をしてみんなで騒がしく食事を終える。
その光景だけだとまるでどこかでただキャンプしているように見えるがここはダンジョンの中だ。
「それじゃグリス、寂しいかも知れないけど・・・やっぱり、エルを貸してあげようか?」
「いいから!?そのネタはもういいから!?」
私が口に手を当てて悪戯っぽく小悪魔な微笑みを浮かべながらエルの名前を出すと顔を真っ赤にしながら首を横に振った。
「そんなに否定されると、あえて押し付けたくなるね。」
「横に同じく、後で感想を教えて?」
「寝ないからね!?こっちで女の子の方で寝るからね!?」
アカネにもセナにも悪戯っぽい小悪魔スマイルを浮かべてエルに声をかけて、エルも真っ赤になりながら私に抱きつく。
「リアナ~!?そろそろいい加減にしないとこうしちゃうんだから!?」
「ひゃん!?」
私の鎧の隙間からエルが手を入れてくる。
「え、エル!?そこはダメ~!?」
「グリス君、また明日ね!?」
私はくすぐられながらエルにテントの中に引きずり込まれた。
「これ、私達も巻き込まれるかな?」
「まぁ、サービスサービス?」
「俺は耳栓して寝るぞ・・・」
アカネとセナが自分達にかかるトラブルを思い浮かべ、グリスを見るがグリスはさっさとテントの中に入り寝てしまった。
「うまく落ち着かせましょ?」
「ヤらねばヤられる。」
ここに何を?とツッコミを入れる者は誰もいなかった。
翌朝、日の出とともに私達は攻略を再開した。
「それじゃ、扉を開けるね?」
「ええ、お願いね!」
そして、軽く準備をして早速エリアボスの攻略を開始する。
扉の中は広い空間になっていた。
「みんな、どんなタイプのボスでも油断しないようにね?」
「おう、任せろ!」
「援護ならいつでもオーケーだよ!」
私の呼び掛けにエルとグリスが応える。
「!?来た!?」
「先手必勝!![サンダー・ショット]!!」
部屋の中心に魔方陣が現れ、その中央に力が集う。
そして、その力が形を成した時にセナが矢を放った。
ドガァァァァァァァン!!!
放った矢が相手に刺さった瞬間、雷が迸った。
「あ~、サイクロプスかな?」
「だろうな、あんなにデカイし一つ目だしな」
エルとグリスが冷静に状況を分析していると、
「みんな!?モタモタしてると私とセナで仕留めちゃうよ!?」
早い者勝ちとばかりにビクンビクンと痙攣しているサイクロプスにアカネが止めを刺しに行った。
「[キサラギ流忍武術 闇斬舞!!」
「ピュイー!!」
闇を纏ったアカネが移動の瞬間すら見切らせずにサイクロプスの四肢を斬りつける。
そこに朱雀であるアスカの炎がサイクロプスを焼き追い撃ちをかける。
「グガァァァァ!?」
自らが負った傷の深さに堪らず飛び上がり悲鳴を上げるサイクロプスに私は慈悲とばかりに
「止め!![鬼神砕刃]!!」
魔力を込めた斧の一振りでサイクロプスの首を呆気なく断ち切った。
「あっ、リアナそんな体勢で首を飛ばすと・・・」
ぶしゃあぁぁぁぁ!?
サイクロプスの緑の血が噴水のように吹き上がり、辺りに血の雨を降らせた。
それと同時に私を含めた全員が血の雨を浴びる事になった。
「「「「「・・・・・」」」」」
「ゴメンね?」
みんなの責める目付きに負けて私は手を合わせながら小首を傾げてみんなに一言謝る。
「リアナ~!?」
当然、エルが最初に怒り出して、
「仕方ないよね?リアナだから・・・でも、たまには私がイタズラする側に回ってもいいと思うの・・・」
瞳の中から光が消えた状態でアカネが語り、
「刑名は、エロコスの刑でリアナに処す・・・」
セナが無表情でイケない発言をする。
「俺はノーコメントで・・・」
グリスは背を向けてサイクロプスが消えるのを確認するために私達に背を向けた。
「え、あ、いやぁ~、その、私もちゃんと反省しているからもうちょっと穏便にならないかな~?」
私は少しずつ後退りしながら、みんなを宥める。
「「「許さぬ!」」」
「なら、全力で逃げる!!」
「「「逃すものか~!」」」
この後、10分くらい追い駆けっこが始まったが私の勝利で幕を下ろした。
戦利品の回収を終えて、私達はボスフロアの奥に向かうが、
「あれ?」
エリア移動用の転移装置がなかったのである。
「グリューデンのダンジョンはボスフロアごとに転移装置があるって話だったのに・・・」
エルがガッカリした様子でそう溢すと、
「まぁ、そういう時もあるよ!」
「リアナがいれば、お風呂も食事もバッチリだからモーマンタイ(キラッ)」
アカネとセナがエルを励ます。
「とりあえず今日はここで休もうぜ?風呂に入りたいんだろ?」
「グリスのエッチ!」
「何でだ!?」
グリスが気を使ったのにエルの一言が全てを台無しにした。
「えっと、やっぱりエルのとか興味ある?」
私が地雷どころかナパームを放り投げる。
「いや、そこはやっぱりリアナの方に興味があったりして・・・」
そこからアカネがミサイルを発射して被害の拡大させる。
「グリスは好色と見た、何でもイケる。」
そして、最後にセナが核弾頭を撃ち込む。
「失礼とかそういうレベルじゃねぇな!?人を獣のように言うんじゃねぇ!?」
「グリスがそんな事するなんて・・・」
グリスがあんまりな私達の言い方に抗議し、エルがもう一段階上の解釈をとり、私達の話は更なるカオスを見せ始めて、
「いいからさっさと野営の準備しろっての!!」
最終的にグリスに四人揃って説教を受けた。
グリスからの説教を受け、大人しく野営の支度をして代わる代わるお風呂に入り、今後の方針を話し合う。
「やっぱりこのまま最深部を目指すのがベストかな?」
「まぁ、こうなって来ると仕方ないと思うぞ?」
私が最深部を目指す方向にすべきか、皆に問うとグリスはその方が良いと考えているようである。
「ここから逆に進んでも方向感覚が狂うだけだと思うよ?」
「アルから怒られるのは既に確定しているのだし、今さら気にしても仕方ないと思う。」
アカネはここから逆走しても方向感覚が狂うリスクがある事を提言し、セナがどのみちアルに怒られる事に変わりないと告げる。
「とりあえずリアナの収納魔法に入っている物資が無くなる前にどっちか見つけないとマズイね・・・」
エルが最後にこちらの物資の心配をする。
「物資に関してはまだ焦る必要はないわ。まだまだ十分余裕があるから、それに途中で色々と狩ってるからね!」
私が現在残っている物資にまだまだ余裕がある事を皆に伝える。
「ならやっぱり、このダンジョンを攻略するのが1番だろ?」
「賛成」
「異議無し」
「うん」
「オーケー!」
グリスが最後に意見を締めて、改めて決議を出す。
「じゃ、今日はもう休もうぜ?見張りはどうする?」
「先がどれくらい長いかわからないからヴェルデ達にお願いする予定よ。」
「昼の戦闘は私達が受け持つ感じでいけば大丈夫じゃないかな?」
「それに私達の従魔ならそういうのもそつなくこなせると思うし・・・」
「ただ、今度は従魔達が寂しがると思うから、パートナーが代わる代わる傍にいてあげた方がいいと思う。」
グリスが見張りの有無を私達に問い、私とエルとアカネがそれぞれの意見を出して、セナがそれに問題点を述べると、
「じゃ、交代で一緒に見張り番をすればいいでしょ?」
私がそう答えを出す。
「とりあえず、最初はパートナーである私達3人の誰かって事になるかな?」
「そうならざる終えないわね・・・」
「なら、私が最初を受け持つわ。後の順番をそっちで決めてね?」
エルが私達パートナー3人の誰かが最初を受け持つべきかと問いかけ、アカネが肯定し、私が今晩を見張り番をする事を挙手した。
「わかった、じゃあ後はこっちで話し合うよ。」
グリスがまとめ役を買って出てくれたので私はヴェルデ達の方に行く。
「ヴェルデ、アスカ、エレス、お疲れ様、今晩もよろしくね?」
「キュルウ♪」
「ピュイ!」
「ワフ!」
私はヴェルデ達の頭を順番に撫でて、毛布にくるまってヴェルデに寄りかかる。
「キュ~♪」
ヴェルデはご機嫌なようで唄うような鳴き声を私に聴かせてくれる。
「フフっ、ご機嫌ね?いつの間にそんなに上手になったのかしら?」
私はヴェルデを撫でながら語りかける。
「ワウ!」
「ピュ~!」
すると、エレスが私の膝に頭を乗せ、アスカが自分も撫でろとばかりに頭を私に向ける。
「もう、慌てないの、みんな撫でてあげるからね・・・」
そう言って私はヴェルデ達と一晩触れ合った。
私がヴェルデ達と見張り番をした翌朝、朝食を済ませて私達はダンジョンアタックを再開した。
「どのみち攻略するつもりだったとはいえ、かなり展開が早いわね、何か異常な事があったのかしら?」
まだダンジョンの話を聞いてから7日程時間が経つか経たないかといったところだが、
「どのみち奥に進まないとわからないと思うぞ?」
グリスがそう言って、
「奥に何があってもリアナなら大丈夫だよ!」
エルがよくわからない根拠で大丈夫だという。
「まぁ、リアナがダメならこの国滅んじゃうかも?」
アカネがそれに乗り、
「リアナの強さは既に魔王級、酒池肉林を目指せる。」
「目指しません!?」
セナが人を魔王扱いしだした。
「もう!それだと私が国一つ滅ぼせるみたいじゃん!?」
私が思わずそう口にすると、
「「「・・・・・」」」
みんな一斉に目を逸らした。
「みんな?ちょっとお話しましょ?」
思わず必要以上に優しく問いかけてしまってもおかしくないと思う。
「り、リアナ?冗談だからね?」
「ひぃ!?」
「戦略的撤退!!」
「やれやれ・・・」
エルが一生懸命に私を宥め、アカネは怯え、セナは真っ先に逃げ出した。
それを少し離れたところから眺めていたグリスが仕方なさそうに首を横に振っていた。
女子全員で仲良くお話をした後は、真面目にダンジョンを攻略する。
「そこ、トラップがあるから解除するね」
「敵影は見えないけど左右前方を警戒する」
アカネが罠の発見と解除を担い、セナが索敵を担い不意討ちを警戒する。
「なら、私達は主に背後ね!」
残りの私を含めたメンバーは背後の警戒をして万が一に備える。
5分かかるかどうかという時間でアカネは罠を解除する。
「ふ~、ちょっと手間取ったな~」
アカネが額の汗を拭いながらそう溢す。
「それでもかなりいいペースで解除出来てるから問題無い。」
セナがアカネに水筒を差し出す。
「先はまだ長そうだし、焦らずに行こう?」
エルがそうアカネに声をかけて、
「キュ!?」
「ウォン!!」
「ピュールル!!」
ヴェルデ達が急に警戒するように鳴いた。
「みんな、戦闘準備!!」
「道は幸い一本道だ、上とか下からの不意討ちに気を付けろよ!?」
私がみんなに号令を出してグリスがそこに注意をつける。
「グゥオオオォォ!!」
後方から赤毛の巨大な熊が2匹と、
「わぉお~ん!!」
ドックマンが群れで前方から現れた。
「後方からレッドグリズリーが2匹、前からコボルト擬きが多数接近中、どうする?」
グリスが状況の把握をしてみんなに伝えると、
「トラップの解除に問題は無いから前に出ても大丈夫だよ!」
アカネが先程解いた罠のことを保証して懸念事項から除外する。
「とりあえずコボルト擬きを牽制する。[ラピット・シューター]!!」
セナはドックマンを早打ちで牽制して時間を稼ぐ。
「なら俺もドックマンの方に一発かますか!」
グリスも前方のドックマンを攻撃する事にしたようだ。
「祖は原初の炎、深淵の暗き底を照らす篝火、今その焔の光を世界を導く灯火とせん!!」
グリスが魔力を練りながら詠唱し、一際派手な魔法を唱える。
「[ブレイズフレア・ピラーズ]!!」
するとグリスの前に3本の火柱が立ち上ぼり、その列を崩さずに真っ直ぐに同じような火柱が立ち上ぼりドックマンの方に走っていった。
「ギャウ!?」
「!!?!??」
ドックマンはまともに悲鳴を上げる間もなく大半が消し炭になった。
「じゃ、私が残りの打ち漏らしを仕留めるね!」
グリスが逃した獲物をエルがフォローする為に仕留めいったので残りは後ろの赤熊である。
「アカネ、撹乱お願いね?」
「オッケー、リアナ、私を巻き込まないでね?」
「大丈夫だってば!?」
後ろの熊は食糧になるので丁寧に仕留める。
「悪いけど、弱肉強食だからね!!」
アカネは分身を繰り出しながらレッドグリズリーに肉薄する。
「[キサラギ流忍術 朧鎌鼬の術!!」
反撃する為に爪を振るったレッドグリズリーにアカネの分身が接触した瞬間、一斉に風の刃が炸裂した。
「余所見してる暇は無いわよ?」
私はステータスに任せて真っ直ぐに低く飛び、レッドグリズリーの首を斧で刈る。
ザン!!!!
目標にしていたレッドグリズリーを斬り抜け、後ろにいたレッドグリズリーに真っ正面から斬りかかる。
ドスゥゥン!!!
後ろで仕留めた熊が倒れた音が聞こえてきた時には私は既にもう一匹を仕留めるところだった。
「[瞬身天舞]!!」
私は一瞬で背後をとってレッドグリズリーの首を一匹目と同様に首を飛ばした。
「よし!!お肉ゲット!!」
斧を振るって血糊を飛ばし残身をとりながら笑顔で私がそう言うと、
「少し相手が可哀想だよね?」
エルが不穏な事を口にする。
「熊も吠えねば狩られないのにな・・・」
グリスがそれに同調する。
「あら?二人は食べないのかしら?」
私がニッコリとそう聞くと、
「食べるに決まってんじゃん!?」
「女神様が作ったご飯を食べないなんてとんでもない!?」
二人が一生懸命に言い訳をし出した、セナを見ると、
「よし!一匹目終了、じゅるり!?」
解体した熊肉を見てヨダレを垂らしていた。
「リアナ~、早めにしまわないとセナが食べちゃうよ?」
アカネがその光景を見ながら私に声をかける。
「わかったわ、片付いたらまた移動を再開しましょう。」
私はみんなにそう声をかけて、再びダンジョンの中を移動を始めた。
今日の移動は5フロアに収まり私達はたまたま入ったセーフティエリアで休憩をとる。
「同じ流れなら、後5フロアぐらい移動するとまたエリアボスがいるはずよね?」
私が今日進んだ行程を思い返しながらみんなに問うと、
「そうだな、後4フロアぐらいだと思うが・・・」
「はぐっ、はぐっ!!」
私の問いかけにグリスが考えながらそう答えて横に目を向けると、年頃の女の子がバクバクご飯を掻き込んでいる姿が目に入る。
「深く考えちゃダメよ?」
「・・・わかってる、まぁ進んで見ればわかるだろ?今から考えても仕方ないだろうしな。」
そう言ってグリスは食事の方に集中した。
「リアナ、おかわり!!」
「私も!!」
「極盛りでよろしく!」
「「ズルい!?」」
「ハイハイ、ちょっと待ってて」
そう言って私はみんなにおかわりを器に盛って、傍にいたヴェルデ達に向き合う。
「みんな、美味しい?」
「キュルウ♪」
「ワフ♪」
「ピュルル♪」
「フフ、ゆっくり食べてね?」
そう言って私も自分の分の食事を食べて、後回しにしていたお風呂に入る。
「ふ~♪ん~♪ら~♪」
念入りに自分自身でマッサージをしながら、今日の疲れをとる。
「普通に考えたらここは20フロア以上なはず。」
私は今日刈り取った獲物を思い返す。
「ドックマンはともかく、レッドグリズリーはAランクマイナスだったはずよね?いくら私がランク詐欺だと言っても普通の、まともなパーティーだったらまず勝てる相手じゃないわ・・・」
さっき食べた熊肉を思い浮かべながら私はこの先の危険性を想定する。
「問題は、次のボス部屋が最後ではなかった場合、下手をするとSランクのモンスターが出てくる可能性があるって事になるかな~?」
私は浴槽の縁に顎を乗せて考える。
そんな私を四方を囲っている仕切りの隙間から、覗く不埒ものがいた。
「「「ゴクリ・・・」」」
「ムグッ!?ム~!?」
お馴染みの3名に哀れな生け贄が1人、
「うわ~、なんかちょっと見なくなったうちにまた成長したんじゃ・・・」
「ていうより、胸もそうだけど腰のくびれとかすごいよ・・・」
「正直、来るんじゃなかったと凹んでいる自分がいる・・・」
エルとアカネがリアナのスタイルを冷静に分析して、セナはあまりのレベルの違いに落胆の表情をしながら後悔しているようである。
「ムグ~!?ム~ムム~!?(嫌だ!?死にたくない!?)」
そして、彼は本当に生け贄だった。
遂にその時は来た、
「誰!?」
タオル1枚のリアナが気づいて仕切りをあける。
「「「やばっ!?」」」
3人は疾風のような速さと影のような隠密さで自分達のテントに隠れる。
残されるのは哀れな生け贄(グリス)ただ1人。
「ム~(終わった)・・・」
その表情は正に今、死刑を受ける受刑者のような表情だったと後にリアナは語った。
「グリス?」
「・・・・・」
グリスは目を開けたい男としての衝動を必死に抑えて目をつぶる。
「はぁ~、エル達ね・・・」
リアナはそのままの姿でグリスの束縛を解く。
「はいっ!これで取れたわよ!」
彼の不幸は自由になった身体を確かめるために目を開けてしまった事だろう。
「ありが・・・!?」
「・・・グリス?」
目を開けたグリスはタオル1枚しか身につけていないリアナを目にしてしまったからだろう。
「あっ!?・・・」
そして、遅れて今の自分の格好を思い出したリアナ。
「・・・グリスも一緒に入る?」
「・・・はっ!?」
急に言われた一言にグリスは理解出来ず固まってしまう。
「だってもう見られちゃったし、グリス地面に転がされて泥だらけじゃない?もう遅いから一緒に入った方が早く済むでしょ?」
「・・・えっ?いや?お、おう・・・」
そうして、彼はリアナに手を引かれるまま一緒お風呂に入った。
リアナに背中を流してもらい、一緒に湯船に浸かって3分でのぼせて気を失った彼を責める者は誰もいなかった。
因みに気を失ったグリスの身体をしっかり拭いて、服を着せたのは当然リアナである。
そのまま彼を抱き上げてグリスをテントに運んだのもリアナである。
そして、そのまま彼を1人で寝かせるのは心配だからと傍で添い寝してくれたのもリアナなのだ。
翌日の朝から波乱が満ちているのは確定である事は間違いない、グリスの未来に希望はあるのかどうか、それは誰にもわからない。
そして翌朝、グリスは目覚めた。
何故か彼はリアナに抱きつかれており、彼女の寝顔を初めて見る。
「!!?!?」
あまりの驚きに身を固くするが、とにかく冷静になろうと目の前の状況を分析する。
昨晩は問題児3名に急に拉致られ、入浴しているリアナの覗きに付き合わされたのである。
とはいっても、グリス自身は全身を拘束されて身動き出来ない状態で地面に転がされていただけではあるが、それでも連れてこられたのだからそうなりえる。
当然リアナに発見され、エル達の目論見通りに生け贄としてリアナに見つかり、死を覚悟したら女神が舞い降りた。
縄をほどいて貰ったとはいえ、間違って入浴中のリアナの姿を目撃してしまったのである。
彼はその姿を見た時死んでもいいとさえ思った。
彼女はそんな彼を不憫に思い、一緒にお風呂に入るという暴挙に出る。
グリス自身も余りにも予想外の展開にまともな答えを返せず成すがままリアナと混浴してしまった。
今日このあと起きたらどうなるか、考えるのも億劫になり、たった今、目の前にある可愛い寝顔を失礼だと思いながらもじっくりと見てしまう。
「んっ?・・・」
少し身動ぎしてリアナが目を開ける。
「あれ?グリス?何で?エルに怒られるよ?」
リアナはまだ寝惚けているようである。
「・・・あっ、そっか、昨日・・・ならいいか、ギュ~♪」
「ちょっ、リアナ!?」
開き直ったリアナはグリスを力強く抱き締める。
彼女の行動にグリスは慌てるが、
「ねぇ、グリスは私じゃダメ?」
「えっ?」
自分よりも年下だとは思えない色気を感じさせる表情でそう囁かれた。
「俺は・・・」
「ふふっ♪悩んでくれるんだ?」
「そりゃ、悩むだろう!ましてや昨日、あんなことするやつだとは思わなかったしな!」
それからグリスは顔を赤くして、
「それに・・・昨日は結局色々見ちまったしな・・・」
「・・・エッチ」
昨日の事を指摘されて、リアナも少し顔を赤くしながらそう言った。
「あんなにすぐのぼせたのに、やっぱりちゃんと見てたんだ?」
「うっ!?」
グリスは気まずそうに目をそらす。
「私はグリスがいいと思った人でいいと思うよ?」
「えっ?」
するとリアナは起き上がり、身支度を軽く整えてテントの外に出て行った。
「あ~、やっぱりリアナにはかなう気がしないな・・・」
彼はそのままテントの上を眺めて、女心について悩むのであった。
「後、何か買い忘れとか無い?」
私がエルに聞いて、
「平気だと思うけど・・・セナとアカネはどう?」
エルがセナとアカネに話を振り、
「調理器具は買ったし、食材はまた後日だし・・・着替えも買ったし、ポーションとかの薬関係もバッチリ買ったよ?後何かある?」
アカネが真面目に答えて、
「確かに着替えは買ったけど下着は・・・」
セナがボケを入れて、
「何故今日は俺を呼んだのか!?」
グリスのツッコミが入り、
「良いじゃないか?役得だろう?」
アルがニヤッとしながらグリスを弄る。
「流石に下着を買ってる所をグリスに見せるわけにはいかないな~、エルならいいかも知れないけど?」
「良くないからね!?」
私がアルのネタに乗り、軽やかにエルが止めに入った。
「いいよね~、彼氏がいるやつは・・・爆発しちゃえばいいのに(ボソッ)」
「どんまい(親指グッ)」
アカネがダークサイドに堕ちて、セナがいい笑顔で親指を立てる。
「セナはエルフで行き遅れはまだまだ先だもんねぇ~!?」
「あ、アカネ?落ち着いて?やんッ!?」
アカネに襲われるセナを眺めながらグリスが、
「カオスだな~」
そして、アルが
「でも平和だよ?」
この光景に平和を見いだしていた、解せぬ。
その次の日、アルは自らが通う学校を飛び級して卒業するべく西のアカデミー領へ向かった。
「リアナ、アル様はどれくらいで帰って来るの?」
エルの問いに私は、
「多分、行きに1日、手続きに1日、帰りに1日じゃないかしら?アルの事だからゴリ押ししてすぐに戻ってくるわ。」
私の答えを聞いたアカネが
「えっ!?そんなに簡単に飛び級して卒業できるの?」
驚くアカネにセナが冷静に、
「アルの事だから、どんな事をしてもすぐに帰って来ると思う。王族の力を使ってでも・・・」
「あ~、ありえるな・・・て言うかアルアル。」
最後にグリスが微妙に困るボケを披露した。
「だから、それまでは日帰りで浅く探索してある程度の感覚を掴みに行きましょ?みんな、初めてのダンジョンだし。」
私がそう締め括ると、
「オッケー、リアナに任せるよ!」
エルは親指を立てて了承の意を伝え、
「私も特にはないよ」
「一切問題無し(キリッ)」
自然体でアカネは返事を返して、セナ何故かキメ顔を極めていた。
「さて、どこからツッコミを入れるべきか・・・あっ、俺も特には問題無いからな!」
セナのキメ顔に一言申したいグリスが最後に私に特に問題無いことを伝えた。
「それじゃ明日から探索を開始するわよ!」
「「「「おおっ!!」」」」
こうして、アルが戻って来るまでの間に探索をする事が決まった。
探索当日、私達はまず冒険者ギルドを訪れて情報を得ることにした。
「ネイラさん、おはよう!」
「おはよ~、ネイラさん!」
「おはようございます、ネイラさん。」
「お~っす」
「セナ・・・その挨拶は気が抜ける・・・」
私、エル、アカネ、セナの順でネイラさんに挨拶して最後のセナの挨拶にグリスがツッコミを入れた。
「みんな、おはよう。グリス君もおはよう!」
「お、おう、おはようネイラさん。」
みんなに挨拶を返した後、一人挨拶をしていないグリスにネイラさんが視線を真っ直ぐグリスに向けて挨拶する。
ネイラさんの魅力によろめいたグリスがたどたどしく挨拶を返して、それを見たエルが、
「む~!?グリス君どこ見てるの!?」
「ちょっ、エル!?」
「私だって、成長してるんだから私のを見てよ!?」
「いや、何を言ってんの?!」
グリスにタックルをかまして、抱きついていた。
「中々の踏み込みね、エルはまた腕を上げたようね。」
「砂糖吐きそうだから他でやって欲しいんだけど・・・家の中でもずっとイチャイチャイチャイチャしてるし」
「アカネ、意外と嫉妬深いね。そろそろ親指をこうするべき?」
「セナちゃん、女の子がそういう事しちゃダメよ?」
犬か猫のように絡む二人を眺めながら、私達は思い思いの事を口にする。
一方、酒場の方では、
「もげちまえ~!?」
「おい!?落ち着けって!?」
「誰だ?セナちゃんにあんな事を教えた奴は?」
「さぁな~、セナちゃんエルフだし、何処かで教えてもらっていてもおかしく無いんじゃね?」
「アカネちゃんはヤンデレなのか?」
「しっ!?おいやめろよ!?聞こえたらどうすんだ!?あの目はヤバいぞ!?」
「やべっ!?こっち見た!?」
中々臨場感があるハイライトを見せていた。
「まぁ、あの二人は置いといて、今日は初のダンジョンアタックだから色々と情報の確認をしたいんだけど、ネイラさん何かギルドの方に情報とか来てないかな?」
未だに戯れる二人を放置して、私はネイラさんにダンジョンの情報を問い合わせる。
「グリューデン大深緑地帯の情報は特に更新はされてないわね。採取系の依頼が幾つかきてるから、それをリストにして渡しておくわね。」
ネイラさんが気を利かせておいしい話をくれる。
「正式に依頼を受けた事にはならないからもしかしたら、依頼をこなした事にはならないかもだけどその場合はちゃんとギルドで素材を引き取るから安心してちょうだい。」
「一応、貢献度と素材の売却金は貰えるんでしょ?」
「それはもちろんよ、リアナちゃんならそっちの方が稼げるかもね?」
「それはこんもり持って帰って来てもオーケー?」
「モチ、オッケーよ(ハートキラッ!?)」
「イヤン!?ネイラお姉ちゃん大好き!(ギュっ!?)」
等というやり取りを私とネイラさんでしていると、
「ね、ネイラお姉ちゃんだとぉ~!?」
「流石は姐さん!いい仕事してますぜ!?」
「い、いつか俺もお兄ちゃんと・・・」
「アウト~!?兵士さんこいつです!?」
今日も酒場は盛況で、その光景にアカネが、
「今日もカオスだね~」
呟き、そしてセナが、
「だがそれがいい(キリッ)」
受け入れ、最後にグリスが、
「いいのかよ!?」
ツッコミを入れて幕を閉じた。
冒険者ギルドを出て、私達はそのままグリューデンのダンジョンに足を向けた。
街の門から出る時に門番さんが最近、魔物の動きが妙だとダンジョンに入った冒険者たちから話を聞いていると教えてくれた。
「どう思う?」
「さっきの話?」
私がまずエルに話を振って、
「妙ってだけだと、気をつけようがないと思いますよ?」
アカネがそう意見をだし、
「見敵必殺で大丈夫だと思う。」
「確かに・・・」
セナがもっともな事を言って、私が納得した所で、
「いや、納得すんなよ!?」
グリスが冷静にツッコミを入れた。
「とにかく、今日は下見なんだからって油断せずに行くぞ。」
その後にグリスが注意を諭して、
「うん、オッケー!」
エルだけが元気に返事をした。
「な、何で私だけ?ここはみんなで一言いう所じゃないの?」
エルは、自分だけしか反応しなかった事に困惑して、
「いいなぁ~、私も彼氏が欲しいな~」
アカネが物凄く羨ましい事を口にして、
「エルの好感度はバッチリ上昇、デートの掴みは完璧、今夜はお楽しみですか?」
セナが爆弾を投下して、
「その場合、部屋の掃除は自分達でしてね?」
今さらなので私はアッサリと流した。
「これから、ダンジョンに入るのにそんなのするわけ無いでしょう!?」
エルが顔を真っ赤にして怒り出す。
「つ~か、部屋の掃除って・・・」
グリスが呆れた視線を私の方に向ける。
「コイツら、出歯亀する気満々だな・・・親友でも容赦無し・・・」
「私は別にそんな事しないし・・・」
私は意識的に目を逸らしてそう答え、
「の、覗かないよ?き、興味ある訳じゃないから!?」
顔を少し赤くしながらアカネが目を泳がせ、
「一切合切すべてバッチリ納める所存です!」
セナが何故か気合い十分に答えた。
「そんな事させるかぁ~!!て言うか、そういうのはまだしないから!?」
顔を真っ赤にして頭から湯気を発しながらエルが私達3人を怒って止めようとするが、
「「「ほほう、まだ・・・ね?」」」
と3人同じ反応を返した事に
「もぉ~!?知らない!!グリス君、行こ!!」
エルが完全にヘソを曲げてグリスと先に歩いて行った。
「まだ、そこまで進んでないみたいね?」
私がアカネとセナにそう呟くと、
「リアナちゃん、そろそろやめてあげなよ~」
「アカネも結構ノリノリだった。」
「の、ノリノリどころか、ぶっ飛んでるセナには言われたくな~い!?」
アカネとセナがそれぞれ擦り付けつつ漫才を始めたが、
「さすがに、そろそろ行かないと今日は帰って来れなくなるからここまでにしてそろそろ行きましょ?」
「は~い」
「うむ」
私はそれを止めてアカネとセナと共にエルに謝りながら二人を追いかけた。
道中で出てきたオークやゴブリンを屠りつつ、グリューデンのダンジョンにたどり着いた私達はまずは、ダンジョンの前に構えてあるファルト領軍の駐屯地を訪れた。
「すいませ~ん、ダンジョンに潜りたいんですけど~、どなたか手続きをお願いしま~す」
「はいよ、ちょっと待ってな!」
筋肉ムキムキなおっちゃんに受付をしてもらい、ダンジョンアタックをするための通行手形を発行してもらった。
「この手形は入る時に必要でな、ダンジョンの前にも兵士が立ってるからそいつらに見せてやってくれ。で、この手形の使用期限は大体3ヶ月で切れるようになっているが、あくまでこれはダンジョンに入るために必要な物であって、出る時に必要はないからもし何らかのトラブルでダンジョンから出るのが遅れたとしても、安心してダンジョンから脱出してくれ。」
兵士さん(ムキムキ)が手形について細かく説明してくれる。
「ダンジョンに3ヶ月も潜ったりするの?」
私が疑問に思うと、
「未攻略のダンジョンだとそれくらいは普通にかかったりするらしいよ?只、ここのダンジョンは既に何回か攻略されているし、冒険者たちも浅い層には常にいるような感じだから流石に3ヶ月も潜ることは無いと思う。」
エルがまたどこで得た知識かわからない知識を披露する。
「え、エル?だ、大丈夫?」
「どういう意味!?」
「エルちゃん、朝にお腹が減りすぎて何か拾い食いした?」
「ちょっと!?私はそこまで食いしん坊じゃないから!?」
「飢えたエルは危険度増大、とにかくリアナに絡みついておねだりを繰り返す、そのまま放置すると野生化してしまうかも?」
「しないし!?て言うか絡む相手が何でリアナなの!?」
「汝、自分の今までの行いを思い返すべし・・・」
「グリス君まで!?しかもどこかの神父みたいになってる!?」
いつもコメディを止めに入るグレイまでがボケに回りこの流れを止める人がいなくなった。
そして、
「いいもん、私はどーせアホの子ですよ~っだ!?」
エルがイジケた。
「「「あ~!?グリスがエルを泣かせた~!?」」」
「おれのせいかよ!?」
私達の責任転嫁にグレイが生け贄に捧げられた。
「グリスまでこっちに回ったらダメじゃん!?」
「何でだよ!?お前いつもボケに回ってツッコミを入れるのは大変なんだからな!?」
「だからだよ~、エルちゃんはいつもグリス君とツッコミ漫才をしたいんだよ?」
「いやいや、なんだ?ツッコミ漫才って!?そこは普通夫婦漫才だろ・・・あっ!?」
「うむ、ゴチである!大義であった!!」
「何てこった!?アカネとセナに嵌められるなんて・・・」
「「どういう意味よ!?」」
「やれやれ、話が進まないわね~」
「「「「自分一人だけ無関係なふりをするな!?」」」」
私は一人だけ難を逃れようとしたが、逃げれずに終わった。
「とりあえずグリス君、後でどこかに連れて行ってね?」
エルが普通にグリスに話かける。
「わかったよ、じゃ、アル様が帰って来るまでに一回どこか行こうぜ?」
グレイが何でもないようにエルに答える。
そして、その光景を見ていたアカネが、
「リア充が・・・爆散すればいいのに・・・ケッ!?」
闇に取り憑かれていた。
その光景を私とセナが両手を擦りながら呟いた。
「「ナムナム・・・」」
そんな事もありながら、ようやくダンジョンの中に入った。
「入り口が限られてる以外はただの森みたいね?」
私はダンジョンの入り口の中に入ってすぐの所にある広場のような場所を見渡して呟いた。
「グリューデンのダンジョンは森型のダンジョンだからね、奥深くに進む形のダンジョン構造になってるみたいだよ。」
エルがまたもや知識を披露する。
「エルちゃんが真面目だとボケにくいよ~」
「いや、ボケなくていいから!?」
「残念無念・・・また明日(キラッ)」
「明日もやるのか・・・」
「やらんでいいし!?」
アカネ、セナのボケにエルとグリスの夫婦ツッコミが炸裂する。
「ほら、もうここからはダンジョンの中なんだからね?真面目にやりなさい?」
普段は率先しておふざけをする私がみんなを嗜める。
「はいは~い、じゃ昨日の夜の打ち合わせ通りあたしとセナで前を歩くからね!?」
「私とアカネにお任せ(シュピーン!)」
手を上げて元気に返事をするアカネの横でまん丸なお月様が幻視出来そうなポーズをとるセナが斥候役で索敵と罠のサーチを担う。
「私とグリス君が真ん中ね?」
「おう、任せとけ!」
そして、意外に器用な立ち回りを得意とするエルと遠距離からの魔法を得意とするグレイが隊の真ん中に配置して、
「私は背後からの奇襲に気をつけるわ」
私は隊の一番後ろについて、背後からの奇襲を警戒する。
基本的にこのメンバーだと私が積極的に攻撃しなくても大丈夫なぐらい攻撃力が有り余っている。
けど、その反面、防御力はかなり薄く私を抜かすと魔法剣士のエルが一番防御力がある事になるため、私が背後に回り援護に行きやすい形としてこの順番になった。
「とにかく、初のダンジョンアタックなんだから気をつけて行きましょう!」
「「「「おぉ~!!」」」」
みんなに声をかけて私達はダンジョンの中に潜っていった。
第一フロアは特に罠もなく、たまにゴブリンが2匹か3匹歩いているぐらいだった。
「さすがに入ったばっかりの所だとこんなものか~、みんなどう思う?」
私はもう1つ先に進むかみんなに意見を聞くと、
「私はリアナの判断に任せるよ~」
エルは私に判断を委ね、
「あたしはもう少し進みたいな、罠も全然無いし手応えをもうちょっと見てみたい」
アカネはあまりの手応えのなさにもう少し自分の腕を確かめたいと申し出て、
「このままだと今日はボウズになってしまう、せめて食べれる魔獣を狩ろう!?」
セナは目が血走っていた。
「やれやれ、セナが飢えている。もう少し進んでいいんじゃないか?」
グリスがその様子を眺めながら、進む方に1票入れた。
「よし!じゃああと一フロアだけ進んで見ましょ?」
「「オーケー!」」
「りょ!」
「なんだ、その返事は・・・」
私達はもう少し奥へ進む事にした。
第二フロアは第一フロアよりも魔獣や魔物の気配が少し多かった。
「そういえば、魔物と魔獣の違いって何?」
アカネがそう呟くと、
「後天的に体内に魔石が出来たのが魔物、先天的に体内に魔石があるのが魔獣ってなってると思ったよ?」
エルがスラッと答えた。
「だけど、そもそもそういうのを細かく観察していくのは現状ではほぼ不可能に近い、だから結局の所、世間ではどっちも一緒って事になってる。」
それにグリスが補足を付ける。
「グリスはともかく・・・」
「セナちゃん?疲れてるなら揉んであげよっか?」
「いや、大丈夫、まだ疲れてないよ!?元気元気!?」
「ところで今・・・」
「あっ!?オークがゴブリンを引き連れてこっちに来るよ!?」
セナが定番の一言を言おうとして、エルから黒いモノが吹き出した途端に、セナは一生懸命にヘイトをオーク達に移るように誘導したが、
「よし!終わったらセナちゃんを揉む!!」
などと断言してエルはオークに向かって走って行った。
「何を?て言うかどこを・・・?」
グリスがその様子を見ながら首を捻り、
「男の子が知るモノでも見るモノでも無いわ、気にしたらダメよ?」
私がグリスに気にするなと告げた。
戦闘は少しテンションが低いセナの一手から始まった。
「[一矢豪雷弾]!!」
雷を纏った矢がゴブリンを3匹まとめて蹂躙する。
「私は中二病の救世主・・・」
「セナ!?それなんのポージング!?て言うか戦闘中にボケるのやめて!?」
アカネがセナにツッコミをいれながらゴブリンに接敵する。
「キサラギ流忍武術、[影狼]!!」
狼のように跳びはねながら分身して幻惑し、攻撃の気配を読ませずにゴブリン首を刈り取った。
そこから更に、
「キサラギ流忍法、[陽炎の術]!!」
敵の傍に移動したアカネは、更に忍法を駆使して再び分身する。
そして、
「ギャアアアァァァァ!!?」
誤って分身を攻撃したゴブリンが燃え尽きた。
敵のヘイトは今はアカネに向いており、アカネの忍法に二の足を踏んだ敵どもに更に攻撃が降りかかる。
「[サンダー・ランス]!!」
「[フレア・ランサー]!!」
極太の雷の槍がエルから、細かい炎の槍がグリスから放たれる。
「ギギャアアァァァ!??」
これによりゴブリンは掃討され、
「ブルシャァァッ!?」
残ったのはお肉(オーク)になった。
そして、みんなが暴れてる時に私が何にもしてない訳はなく、
「はい、お疲れ様!」
私がオークの視界の外から一気に間合いに入り自前の斧でオークの首を斬り飛ばした。
悲鳴を上げることなくオークは物言わぬお肉となった。
「悲しいけどこれ、戦争なのよね・・・」
「いや、リアナ、これ多分弱いものイジメ・・・」
私の一言にエルが待ったをかける。
「そうだな、弱肉強食の方がいいと思うぞ?向こうは攻撃すらしていない・・・」
グリスもエルの一言に1票を上げた。
「そんな事より、オークを回収してこの辺りをもう少し散策しようよ!?」
アカネが先に進む事を諭して、
「そろそろいい時間、切りのいいところで終わらないとここで一晩野宿になる。」
セナもそろそろいい時間だとこちらに伝える。
「じゃあ次のフロアの通路を見つけても進まないで戻りましょう?」
私達は今後の方針を改めて確認して、索敵しようとした時、
「・・・あっ!?」
「ストップ!?そこに何か!?・・・キャアァ!?」
私が歩き出した先にトラップがあり、みんなを巻き込んで私達は光と共にその場から消失した。
光が収まると私達は先程とは別の場所にいた。
「これってひょっとして転移トラップ?」
「多分ね、リアナ、アウト~!!」
ポツリと呟いた所にいつの間にか横にいたエルが答えてくれた。
「うわ~、森型のダンジョンで転移トラップは無いよ~!?無い無い、どっち行っていいかまったくわからないし・・・」
アカネが変なテンションでウンウン唸っていた。
「まぁ、なんとかなる(キリッ)」
セナがアカネに変顔をして、
「頼もしいな、本当に・・・」
グリスが呆れていた。
「うわぁ~、やっちゃった・・・みんな、ゴメ~ン!?」
事態を把握した私はみんなに謝る。
「うわぁ~、すごいボリューム・・・」
「アレは私達に対する嫌味?嫌味なの?」
「おのれ、ドワーフ族め!?」
エル、アカネ、セナがよくわからない事を言って、グリスは、
「・・・・・」
「あう、ひょっとして怒ってる?」
何故か背中を向けていた。
「いや、怒ってないから平気だよ、それよりどうやって脱出するか考えようぜ?」
顔を少し赤くしながらこちらにそう言って、その背中を何故かエルが睨んでいた。
「???」
私はその様子を見て首を傾げた。
とにかく私達は進む事にした。
食べても大丈夫な物は積極的に回収して食糧と水の確保を第一とする。
1番はとにかく水が重要だと思われがちだが、それはとにもかくにも生き残ることのみに重点を置いた場合だ。
魔物や魔獣が闊歩するダンジョンでそんな甘えは許されない。
弱肉強食の定義に基づいて、トラップに引っ掛かってしまった負い目もあった私は修羅になった。
「敵・・・敵はどこ?大人しく出てきなさい?」
「リアナ~!?正気に戻って~!?ヴェルデちゃん!お願い!!」
「キュウゥン?キュルウ!(ペロペロ)」
「ひゃん!?ヴェルデ?!耳はダメだから~!?やん!?」
ヴェルデに顔をペロペロされて私は力が抜けた。
「ヴェルデちゃん、あの子、恐ろしい子・・・」
アカネが戦慄して、
「うむ、怒ってるリアナが大人しくなった。・・・ちょっとエロい(ボソッ)」
セナが更なる不穏な一言を小さな声で言った。
「??セナ、何か言ったか?」
よく聞こえなかったグリスがセナに問いかける。
「ん、何でもない。」
グリスの問いかけを誤魔化してセナは先を見る。
「これで4フロアぐらい移動した?」
アカネが周囲を確認しながら、トラップがないか確認する。
「今日はここまでだな。ここなら休憩をとっても大丈夫だろ?」
辺りを確認しながらグリスも私に問いかける。
「そうね、なら結界を張っておくわ。・・・とびっきり強力なやつを・・・」
グリスに答えている途中で私の瞳から光が消える。
「ヒィっ!?リアナ、大丈夫だからね?」
「クゥ~ン?」
「キュルキュウ!」
「ピュイ?」
エレスとヴェルデとアスカの3匹が仲良く雑談している横でエルが必死で私を宥める。
私達は野営の準備を終えて、食事の準備に取りかかる。
「とりあえずお昼に狩ったオークのお肉と干し野菜のスープにパンにお肉の串焼きにしようかな?」
「いーと思います!」
「お手伝いなら任せて!」
「アイムハングリー・・・」
「セナ・・・手伝う気は・・・いや、俺が悪かった。リアナ、俺も手伝うぞ?」
エルがテンションアゲアゲで賛成に1票入れて、アカネが手伝いを申し出て、セナが腹ペコを主張し、グリスがそれに呆れて私に手伝いを申し出た。
食事の準備は筒がなく終えて、お待ちかねのお食事タイムに突入すると、
「はぐっ!!はぐっ!!」
「バクッ!!モグモグ、うま!!」
「ズズッ!!はぁ、幸せ~!!」
「・・・おかわり」
みんな一心不乱に食事を食べていて、その光景は鬼気迫るモノだった。
「もう、みんなもう少しゆっくり食べないと・・・ほら、エル?はい、お水。おかわりは一杯あるから、まだ焦らなくても大丈夫よ?」
喉に詰まらせたエルに水を差し出して、私はヴェルデ達の方を見る。
「キュルウ♪」
「ワッフ♪」
「ピュルル♪」
前からいる2匹はともかくアスカも何でも食べる事が出来る。
それでも、オーク3匹半があっさりと消えた。
「オークがいたら積極的に狩りましょう、後はダンジョンらしくドロップアイテムを狙って狩れば野菜や調味料とかも手に入るでしょうからね。」
みんなに軽く今後の方針を打ち出すと、
「「「「イエス、マム!!」」」」
何故か軍隊のような返事が返ってきた。
食事を終えて、皆で見張りの順番を決める。
「リアナは一番最後の見張りでいいと思います!」
「「「異議なし!!」」」
エルの主張から私の見張りの順番があっさりと決まった。
「後は私達がやるから、リアナは休んでて?」
エルが私を甘やかしてくる。
「うぅ~、エル~」
「ちょっ!?リアナ、落ち着いて?むぐっ!?~!?」
私はついついエルをぎゅっと抱き締めてしまった。
「うわぁ~、エルの顔が埋まってるよ!?」
「くっ!?流石はドワーフ族!?」
「いや、助けてやれよ・・・」
驚いた表情をするアカネと悔しそうな表情のセナにエルを助けるようにグリスが言うと、
「あ、アレ?」
「あっ、エルが動かなくなっちゃった・・・」
「救助急げ!?」
「ラジャ!」
こうしてエルの見張る順番は私の前からになった。
翌朝、寝る前に些細な問題があったものの何事もなく朝を迎えた私達は再び移動を開始する。
「今日は結構獲物が多いね?」
先程倒した狼の魔物から出たドロップアイテムを拾いながらエルは私に問いかける。
「以外とかなり深い場所に飛ばされて、奥の方に進んでる可能性はあるな。」
グリスが状況からの推測を喋る。
「でもどのみちダンジョンは一回攻略するんだし、いいんじゃない?」
「間違いなくアルがイジケル・・・」
アカネがもっともな事を言って、セナが忘れていた事を思い出させる。
「あ~、またアルと組手地獄かぁ~・・・」
私は遠い目をしながらそう呟く。
「まぁ、今回は仕方ないよ私も付き合うからリアナ、元気出して?」
「エルゥ~!」
エルが昨日から優しいから惚れそう・・・
「ストップ!?今それやられたら・・・キャ~!?」
そんなじゃれあいを眺めながら、
「いいの?エル、リアナに取られちゃうよ?」
「いや、あの中に混じるのは無理だ・・・」
「リアナのモノは大きいからくんずほぐれつを希望する。」
「希望すんな!?」
私とエルのじゃれあいを見ながらグリスとアカネとセナが話をしていた。
あれから更に5フロアを攻略した。
道中、アカネとセナの索敵と罠の解除がスムーズに行われ、何も問題なく進んで行くと、
「これは扉?」
そう言って私は目の前の扉らしきモノを観察する。
「多分エリアボスの扉だと思うんだけど・・・」
「スイッチあったよ~」
アカネが扉のスイッチを見つけ、みんなで相談を始める。
「どうしよっか?」
私はみんなに意見を求める。
「時間は正直微妙だよね~、暗くなってきたし・・・」
エルは辺りを見渡しながら判断材料の一つを上げる。
「でもここはいわゆる中間地点だからここのエリアボスを仕留めればダンジョンから脱出出来ますよ?」
アカネはこのダンジョンから現在の目的が達成できる状況であることを意見する。
「どんなボスも結局瞬殺な気がする、予想通りに余裕ならこのままこのダンジョンを攻略するのもアリだと思う。」
これまでの流れからセナが余裕でボスに勝ってこのダンジョンをこのまま攻略してしまうという意見を出す。
「確かにどれも一利はあるな・・・」
グリスがみんなの意見を聞いてどれが良いか吟味する。
「そろそろご飯の時間だし、休んでからボスと戦おうか?」
私が戦闘前に食事を提案すると、
「「「「さんせ~!」」」」
満場一致でとりあえずご飯になった。
私が周囲に結界を張って、他のみんなは野営の準備をする。
その途中で、
「いくら結界が頑丈でも見張りはやっぱり必要だと思うんだけど・・・」
エルがあざとく首を傾げながら意見を口にする。
「ヴェルデ達に任せれば大丈夫よ、結界だってそんな簡単に壊れないし、明日はどんなボスが出てくるかわからないんだから今日はしっかりと休んでおくのが一番いいわ。」
私が結界の強度を保証してヴェルデ達のフォローだけで大丈夫だと言うとグリスが
「で、テントは2つあるのか?」
まさに大切な事とばかりな、なんとも言えない表情で確認をしてきた。
「バッチリ!2つあるわよ、エルと一緒に寝ちゃう?」
私がそう冗談を言うと、
「ダンジョンの中にいるのに、これだからリア充は・・・」
アカネが黒いモノを纏い瞳から光が消えた。
「待って!?一緒に寝ないからね!?私はまだ13歳だからね!?未成年だからね!?」
顔を真っ赤にしてアカネに必死に否定していると、
「男なら酒池肉林の夢を見ろ?」
セナが中指と薬指の間に親指を挟んでグリスをエルと同じく顔が真っ赤なグリスをからかっていた。
「もぉ~、セナ?女の子がそんなことしちゃダメだってば!?」
私がセナを宥めて、エルとアカネを見ると、
「アカネちゃ~ん、違うんだってば~!?」
「いいの、エル?ただ私の男運がないだけだから・・・」
「いつかきっといい出会いがあるからその顔やめて~!?」
エルが何故かアカネを励ましてた、というかアカネは私達とそんなに歳が違わないのに何があったのだろうか?
「まぁ、そういう事だから早いところテントを設置しましょ?」
私はこのカオスな状況を打開するべく、みんなに色々と指示をする羽目になった。
テントを2つ設置して、ご飯の支度をしてみんなで騒がしく食事を終える。
その光景だけだとまるでどこかでただキャンプしているように見えるがここはダンジョンの中だ。
「それじゃグリス、寂しいかも知れないけど・・・やっぱり、エルを貸してあげようか?」
「いいから!?そのネタはもういいから!?」
私が口に手を当てて悪戯っぽく小悪魔な微笑みを浮かべながらエルの名前を出すと顔を真っ赤にしながら首を横に振った。
「そんなに否定されると、あえて押し付けたくなるね。」
「横に同じく、後で感想を教えて?」
「寝ないからね!?こっちで女の子の方で寝るからね!?」
アカネにもセナにも悪戯っぽい小悪魔スマイルを浮かべてエルに声をかけて、エルも真っ赤になりながら私に抱きつく。
「リアナ~!?そろそろいい加減にしないとこうしちゃうんだから!?」
「ひゃん!?」
私の鎧の隙間からエルが手を入れてくる。
「え、エル!?そこはダメ~!?」
「グリス君、また明日ね!?」
私はくすぐられながらエルにテントの中に引きずり込まれた。
「これ、私達も巻き込まれるかな?」
「まぁ、サービスサービス?」
「俺は耳栓して寝るぞ・・・」
アカネとセナが自分達にかかるトラブルを思い浮かべ、グリスを見るがグリスはさっさとテントの中に入り寝てしまった。
「うまく落ち着かせましょ?」
「ヤらねばヤられる。」
ここに何を?とツッコミを入れる者は誰もいなかった。
翌朝、日の出とともに私達は攻略を再開した。
「それじゃ、扉を開けるね?」
「ええ、お願いね!」
そして、軽く準備をして早速エリアボスの攻略を開始する。
扉の中は広い空間になっていた。
「みんな、どんなタイプのボスでも油断しないようにね?」
「おう、任せろ!」
「援護ならいつでもオーケーだよ!」
私の呼び掛けにエルとグリスが応える。
「!?来た!?」
「先手必勝!![サンダー・ショット]!!」
部屋の中心に魔方陣が現れ、その中央に力が集う。
そして、その力が形を成した時にセナが矢を放った。
ドガァァァァァァァン!!!
放った矢が相手に刺さった瞬間、雷が迸った。
「あ~、サイクロプスかな?」
「だろうな、あんなにデカイし一つ目だしな」
エルとグリスが冷静に状況を分析していると、
「みんな!?モタモタしてると私とセナで仕留めちゃうよ!?」
早い者勝ちとばかりにビクンビクンと痙攣しているサイクロプスにアカネが止めを刺しに行った。
「[キサラギ流忍武術 闇斬舞!!」
「ピュイー!!」
闇を纏ったアカネが移動の瞬間すら見切らせずにサイクロプスの四肢を斬りつける。
そこに朱雀であるアスカの炎がサイクロプスを焼き追い撃ちをかける。
「グガァァァァ!?」
自らが負った傷の深さに堪らず飛び上がり悲鳴を上げるサイクロプスに私は慈悲とばかりに
「止め!![鬼神砕刃]!!」
魔力を込めた斧の一振りでサイクロプスの首を呆気なく断ち切った。
「あっ、リアナそんな体勢で首を飛ばすと・・・」
ぶしゃあぁぁぁぁ!?
サイクロプスの緑の血が噴水のように吹き上がり、辺りに血の雨を降らせた。
それと同時に私を含めた全員が血の雨を浴びる事になった。
「「「「「・・・・・」」」」」
「ゴメンね?」
みんなの責める目付きに負けて私は手を合わせながら小首を傾げてみんなに一言謝る。
「リアナ~!?」
当然、エルが最初に怒り出して、
「仕方ないよね?リアナだから・・・でも、たまには私がイタズラする側に回ってもいいと思うの・・・」
瞳の中から光が消えた状態でアカネが語り、
「刑名は、エロコスの刑でリアナに処す・・・」
セナが無表情でイケない発言をする。
「俺はノーコメントで・・・」
グリスは背を向けてサイクロプスが消えるのを確認するために私達に背を向けた。
「え、あ、いやぁ~、その、私もちゃんと反省しているからもうちょっと穏便にならないかな~?」
私は少しずつ後退りしながら、みんなを宥める。
「「「許さぬ!」」」
「なら、全力で逃げる!!」
「「「逃すものか~!」」」
この後、10分くらい追い駆けっこが始まったが私の勝利で幕を下ろした。
戦利品の回収を終えて、私達はボスフロアの奥に向かうが、
「あれ?」
エリア移動用の転移装置がなかったのである。
「グリューデンのダンジョンはボスフロアごとに転移装置があるって話だったのに・・・」
エルがガッカリした様子でそう溢すと、
「まぁ、そういう時もあるよ!」
「リアナがいれば、お風呂も食事もバッチリだからモーマンタイ(キラッ)」
アカネとセナがエルを励ます。
「とりあえず今日はここで休もうぜ?風呂に入りたいんだろ?」
「グリスのエッチ!」
「何でだ!?」
グリスが気を使ったのにエルの一言が全てを台無しにした。
「えっと、やっぱりエルのとか興味ある?」
私が地雷どころかナパームを放り投げる。
「いや、そこはやっぱりリアナの方に興味があったりして・・・」
そこからアカネがミサイルを発射して被害の拡大させる。
「グリスは好色と見た、何でもイケる。」
そして、最後にセナが核弾頭を撃ち込む。
「失礼とかそういうレベルじゃねぇな!?人を獣のように言うんじゃねぇ!?」
「グリスがそんな事するなんて・・・」
グリスがあんまりな私達の言い方に抗議し、エルがもう一段階上の解釈をとり、私達の話は更なるカオスを見せ始めて、
「いいからさっさと野営の準備しろっての!!」
最終的にグリスに四人揃って説教を受けた。
グリスからの説教を受け、大人しく野営の支度をして代わる代わるお風呂に入り、今後の方針を話し合う。
「やっぱりこのまま最深部を目指すのがベストかな?」
「まぁ、こうなって来ると仕方ないと思うぞ?」
私が最深部を目指す方向にすべきか、皆に問うとグリスはその方が良いと考えているようである。
「ここから逆に進んでも方向感覚が狂うだけだと思うよ?」
「アルから怒られるのは既に確定しているのだし、今さら気にしても仕方ないと思う。」
アカネはここから逆走しても方向感覚が狂うリスクがある事を提言し、セナがどのみちアルに怒られる事に変わりないと告げる。
「とりあえずリアナの収納魔法に入っている物資が無くなる前にどっちか見つけないとマズイね・・・」
エルが最後にこちらの物資の心配をする。
「物資に関してはまだ焦る必要はないわ。まだまだ十分余裕があるから、それに途中で色々と狩ってるからね!」
私が現在残っている物資にまだまだ余裕がある事を皆に伝える。
「ならやっぱり、このダンジョンを攻略するのが1番だろ?」
「賛成」
「異議無し」
「うん」
「オーケー!」
グリスが最後に意見を締めて、改めて決議を出す。
「じゃ、今日はもう休もうぜ?見張りはどうする?」
「先がどれくらい長いかわからないからヴェルデ達にお願いする予定よ。」
「昼の戦闘は私達が受け持つ感じでいけば大丈夫じゃないかな?」
「それに私達の従魔ならそういうのもそつなくこなせると思うし・・・」
「ただ、今度は従魔達が寂しがると思うから、パートナーが代わる代わる傍にいてあげた方がいいと思う。」
グリスが見張りの有無を私達に問い、私とエルとアカネがそれぞれの意見を出して、セナがそれに問題点を述べると、
「じゃ、交代で一緒に見張り番をすればいいでしょ?」
私がそう答えを出す。
「とりあえず、最初はパートナーである私達3人の誰かって事になるかな?」
「そうならざる終えないわね・・・」
「なら、私が最初を受け持つわ。後の順番をそっちで決めてね?」
エルが私達パートナー3人の誰かが最初を受け持つべきかと問いかけ、アカネが肯定し、私が今晩を見張り番をする事を挙手した。
「わかった、じゃあ後はこっちで話し合うよ。」
グリスがまとめ役を買って出てくれたので私はヴェルデ達の方に行く。
「ヴェルデ、アスカ、エレス、お疲れ様、今晩もよろしくね?」
「キュルウ♪」
「ピュイ!」
「ワフ!」
私はヴェルデ達の頭を順番に撫でて、毛布にくるまってヴェルデに寄りかかる。
「キュ~♪」
ヴェルデはご機嫌なようで唄うような鳴き声を私に聴かせてくれる。
「フフっ、ご機嫌ね?いつの間にそんなに上手になったのかしら?」
私はヴェルデを撫でながら語りかける。
「ワウ!」
「ピュ~!」
すると、エレスが私の膝に頭を乗せ、アスカが自分も撫でろとばかりに頭を私に向ける。
「もう、慌てないの、みんな撫でてあげるからね・・・」
そう言って私はヴェルデ達と一晩触れ合った。
私がヴェルデ達と見張り番をした翌朝、朝食を済ませて私達はダンジョンアタックを再開した。
「どのみち攻略するつもりだったとはいえ、かなり展開が早いわね、何か異常な事があったのかしら?」
まだダンジョンの話を聞いてから7日程時間が経つか経たないかといったところだが、
「どのみち奥に進まないとわからないと思うぞ?」
グリスがそう言って、
「奥に何があってもリアナなら大丈夫だよ!」
エルがよくわからない根拠で大丈夫だという。
「まぁ、リアナがダメならこの国滅んじゃうかも?」
アカネがそれに乗り、
「リアナの強さは既に魔王級、酒池肉林を目指せる。」
「目指しません!?」
セナが人を魔王扱いしだした。
「もう!それだと私が国一つ滅ぼせるみたいじゃん!?」
私が思わずそう口にすると、
「「「・・・・・」」」
みんな一斉に目を逸らした。
「みんな?ちょっとお話しましょ?」
思わず必要以上に優しく問いかけてしまってもおかしくないと思う。
「り、リアナ?冗談だからね?」
「ひぃ!?」
「戦略的撤退!!」
「やれやれ・・・」
エルが一生懸命に私を宥め、アカネは怯え、セナは真っ先に逃げ出した。
それを少し離れたところから眺めていたグリスが仕方なさそうに首を横に振っていた。
女子全員で仲良くお話をした後は、真面目にダンジョンを攻略する。
「そこ、トラップがあるから解除するね」
「敵影は見えないけど左右前方を警戒する」
アカネが罠の発見と解除を担い、セナが索敵を担い不意討ちを警戒する。
「なら、私達は主に背後ね!」
残りの私を含めたメンバーは背後の警戒をして万が一に備える。
5分かかるかどうかという時間でアカネは罠を解除する。
「ふ~、ちょっと手間取ったな~」
アカネが額の汗を拭いながらそう溢す。
「それでもかなりいいペースで解除出来てるから問題無い。」
セナがアカネに水筒を差し出す。
「先はまだ長そうだし、焦らずに行こう?」
エルがそうアカネに声をかけて、
「キュ!?」
「ウォン!!」
「ピュールル!!」
ヴェルデ達が急に警戒するように鳴いた。
「みんな、戦闘準備!!」
「道は幸い一本道だ、上とか下からの不意討ちに気を付けろよ!?」
私がみんなに号令を出してグリスがそこに注意をつける。
「グゥオオオォォ!!」
後方から赤毛の巨大な熊が2匹と、
「わぉお~ん!!」
ドックマンが群れで前方から現れた。
「後方からレッドグリズリーが2匹、前からコボルト擬きが多数接近中、どうする?」
グリスが状況の把握をしてみんなに伝えると、
「トラップの解除に問題は無いから前に出ても大丈夫だよ!」
アカネが先程解いた罠のことを保証して懸念事項から除外する。
「とりあえずコボルト擬きを牽制する。[ラピット・シューター]!!」
セナはドックマンを早打ちで牽制して時間を稼ぐ。
「なら俺もドックマンの方に一発かますか!」
グリスも前方のドックマンを攻撃する事にしたようだ。
「祖は原初の炎、深淵の暗き底を照らす篝火、今その焔の光を世界を導く灯火とせん!!」
グリスが魔力を練りながら詠唱し、一際派手な魔法を唱える。
「[ブレイズフレア・ピラーズ]!!」
するとグリスの前に3本の火柱が立ち上ぼり、その列を崩さずに真っ直ぐに同じような火柱が立ち上ぼりドックマンの方に走っていった。
「ギャウ!?」
「!!?!??」
ドックマンはまともに悲鳴を上げる間もなく大半が消し炭になった。
「じゃ、私が残りの打ち漏らしを仕留めるね!」
グリスが逃した獲物をエルがフォローする為に仕留めいったので残りは後ろの赤熊である。
「アカネ、撹乱お願いね?」
「オッケー、リアナ、私を巻き込まないでね?」
「大丈夫だってば!?」
後ろの熊は食糧になるので丁寧に仕留める。
「悪いけど、弱肉強食だからね!!」
アカネは分身を繰り出しながらレッドグリズリーに肉薄する。
「[キサラギ流忍術 朧鎌鼬の術!!」
反撃する為に爪を振るったレッドグリズリーにアカネの分身が接触した瞬間、一斉に風の刃が炸裂した。
「余所見してる暇は無いわよ?」
私はステータスに任せて真っ直ぐに低く飛び、レッドグリズリーの首を斧で刈る。
ザン!!!!
目標にしていたレッドグリズリーを斬り抜け、後ろにいたレッドグリズリーに真っ正面から斬りかかる。
ドスゥゥン!!!
後ろで仕留めた熊が倒れた音が聞こえてきた時には私は既にもう一匹を仕留めるところだった。
「[瞬身天舞]!!」
私は一瞬で背後をとってレッドグリズリーの首を一匹目と同様に首を飛ばした。
「よし!!お肉ゲット!!」
斧を振るって血糊を飛ばし残身をとりながら笑顔で私がそう言うと、
「少し相手が可哀想だよね?」
エルが不穏な事を口にする。
「熊も吠えねば狩られないのにな・・・」
グリスがそれに同調する。
「あら?二人は食べないのかしら?」
私がニッコリとそう聞くと、
「食べるに決まってんじゃん!?」
「女神様が作ったご飯を食べないなんてとんでもない!?」
二人が一生懸命に言い訳をし出した、セナを見ると、
「よし!一匹目終了、じゅるり!?」
解体した熊肉を見てヨダレを垂らしていた。
「リアナ~、早めにしまわないとセナが食べちゃうよ?」
アカネがその光景を見ながら私に声をかける。
「わかったわ、片付いたらまた移動を再開しましょう。」
私はみんなにそう声をかけて、再びダンジョンの中を移動を始めた。
今日の移動は5フロアに収まり私達はたまたま入ったセーフティエリアで休憩をとる。
「同じ流れなら、後5フロアぐらい移動するとまたエリアボスがいるはずよね?」
私が今日進んだ行程を思い返しながらみんなに問うと、
「そうだな、後4フロアぐらいだと思うが・・・」
「はぐっ、はぐっ!!」
私の問いかけにグリスが考えながらそう答えて横に目を向けると、年頃の女の子がバクバクご飯を掻き込んでいる姿が目に入る。
「深く考えちゃダメよ?」
「・・・わかってる、まぁ進んで見ればわかるだろ?今から考えても仕方ないだろうしな。」
そう言ってグリスは食事の方に集中した。
「リアナ、おかわり!!」
「私も!!」
「極盛りでよろしく!」
「「ズルい!?」」
「ハイハイ、ちょっと待ってて」
そう言って私はみんなにおかわりを器に盛って、傍にいたヴェルデ達に向き合う。
「みんな、美味しい?」
「キュルウ♪」
「ワフ♪」
「ピュルル♪」
「フフ、ゆっくり食べてね?」
そう言って私も自分の分の食事を食べて、後回しにしていたお風呂に入る。
「ふ~♪ん~♪ら~♪」
念入りに自分自身でマッサージをしながら、今日の疲れをとる。
「普通に考えたらここは20フロア以上なはず。」
私は今日刈り取った獲物を思い返す。
「ドックマンはともかく、レッドグリズリーはAランクマイナスだったはずよね?いくら私がランク詐欺だと言っても普通の、まともなパーティーだったらまず勝てる相手じゃないわ・・・」
さっき食べた熊肉を思い浮かべながら私はこの先の危険性を想定する。
「問題は、次のボス部屋が最後ではなかった場合、下手をするとSランクのモンスターが出てくる可能性があるって事になるかな~?」
私は浴槽の縁に顎を乗せて考える。
そんな私を四方を囲っている仕切りの隙間から、覗く不埒ものがいた。
「「「ゴクリ・・・」」」
「ムグッ!?ム~!?」
お馴染みの3名に哀れな生け贄が1人、
「うわ~、なんかちょっと見なくなったうちにまた成長したんじゃ・・・」
「ていうより、胸もそうだけど腰のくびれとかすごいよ・・・」
「正直、来るんじゃなかったと凹んでいる自分がいる・・・」
エルとアカネがリアナのスタイルを冷静に分析して、セナはあまりのレベルの違いに落胆の表情をしながら後悔しているようである。
「ムグ~!?ム~ムム~!?(嫌だ!?死にたくない!?)」
そして、彼は本当に生け贄だった。
遂にその時は来た、
「誰!?」
タオル1枚のリアナが気づいて仕切りをあける。
「「「やばっ!?」」」
3人は疾風のような速さと影のような隠密さで自分達のテントに隠れる。
残されるのは哀れな生け贄(グリス)ただ1人。
「ム~(終わった)・・・」
その表情は正に今、死刑を受ける受刑者のような表情だったと後にリアナは語った。
「グリス?」
「・・・・・」
グリスは目を開けたい男としての衝動を必死に抑えて目をつぶる。
「はぁ~、エル達ね・・・」
リアナはそのままの姿でグリスの束縛を解く。
「はいっ!これで取れたわよ!」
彼の不幸は自由になった身体を確かめるために目を開けてしまった事だろう。
「ありが・・・!?」
「・・・グリス?」
目を開けたグリスはタオル1枚しか身につけていないリアナを目にしてしまったからだろう。
「あっ!?・・・」
そして、遅れて今の自分の格好を思い出したリアナ。
「・・・グリスも一緒に入る?」
「・・・はっ!?」
急に言われた一言にグリスは理解出来ず固まってしまう。
「だってもう見られちゃったし、グリス地面に転がされて泥だらけじゃない?もう遅いから一緒に入った方が早く済むでしょ?」
「・・・えっ?いや?お、おう・・・」
そうして、彼はリアナに手を引かれるまま一緒お風呂に入った。
リアナに背中を流してもらい、一緒に湯船に浸かって3分でのぼせて気を失った彼を責める者は誰もいなかった。
因みに気を失ったグリスの身体をしっかり拭いて、服を着せたのは当然リアナである。
そのまま彼を抱き上げてグリスをテントに運んだのもリアナである。
そして、そのまま彼を1人で寝かせるのは心配だからと傍で添い寝してくれたのもリアナなのだ。
翌日の朝から波乱が満ちているのは確定である事は間違いない、グリスの未来に希望はあるのかどうか、それは誰にもわからない。
そして翌朝、グリスは目覚めた。
何故か彼はリアナに抱きつかれており、彼女の寝顔を初めて見る。
「!!?!?」
あまりの驚きに身を固くするが、とにかく冷静になろうと目の前の状況を分析する。
昨晩は問題児3名に急に拉致られ、入浴しているリアナの覗きに付き合わされたのである。
とはいっても、グリス自身は全身を拘束されて身動き出来ない状態で地面に転がされていただけではあるが、それでも連れてこられたのだからそうなりえる。
当然リアナに発見され、エル達の目論見通りに生け贄としてリアナに見つかり、死を覚悟したら女神が舞い降りた。
縄をほどいて貰ったとはいえ、間違って入浴中のリアナの姿を目撃してしまったのである。
彼はその姿を見た時死んでもいいとさえ思った。
彼女はそんな彼を不憫に思い、一緒にお風呂に入るという暴挙に出る。
グリス自身も余りにも予想外の展開にまともな答えを返せず成すがままリアナと混浴してしまった。
今日このあと起きたらどうなるか、考えるのも億劫になり、たった今、目の前にある可愛い寝顔を失礼だと思いながらもじっくりと見てしまう。
「んっ?・・・」
少し身動ぎしてリアナが目を開ける。
「あれ?グリス?何で?エルに怒られるよ?」
リアナはまだ寝惚けているようである。
「・・・あっ、そっか、昨日・・・ならいいか、ギュ~♪」
「ちょっ、リアナ!?」
開き直ったリアナはグリスを力強く抱き締める。
彼女の行動にグリスは慌てるが、
「ねぇ、グリスは私じゃダメ?」
「えっ?」
自分よりも年下だとは思えない色気を感じさせる表情でそう囁かれた。
「俺は・・・」
「ふふっ♪悩んでくれるんだ?」
「そりゃ、悩むだろう!ましてや昨日、あんなことするやつだとは思わなかったしな!」
それからグリスは顔を赤くして、
「それに・・・昨日は結局色々見ちまったしな・・・」
「・・・エッチ」
昨日の事を指摘されて、リアナも少し顔を赤くしながらそう言った。
「あんなにすぐのぼせたのに、やっぱりちゃんと見てたんだ?」
「うっ!?」
グリスは気まずそうに目をそらす。
「私はグリスがいいと思った人でいいと思うよ?」
「えっ?」
するとリアナは起き上がり、身支度を軽く整えてテントの外に出て行った。
「あ~、やっぱりリアナにはかなう気がしないな・・・」
彼はそのままテントの上を眺めて、女心について悩むのであった。
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