異世界で子育てしながら静かに暮らしたい元スパイ

ライカタイガ

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1章

第13話:闇に潜む影

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ゼインが木刀を握った瞬間、小屋の外の気配が揺れた。

音もなく、空気が変わる。冷たい風の中に紛れて、ただならぬ“何か”が潜んでいる。

「リリィ、テオを抱えて奥の部屋へ。鍵をかけて絶対に出るな」

声に一切の感情を交えずに命じると、リリィは頷き、テオを背負うようにして寝室へと向かった。

扉が閉まり、鍵がかかる音を確認した瞬間、ゼインは躊躇なく外へ飛び出した。

月は雲に隠れ、辺りは闇に沈んでいた。

だが、その中に“いる”。

視線を上げると、木立の間に黒い影がいくつも立っているのが見えた。人影のようでありながら、人ではない何か。輪郭がぼやけており、まるで闇そのものが具現化したかのようだった。

「精霊でもローブの男でもない……新手か」

一歩踏み出すと、その影の一つが前へにじり出た。細長く歪んだ体躯に、紅い光を灯した目。その姿を見た瞬間、ゼインの記憶が過去の断片を引きずり出す。

(これは……あのとき、潜入任務で対峙した……)

この世界に来る前、彼が命を落とした直前の任務。

その時はなんだかわからなかったが、今目の前にに居る存在は

確かにあの時に見たものだった。



影が一斉にこちらへ向かってきた。ゼインは息を吐き、冷静に構える。

木刀を握る手に迷いはない。相手が実体を持たずとも、打ち払うことはできるはずだ。

一体、二体。影はすり抜けるように迫ってくるが、ゼインの一撃は確かにその形を崩した。

(当たる……ならばやれる!)



しかし、数が多い。囲まれれば終わる。ゼインは足を使い、横に大きく跳ねた。木の根元を背に、一点集中の構えを取る。

そのとき、不意に一本の矢が闇を裂いた。

「下がれ、ゼイン!」



声と共に現れたのは、ヴァルドだった。鍛冶屋とは思えぬ機敏な動きで飛び出し、携えた重弓から次々に矢を放つ。特殊な符が巻かれたその矢は、影に当たると青白い光を放ち、かき消していく。

「お前、どうして——」

「リオから聞いた。最近、お前の周囲に妙な気配があるってな。まさかここまでとは思わなかったがな」

「感謝する。だが、まだ終わっちゃいない」

影は減ったが、残りが動きを変えた。地面を這うように低く、音もなくゼインとヴァルドに迫ってくる。

「囲まれる前に決めるぞ」

「ああ」

ヴァルドが炎の符を矢に巻きつけ、一気に数体を焼き払った。ゼインはその隙に中央へ飛び込み、残る影の核を木刀で貫いた。

「——っ!」

最後の一体が崩れ、辺りには再び静けさが戻った。

ゼインは大きく息を吐き、肩を落とした。

「……リリィとテオは無事だ。だが、あいつら……精霊なのか?」

「これは精霊じゃない。異物だ。おそらく、この世界に“歪み”が生じてる」

「なるほどな…俺の過去と繋がってる可能性もある」

「リオに話すべきだな。あと……リリィには、気をつけろ。奴ら、明らかに彼女の気配を追ってきていた」

ゼインは深く頷いた。



小屋に戻ると、リリィが心配そうに出迎えた。

「パパ……大丈夫……?」

「……ああ、なんとかね。テオも大丈夫か?」

「うん、寝てる。でも、なんか……お姉ちゃんの夢を見てるみたい」

その言葉に、ゼインは眉をひそめた。



夢——それは、また何かの前触れか。

この世界の異変は、確実に“何者か”の意図を持って加速している。

ゼインは静かに、しかし確かな決意を込めてリリィの頭を撫でた。

「守ってみせる。何が来ても、お前たちは俺が守る」

その言葉に、リリィは小さく頷いた。

けれど、その瞳の奥には、すでに“覚悟”が芽生えていた。

彼女自身が、この戦いの中心にいることを、少しずつ理解し始めていたのだ。
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