異世界で子育てしながら静かに暮らしたい元スパイ

ライカタイガ

文字の大きさ
11 / 23
1章

第11話:記憶の扉

しおりを挟む
翌朝、朝食を準備しながら昨晩の事を考えていると

リリィはゆっくりと起きてきた。

顔色は悪くない。けれどその瞳には、どこか遠い記憶を見つめるような光が宿っていた。

「……昨日の夜、誰かがわたしに“ただいま”って言ったの」

「夢でか?」

「ううん。夢じゃなかった気がするの。目を閉じてたのに、声だけが胸の奥から響いてきたの」

ゼインは胸の内に広がる不安を押し殺した。

リリィの言葉の端々には、確かに何かが“近づいて”きている感触があった。

精霊の影。祠の封印。そして、彼女に宿る未知の力。

その日、ゼインは村の外れの祠へ向かう決意を固めていた。

ただ、今回はひとりではない。

「……連れて行って」

支度を整えていたゼインに、リリィが静かに声をかけてきた。

「昨日もその前も夜、になるとどこかに言っている事 私、知っているの

ずっと眠ってたけど……なんだか、胸がざわざわしてた。

たぶん、私も……行かないといけない気がするの」



ゼインは迷った。連れていくべきではない。それが常識的な判断だ。

だが、リリィはこの出来事の中心にいる。

避けて通れないなら、せめて自分の手の届く範囲で彼女を見守るしかない。



30秒ほど思考をめぐらしリリィに答える



「…わかった。絶対に離れるな。いいな?」

リリィはこくりと頷いた。



テオはリオの家に泊まる事になり

リリィと祠に向かった。



森はいつもより静かだった。

鳥の鳴き声ひとつなく、風すら音を立てない。



祠の前に立ったゼインは、懐からミアの護符を取り出し、リリィに手渡した。

「これを持っていろ。何かあれば、これがお前を守ってくれる」

リリィはそっと護符を胸に抱えた。

祠の扉を押し開けると、薄暗い空間の中に再びあの結晶が現れる。

淡い光がその中心で脈打つように揺れていた。

「……来たな」

低く、静かな声が響いた。あのローブの人物が、結晶の影から浮かび上がるように姿を現した。

「やはり、お前が導いていたのか」

ゼインは声を低く抑えながら言った。

「導いていたのは我ではない。お前たちの“絆”だ」

ローブの男はリリィの方を見て、わずかに首をかしげる。

「彼女の魂には、過去の欠片が刻まれている。それが鍵だ。精霊の力とは、記憶の渦そのもの。“忘れられたもの”を呼び戻すための器。それが、この子の真の役目」



「記憶……だと?」

「精霊たちは失われた世界を嘆き、過去の絆を今に繋ごうとしている。リリィは、その“回廊”なのだ」

ゼインは歯を食いしばった。



「そんなものにリリィを使わせるか」

「使うのではない。彼女は“還ろう”としている」

その瞬間、結晶の光が強くなり、リリィの周囲の空間が歪む。

「リリィ!」



ゼインが駆け寄ろうとしたその瞬間、リリィの瞳がゆっくりと開いた。

しかし、その瞳の色が変わっていた。青から、淡い金色へ。

そして、リリィは口を開いた。

「……私……思い出したかもしれない」

その声は確かにリリィのものだった。

けれど、その奥にもうひとつ、別の意志が重なっているように感じた。

「私は……かつて、この世界を離れて、精霊たちの声を届けるために“門”となった。しかし、誰もその声を受け取ってはくれなかった。だから私は……忘れられた」

ローブの男が静かに言った。

「その記憶が戻れば、再び“門”が開く」

ゼインは前に出て、リリィと結晶の間に立った。

「開かせない。リリィが何者であろうと、今ここにいるのは“彼女”だ。お前の都合で連れ去らせるわけにはいかない」

ローブの男は目を細めた。

「ならば、その意思、確かめてもらおう」

その言葉とともに、祠全体が振動し始めた。

空間がねじれ、光が歪む。ゼインはとっさにリリィをかばい、護符を高く掲げた。

光と影の境界が揺らぎ、精霊の記憶が、過去の断片が、祠の中に溢れ出す。

リリィは目を閉じ、震える声で叫んだ。

「わたしは……帰らない!今の“私”は、パパと一緒にいたい!」

その瞬間、結晶の光が爆ぜた。

強烈な光とともに、祠の中の気配が一気に霧散する。

ローブの男の姿は消え、祠には再び静寂が戻った。

ゼインはリリィを抱きしめた。彼女の鼓動が、今確かに“この世界”のものとして響いていた。

「よく言った、リリィ」

涙を浮かべながら、リリィは小さく頷いた。

「私、もう迷わない」

この瞬間、少女の中で何かが変わった。

忘れられた存在ではなく、選ばれた者として。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

異世界転生!ハイハイからの倍人生

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。 まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。 ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。 転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。 それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情され、異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

処理中です...