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10 試した者と試された者

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 余が王である、おもてをあげよ。
 そう言われてあげると私を迎えに来た白髭のお爺さんが王を名乗っている。
 その豪華な椅子の少し後ろに赤髪の男性が申し訳なさそうな顔をしていた。

「あーーーーー! 学園の校長と、行き遅れのヘルン王子!」

 私の叫びが納まると、場はとても静かになった。
 やってしまった。

 王と王子を思いっきり指をさし、呼び捨てたのだ。
 ザッツ死刑。

「ももももうしわけございません」

 慌てて頭を下げる。
 穴があったら入りたい、いやこれから墓穴に入るんだ、願いは叶うじゃない。
 じゃなくて、もう消え去りたい。

「ふぁっふぁっふぁ。噂通り不思議な生徒じゃ。
 よい、顔をみせ」

 怒ってない? 私はもう一度顔を上げる。
 白髭のお爺さんもとい、ヒュンケル王はにこやかな顔をしていた、横にいる行き遅れのヘルン王子も顔に手を当て、横にいるアマンダさんと何かを話している。

 ヘルン王子は前作からのキャラで、新米錬金術時ナナを一般市民として扮装して助けるお助けキャラだ。
 攻略対象にはないからイベントは少ないけど、ナナは暫くその正体に気づかず、ナナが冤罪で捕まった時に初めてその正体をしる。

 場の空気が軽いこれって、死刑は免れそう?

 ヒュンケル王はにこやかな顔から急に真面目な顔になる。

「死刑――――」

 私はその場に崩れ落ちた。
 やっぱり死刑、前世の記憶がもどりわずかであったが変えれる未来は変えたと思っていた。
 でも、そう上手くはいかないからしい。
 私の視界が激しく動く、特に意味のない人生だったな。

「――い。――おいっ!」
「あれ、ディーオ? よ、よかったわね問題のある生徒は死刑よ」
「先生ぐらいつけろ。いや学園長の……王の話を最後まで聞けっ」

 私に死刑宣告をした王は、王子に詰め寄られていた。
 私の死刑方法を言い争っているのかな。

「すまんすまん。死刑を言うわけじゃないから安心しなさいと、いったんだがの……」
「死刑じゃない?」

 ディーオの顔を見ると、静に頷く。


「じゃぁ……何の用事で……?」
「それは、行き遅れの僕から説明しよう」

 ヘルン王子が私に近づいてきた。
 崩れ落ちた私の前でしゃがむと、まっすぐに私の顔を覗きこむ。 

「いえ、あの、言葉のあやで本当にそうではなくですね」
「かまわない、噂はそんなものだからね」

 ヘルン王子は私を呼んだ理由を説明してくれた。
 パパに渡した『もっと魔よけの香』ゲームではナナオリジナルと思っていたけど過去に王子のために一本だけ作った人が居たらしい。
 ヘルン王子は口に出していないけど、過去にこの国にいた錬金術師だったよと教えてくれた。
 その人物こそ、前作の主人公ミーナである事は私も察した。

 で、それを知らないパパは、城の中で自慢した。
 娘が作ってくれた奴だ! と、それを偶然聞いた王子は一本手に取ると、なぜ昔見た同じ物があるのか不思議に思って関係者を呼んだ。
 後は、国としても良くわからないのを申請無しに、いきなり使わせないらしい。
 らしいってのは、ばれなければOKがあるからだ。
 つまり、パパが騒がなければ全部穏便に済んだ。
 うん、パパが悪い。


「で、君はこのレシピはどこで? ディーオにも聞いたけど彼もこの方法は知らないと言っていた。
 一応作った子にも聞いたけど、その子はエルンさんに教わったと目を輝かせて言っていたよ」
「ええっとですね」

 ゲームで見たから! とはいえない。

「それに君は、賢者の石なんて図鑑にすら、存在しない物の名前をなぜ知っているんだい?」

 なっ。
 賢者の石を知らないなんてありえ……そうだ、ディーオはミーナの事をなんていったっけ、錬金術をかじった冒険者だといっていた。
 という事は、賢者の石を作った事はないだろう。
 それにナナだってまだ入学したばかりだ賢者の石という存在すら知らないし、ゲームでは『あのミーナさんと同じ賢者の石が出来た』とか言ってた気がする。

 何か言わなくては、夢なら覚めて欲しい……。
 夢? そう夢だ。

「夢です!」
「夢?」
「はい、夢で見たような気がして、作れそうなきがしたんです」

 ヘタレ王子。ちがう、ヘルン王子が立ち上がり考え込んだ。
 ちなみに私がヘタレというのは、何かのイベントの時にヘルン王子が『僕も若い時に告白が出来なくてね』と告白するシーンがあったからだ。
 それを受けて私はヘタレと画面越しに思った


 そんなヘルン王子のぶつぶつと呟く声が聞こえる。

「そうか、いや、もしかしたら本当にそうかもしれない。
 君の父上に聞いた所、かれもミーナの事を知らなかった……」

 よし、乗り切れる!

「こうぱっと閃いた! っていうんですかね。これとこれを混ぜればいいのが出来るんじゃないかって、その申請しなかったのは、知らなかったんです!」

「彼女も良くお告げだと言っていたし……いや、本当雨の中すまないね。
 もしかして、君が彼女の事を知っているんじゃないかと思って、呼び出したんだ」

 滅相も御座いませんと謝る。反対側にいるディーオは、こういうのは裏で非公式でやれと文句を言っている。
 ヘタレ王子に聞こえたらって、あ、名前が違ったヘルン王子もすまないなって謝っている。
 あれ、ディーオとヘルン王子って仲がいいのかしら。

「お二人は仲がいいんですか?」
「そうだね」
「ちがう」

 正反対の答えが同時に返って来た。
 仲はいいらしい。

 ヒュンケル王がにこやかに場を閉める。

「何やら上手くまとまったようじゃ――」

 ファンネル王が喋り終わる前に甲高い声が謁見の間に響く。

「王よっ何もまとまってません!」

 私は声の主を探すと、これまた年取ったお爺さんが眉間に皺を寄せていた。
 頭は剥げており、腰には剣のつもりなのか剣ではなく杖を差している。
 私達を睨みながら咳払いをし始めた。 

 私の中では誰? 状態である。
 せっかくまとまり掛けていた話をまとまらなくしたのだ。
 ヘルン王子は立ち上がり不機嫌な声で、
「これは、ガール補佐官。
 王の言葉をさえぎるまで重要な話ですか?」
 と言うと謁見の間の空気が悪くなっていく……。いや、もう不幸になりたくないし帰して。
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