氷の記憶と不滅の者

たなみた

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1章 

第1話 雪

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「っぎ……」
 怒涛の白き奔流が押し寄せてくる。青年は歯を食いしばって耐える。

 ここは北部にある島、ブラン島。年中厳しい寒さで雪に覆われている。目立つものと言えば小さな町と、セメテリ山という険しい山が存在するくらいだ。

 青年――モルテはセメテリ山に住んでいた。短く黒いぼさぼさの髪に黒い背広を身に纏っており、白い雪山では目立つ格好だ。更に目を引くのは顔の右半分に刻まれた火傷痕だった。

 モルテは勿忘草色の目を細め、眼前にある脅威と相対していた。
 
 彼を追い詰めているのは自然そのものだった。セメテリ山で突如起こった雪崩。このままでは山に住む生物どころか付近の集落もただでは済まない。

 モルテは氷魔法を得意としている。それの応用で雪を制御しようとしていた。だが1人で抑え込める規模の雪崩ではない。
 不可能であることは分かっていた。だがそれでもやるしかない。彼は一緒に暮らしている子供がいた。血の繋がりはないが絶対に守らなければならない。

 自身の持てうる力を全て注ぎ込み、辛うじて雪崩の進行を緩めている。しかし負荷も相当なもので体が耐えきれず鮮血が噴き出す。
 周囲の雪を赤く染めながら、苦痛に耐えながらも必死に耐える。

 (それまでになんとか逃げてくれればいいんですけど……)
 モルテは冷静に状況を判断していた。何度か死ぬ必要がありそうだ、と覚悟を決めたその時だった。

 白と赤。2色しかなかったモルテの視界に他の色が混じっている。
 小さな点がこちらに向かってきている。雪が舞い上がりよく見えない。だがモルテには分かってしまった。一緒に暮らしているのだから。

「マレク……!!」
 マレクと呼ばれた栗毛の少年は吹き付ける雪に顔をしかめつつモルテの元へ一歩、また一歩と近づいていた。

「モルテ……ひどい怪我だよ……逃げよう」
 消え入りそうな声で呟く。マレクの黄緑色の瞳が潤む。

「なんで来ちゃったんですか!?」
 モルテは素っ頓狂な声を上げてしまう。守ろうと遠ざけていた存在が危機にわざわざ近づきにやってきてしまったのだ。

「モルテと一緒じゃなきゃやだよ……」
「俺はいいから、早く……」
 (くそ……もう体が……)

 モルテは限界をとうに超えていた。マレクを抱え逃げる力など残されてはいない。

「やだ」
「マレク、言うことを聞き――」
「モルテが傷つくの、もう嫌なんだ……!!!」
 
 マレクが力強く叫んだその時。マレクの髪が白く光る。それはあまりに眩く、モルテは直視することができなかった。一瞬の気の緩みだった。雪崩が少しずつ勢いを増してゆく。
「しまっ――」
 
 雪崩が2人を呑み込もうとした時、マレクはより一層強く輝く。放った光は雪崩を消し去ってしまった。溶かすでもせき止めるでもない。まるで最初から雪崩など起きていなかったかのように。

「マレク……!!」
 自身の怪我など後回しでマレクに駆け寄る。マレクは光が収まると倒れ込んでしまった。慌てて状態を確認するが寝ているだけのようだった。すやすやと寝息を立てている。

 (ここから早く逃げないと……!!敵はマレクを狙っている……!!)
 モルテはある情報元からこの雪崩が人為的であると確信していた。
 自分達をおびき寄せるために、広範囲の雪崩で確実に始末するためにそうしたのだろう。

 マレクを背負い急いで山を滑るかのように降りていく。居場所は恐らく先程の光で割れてしまっているだろう。
 (今度こそ守りきってみせる)

 モルテは痛む体を無理矢理動かし、逃避行を始めた。


 
 
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