悪役令嬢は王子よりもモブの貴方を幸せにしたい。

ばたーじょうゆ。

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今日はわたしの12歳の誕生日、食堂のテーブルの上には豪華な料理、バースデーケーキには12本のロウソクの火が灯っていた。
 
「‼︎」

 そこで食事を取るわたしを白いモヤが襲う、視界が遮られて、真っ白で何も見えなくなった。何が起きたかわからず、助けを呼ぼうと出した声は誰にも届かない。

 その白いモヤは薄くなり、視界がはっきりすると、目の前の景色が変わる。
 何処かの部屋の中にいて、そこには2人の少女の姿が見えた。1人の少女は声を上げて、机の上の雑誌を叩く。

「もぉーっ、この悪役令嬢のフレッサって大嫌い。でも、幼馴染のノワ様は死ぬほど好き、大好き‼︎」


[突如、聞こえて来たフレッサ大嫌いに、ノワ様大好き?]
 

 声を上げた女の子の前に座る、もう1人の子は呆れているようだ。

「本当にちぃはモブのノワ好きだよね」
「うん、口では語り尽くせないほど彼が好き! もう聞いてよ、このノワ様が…」


[机に本を開き楽しそうに語る、2人の少女のどちらかの思考が流れてきた]


 あーあっノワ様もっと、ゲームに出てくれば良いのに…
 悪役令嬢フレッサの幼馴染と肩書きが付いていても、家がただ近いだけの顔見知り程度。序盤はヒロインと攻略対象が出会うだのゲームだから、関係のない彼はほとんど登場してこない。

 唯一彼を見つけたのは入学式、端っこで友達と笑うノワ様。もちろん、ゲームはその場面で止まってる。
 後半でヒロインが王子ルートに入ると、ノワ様はあらゆる場面に出てくると友達に聞いた。


[ヒロイン? 王子ルートとは何かしら?]


 詳しく聞くとヒロインに王子を取られ嫉妬の悪女となった、悪役令嬢のフレッサの事を小さな頃から好きなノワ様。
 それを知っている彼女は上手くノワ様の恋心を使い、段々と彼を言いくるめていく。
 甘い言葉に踊らされてノワ様は、悪役令嬢フレッサと手を組むなんて!

「ちぃ、見て。ここに大きくノワが乗ってるよ」
「えーっ本当! うっ……うぬぬっ…また、ノワ様の悪役顔!」
 
 攻略雑誌や攻略の本にも後半の重要キャラとしては出てくるのだけど、どの雑誌を見ても顔に傷あり悪役ヅラで描かれていて、本来の素敵さがまるで無い!

 唯一見つけた1番好きな表情をスマホのカメラで撮り、伸ばしに伸ばしたて、スマホの待ち受け画面にして毎日眺めている。

「あーあーっ、ノワ様は笑った顔が素敵なのに…見てよ。この、はにかんだ笑顔が素敵…尊い」
「まぁーね。ちぃには悪いけど、王子の顔がやっぱりタイプだわ」
「ええーっ王子様よりも、ノワ様だって」


[2人とも本を指差して言い合ってるわ? あ、そこに描かれている女性…わたしに似ているじゃない!]


「何回も言うけどね、ノワは見た目にカッコいいよ。でもさ、モブはモブ攻略出来ないんだよ、つまらなくない?」

「い い の、ノワ様を眺めているだけで幸せなの」
「まあ、楽しみ方は人それぞれだものね。そろそろ帰ろっか? 帰りにどっか寄って帰る? 私はもう少し喋りたいなぁ」

 1人の女の子が鞄を持って立つと、もう1人の子も雑誌を片付けて帰る準備を始めた。

「だったら、何か食べてから帰ろうよ。お腹空いちゃった」
「じゃー、割引クーポン券持ってるから、いつものとこにしょう」

「うん!」


[あ、待って! その雑誌に載っていたわたしに似た子は誰? 帰らないで教えて!]


 学校の放課後に教室に残り、下校時間まで友達とのお喋りは楽しい。

  ♢

 ーーだけど。
 その子の終わりは目の前だった、2人が「またね」と、手を振り別れた後に起こる。


[危ない、逃げてぇぇー‼︎]


 わたしの必死の叫び声は彼女に届かなかった。

 彼女はわたしの目の前で道路に出た子供をかばって車に轢かれた。
 薄れていく意識の中で彼女が見ていたのは…怪我もなくお母さんに抱きしめられて、泣きじゃくる子供の姿だった。

 彼女は最後に「あー、良かった」と呟き、安心して目を瞑った…



「…くっ」

 頭に鈍い痛みが走り、目の前の白いモヤが取れて、視界がはっきりして来た。

(…戻って来れたみたい)

 うつつといまが交差した感じ。
 でも、わたしは全て覚えている。友達との楽しい会話に大好きなノワ様の事。

 もしかしてあれは、昔のわたし…?

 あの後にわたしは前世の生を終えて、今世は悪役令嬢フレッサとして、生まれ変わっていたんだ。

 12歳を迎えた日に思い出すなんて、この歳に何か意味があるのかしら? 
 部屋に戻ってゆっくり考えたい。
 誕生日の日の豪華な食事の事も忘れて席を立つと、周りに緊張が走り、コックは人一倍慌てた。

「フレッサお嬢様どうなされましたか? 何か料理に不備でもありましたか?」

 あらっ、これは…やってしまったわね。でも、普段のわたしにはこれが当たり前かな…
 我がままで言いたい放題、使用人は大人でも自分よりも格下に見ていたもの。

「…フレッサお嬢様」
「料理長ごめんなさい。この料理が余りにも美味しくて、驚いてしまったの」

 コックが驚きの顔で動きが止まった、周りも驚きで固まっている。
 おかしなことでも言ったのかしら? 
 周りの反応にどうすれば良いのかが、わからないわ。

「あの…」

「フレッサお嬢様そうでしたか…ごゆっくりお召し上がりくださいませ」
「…ええ」

 わたしは何事もなかったかのように座り食事を再開した。あからさまに周りはホッと一息ついている。
 食事をしながら周りを確認した。
 コック、執事、メイドは元の場所に戻り、わたしの食事が終わるまで、無表情で姿勢良く立っていた。

 ーーいつもの様にわたしが…

『こんなもの食べれないわ、あなたこれを作り直しなさい!』
『もう要らない』

『わたしが誰だと思っているの?』

 と、でも言うと思ったのね。なんて、我がままなのかしら。

 でもね、これが当たり前だと思っていたわ。

「わたしは公爵令嬢のお嬢様なのよ」と、公爵のお父様が偉いだけなのに、自分まで偉いと勘違いをしているお嬢様だった。
 そうでなければならなかった。

  ♢

 ……はっ、眠っていたベッドから飛び起き、頭を抱えた。

「あーわたしって…ノワ様にあんな酷いことを、言ってしまうなんて」

 わたしの見た最悪な夢。わたしはノワ様を罵っていた、それは思い出したくもない程の、とても醜くく、酷い言葉で…

 最後にいつもノワ様は怒りもせずに「ごめんな」と、困った顔で笑っていた。

 わたしの思い人の、ノワ様にあんな悲しい表情をさせてしまうなんて、許されることではないわ!

 そうだ、改善をしましょう。
 今日からわたしは自分を改善するわ!
 
 ーーます始めに。

「…い、いつも、綺麗にしてくれて…ありがとう」

 朝の支度が終わり側にメイドにお礼を言うと、昨日同様に驚かれた。
 彼女の口がわなわなと動き、そして彼女は「フレッサお嬢様」と名前を呼んで微笑んでくれた。

 それがなんとも言えない気持ちになる、心が温かくなり、とても嬉しかった。

 まだ、下手かもしれないけど、まだ、ぎこちない笑顔かも知れないけど、わたしも微笑んだ。

 長い食卓に1人分の朝食。1人か…前々からそうだったわね。
 わたしの両親は跡取りのお兄様にしか興味がない、わたしの事は嫁に出せば良いだけだと、常日頃、放置されている。
 甘えたくても、甘え方がわたしには、わからい。
 欲しいものを言えば与えられるけど、愛情はもらえなかった、その寂しさを周りの使用人にぶつけていた。
 そのわたしの行動で、周りの人達を傷付けていると、わたしは知った。
 
 寂しさを我がままで埋めるのは、もうやめる。
 わたしは自然に笑える様になりたい。

 ♢

「屋敷の外って、こんな感じなのね」

 いつもは部屋の窓からの眺めだけしか知らなかったわ、手入れのされた薔薇の花が咲く庭に、屋敷の前は整えられた芝生。

 案外、屋敷を抜け出すのは簡単なのね。

 両親はまるっきしわたしには関心がないし、まだ使用人達はわたしに怯えている。

 朝の支度に食事を終えたわたしは、屋敷の前で幼馴染みだと思われる、ノワ様を探した。

 ーーだが、しかし。

 何処を見ても屋敷。
 屋敷の敷地の大きさに、近くには他の屋敷らしき建物が見えない!

「わたしの幼馴染みのノワ様って本当にいいらっしゃるの?」

 今日悪夢で見ましたし、ゲームでもいる様だけど…そうだわ上から、上から見るにしても横にあるのは大きな木だけ…

 横にあるのは木⁉︎ そうだわ、木があるわね…。

 ーー数分後。

「まあ、綺麗」

 案外木登りって簡単なのね。
 何度か滑り落ちましたけど、ドレスが擦り切れたましけど問題ないわ。
 空気が澄んでいるし、周りが一望できる所まで登ることに成功したわ。

 その景色にわたしは心を奪われた。


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