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1章
第9話:精霊のささやき
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小屋に戻ったゼインの表情は張り詰めていた。
空がほんのりと朝焼けに染まり始めるその時、
彼の瞳には、一晩中警戒を解かなかった者だけが持つ静かな緊張が漂っていた。
リリィはいつもより少し遅く目を覚ました。顔色はやや回復していたものの、何かを夢に見ていたのか、起きた直後もぼんやりと目を泳がせている。
「リリィ、よく寝られたか?」
ゼインが静かに問いかけると、リリィはうつむきながら小さく頷いた。
「夢で……光の中に誰かがいた。
名前は……わからない。でも、ずっと話しかけてきて……何か、大切なものを返してほしいって」
その言葉に、ゼインは昨夜の祠での出来事を思い出す。結晶の中に揺らめいていた淡い光。そして、ローブの人物が言っていた“目覚め”と“鍵”という言葉。
「リリィ。その夢はこわい夢だったか?」
「ううん……怖くはなかった。でも、なんだか胸がぎゅって締めつけられるような感じがして……
さみしかったの」
ゼインはリリィの頭をそっと撫で、そばにいたテオにも目をやる。弟は姉の異変に気づきつつも、不安を押し隠して強くあろうとしている。その小さな姿に、ゼインは胸が痛んだ。
午前中、ゼインは再びリオを訪ね、昨夜のこととリリィの夢の話を伝えた。
「封印された精霊の力が、夢を通じてリリィに干渉している……そう考えるのが自然じゃな」
「精霊とはいえ、害意があるとは限らないのか?」
「そうじゃな。精霊は“意志”を持つ存在。善悪の概念とは異なる。封じられて久しく、目的も失われている可能性がある。だが……人に害を与える力を持つことに変わりはない」
リオは真剣な表情でゼインに小さな巻物を手渡した。それはこの地に伝わる精霊伝承が記された古文書の写しだった。
「これはミアが遺したものじゃ。お主が読むには骨が折れるかもしれんが……必要になる日が来ると思って取っておいた」
ゼインは巻物を手に取り、深くうなずいた。
「……ありがとう。」
その日の午後、ゼインは仕事を休み、小屋で巻物と向き合った。古い言葉、断片的な記述、意味の読み取りに難儀しながらも、少しずつ情報を紐解いていく。
そして、ひとつの記述に辿り着いた。
『精霊は魂の循環を司る。鍵たる者は、かつて精霊に近き存在に選ばれし者。再び“道”を繋ぐために、目覚めを呼ぶ』
ゼインの手が止まる。
(リリィが、精霊に近き存在ということか……)
日が傾き、リリィが再び短い眠りにつく頃、彼女はうわ言のように言葉を漏らした。
「……お姉ちゃんを……返して……」
ゼインはその場に静かに座り込み、彼女の手を取りながら考えを巡らせていた。
この子が“精霊に近き存在”だというなら、自分の使命は守ることだけではないのかもしれない。
(この世界の命運と、この子たちの未来が交わるなら——俺は、どこまで背負えるのか)
祠の封印。精霊の目覚め。そして、リリィの中に眠る何か。
それらが静かに、しかし確かに動き始めていた。
空がほんのりと朝焼けに染まり始めるその時、
彼の瞳には、一晩中警戒を解かなかった者だけが持つ静かな緊張が漂っていた。
リリィはいつもより少し遅く目を覚ました。顔色はやや回復していたものの、何かを夢に見ていたのか、起きた直後もぼんやりと目を泳がせている。
「リリィ、よく寝られたか?」
ゼインが静かに問いかけると、リリィはうつむきながら小さく頷いた。
「夢で……光の中に誰かがいた。
名前は……わからない。でも、ずっと話しかけてきて……何か、大切なものを返してほしいって」
その言葉に、ゼインは昨夜の祠での出来事を思い出す。結晶の中に揺らめいていた淡い光。そして、ローブの人物が言っていた“目覚め”と“鍵”という言葉。
「リリィ。その夢はこわい夢だったか?」
「ううん……怖くはなかった。でも、なんだか胸がぎゅって締めつけられるような感じがして……
さみしかったの」
ゼインはリリィの頭をそっと撫で、そばにいたテオにも目をやる。弟は姉の異変に気づきつつも、不安を押し隠して強くあろうとしている。その小さな姿に、ゼインは胸が痛んだ。
午前中、ゼインは再びリオを訪ね、昨夜のこととリリィの夢の話を伝えた。
「封印された精霊の力が、夢を通じてリリィに干渉している……そう考えるのが自然じゃな」
「精霊とはいえ、害意があるとは限らないのか?」
「そうじゃな。精霊は“意志”を持つ存在。善悪の概念とは異なる。封じられて久しく、目的も失われている可能性がある。だが……人に害を与える力を持つことに変わりはない」
リオは真剣な表情でゼインに小さな巻物を手渡した。それはこの地に伝わる精霊伝承が記された古文書の写しだった。
「これはミアが遺したものじゃ。お主が読むには骨が折れるかもしれんが……必要になる日が来ると思って取っておいた」
ゼインは巻物を手に取り、深くうなずいた。
「……ありがとう。」
その日の午後、ゼインは仕事を休み、小屋で巻物と向き合った。古い言葉、断片的な記述、意味の読み取りに難儀しながらも、少しずつ情報を紐解いていく。
そして、ひとつの記述に辿り着いた。
『精霊は魂の循環を司る。鍵たる者は、かつて精霊に近き存在に選ばれし者。再び“道”を繋ぐために、目覚めを呼ぶ』
ゼインの手が止まる。
(リリィが、精霊に近き存在ということか……)
日が傾き、リリィが再び短い眠りにつく頃、彼女はうわ言のように言葉を漏らした。
「……お姉ちゃんを……返して……」
ゼインはその場に静かに座り込み、彼女の手を取りながら考えを巡らせていた。
この子が“精霊に近き存在”だというなら、自分の使命は守ることだけではないのかもしれない。
(この世界の命運と、この子たちの未来が交わるなら——俺は、どこまで背負えるのか)
祠の封印。精霊の目覚め。そして、リリィの中に眠る何か。
それらが静かに、しかし確かに動き始めていた。
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