2 / 3
1章
第1話 雪
しおりを挟む
「っぎ……」
怒涛の白き奔流が押し寄せてくる。青年は歯を食いしばって耐える。
ここは北部にある島、ブラン島。年中厳しい寒さで雪に覆われている。目立つものと言えば小さな町と、セメテリ山という険しい山が存在するくらいだ。
青年――モルテはセメテリ山に住んでいた。短く黒いぼさぼさの髪に黒い背広を身に纏っており、白い雪山では目立つ格好だ。更に目を引くのは顔の右半分に刻まれた火傷痕だった。
モルテは勿忘草色の目を細め、眼前にある脅威と相対していた。
彼を追い詰めているのは自然そのものだった。セメテリ山で突如起こった雪崩。このままでは山に住む生物どころか付近の集落もただでは済まない。
モルテは氷魔法を得意としている。それの応用で雪を制御しようとしていた。だが1人で抑え込める規模の雪崩ではない。
不可能であることは分かっていた。だがそれでもやるしかない。彼は一緒に暮らしている子供がいた。血の繋がりはないが絶対に守らなければならない。
自身の持てうる力を全て注ぎ込み、辛うじて雪崩の進行を緩めている。しかし負荷も相当なもので体が耐えきれず鮮血が噴き出す。
周囲の雪を赤く染めながら、苦痛に耐えながらも必死に耐える。
(それまでになんとか逃げてくれればいいんですけど……)
モルテは冷静に状況を判断していた。何度か死ぬ必要がありそうだ、と覚悟を決めたその時だった。
白と赤。2色しかなかったモルテの視界に他の色が混じっている。
小さな点がこちらに向かってきている。雪が舞い上がりよく見えない。だがモルテには分かってしまった。一緒に暮らしているのだから。
「マレク……!!」
マレクと呼ばれた栗毛の少年は吹き付ける雪に顔をしかめつつモルテの元へ一歩、また一歩と近づいていた。
「モルテ……ひどい怪我だよ……逃げよう」
消え入りそうな声で呟く。マレクの黄緑色の瞳が潤む。
「なんで来ちゃったんですか!?」
モルテは素っ頓狂な声を上げてしまう。守ろうと遠ざけていた存在が危機にわざわざ近づきにやってきてしまったのだ。
「モルテと一緒じゃなきゃやだよ……」
「俺はいいから、早く……」
(くそ……もう体が……)
モルテは限界をとうに超えていた。マレクを抱え逃げる力など残されてはいない。
「やだ」
「マレク、言うことを聞き――」
「モルテが傷つくの、もう嫌なんだ……!!!」
マレクが力強く叫んだその時。マレクの髪が白く光る。それはあまりに眩く、モルテは直視することができなかった。一瞬の気の緩みだった。雪崩が少しずつ勢いを増してゆく。
「しまっ――」
雪崩が2人を呑み込もうとした時、マレクはより一層強く輝く。放った光は雪崩を消し去ってしまった。溶かすでもせき止めるでもない。まるで最初から雪崩など起きていなかったかのように。
「マレク……!!」
自身の怪我など後回しでマレクに駆け寄る。マレクは光が収まると倒れ込んでしまった。慌てて状態を確認するが寝ているだけのようだった。すやすやと寝息を立てている。
(ここから早く逃げないと……!!敵はマレクを狙っている……!!)
モルテはある情報元からこの雪崩が人為的であると確信していた。
自分達をおびき寄せるために、広範囲の雪崩で確実に始末するためにそうしたのだろう。
マレクを背負い急いで山を滑るかのように降りていく。居場所は恐らく先程の光で割れてしまっているだろう。
(今度こそ守りきってみせる)
モルテは痛む体を無理矢理動かし、逃避行を始めた。
怒涛の白き奔流が押し寄せてくる。青年は歯を食いしばって耐える。
ここは北部にある島、ブラン島。年中厳しい寒さで雪に覆われている。目立つものと言えば小さな町と、セメテリ山という険しい山が存在するくらいだ。
青年――モルテはセメテリ山に住んでいた。短く黒いぼさぼさの髪に黒い背広を身に纏っており、白い雪山では目立つ格好だ。更に目を引くのは顔の右半分に刻まれた火傷痕だった。
モルテは勿忘草色の目を細め、眼前にある脅威と相対していた。
彼を追い詰めているのは自然そのものだった。セメテリ山で突如起こった雪崩。このままでは山に住む生物どころか付近の集落もただでは済まない。
モルテは氷魔法を得意としている。それの応用で雪を制御しようとしていた。だが1人で抑え込める規模の雪崩ではない。
不可能であることは分かっていた。だがそれでもやるしかない。彼は一緒に暮らしている子供がいた。血の繋がりはないが絶対に守らなければならない。
自身の持てうる力を全て注ぎ込み、辛うじて雪崩の進行を緩めている。しかし負荷も相当なもので体が耐えきれず鮮血が噴き出す。
周囲の雪を赤く染めながら、苦痛に耐えながらも必死に耐える。
(それまでになんとか逃げてくれればいいんですけど……)
モルテは冷静に状況を判断していた。何度か死ぬ必要がありそうだ、と覚悟を決めたその時だった。
白と赤。2色しかなかったモルテの視界に他の色が混じっている。
小さな点がこちらに向かってきている。雪が舞い上がりよく見えない。だがモルテには分かってしまった。一緒に暮らしているのだから。
「マレク……!!」
マレクと呼ばれた栗毛の少年は吹き付ける雪に顔をしかめつつモルテの元へ一歩、また一歩と近づいていた。
「モルテ……ひどい怪我だよ……逃げよう」
消え入りそうな声で呟く。マレクの黄緑色の瞳が潤む。
「なんで来ちゃったんですか!?」
モルテは素っ頓狂な声を上げてしまう。守ろうと遠ざけていた存在が危機にわざわざ近づきにやってきてしまったのだ。
「モルテと一緒じゃなきゃやだよ……」
「俺はいいから、早く……」
(くそ……もう体が……)
モルテは限界をとうに超えていた。マレクを抱え逃げる力など残されてはいない。
「やだ」
「マレク、言うことを聞き――」
「モルテが傷つくの、もう嫌なんだ……!!!」
マレクが力強く叫んだその時。マレクの髪が白く光る。それはあまりに眩く、モルテは直視することができなかった。一瞬の気の緩みだった。雪崩が少しずつ勢いを増してゆく。
「しまっ――」
雪崩が2人を呑み込もうとした時、マレクはより一層強く輝く。放った光は雪崩を消し去ってしまった。溶かすでもせき止めるでもない。まるで最初から雪崩など起きていなかったかのように。
「マレク……!!」
自身の怪我など後回しでマレクに駆け寄る。マレクは光が収まると倒れ込んでしまった。慌てて状態を確認するが寝ているだけのようだった。すやすやと寝息を立てている。
(ここから早く逃げないと……!!敵はマレクを狙っている……!!)
モルテはある情報元からこの雪崩が人為的であると確信していた。
自分達をおびき寄せるために、広範囲の雪崩で確実に始末するためにそうしたのだろう。
マレクを背負い急いで山を滑るかのように降りていく。居場所は恐らく先程の光で割れてしまっているだろう。
(今度こそ守りきってみせる)
モルテは痛む体を無理矢理動かし、逃避行を始めた。
10
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる