秋草を揺らす風が吹く先に

溯蓮

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1章

5話

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 見られたくないところを見られたので、灯我はまたその場にうずくまる。それを見て夜安は大急ぎで駆け寄る。
 夜安は理科室に行くと聞いていたので心配で見に来ていたのだ。

「大丈夫!?怪我とかはないの?」

「あー、うん。昨日ちゃんと仮封印してたから特に戦闘なしで封印出来たから別に怪我とかないよ。」

「よかったー」

「てか、昨日襲われてたのによくここに来たね。普通警戒するものでしょ?」

「独りで行くから心配したんだよ!声かけてくれないし!!」

 拗ねたように何で声かけてくれなかったの!?という夜安を見て、灯我は少し驚く。心配されると思ってなかったし。まさか一緒に来る気があったとは思ってなかった。

「ごめん…」

「別にいいけどさ……あ、てことはもうこいつは平気なの?」

「まぁ封印が解かれなかったら、だけどね。」

「退治って言ってたから殺すのかと思ってた。そういうわけじゃなかったんだね。」

 安心したように、ぺちぺちと人体モデルを叩く夜安。いくら封印したからと言って安心しすぎなのではないか?とも思ったが、この短い期間の間にわかったのは、夜安は案外好奇心が旺盛だ。興味のある事には前向きに向かって行ってしまう。自分の安否関係なく。

「君はいつの間にか死んでそうで不安になる。」

「え!なにそれ、葉風もそんなこと言うの!?」

「葉風も……?」

 少し気がかりなところがあったが、直ぐにまぁ彼を知ってる人なら同じことを言うかと自己完結させる。人体モデルの封印も終わったし、たくさんいる妖怪たちは、人間に攻撃するほどの力もないから封印するまでもないということで、灯我は早々に変える準備をする。

「葉風帰るの?」

「うん。封印終わったし、一応この時間ならまだ保育園の子供公園にいるだろうし。」

「葉風子供好きなの?」

「うん。」

 学校に来るのを嫌がってたのは、妖怪に遭遇するからなのもそうなのだが、子供に会う時間が減るからなのもあるのだ。子供好きの灯我にとっては、子供に合える時間は大切で、きちんと自分を理解してくれる保育園の職員にも灯我は懐いていたのだ。

「萩白くんも来る?」

「え、大丈夫なの?」

「遊びたい盛りだからね。鬼ごっこでもしてあげたら機嫌よくしてじゃれついてくるよ。」

「え、そんな犬みたいな感じなの。」

 荷物を持って、校外に出る。いつも通り子供たちが遊んでる公園に行くと、職員の人がすぐに気付いて、夜安の姿を見て目を見開いた。

「まさか本当に学校に行ったのかい?」

「行かないと思ってたんですか…」

「あ!馬場先生じゃん!!」

「夜安くん。久しぶり大きくなったねぇ。」

 夜安は職員である馬場に気付いて駆け寄っていく。馬場も懐かしそうに目を細めて頭を撫でる。

「もう!子ども扱いしないでよ!!」

「あはは。そっか、夜安くんと灯我君は同じクラスだったんだね。」

「知り合い?」

「俺が保育園に通ってた時の担任の先生だったんだ。」

「へー。」

 公園で遊んでた子供たちも、灯我と夜安に気付き、駆け寄ってくる。一部は夜安の事を知っているのか、直ぐに夜安兄ちゃん遊ぼうと制服の袖を引っ張っている。灯我も本を読んでとねだられる。

「ははっ。二人とも人気だね。」

「よあんおにいちゃん…きょうお兄ちゃんはいないの?」

「あーごめんねしほちゃん。あいつ今日は眠いって言って先帰っちゃって。」

「……会えないの?」

「あーごめんね!今度は連れてくるから!!」

 袖を引っ張って話しかけた、かわいらしく髪を二つに束ねた女の子が夜安に話しかける。その内容は夜安の友人である蓮離鏡の事だった。

「きょうおにいちゃんって、まさか…」

「あーそう。朝に会った蓮離鏡の事。しほちゃんが気に入っちゃったみたいで…」

「へー…女の子ってわかんない。」

 灯我は、今日の一件ですでに鏡に対して苦手意識を持っているらしく、少し複雑そうに顔をしかめる。その様子を見て灯我は苦笑いを見せるしかない。

「明日からは学校来るの?」

「…迷ってる。正直、アヤカシ者がいる中で君は勉強してるんなら、それを理由に休むのもなんだかなってなるし、何より君は放っておくとすぐにアヤカシ者に殺されてしまいそうだからね。」

「えぇ!?」

 目を見開き大きく叫ぶ夜安の姿に、灯我は笑みをこぼす。喜怒哀楽の分かりやすい夜安を見ていると、灯我も自然と楽しくなってくる。

「いい友達ができたんだね、灯我君。夜安君は誰とでも仲良くなれるから心配してなかったけど。」

「え?」

「まって、本当、みんなの中での俺ってなんなの?馬鹿かナニカなの?」

「そこまではいってないよ。」

 友達。という言葉は灯我に聞きなじみのないものだった。
 アヤカシ者、というのは基本、存在するのに存在感が薄い者たちだ。噂系のモノたちはその都市伝説通りの現象としてしか存在を示せないし、それ以外のモノたちも存在はできても、認知はされない。
 灯我のように昔からアヤカシ者に触れて来たか、それ相応の感覚や素質を持っていないとアヤカシ者は認知できない。

 だからこそ、幼い時から灯我は他とは違う子供だった。見えることを隠しても、アヤカシ者たちに邪魔をされて友人なんてできた試しがなかった。だからこそ、友人という言葉は、すとんと灯我
の心に入り込んできた。

「学校に通うんだったら、これまでのノートを萩白くんに魅せてもらわないとね。」

「え!葉風来てくれんの?」

「うん。さっきも言ったとおり、危なっかしすぎるしね。ついでにアヤカシ者の事も、俺が知る範囲で教えてあげるよ。」

「マジ!?ありがとう!」

「これで暁照さんに怒られることも減りそうだ。」

 だからこそ、学校に行こうと灯我は考える。学校に行かないで夜安が死んだなんて聞いたら目覚めが悪いだろうし、何より灯我本人が死ぬほど後悔してしまいそうだから。

「それは言わないでよ。」

「葉風おじいちゃんに怒られるのが怖いの?」

「うるさいよ。あれに怒られる面倒くささを知らないから言えるんだ。」

 初めての友人、といっても相違ない存在に、やっと年相応の顔をして見せた灯我を見て、馬場は安心したように微笑んだ。この街に来てから、仏頂面か子供たちに見せる笑みしか見たことなかった馬場は、ひそかに灯我の事を心配していたからだ。

「じゃあ葉風、また明日な!」

「うん。また明日ね、萩白くん。」

 昨日のように、夕暮れ時に別れる。昨日は言えなかったまた明日を、しっかりと告げて。
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