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1章
第12話:傷痕と守る理由
しおりを挟む祠での出来事から数日が経った。
ゼインは毎朝、小屋の裏で剣の素振りをするようになった。
元スパイとして主な武器は銃火器だったが、
この世界では剣こそが命を守る道具となる。
ヴァルドにから譲ってもらった木刀は、手に馴染み始めていた。
「また朝からそれ?」
小屋の窓から顔を覗かせたリリィが、あどけない笑みを浮かべた。
「そうだ。お前たちを守るためには、鍛えておかないとな」
「でも、もう大丈夫だよ。変な夢も見なくなったし、
私も……ちゃんと、自分のこと分かってきたから」
ゼインは笑みを返しつつも、どこか緊張を残したまま木刀を地面に立てた。
「敵は目に見えるものばかりとは限らない」
そう言って空を見上げる。
風は穏やかだが、肌に残るわずかな気配は、彼の勘を鈍らせはしなかった。
あの日、リリィが祠で選んだ言葉は、精霊の干渉を一時退けた。
だが、“力”そのものが消えたわけではない。
むしろ彼女の中に眠るものは、以前よりもはっきりと、確かな輪郭を持ち始めていた。
*
その日の午後、ゼインはヴァルドの工房に向かった。
「本格的に剣を使おうと思う。頼めるか?」
「おお、やっと本気になったか。よし、素材を選べ。予算は?」
「この護身と引き換えに、命を張る覚悟だ。出し惜しみはしない」
ヴァルドは豪快に笑いながら、奥の棚から幾本かの金属の塊を持ち出した。
「なら、この“ルーン鋼”と“蒼鉱石”を合わせてみるか。どちらも精霊に近い鉱石だ。扱いは難しいが、お前なら振れる」
ゼインは一瞬目を細めた。
「精霊に近い……なら、リリィを守るにはうってつけだな」
「三日はかかる。その間、油断するなよ」
「わかってる」
工房を後にして村へ戻る途中、ゼインは何者かの視線を感じて足を止めた。
(まただ……あの時と同じ気配)
振り向いても人影はない。けれど確かに“何か”がこちらを窺っていた。
*
その夜。リリィは焚き火の前で静かに本を読んでいた。
テオは膝枕でぐっすりと眠っている。
ゼインはその光景を見つめながら、ふいに問いかけた。
「リリィ、お前はあの祠の記憶をどこまで覚えている?」
リリィはページを閉じ、焚き火を見つめたまま答えた。
「全部は無理。でも……“帰れなかった誰か”の寂しさが、私の中にあるの。
まるで、自分の記憶じゃないみたいに。でも、あれは私だった」
「お前は選んだ。過去ではなく、“今”を」
リリィはゼインを見上げ、小さく頷いた。
「私ね、思ったの。たとえこの力が誰かを傷つけるものだったとしても、私はそれを怖がるより、誰かを守るために使いたいって」
ゼインは黙って耳を傾けた。
「……パパが、そうしてくれたように」
その言葉に、ゼインの胸がきゅっと締めつけられた。
彼はかつて、多くを疑い、多くを捨ててきた。
この世界に来てからも、最初はただの義務感で彼女たちを守ろうとしていた。
だが今、彼女の言葉が、はじめて自分の存在を肯定してくれたような気がした。
「……そうだな。だったら、もう一度誓おう」
ゼインは焚き火の炎に右手をかざし、リリィの目を真っ直ぐ見つめた。
「お前がどんな存在だろうと、何を背負っていようと、俺が守る。それは変わらない」
リリィはその言葉を胸に刻むように、目を閉じて深く頷いた。
その時、小屋の外で枝を踏みしめる音がした。
ゼインは瞬時に立ち上がり、木刀を手に取った。
静寂を切り裂くように、冷たい風が吹き込む。
「来たか……」
ゼインの直感が告げていた。
あのローブの男でも、精霊でもない。
別の“何か”が
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