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終幕までのカウントダウン
終幕
1Days目のソロステージが大好評に終わり、2Days目の念願のコラボステージ。パフォーマンスを終えて湧き上がった歓声が俺と伊月を温かく迎えてくれた。
息を整えながらその光景を目に焼き付けるように観客席を見渡す。
興奮に染まった歓声と熱気。掲げられて揺れるペンライトの光。隣で同じ景色を目にする伊月。
全力を出し切った満足感に満たされる。
自分の新しい道をファンからも肯定してもらえた気がして、感動に身体が震えた。
俺はこの景色を生涯忘れないだろう。
それほどまでに自分の中で特別な瞬間だった。
「いい思い出になったな!」
盛大な歓声と拍手を浴びながら舞台から捌け、控え室に戻る途中。やりきった達成感と高揚感にそう言って伊月に笑い掛ければ、伊月は目を見開いた後、抜け落ちた表情で固まった。
あ、れ……?
お互いのテンションの差に戸惑いながらも、伊月の様子のおかしさに俺は「どうした?」と声を掛ける。
グッと唇を噛み締めて俯いた伊月は掠れた声で小さく呟いた。
「……莉音は、やっぱり俺を見ないじゃないか」
「え?」
「そうやって思い出にして、俺を置いていくんだ…!」
「え、ちょ、おいッ!伊月!!」
伊月は突然走り出す。
わけのわからないことを言い逃げされた俺は呆然とするも、追いかけなければこの状況が更に拗れてしまうことだけは直感した。
何かを間違えてしまったのだと考えるより先に動いていた足が伊月の後を追う。
伊月は出入りの激しい人の波を器用に避けながらどんどん距離を離していった。
俺はとにかく人にぶつからないように気を付けながら、伊月を見失わないように必死に追い掛ける。
「伊月!!待てって!!」
ようやく伊月の手を掴み、追いついたのは人気の無い階段の踊り場だった。
「離せよ!」
「一体どうしたんだよ」
「莉音にはわからないよ!」
階段は伊月の声がやたら大きく響いた。
そして俺は伊月がここまで感情を荒くしているのを初めて見た驚きにどう宥めたらいいのかわからなかった。
伊月はボロボロと涙を零す。
「じゃあわかるまで話し合おう。俺達にはきっと何か誤解があるよ」
「いいや、誤解じゃなくあれは莉音の本心だ!」
「伊月、」
「莉音の嘘つき!」
「伊月…」
「莉音は今日のことを思い出って言った。そうやって終わらせて俺を置いていくんだ!」
「伊月、違う、それは……」
「聞きたくない!!離せよッ!!!」
揉み合いながらも俺はしっかりと伊月の手を掴んでいたが、伊月の拒絶によって強く突き飛ばされると同時に強く振り払われた。その瞬間、その反動で俺は足を踏み外し、後方に押し出されるように投げ出される。
視界に入るのは驚いたような伊月の表情。
そして手が伸ばされるも、届くはずもなくて。
背面から階下に投げ出され、突然包まれた浮遊感がやたら長く、ゆっくりに感じた。
その間、伊月の表情が驚愕から絶望したみたいに青白い顔色に変化するのを目にしながら、俺は頭から背中に襲ってくる強い衝撃で視界が真っ赤に染まった。
何度も打ちつけた後頭部辺りからぬるりとした生温かいものがドクドクと溢れて急激に拡がるのを感じ、全身の激痛に意識が朦朧とする。
薄れゆく意識をかろうじて繋ぎ止めながら、痛む全身を差し置いてぼんやりと思ったのは伊月の誤解を解けなかった後悔だった。
ごめん、と最後に言いたかったのに声が出せず、口を動かすどころか息すらままならない。かろうじてか細くヒュウヒュウと喘鳴みたいな音を鳴らす頼りない呼吸をするだけで精一杯で、伊月を視界に映し出す為に目を向けることも、手を伸ばすことすら適わなかった。
こんなつもりじゃなかったのに。
お互いに感動を共有したりして、幸せを噛み締めて今日を終えるはずだったのに。
次に向かって動き出す礎として作り上げてきた今日なのに。
一緒に幸せになりたかっただけなのに。
怒らせてしまった後悔だけがどんどん膨らんでいく。
謝ることもできないなんて。
どうしてこんなことに…。
指先の感覚が無くて動かせているのかわからない。あまりの痛みに痛覚も麻痺したのか、感覚全部が靄が掛かったように鈍くなっていく。
遠くの方から俺の名前を呼ぶ伊月の悲痛な叫びが最後に聞こえた気がした。
せめてお前は悪くないんだよってことだけでも言わないと…。だけど、声が出ない。
力を振り絞りたくても結局指1本まともに動かせないまま、誰かが俺の元へ駆け付ける前に俺の意識はプッツリとブラックアウトするかのように途絶えて事切れた。
─────────────────暗転。
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