なんでも屋

平野 裕

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 「なんでも屋?」
アレンは体を半分外に出したまま、その影に問いかけた。
「そう、なんでも屋。君が欲しいと思っているものは何ですかな?きっと見つかりますよ。」
影はそういいながら、積み重なった品物の陰からひょいと体を出した。丸渕の眼鏡に、白髪を斜めに分け、口元に薄く髭をたくわえている。優しそうなお爺さんという印象を抱いたアレンは、体をもう半分中へ入れた。
「さぁ、君が欲しいものは何ですかな?」
老人はもう一度アレンに問いかけた。
「見つかりっこないよ。」
「そんなことないですよ、中を御覧なさい。こんなに沢山ものがあるのです。きっとみつかりますよ。」
そう言われて、アレンは初めて中を見渡した。なるほど、確かに店の中は色々なものが無造作に積み重ねられ、棚に収められ、探せばなにかしら見つかりそうではある。老人は満足げに丸渕眼鏡の奥の細い目をさらに細めた。
「さぁ、言ってごらんなさい。大丈夫、きっと君が欲しいものはここにありますよ。」
「…本当に?」
じっと老人の目を見つめて問いかける。
「えぇ、本当ですとも。」
老人はアレンの前に膝をつき目線を合わせてから真っすぐ言った。アレンは一つ小さく息を吸って、吐き出すようにして答えた。
「ぼく、友達が欲しいんだ。」
「ほう、友達ですか。それはまたどうして?」
「だって、友達がいないと、この世界はひどく居心地が悪いよ。皆ぼくを悪者にするんだ。ただ、一人でいるだけなのに。」
アレンはそこまで言うと俯いてしまった。ぐっと何かに耐えるように下唇を噛んで。老人はふむふむと、頷きながら立ち上がった。そして「少しお待ちなさい。」と、奥のほうへ行ってしまった。残されたアレンは、一人老人が消えたほうを見つめ、待っていた。五分くらい待った頃、老人が何やら片手にもって戻ってきた。
「ほら、御安心なさい。ちゃぁんとありましたよ。」
そういってアレンに持っていたものを手渡した。手渡されたのは、片手で持てる程の大きさの人形だった。渡されたアレンの手の中に大人しく納まっている。目を閉じた人形は、黒の白のツートンカラーのドレスを着て、淡い髪色をした女の子の人形のようだった。
「この人形は何?」
「君の友達ですよ。」
「これが、ぼくの?」
アレンは、人形をまじまじと見つめた。目が隠されていること以外はどこにでもあるような普通の人形のようだった。
「お爺さん、これ人形じゃないか。ぼくが欲しいのは友達だよ。」
一通り観察した後、不思議そうにアレンは顔を上げた。老人は落ち着いて宥めるように、
、君の友達になってくれるのさ。」
と答えた。しかし、手の中の人形はどう見ても普通の人形で、アレンは理解できないという風に顔を傾けた。すると老人は「あはは!」と笑い出した。
「そうですよね、最初は分らないものです。」
そういって、人形を持ったアレンの手を上から優しく包み込んだ。
「最初に、この人形に名前を付けてあげましょう。」
そういって、アレンの目を覗き込んだ。名前を付けるなんて初めてなことに戸惑いながら、うんうんと悩んで、「アニー」と呟いた。
「いい名前だね。今日からこの子はアニーだ。君、これから毎日アニーに話しかけなさい。今日あったこと、話したいことでもなんでもいい。」
「それで友達ができるの?」
「えぇ、できますとも。」
老人は自信ありげにゆっくりと言った。アレンはじゃぁ買ってみようと、ポケットの中をまさぐった。しかし、何やら小さい埃が出てくるばかりで、目当てのものは見つからない。
「お爺さん。でも、ぼく、お金もってないや…。」
残念そうにそう言って人形を返そうと手を差し出すと、老人はやんわりとそれを押し返した。
「なら、貸してあげましょう。期限は君が決めていい。もう要らないなと思ったら、返しに来てください。」
微笑みながら、ゆっくりとアレンへ告げた。アレンは大きく目を張り、その目を輝かせながら「本当?本当に本当?」と繰り返し問いかけた。
その度に老人も「えぇ、本当ですとも」と優しく返した。やっと納得したのか、老人に
「ありがとう!」
とお礼を言って、アレンはその店を後にした。
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