異世界で子育てしながら静かに暮らしたい元スパイ

ライカタイガ

文字の大きさ
10 / 23
1章

第10話:運命に抗う者

しおりを挟む
翌日、ゼインは巻物の続きに目を通しながら、リリィの様子を常に気にかけていた。

朝食の席で、彼女はようやく笑顔を取り戻しつつあったが、その笑みの奥にはどこか遠くを見つめるような影があった。

「ねぇ、ゼインおじさん。夢の中の人、また来てたよ」

「何か話していたか?」

「うん……『おかえりなさい』って。あと、『思い出して』って……。でも、何を思い出せばいいのか、わからなかった」

「そうか…ありがとう。また夢で覚えてることがあったら教えてくれ」

リリィは静かに頷いた。



精霊との繋がりが深まっているのだろう。

今のリリィには、それを止めることも、引き返すこともできない。だからこそ、自分が支えなければならない。

その日、ゼインは再びリオを訪ねた。巻物の最後の部分に記された一節が、頭から離れなかったのだ。

『鍵たる者が目覚めれば、世界は分かれ、秩序は再び選ばれる』

「この“世界が分かれる”ってどういう意味だ?」

リオは深く息を吐き、壁際の椅子に腰を下ろした。

「昔話になるがな……かつてこの世界は、精霊と人が共に暮らす“統合の時代”があった。

だが力が均衡を崩し、世界は二つに分かれた。“人の理”と“精霊の理”じゃ」

「リリィが目覚めることで、その境が再び曖昧になるということか」

「そうじゃ。リリィがその“鍵”の役割を持っているのならば、扉が開かれた時、何が起きるかは……わしにも予想がつかん」

ゼインは拳を握った。

(リリィを利用しようとする者が現れるのは、時間の問題だ)

その夜、ゼインはリリィとテオを早めに寝かせると、小屋の周囲に罠と簡易的な警戒線を張った。これまでの穏やかな日々は、もう戻らないかもしれない。

だが、それでも守るべきものは変わらない。

月が高く昇った頃、異変は訪れた。

結界のひとつにわずかな反応があり、ゼインは即座に目を覚ます。

小屋の外に出ると、林の奥にほのかに灯る青白い光。人の気配は感じないが、空気が重く淀んでいる。

(……来たか)

音もなく進み、ゼインは光のもとへと向かう。そこには祠と同じ気配をまとう、半透明の“影”が浮かんでいた。

人の形をしているが、目も口もなく、ただ存在しているだけの“意志”のように感じた。

「お前が、精霊か……?」

返事はない。ただ、ゼインの持つ護符が淡く反応する。影はその光に引かれるように、ふわりとゼインの方へと漂ってくる。

ゼインは構えを崩さず、護符をかざした。

「リリィには、指一本触れさせない」

その言葉に、影が一瞬だけ立ち止まる。

——試されている。

直感がそう告げた。

影はゆっくりと手を伸ばした。だがそれは、敵意ではなく、何かを“示す”ような動作だった。

「……導こうとしてるのか?」

すると影は一瞬、夜空を背に淡く光り、祠の方向へと身を翻した。

(導く先は……祠)

ゼインはその場に立ち尽くしながら、もう一度心に誓った。

(リリィの運命が、たとえこの世界の均衡を揺るがすとしても——俺は抗う)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

異世界転生!ハイハイからの倍人生

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。 まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。 ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。 転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。 それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情され、異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

処理中です...