異世界で子育てしながら静かに暮らしたい元スパイ

ライカタイガ

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1章

第12話:傷痕と守る理由

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祠での出来事から数日が経った。

ゼインは毎朝、小屋の裏で剣の素振りをするようになった。

元スパイとして主な武器は銃火器だったが、

この世界では剣こそが命を守る道具となる。

ヴァルドにから譲ってもらった木刀は、手に馴染み始めていた。

「また朝からそれ?」



小屋の窓から顔を覗かせたリリィが、あどけない笑みを浮かべた。

「そうだ。お前たちを守るためには、鍛えておかないとな」



「でも、もう大丈夫だよ。変な夢も見なくなったし、

私も……ちゃんと、自分のこと分かってきたから」



ゼインは笑みを返しつつも、どこか緊張を残したまま木刀を地面に立てた。

「敵は目に見えるものばかりとは限らない」

そう言って空を見上げる。

風は穏やかだが、肌に残るわずかな気配は、彼の勘を鈍らせはしなかった。



あの日、リリィが祠で選んだ言葉は、精霊の干渉を一時退けた。

だが、“力”そのものが消えたわけではない。

むしろ彼女の中に眠るものは、以前よりもはっきりと、確かな輪郭を持ち始めていた。



その日の午後、ゼインはヴァルドの工房に向かった。

「本格的に剣を使おうと思う。頼めるか?」

「おお、やっと本気になったか。よし、素材を選べ。予算は?」

「この護身と引き換えに、命を張る覚悟だ。出し惜しみはしない」

ヴァルドは豪快に笑いながら、奥の棚から幾本かの金属の塊を持ち出した。

「なら、この“ルーン鋼”と“蒼鉱石”を合わせてみるか。どちらも精霊に近い鉱石だ。扱いは難しいが、お前なら振れる」

ゼインは一瞬目を細めた。

「精霊に近い……なら、リリィを守るにはうってつけだな」

「三日はかかる。その間、油断するなよ」

「わかってる」

工房を後にして村へ戻る途中、ゼインは何者かの視線を感じて足を止めた。

(まただ……あの時と同じ気配)

振り向いても人影はない。けれど確かに“何か”がこちらを窺っていた。



その夜。リリィは焚き火の前で静かに本を読んでいた。

テオは膝枕でぐっすりと眠っている。

ゼインはその光景を見つめながら、ふいに問いかけた。



「リリィ、お前はあの祠の記憶をどこまで覚えている?」

リリィはページを閉じ、焚き火を見つめたまま答えた。

「全部は無理。でも……“帰れなかった誰か”の寂しさが、私の中にあるの。

まるで、自分の記憶じゃないみたいに。でも、あれは私だった」



「お前は選んだ。過去ではなく、“今”を」

リリィはゼインを見上げ、小さく頷いた。

「私ね、思ったの。たとえこの力が誰かを傷つけるものだったとしても、私はそれを怖がるより、誰かを守るために使いたいって」

ゼインは黙って耳を傾けた。

「……パパが、そうしてくれたように」

その言葉に、ゼインの胸がきゅっと締めつけられた。

彼はかつて、多くを疑い、多くを捨ててきた。

この世界に来てからも、最初はただの義務感で彼女たちを守ろうとしていた。

だが今、彼女の言葉が、はじめて自分の存在を肯定してくれたような気がした。

「……そうだな。だったら、もう一度誓おう」

ゼインは焚き火の炎に右手をかざし、リリィの目を真っ直ぐ見つめた。

「お前がどんな存在だろうと、何を背負っていようと、俺が守る。それは変わらない」

リリィはその言葉を胸に刻むように、目を閉じて深く頷いた。

その時、小屋の外で枝を踏みしめる音がした。

ゼインは瞬時に立ち上がり、木刀を手に取った。

静寂を切り裂くように、冷たい風が吹き込む。

「来たか……」

ゼインの直感が告げていた。

あのローブの男でも、精霊でもない。

別の“何か”が
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