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24 盗賊王(自称)

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 盗賊たちが踏み鳴らした、細い道を一本の列にして歩く。
 慌てていたのだろう、最初に見つけたような隠された道ではなく、バレバレな道だ。
 ここからは、何かあるかわからない。
 と、いう事でマリエルが先頭で、僕は後ろから二番目であった。
 後ろには、僕の事を嫌っているナナが居る。
 前の隊員も、顔は知っているが話した事はない。

 何も会話をせずに黙々と歩くと、背後から声が掛かった。

「ちょっと」

 振り向くと青い目を細くし、僕をにらみ付けてくる。

「何か話したらどうですか」
「えっと、何かって」
「お姉さま達とは楽しそうにしてるのに、私達とは話さないとか随分と、いんしつなんですねっ」

 僕に文句をいう。
 どうしたもんかと、僕は頬を掻いた。
 別に楽しい楽しくないで、マリエル達と話していたわけじゃない。
 話しかけられてくるので返しているだけだ。
 正直に話したらマリエルが悪い見たくなってしまう。
 先頭が止まったのか列全体が止まった、ナナとの距離が少し近くなる。

「ごめん、気の聞いた話はあまりしらないんだ。
 隊がとまった……、アジトを見つけたのかも」
「当たり前です。
 お姉さまは優秀なんですから、それなのにこんな無能ばっかりばっかり――」

 段々と声が小さくなっていくナナ。
 無能とはもちろん僕の事だ。
 確かにその通りなので特に反論もしない。
 いや、逆に力が在ったとしても無能なのは間違いないんだから。

「なぜか、おねーさまはアンタを庇っているけど。
 悪いと思っているなら、コーネリアを生き返らせてよ……」

 無理だ。
 言葉に詰まると、僕の前にいた女性がよって来た。
 年齢はマリエル達より上に見える女性。
 ショートヘアーの黒髪で、剣も持っているが背中には弓をしょっている。

「ヴェルさん、ちょっと前を通るよ。
 あまり嬉しくない話が聞こえたからね」
「アデーレ先輩、なんですか?。
 私は本当の事を言っただけ――」

 アデーレと呼ばれた女性は、ナナの前に立つ。
 ナナの頬を小さい音が鳴る程度で叩いた。
 あの音なら痛くは無いはずだ。 
 でも、ナナは信じられない者を見る目で、アデーレを見ていた。

「いいかいナナ、そしてヴェルさん。
 死は誰のせいでもない、こんな話が隊長に聞かれたら、あの人は全てを受け止めようするから『私が死を運んでいる』ってね。
 ヴェルさんも気を悪くしないでほしい、この子は隊長がちょっと好き過ぎてね」

 叩かれた頬に手を当て、ナナが更に文句を言い出す。

「普段口数が少ない割りに随分と、この人をかばうんですねっ。
 コーネリアは私の親友なんです、親友が殺されたら」  
「だったら、コーネリアは私の義妹だ」
「え……」
「もちろん、あの子には秘密にしてたし、知っているのは隊長と副隊長だけ。
 それにヴェルさんだって村を滅ぼされている、その責任は誰か取る? 助けた遅れた聖騎士じゃないのか、取りようが無い。
 だから、あの子の死を無駄にしないで、あの子の事を覚えていて欲しい」

 アデーレは、荷物を背負いなおすと前へと詰めた。
 ナナはうつむいている、こういう時は好きなだけ泣かせたほうがいいと、妹がいたクルースに聞いた事がある。
 聞いた事があるからといって、その方法までは教わっていない……。
 はぁ……。
 先頭のほうから小走りに走ってくるファーが、視界に入った。

「アレーレ、ナナ、ヴェルさん。
 後ろが騒がしいですけど何かありましたか」
「副隊長、特に異常はないです」

 アデーレが簡潔に報告する。
 無言で涙をぬぐうナナ、アデーレ、そして僕を見て軽く息を吐く。

「そういう事にしておきましょう。
 ナナ、怒りをぶつけたいのであれば。
 これが終わった後に隊長と稽古を付けるように手配します。
 少しは気が晴れるはずです」
「ほ、ほ――んんんんっ」

 行き成り大声を上げようとするナナの口を、ファーが強引に塞ぐ。
 おかけで差ほど周りには広がらなかった。

「静かにしてください、いまアジトを見つけた所なんですから」

 注意するファーにナナは目を輝かせ何度も頷く。
 それではと、ファーは先頭に戻っていった。
 ナナは、先ほどとは違った顔になっていた。
 隊長と稽古……と呟いた後に、口もとをぬぐっている。
 よだれが出るほど嬉しいのか。

「あの子は、かなり隊長が好きすぎてね……」

 アデーレが僕のほうまで、下がってくると、口元を引きながら話してくれる。
 ちょっとから、かなりに言い方が変わっていた。
 アデーレは腰のベルトから何かを取り出す。
 
「見る?」

 アデーレが、僕に小型の筒を手渡してくれた。
 レンズが嵌めてあり、小さいが望遠鏡になっていた。
 ありがとうと、礼を言ってから覗き込む。

 木々の隙間を埋めるように腰ぐらいまでの高さの塀がある。
 塀の一部には壊れかけた門。
 あちらこちらの建物には松明がくすぶっている
 木造の建物がいくか見え、さらに奥には一際大きい建物が見えた。
 人の気配はしない。

「人の気配がない、罠……?」
「かもしれない。
 あ、隊長が突入するみたいだ」

 僕は望遠鏡を返して、先頭をながめる。
 先ほどの壊れかけた門を蹴り飛ばし開け放った。
 ぞろぞろと敷地内に無いに入る。
 やはり人の気配が無い。
 あれほど大勢いたにしては静かなのだ。
 マリエルとファーが話し合っている。
 全員を集めると苦い顔で伝えた。

「おそらく、逃げられた後。
 アジトは放棄でしょう。
 本来なら直ぐに逃げた奴を追いかけたいけど、調べないわけにも行かないのよね。
 三人体制で調べて、何も無ければ、万が一残党が戻ってくる可能性もかけて一泊。
 他に意見があれば、お願い」

 特に反対意見は出なかった。
 僕は、ナナとアデーレと共に行動をしていた。
 命令されたわけじゃない。
 先頭から三名抜けていき、余ったのがこの三人だっただけ。

 アデーレは、近くの建物の扉を蹴破る。
 直ぐに壁へと身を隠した。
 中からは反応が無く、僕も顔を覗き込んで中の様子を見た。
 簡単に作られた三段ベッド左右に九個、この部屋だけで十八人が寝泊りしていた事になる。
 室内全体が異臭を放っており、ナナがしかめっ面をする。
 アデーレのほうは特に気にする様子も無く、汚れまくった毛布を一つ一つ調べている。

「すまない。二人とも、奥のベッドを調べて貰えるか」
「えー……」
「わかりました」

 僕とナナは同時に返事をし、僕は奥の毛布を調べる。
 二段目や三段目を見るも特に変わった所はなかった。
 背後を見るとナナが鼻をつまんでは、毛布を床に捨てていた。

「特にないですね」
「こっちも、ナナは」
「うわ、何か湿った布触ったっ!」
「どうやら何も無いみたいだね、別の建物へ行くよ」

 アデーレに言われて外に出る。
 ちらりと見ると、マリエルは中央広場らしい場所で火をたいている。
 後はこの火を見た残党達がどう思うかだ。
 戻ってくるか、戻ってこないか。 
 
 アジトの端にある石で出来た建物に入る事になった。
 アデーレが先ほどと同じ手順で扉を開け思わず手を止めた。
 錆びた匂いが外へと漏れ出した。
 窓も無く暗い。
 壁の松明へと明かりを灯すと、想像通り鉄の牢が幾つか見えた。
 一番奥には、裸の女性が鎖に繋がれ、死んでいるのだろう動きはない。
 手前の牢には既に骨となった人物が無造作に散らばっている。

 鍵の掛かっていない牢にアデーレが入る。
 僕は白骨死体のほうに入り周りを調べた、一部薄汚れた布などを触るも特に外傷は無い。
 在るとすれば、頭骸骨が胴と離れているぐらいだろう。
 アデーレはやはり黙って首を振り、僕も部屋を後にした。
 
 広場と言えるほど広くも無い場所に全員が集まる。
 マリエル達は、一番大きな建物から一人の男をひっ捕らえて出てきた。
 口に布を巻かれ、両手は背後に結ばれている。
 特にその男には誰も何も触れず、ファーが報告をしくださいと、号令をかけた。

 アデーレが報告する。

「こちらは、寝室と牢を調べた。
 牢には誘拐された旅人が一名、乱暴された後ありで死亡確認。
 他、白骨死体」
「ミントなのだ、武器がいっぱるある部屋があったのだ。
 ふぁーちゃんの言うとおり全部壊したなのだ」
「こっちの班は、宝物庫。
 いや元宝物室、案の定殆ど持ち去られていた」

 あちらこちらから報告を聞き、まとめ始めるファー。

「では、私からも。
 恐らく頭領と思われる屋敷に突入も既にものけの空。
 地下に隠れていた男を一名確保ですかね」

 男は僕をみて目を見開き、必死に何かを訴えている。

「何か言いたいみたいですね
 どうしますマリエル隊長」

 ファーの提案に腕を組む、マリエル。

「うーん、襲い掛かってくるなら問答無用で切るんだけどねー……。
 無駄な抵抗したわけじゃないし、取り合えず話を聞きましょうか」

 盗賊の口にある布が外されると叫ぶ。

「た、助けてくれ。
 頼む、助けてくれ。なぁヴェル、お前ヴェル坊だろ?」

 僕を名指しにされて、全員の注目が集まる。
 相手は僕を知っているみたいだ。
 村に来た行商人?。
 商人から賊になったのだろうか。

「えっと……誰?」

 冷たい一言にも思えるが、やっぱり知り合いには思えない。
 それでも僕の名前を連呼する盗賊は勝手に身の上話を始める。

「誰って、お前バロンの所に居たガキだろ。
 黒髪に、首元にある三つのホクロ、普段から胡散臭い顔をしているが、アタマに気に入れられた奴で、お前の兄貴分だったジャッカルだ。
 な、兄貴を助けるのが子分の仕事だよな? な?」

 慌てているのか本音と建前が混ざっている盗賊ジャッカル。
 僕は首元を触る、確かにホクロはある。
 所々恩着せかましいけど、記憶にない。
 そもそも、あの当時は命令されて動く子だったから、言うなれば全員が兄や姉だった。
 その兄や姉達が、謎の騎士に殺されたからと言っても、特に何も思わなかったのに、その当時の自称兄が来ても特に思う所はない。

「すみません。覚えてないです」
「覚えてないってお前、俺らが命令して女、子供を殺したり。
 盗みを働いたりしたじゃねえか。
 自分が助かりたいからってそりゃねーぞ」

 周りの空気が少し変わった感じがした。

「助かりたい助かりたくない、ではないです。
 うろ覚えですけど、行動は何となくは覚えています。
 あなたの事が覚えてないだけです」

 納得がいかないのか、ジャッカルはマリエルへ悲願する。

「聖騎士ねーちゃんよ。
 なぁ、ほら俺を殺すなら、あいつも殺そなきゃ道理がないっておもわない。
 あっもしかしてヴェル坊を愛玩として連れてるのか。
 それだったら俺のほうがもっと凄いぞ」

 ジャッカルは縛られて座らされてるのに器用に腰だけ動かす。
 その姿にマリエルは額に手を当てため息をついている。
 
「情報を整理させて、ヴェルの事は置いておいて聞くけど。
 ここに来た奴らはどこに? それと、彼方がバロンの一味として、バロンはもう六年前に滅んだと聞いたけど、何故生きているのかしら?」
「…………喋ったら助けてくれるのか」

 おちゃらけて居たジャッカルが、妙にキリッとした顔付きになる。
 
「無理ね」

 即答するマリエルに口を開けて固まるジャッカル。
 直ぐに大きな声を上げ始める。

「おいおいおい、そりゃねえってばさ。
 俺も仮に未来の盗賊王ジャッカルと呼ばれた男、無駄な命乞いはするつもりも無いが、もう少し恩情ってのがあってもいいんじゃないかっ?
 お、よく見たら美人揃いじゃねーか、そんな美人が、こんなちんけな悪党を殺しても良い事ないぜ?」
「あなた今、自分は未来の盗賊王ジャッカルと呼ばれた男って言ってたじゃないのよ」

 言っている事が無茶苦茶で、マリエルは呆れ顔になっていく。
 でも、こんな絶望のふちに居るのに、何故か強気のジャッカルは少し凄いと思ってしまう。

「俺が許されなくてヴェル坊が許される何が違うんだ」

 必死にマルエルへと訴えるジャッカル。

「顔と性格」

 またも即答するマリエルにうな垂れるジャッカル。
 マリエルの答えを聞いて、数名の隊員が笑い出しそうになっているのが見えた。

「顔ばっかりはしゃーない。
 もういいぜ。
 姐さん方、俺を、ジャッカルを殺してくれ。
 ああ、次に生まれ変わるときは、ヴェルみたいな顔になるからなっ」

 ちょいちょい、僕を引き合いにするのは辞めて欲しい。
 ジャッカルの言葉を聞き終わると、ファーが二人に話しかけた。
 眼鏡を拭いていたらしく、ファーは再び眼鏡をかけなおす。

「えーっと、マリエル隊長。
 漫才は終わりましたか」

 数名の隊員が噴出した。
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