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44 美味しい所を持っていく奴

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「どっせいいいいいいっ!」

 私は長い木の棒をフルスイングする、手に重たい衝撃が伝わる。
 直ぐに、日暮れ狼のキャインキャインと言う鳴き声が響く。

 私は呆然としているマギカの手を握ると無理やり起たせた走らせる。

「急いでっ!」
「エルン・カミュラーヌ、貴女か、肩が……」
「知ってるっ! ああ、もうしつこい」

 三匹・・目の日暮れ狼の胴へ木の棒を叩きつけた。
 その衝撃で半分に折れた木の棒を手に持ったまま走る。

 どれぐらい走ったのか、私もマギカも息が荒い。
 川が目の前にでてそれ以上は逃げられない。

 思わず後ろを見ると、日暮れ狼が追撃するような気配は感じられなかった。


「「逃げ切った……?」」

 私の声なのか、マギカの声なのか二人で同じ事を言ったのか。
 辺りを見ても狼の気配は無い。

 目の前の大川を見る。
 対岸までざっと六メートルはありそう、途中から深さは一メートルから二メートル。
 水は透き通っているけど、流れは速い。
 周りを確認しても橋は見えなかった。

「今の所は安全そうね」

 私とマギカは思わずその場に座り込んだ。



 ◇◇◇


 カー助に助けを呼んできてと飛ばした後だった。
 私達二人を囲むように複数の赤い目が光ったのだ。
 私は手探りで見つけた枯れ木の棒を拾ったと同時に、日暮れ狼が襲ってきた。

 後はご覧の通り必死で逃げた。
 一息つくと肩の痛みが襲ってくる。
 肩の部分の衣服が破け白い肩が出ていた、その肩には三本の爪痕があった。

 残った袖の部分を強引に引っ張り腕をさらけ出す。
 流れている川から水をすくって傷口を簡易消毒を試みた。

 いいいいたあああああああああっ!! 痛い痛い痛いんですけど!!

 一人だったら叫んでいたかもしれない。
 はぁはぁはぁ…………痛みはあるけど血も止まったようだ。
 後は何かで縛ったほうがいいわよね。


 何か持ってないかな、ポケットに手を入れると指先に布の感触があった、取り出すとレースのハンカチだ。ディーオから貰った奴


「マギカっ」
「………………」


 心ここにあらずって言った感じね、怖いだろうけど現実に戻ってもらわないと。

「マギカっ!」
「は、はいっなんでしょう?」
「傷口を縛りたいから手伝ってもらえる? あと、怪我はない?」
「無いですわ……たぶん」

 それは良かった。
 成り行きとはいえ他所よその少女に怪我をさせたとなると、責任問題も出てくる。
 私個人の怪我はまぁ……他人が怪我をするよりはいいのかな。

 肩からわきにかけてハンカチを巻く。
 その上から、千切った袖の部分を包帯代わりに縛る。


「もう少し開けた場所に移動しましょう。川沿いにあるけば……最悪の場合は川へ飛び込むわよ」


 いい判断とも思えないけど、黙って座っているよりはいいかもしれない。
 問題は私は泳げないけど、それは黙っておく。
 もしかしたら森から抜けれるかもしれないし、精霊の結界内には入れるかもしれない。 後はカー助が私を上手く見つけてくれるのを願うだけ。


「エルン・カミュラーヌ…………なぜ私を助けたのです」
「そりゃ助けるでしょ……何、あの場面で一人で逃げるって思っていたわけ?」

 私の問いに、マギカは複数回頷く。
 コイツは……私はそんなに酷くはない。

「だって、貴女からみて私はリュートお兄様と結婚するのに邪魔な存在ですわよ」
「結婚するんだったね、したくないし。
 それに、どっちにしても助けれるなら助けるわよ、それより周りに注意して」


 時刻は夕方から夜に変わりかけている。
 わかってますわ! と言うと辺りをきょろきょろし始めた。


 結婚ねぁ……仮にリュートと結婚しても愛の無い結婚なのよね。
 貴族だし、いいえ貴族だから、そういう結婚もある。
 極力考えないでいた事で、これは婚約を破棄した時に思ったことだ。
 リュートと婚約を破棄したらとりあえずの正史である殺害からは逃れるけど、政略結婚があるかもしれないと。
 幸いパパが娘が可愛い異常者アレなので、私の意見を尊重してくれてるけど何時までかは謎。
 パパがどうしてもって言うなら、お見合いぐらいは覚悟はしている。

 あーやっぱり、そういう面倒な事を全部解決できるお金が欲しいわ……。

 そもそも、日本にいた頃から結婚なんて考えて無かったわよ!
 あんなの、齢とったら自然に出きる物なんじゃないの!? 
 何がいき後れだ! 相手がいないだけだって言うの!

 何、君の結婚相手はコンビニで売ってないのかね? とか。
 先輩知ってます? 居酒屋はおぢさんが行く所ですよ? など。

 私の視界が突然に揺れた。

「な、なにっ!?」
「よ、良かったですわ。突然ブツブツ言い出し始めて。
 貴女はマギカを守る為に居るんですから、その……勝手に一人の世界に行かないで下さいっ!」

 いつの間にか、心が遠い世界に逝っていた。
 おかけで思い出したくも無い記憶が断片的に思い出したわよ。
 でも、マギカもこうみると可愛い所あるのね。


「ツンデレっ」


 思わず言った言葉にマギカは口をパクパクさせて、指を突きつけてきた。

「何言い出すんですかっ! ツンデレとかありえませんわっ! 早く森を抜けますわよ」
「はいはい」
 

 私がマギカの手を握った時、全身に鳥肌がたった。
 マギカも同じなのか、歩き出そうとした足が止まった。

 私たちの前方に森から巨大な影が出てきたからだ。
 頭が二つある大きな熊。
 ゲームでの紹介文が自然に口から出ていた。


「ダブルベアー。頭が二つある大きな肉食魔物で凶暴であるが、その肉が旨い……」


 その四つの目は赤と青に光っており私達を餌としてみているのがわかった。
 そうか、日暮れ狼が後を追ってこなかったのは、ここはアレの縄張りだからだ。

 ダブルベアーが私達にむかって四つん這いで走ってきた。

「川に飛び込むわよ!」

 私がマギカの手を引っ張ると同時に別の声が聞こえてきた。

「頭を下げろ!」

 私は川へは飛び込まずマギカを抱きかかえ頭を下げた。
 背後から、土を叩く足音が複数聞こえたかと思うと私達を飛び越えていく。
 
 馬だ。

 乗っているのは、以外にもディーオでその手には細い剣が握られていた。
 ダブルベアーが大きな口を開けディーオの馬へと迫っていく、その手をかいくぐるとディーオはダブルベアーへ剣を振るった。

 突然背後から、二人とも待たせたと、声がかかる。

「え?」

 振り返ると、これまた馬に乗ったリュートが私達を見下ろしていた。
 その肩にはカー助が、仕事しましたよ! な得意げな顔で乗っている。
 
「助かった…………?」

 私の顔を見てリュートは一度頷いた。
 
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