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二章

68 帝国フォルダン

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「じゃんけんしょ! あいこでしょっ!」
「あっ、今のおそだしっ!」
「してまーせーんー、それにあいこだから関係ないじゃない!」
「ありますっ!」

 フローレンスお嬢様とマリエルが、門近くの広場でじゃんけんをしている。
 事の発端はアデーレが連れて来た馬にどう乗るかという所だった。
 馬は三頭、人は五人。

 以前もこんな様な事があったような、あの時はマリエルと乗ったっけ……。
 まぁフローレンスお嬢様とマリエルは僕と一緒に乗るのにじゃんけんをしていた。
 本来は馬車、もしくは馬が五頭はほしいけど短い旅での贅沢は出来ない。

 僕の肩をアデーレが軽く叩く。
 振り向くと、馬とコーネリアを順番に指を差していた。
 なるほど……。
 僕が頷くとアデーレが口を開く。

「そのほうがいいかと」
「わかりました」
「え? ええっ!?」

 一人解っていないコーネリア。
 一頭目の馬に、まず僕が乗り、密着するようにコーネリアが前に座る。
 二頭目の馬は体格が大きいアデーレが一人だ。

「かったああああああっ!」

 マリエルが大きな声を上げた。
 勝負が付いたのだろう。

「さぁ、ヴェル一緒にのり……あれ?。
 なんでコーネリアと一緒?」
「戦力のバランスです。
 それにこのほうがもめません」

 アデーレがすぱっと切る。
 アデーレは背が大きい分、一人のほうがいい、そして強い。
 僕とマリエルが一緒ににると過剰戦力で、コーネリアとフローレンスお嬢様が一緒であれば、何かあったときのコーネリアの負担が大きくなる。

「そ、そうね……。
 じゃぁ、フローレンスちゃんのろっか……」

 話をふられたフローレンスお嬢様は、落ち込むマリエルを見てアデーレを見上げる。

「わたしとしては阻止出来たから嬉しいけど、そしたら次の町で交代って案は」
「当然ありません」

 アデーレが、フローレンスお嬢様の意見をばっさりと切った。
 ともに落ち込んで二人で一つの馬へと乗り、やっと進んだ。
 順番はアデーレ、フローレンスお嬢様マリエル組に、最後が僕とコーネリア組である。
 
「すすすすみませんっ!」
「何が?」
「いえ、私なんかよりも隊長のほうがいいですよね」
「……意味がわからないんだけど。
 でも、二人よりはコーネリアと一緒のほうが安心するよ」
「ふええっ!」

 なんせフローレンスお嬢様とマリエルはなぜか僕を意識して対抗しはじめる。
 マリエルが僕にアタックをしかけてきて、フローレンスお嬢様がむくれる、それをマリエルがからかい、小さな戦いへと発展する。
 どっちが一緒にのっても胃が痛くなる。

「お腹痛いんですかっ!? いい薬あるんですよっ」
「ありがとう、後でもらうよ」
「ヴェルさんって、なんだか親戚のお兄さんみたいな人ですね」
「僕が?」
「はい、何でも知っているのに、どこか寂しそうで」
「何でもは知らないよ」

 知っているのは前に起きた事だけだ。
 こういう小さいトラブルはあったけど帝都までは順調だった。
 町へ行き手紙屋で近状を交換しあう。
 時差があるぶん最新ではないがファーランスのほうも順調らしい。
 帝都に付く頃には、第七部隊として帝国の城へ入る事ができそうな事まで教えてくれた。

 二日半、僕らは帝国首都が見える場所まで来た。
 遠くには城が見え、その左側には大きな湖、そこから流れる川が城や城下町を通っているのが見える。

「ヴェルっ! 黒い煙! 火事よ火事っ!」

 フローレンスお嬢様が町を指差す。

「恐らく火薬ではないかと思います。
 帝国は能力者の引き抜きも然る事ながら火気の開発も力を入れていると聴きます」

 アデーレがその疑問に答えてくれた。
 コーネリアが真面目な声をだす。

「火薬ですか……」
「心配?」
「はい……」
「そうね、火薬を使う技術は王国にもあるわ。
 でも開発は凄く制限されている、だって一般市民が危険な道具を持つ。
 それこそ聖騎士でも不意を疲れたら終わりよ、さて先ずは手紙屋よ」
「そうですね。
 取り合えず行きましょうか」

 ここ数日でかなり旨くなった手綱捌きで馬を走らせる。
 直ぐに城下町が見えてきた。

 馬を馬屋へと売る。
 僕達五人は固まるようにして帝都を歩いた。
 城下町に入ると帝国色が凄い出ているのがわかった。
 あちらこちらに帝国兵の服を来た人物が歩いており談笑しているのがわかる。
 王国では兵士は城や詰め所にいる事が多く一般市民と一線を引いているのが多い。

 フロレーンスお嬢様は一人で壁に寄りかかっている兵士の前に歩く。
 
「ねーねー、お城に行きたいんだけど、あと手紙屋さんはどこ?」

 無造作に近づくと行き成り声をかけはじめた。
 僕は驚いて、兵士の前に行き無礼を謝る。
 僕らの姿をみて旅人とわかったのか笑顔になる兵士。

「ああ、いいって事。観光かい? それともお嬢ちゃんは違うようだけど君達四人は剣を持っているって事は兵希望かな。
 何にせよ、ここをまっすぐ言って橋が見えるから、そこを越えたら直ぐだよ。
 手紙屋は、あの見える建物」

 丁重に礼を言って手紙屋へといった。
 ファーの手紙が既に届いていて、謁見用の書類が同封されていた。

「にしても、私たちより手紙が届くって不思議なんですけどー」
「彼らには独自の道があるから、その分値段も高いけど……」

 僕もオーフェンと裏道を使って、フローレンスお嬢様へと追いついた口だ。
 とは言えギリギリだっただろう。
 
「ふーぎりっぎり、ええっと。
 親善交流と形らしいわね、お互いの武を高め向上にだってさ」

 マリエルは書類を確認すると、鞄へとつめた。
 これで城に入る口実は出来た。
 大きな橋を渡ると門兵が僕らに気づく。

「やぁ旅人さん。
 雇用申し込みなら右、城に用事があるなら僕が――」
「――入れ」

 若い兵士の言葉をさえぎる声。
 若い兵士と僕らは一斉に声のほうをむいた。
 顔をマスクで覆った長身の男、顔無しだ。

「か……、兵長!」
「好きに呼べ、俺は兵長になぞなったつもりはない。
 フローレンス良くきてくれた」
「うん……」

 フローレンスお嬢様が、顔無しの眼の部分をじっとみつめる。
 眼の部分は流石に開いており、その眼をみているのだ。
 フローレンスお嬢様がぽつりと言う。

「やさしそうな眼……。
 でも、泣きそう」

 二人が見詰め合っている。

「はいはいはいはい! こっちにはヴェルと、正式に手続きをした私達もいますからねー。
 これ、書類よっ!」

 マリエルが、顔無しの目の前に書類を突き出す。
 チラッと見た後に紙を受け取った。

「こっちだ。
 部屋を用意してある」

 勝手に歩き出す顔無しの後ろを僕らは着いて行った。
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