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1章
第19話:門の囁き
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村に静寂が戻ったとはいえ、空に口を開いた"門"は依然として不気味な存在感を放ち続けていた。夜ごと微かに揺れ、時折ささやくような風が吹き抜ける。それはまるで、向こう側の何者かがこちらへ語りかけているようだった。
ゼインはその夜、眠れずにいた。小屋の屋根裏に登り、星の瞬きを背に、門の裂け目を見つめる。剣を膝に置きながら、静かに呼吸を整えた。
「眠れないの?」
後ろから声をかけてきたのは、リリィだった。パジャマの上に外套を羽織り、小さなランタンを手にしている。
「少しな。……お前もか」
「うん。門のほうから声がするような気がして……怖いわけじゃないけど、胸がザワザワして、眠れなかった」
ゼインは静かに微笑んだ。
「お前の中の力が、世界の変化を感じ取ってるのかもしれないな」
リリィはゼインの隣に座ると、門をじっと見つめた。
「ねぇ、ゼインおじさん。あの門の向こうにいる人たちって、本当に悪い人たちなのかな?」
「……わからない。でもな、敵だと決めつける前に、確かめる道があるなら、それを選ぶ価値はある」
リリィはこくんと頷いた。
そのとき、ふと風が吹き抜けた。門の裂け目から流れ込む風が、二人の髪を揺らす。その中に、確かに聞こえた。
——たすけて。
ゼインとリリィは同時に顔を見合わせた。
「今の……聞こえた?」
「……ああ。たしかに、誰かの声だった」
*
翌朝、ゼインはリオとヴァルド、そしてリリィとテオを連れて会議を開いた。
「昨夜、門の方角から“たすけて”という声がした。俺とリリィ、二人で聞いた」
リオが眉をひそめる。
「……門が完全に開ききっていない今、向こうからこちらに届く声は、“共鳴”によってしか成り立たぬ。それは、誰かがこちらと心を繋げようとしている証だ」
「なら、俺たちが向こうへ行って、直接話すという手はあるのか?」
リオはゆっくりと頷いた。
「理論上は可能じゃ。門の力に共鳴できる“器”が二つ以上存在し、そこに調停者が加われば、門の通路を“一時的に安定させる”ことができる」
「器って……」
「リリィと、テオのことじゃ」
ゼインはふたりを見た。リリィはすでに覚悟を決めたように頷き、テオもわずかに唇を噛みながら、それでもまっすぐ前を向いていた。
「……行くよ。誰かが助けを求めてるのに、黙ってるなんてできない」
「うん。僕も行く」
ヴァルドが唸るように言った。
「俺が支援部隊を組む。門の前に防衛線を張って、もしこっちに何かが出てきても対応できるようにしておく」
ゼインは感謝の意を込めて頷いた。
「……ありがとう」
*
門の前に立つと、空気が震えていた。昼間にもかかわらず、門の周囲だけが薄暗く、光が屈折するように歪んでいる。
リオが魔法陣を描き、リリィとテオの手をそれぞれの“焦点”に導く。
「準備はいいか?」
ゼインが問いかけると、リリィとテオはしっかりと頷いた。
「ここから先は、もう引き返せないかもしれない。それでも行くか?」
「うん」
「行く」
リオが呪文を唱え始めると、地面に描かれた魔法陣が淡く発光し始め、門の裂け目がゆっくりと開いた。中には、淡い白の光に包まれた空間が広がっていた。
ゼインはリリィとテオを抱えるようにして、その光の中へと足を踏み入れた。
——そして、次の瞬間。
彼らは“門の向こう側”へと到達した。
そこは、空も地も、すべてが白く霞んでいた。
音もなく、時間も止まったかのような静寂。
「ここが……“あちら”の世界?」
リリィが呟いたその時、目の前にぼんやりと浮かび上がる影が現れた。
それは、少女だった。リリィと同じくらいの年齢に見える。だがその瞳は深く、底の見えない闇のような色をしていた。
「たすけてくれて、ありがとう」
その声に、テオの目が大きく見開かれる。
「——お姉ちゃんの声……」
ゼインも驚いて、少女を見つめる。
(まさか……あの声は、この少女の中に?)
リリィが震える声で問いかけた。
「あなたは……誰?」
少女はゆっくりと微笑み、こう名乗った。
「私は“門の記憶”。そして……あなたたちの未来の一部」
ゼインはその夜、眠れずにいた。小屋の屋根裏に登り、星の瞬きを背に、門の裂け目を見つめる。剣を膝に置きながら、静かに呼吸を整えた。
「眠れないの?」
後ろから声をかけてきたのは、リリィだった。パジャマの上に外套を羽織り、小さなランタンを手にしている。
「少しな。……お前もか」
「うん。門のほうから声がするような気がして……怖いわけじゃないけど、胸がザワザワして、眠れなかった」
ゼインは静かに微笑んだ。
「お前の中の力が、世界の変化を感じ取ってるのかもしれないな」
リリィはゼインの隣に座ると、門をじっと見つめた。
「ねぇ、ゼインおじさん。あの門の向こうにいる人たちって、本当に悪い人たちなのかな?」
「……わからない。でもな、敵だと決めつける前に、確かめる道があるなら、それを選ぶ価値はある」
リリィはこくんと頷いた。
そのとき、ふと風が吹き抜けた。門の裂け目から流れ込む風が、二人の髪を揺らす。その中に、確かに聞こえた。
——たすけて。
ゼインとリリィは同時に顔を見合わせた。
「今の……聞こえた?」
「……ああ。たしかに、誰かの声だった」
*
翌朝、ゼインはリオとヴァルド、そしてリリィとテオを連れて会議を開いた。
「昨夜、門の方角から“たすけて”という声がした。俺とリリィ、二人で聞いた」
リオが眉をひそめる。
「……門が完全に開ききっていない今、向こうからこちらに届く声は、“共鳴”によってしか成り立たぬ。それは、誰かがこちらと心を繋げようとしている証だ」
「なら、俺たちが向こうへ行って、直接話すという手はあるのか?」
リオはゆっくりと頷いた。
「理論上は可能じゃ。門の力に共鳴できる“器”が二つ以上存在し、そこに調停者が加われば、門の通路を“一時的に安定させる”ことができる」
「器って……」
「リリィと、テオのことじゃ」
ゼインはふたりを見た。リリィはすでに覚悟を決めたように頷き、テオもわずかに唇を噛みながら、それでもまっすぐ前を向いていた。
「……行くよ。誰かが助けを求めてるのに、黙ってるなんてできない」
「うん。僕も行く」
ヴァルドが唸るように言った。
「俺が支援部隊を組む。門の前に防衛線を張って、もしこっちに何かが出てきても対応できるようにしておく」
ゼインは感謝の意を込めて頷いた。
「……ありがとう」
*
門の前に立つと、空気が震えていた。昼間にもかかわらず、門の周囲だけが薄暗く、光が屈折するように歪んでいる。
リオが魔法陣を描き、リリィとテオの手をそれぞれの“焦点”に導く。
「準備はいいか?」
ゼインが問いかけると、リリィとテオはしっかりと頷いた。
「ここから先は、もう引き返せないかもしれない。それでも行くか?」
「うん」
「行く」
リオが呪文を唱え始めると、地面に描かれた魔法陣が淡く発光し始め、門の裂け目がゆっくりと開いた。中には、淡い白の光に包まれた空間が広がっていた。
ゼインはリリィとテオを抱えるようにして、その光の中へと足を踏み入れた。
——そして、次の瞬間。
彼らは“門の向こう側”へと到達した。
そこは、空も地も、すべてが白く霞んでいた。
音もなく、時間も止まったかのような静寂。
「ここが……“あちら”の世界?」
リリィが呟いたその時、目の前にぼんやりと浮かび上がる影が現れた。
それは、少女だった。リリィと同じくらいの年齢に見える。だがその瞳は深く、底の見えない闇のような色をしていた。
「たすけてくれて、ありがとう」
その声に、テオの目が大きく見開かれる。
「——お姉ちゃんの声……」
ゼインも驚いて、少女を見つめる。
(まさか……あの声は、この少女の中に?)
リリィが震える声で問いかけた。
「あなたは……誰?」
少女はゆっくりと微笑み、こう名乗った。
「私は“門の記憶”。そして……あなたたちの未来の一部」
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