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1章
第10話:運命に抗う者
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翌日、ゼインは巻物の続きに目を通しながら、リリィの様子を常に気にかけていた。
朝食の席で、彼女はようやく笑顔を取り戻しつつあったが、その笑みの奥にはどこか遠くを見つめるような影があった。
「ねぇ、ゼインおじさん。夢の中の人、また来てたよ」
「何か話していたか?」
「うん……『おかえりなさい』って。あと、『思い出して』って……。でも、何を思い出せばいいのか、わからなかった」
「そうか…ありがとう。また夢で覚えてることがあったら教えてくれ」
リリィは静かに頷いた。
精霊との繋がりが深まっているのだろう。
今のリリィには、それを止めることも、引き返すこともできない。だからこそ、自分が支えなければならない。
その日、ゼインは再びリオを訪ねた。巻物の最後の部分に記された一節が、頭から離れなかったのだ。
『鍵たる者が目覚めれば、世界は分かれ、秩序は再び選ばれる』
「この“世界が分かれる”ってどういう意味だ?」
リオは深く息を吐き、壁際の椅子に腰を下ろした。
「昔話になるがな……かつてこの世界は、精霊と人が共に暮らす“統合の時代”があった。
だが力が均衡を崩し、世界は二つに分かれた。“人の理”と“精霊の理”じゃ」
「リリィが目覚めることで、その境が再び曖昧になるということか」
「そうじゃ。リリィがその“鍵”の役割を持っているのならば、扉が開かれた時、何が起きるかは……わしにも予想がつかん」
ゼインは拳を握った。
(リリィを利用しようとする者が現れるのは、時間の問題だ)
その夜、ゼインはリリィとテオを早めに寝かせると、小屋の周囲に罠と簡易的な警戒線を張った。これまでの穏やかな日々は、もう戻らないかもしれない。
だが、それでも守るべきものは変わらない。
月が高く昇った頃、異変は訪れた。
結界のひとつにわずかな反応があり、ゼインは即座に目を覚ます。
小屋の外に出ると、林の奥にほのかに灯る青白い光。人の気配は感じないが、空気が重く淀んでいる。
(……来たか)
音もなく進み、ゼインは光のもとへと向かう。そこには祠と同じ気配をまとう、半透明の“影”が浮かんでいた。
人の形をしているが、目も口もなく、ただ存在しているだけの“意志”のように感じた。
「お前が、精霊か……?」
返事はない。ただ、ゼインの持つ護符が淡く反応する。影はその光に引かれるように、ふわりとゼインの方へと漂ってくる。
ゼインは構えを崩さず、護符をかざした。
「リリィには、指一本触れさせない」
その言葉に、影が一瞬だけ立ち止まる。
——試されている。
直感がそう告げた。
影はゆっくりと手を伸ばした。だがそれは、敵意ではなく、何かを“示す”ような動作だった。
「……導こうとしてるのか?」
すると影は一瞬、夜空を背に淡く光り、祠の方向へと身を翻した。
(導く先は……祠)
ゼインはその場に立ち尽くしながら、もう一度心に誓った。
(リリィの運命が、たとえこの世界の均衡を揺るがすとしても——俺は抗う)
朝食の席で、彼女はようやく笑顔を取り戻しつつあったが、その笑みの奥にはどこか遠くを見つめるような影があった。
「ねぇ、ゼインおじさん。夢の中の人、また来てたよ」
「何か話していたか?」
「うん……『おかえりなさい』って。あと、『思い出して』って……。でも、何を思い出せばいいのか、わからなかった」
「そうか…ありがとう。また夢で覚えてることがあったら教えてくれ」
リリィは静かに頷いた。
精霊との繋がりが深まっているのだろう。
今のリリィには、それを止めることも、引き返すこともできない。だからこそ、自分が支えなければならない。
その日、ゼインは再びリオを訪ねた。巻物の最後の部分に記された一節が、頭から離れなかったのだ。
『鍵たる者が目覚めれば、世界は分かれ、秩序は再び選ばれる』
「この“世界が分かれる”ってどういう意味だ?」
リオは深く息を吐き、壁際の椅子に腰を下ろした。
「昔話になるがな……かつてこの世界は、精霊と人が共に暮らす“統合の時代”があった。
だが力が均衡を崩し、世界は二つに分かれた。“人の理”と“精霊の理”じゃ」
「リリィが目覚めることで、その境が再び曖昧になるということか」
「そうじゃ。リリィがその“鍵”の役割を持っているのならば、扉が開かれた時、何が起きるかは……わしにも予想がつかん」
ゼインは拳を握った。
(リリィを利用しようとする者が現れるのは、時間の問題だ)
その夜、ゼインはリリィとテオを早めに寝かせると、小屋の周囲に罠と簡易的な警戒線を張った。これまでの穏やかな日々は、もう戻らないかもしれない。
だが、それでも守るべきものは変わらない。
月が高く昇った頃、異変は訪れた。
結界のひとつにわずかな反応があり、ゼインは即座に目を覚ます。
小屋の外に出ると、林の奥にほのかに灯る青白い光。人の気配は感じないが、空気が重く淀んでいる。
(……来たか)
音もなく進み、ゼインは光のもとへと向かう。そこには祠と同じ気配をまとう、半透明の“影”が浮かんでいた。
人の形をしているが、目も口もなく、ただ存在しているだけの“意志”のように感じた。
「お前が、精霊か……?」
返事はない。ただ、ゼインの持つ護符が淡く反応する。影はその光に引かれるように、ふわりとゼインの方へと漂ってくる。
ゼインは構えを崩さず、護符をかざした。
「リリィには、指一本触れさせない」
その言葉に、影が一瞬だけ立ち止まる。
——試されている。
直感がそう告げた。
影はゆっくりと手を伸ばした。だがそれは、敵意ではなく、何かを“示す”ような動作だった。
「……導こうとしてるのか?」
すると影は一瞬、夜空を背に淡く光り、祠の方向へと身を翻した。
(導く先は……祠)
ゼインはその場に立ち尽くしながら、もう一度心に誓った。
(リリィの運命が、たとえこの世界の均衡を揺るがすとしても——俺は抗う)
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