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漸進的愛情表現
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しおりを挟むどういう先入観からなのか、いつしか俺はいろんな人に完璧だと言われるようになったけれど、実際のところそんな事は微塵もない。
お遊戯会だってできる事なら台詞が一回もない木の役がしたかったし、ダンスだってセンターじゃなくて端っこの見切れるところであわよくば見切れていたかったし、ミスターなんちゃらになんか死んでも選ばれたくなかった。
人前に立つのなんて超絶苦手だし、傍から注目を浴びるのも大嫌いだ。
口下手だし、上がり症だし、すぐに顔だって赤くなるし、これのどこが完璧なんだろうと甚だ疑問でしかない。
そう。まさに今、山根という女子生徒が放った“人見知り”という単語だって、俺にぴたりと当て嵌まる。
「どういたしまして」
派手な女が返した声に、いつの間にかトリップしていた意識がハッと現実に戻ってくる。
「山根さんって人見知りなんだ?」
「…うん……極度の…」
「そっかぁ~。あたし人見知りとかした事ないから分かんないや」
……だろうな。
心の中でそんな言葉を呟く。
どこからどう見ても社交的なこの女からすれば、こっち側の人間の悩みなんて分かるわけがない。
へへっとおどけたように笑ったその顔から視線を逸らし、また意味もなくスマホの画面を指でスクロールする。
流れていく画面をぼんやりと眺めていると「でもさ」と続ける声が聞こえて、
「人見知りの人って、言葉を選ぶ優しさを持ってるよね」
次に鼓膜を揺らした言葉に、動かしていた指がぴた…っと止まった。
無意識のうちに上がった視線は、すぐそこに立つ派手な女を捉える。
「そういう優しさ、あたしにはないから。すごいなぁって思うよ」
そう言ってにっこりと笑ったその女の表情が、何故か目に強く焼き付いて、離れなかった。
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