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第二章 地の底の緑
第十三話 闇の中
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パチリ、灰色の小鳥は、目を開けた。
鉄籠の隙間から、朱色の本に手を伸ばす、海藻頭の髭面中年男、春風と目があった。
化け物を見たような顔をされる。
(無礼な人間だ。)
籠をぶち壊して飛び出した小鳥は、自分の体当りを風で反らして逃げる小賢しい中年男を眺めつつ、周りを見回す。
青空の下、草原は灰色に変わり、街では魔物が咆哮を上げている。
狐の破邪の青い炎と、狼の浄化の白い炎が、魔物を、辺りに漂う黒い煙を燃やす。
赤髪の人間が、人間を助け、踊るように魔物と戦っている。
人間たちが、魔物を四方から封じの鎖で捕らえていた。
それは、小鳥が遠い昔に見た術と同じものだった。
(やはり、か。)
小鳥は、空に向かって突っ込んだ。
遠くで中年男の、げえッ?!という声が聞こえたが、無視する。
空へ、
空へ、
見下ろした地上に散る金色の光、それは、街のある平地一帯に広がっていた。
その術に、小鳥は見覚えがあった。
黒鬼が暴いた、ラユシュの記憶。
(あれの術だ…)
金色の王の側にいた、金色の髪と金目の予言者。
偽りの予言で、大切な子供たちを死に追いやった男。
青い髪と黒い翼を持つ、暗い目をもって嗤う男。
あの男の使う術と同じだった。
小鳥の禍々しい闇色の目から、涙が、とつ、とつと流れた。
それは、黒い雫となって地上に落ちていく。
(壊してやる)
(キサマの)
(すべてを)
(必ず)
(壊してやるぞ)
小鳥は、まず、人間どもを守る結界は、ヤツが造ったものだから、それを破壊しよう、と思った。
だが、赤髪と黒藻の人間と、狐と狼が守っている。
黒鬼に一度消されかけた今の小鳥の力では、手に余る。
やはりここはどうにかして、灰色の鬼を、黒鬼にし…、
あの白い服をなんとかして脱がせ…、て…、
『……………。』
(どうすればいいか…。)
頭と身体が冷えた小鳥は、地上を見下ろし違和感に気づく。
『?』
小鳥の目が見つけた、地上の光が、1つ消えていた。
しばらくすると、また1つ、また1つと消えていく。
『あれは…。』
春風は、小鳥の飛んでいった空を見上げた。
あれから、いつどこから隕石のように春風の脳天に落ちてくるのか、と、ひやひやしながら異国の神官たちが、結界を修復するのに、邪魔(魔物)が入らないよう守っていた。
とてもまずいモノ(黒朗)が結界の穴から出てきていない事実に目を反らしながら…。
(まずいよなァ。)
魔物避けの結界を造るため、封じられていた天虎は、とても強い神だった。
黒く変化した黒朗の荒ぶる力を押さえこんでまでいた。
そんな神を、騙しているとはいえ封じている結界なら、きっと、あと何百年か、あの鬼を封じてくれる。
黒朗は、暴走するのを気にしていたのだ。
結界の中で、寝てればいいじゃあないか。
友人の神と、時々、碁でも打っていればいいのだ。
天下太平、である。
(って、ないな。…あの神様は、もう堕ちる。)
偽りで結ばれた神と人との約束。
それは、神を穢した。
(いや、もう堕ちている。)
穴から出てくる黒い煙、魔物たち、この土地から溢れ出す邪悪な力、それには、あの神の気配がする。
あの神の憎悪による、呪いが。
人間の女への愛を語っていた、美しい神の微笑みの奥、思い出すだけで寒気がする。
(これは、報いだ。ここに住む人間たちは、報いを受けているだけだ…。)
「…アーー!!」
春風は、ぼさぼさの黒髪をかきむしった。
「くそー、しかも、もっと奥底にいたぞ、まずいのが…。」
湖よりも、大きなあれは、目玉。
真っ黒な、その目には、喜悦。
巨大な身体を地の奥底に埋もれさせながら、
にたり、嗤う。
流れ込む思考が、春風の心と身体を侵し、すりつぶした。
理解不可能な、その巨大な意識。
(あれは、外道の神だ。)
すべての事象に縛られない神。
善の道、
悪の道、
そんなもの、
彼らにとって、なんの意味もない。
ただ、其処に在る。
(人間なんぞ、魔物なぞ、どこ吹く風、ってな…)
黒い鬼の姿が、脳裏をよぎる。
春風は着物の胸元を押さえた。
そこにあるのは、朱色の本。
「においます、ね~」
狐仙人は、鼻をひくりと動かした。
「においますよ、においます。」
「どうしたんすか?」
春風は、青い炎で、魔物を黒焦げにしていく狐仙人が、あちらこちらと鼻先を向ける姿に声をかける。
狐仙人は、魔物の中には、元人間もいると伝え、手加減をしろと伝えても、知らんぷりで半死半焼にしていた。
「ヤバいにおいが、プンプンします!」
「だから燃やしすぎなんすよ!」
「ハァ?!燃やして何が悪いんですか?!それじゃない、それじゃないんです。」
狐仙人は鼻を動かし、赤い目を細める。
狐仙人の鼻は、なんでも嗅ぎ付ける。
狐仙人の目は、なんでも見つけだす。
過去も、未来も、ちょっとだけ。
「これは、まずい…。」
狐仙人は、足元を見下ろし呟いた。
「出てしまう。」
カギャギャとひきつる音をたて、青と金色の混じりあい輝く顔を震わす。
【おぉ…、おぉ…、出られる。】
昆虫のような顔を持つ、人間のようなそれは、頭に生えた触覚をゆさりと上へ向ける。
闇の中、歩き出す。
【日の光が見られるのか?オレは、あれが忘れられない。】
ザンバラ髪の少年は、薄紫色の鼻をすっと上に向ける。
【ア・モースー、おめえの目じゃ見れないだろが】
むしゃむしゃと白の混じる紫色の大きな昆虫の脚を食べていた巨人が、足元をシャカシャカと昆虫の身体を揺らして進む少年を見下ろす。
【見れなくとも、わかる。あれは、あったけぇ、オレはあれが好きだ。】
少年は、うっとりと頬を染める。
【あと、人間の身体の中もあったかくて、好きだ。あと、うまい。】
巨人は、またブチリと少年の脚を引きちぎり喰らいながら、全身の鋼色と金色のトゲを揺らし笑った。
【おめえのもなかなかうまいがなー!】
【うざいぞ、ジ・タラ!触るな!】
少年は、また、身体に伸ばしてきた巨人の手を払う。
巨人がちぎった少年の脚があったところに、みるみる新しい脚が生えた。
【…おぉ!おぉ!あそこだぞ、出口だ。ゆくぞ!!皆の衆!】
タ・カランが、闇の中、波打つ一点を指さす。
【興奮して細切れにしてくんなよ、タ・カラン。】
【そんなことはせぬ。仲間にそのような無体を働くはずがなかろう!】
【したぜー、そのせいでアンタの数少ない友だち死んだろうが。…いや、大分前に全部殺してたから、この前のは、運のいい通りすがりだったかな。】
【記憶にござらぬ!】
【ござらぬ!じゃねぇよ。これだからボケた爺は…】
昆虫の頭を持つそれ、タ・カランは、立ち止まった。
くるりと振り返る。
【あ?やるか?】
トゲだらけの巨人、ジ・タラは、赤い目を光らせガチンと歯を鳴らす。
【あそこに】
タ・カランは、どろつく闇の中を指差す。
白くて丸い、光が見える。
それは、彼らを地の底に封じた…
【クソったれ、が居やがるな!】
ジ・タラは、震え出す。
憎悪と怒りに彼の身体が膨れていく。
【手を出すな…、ジ・タラ】
タ・カランの制止の声に、ジ・タラは、渋面を作り、タ・カランを見る。
【どうしたのさ、タ・カラン…】
恐る恐るア・モースーは、タ・カランに声をかける。
【そうじゃない…、ヤツではない…、あの死に損ないではない…、こちらを見ている…】
苔むした石牢の中、黒朗は、小窓から見える月を眺めていた。
満月の目で、じっと見ていた。
ふと、床に寝ているアルシャンに視線を移す。
アルシャンは、動かなくなっていた。
牢に広がる長く白い髪が、少しずつ暗闇に消えていく。
黒朗は、身に付けていた白い長衣を脱いだ。
裸の上半身に、黒い長布を掛け、茶色がかった黒いズボンと、黒靴、手には黒手袋と、それだけの姿になった。
アルシャンから昔もらった黒い服で造ったモノだ。
白い長衣を眺めて、焼け焦げてしまっている部分にため息をつく。
黒朗はしゃがみこみ、その服を動かないアルシャンの上に置いた。
『…この服は、オマエの故郷で、天虎たちがくれた。オマエの毛よりもいいヤツがいないと言ったら、怒りながら造って、オレにくれたんだ。きっと、オマエを癒してくれるだろう。』
黒朗は、アルシャンの美しい黄緑色の目をのぞきこんだ。
『ありがとう、アルシャン。オレは、オマエのおかげで、色々なところへ行けた。色々なヤツと話せた。オマエが、オレの世界を変えてくれたんだ。』
破壊ばかりの黒鬼に、雲の上から声をかけてきた、黒と白の斑な天虎。
差し出された黒服に袖を通し、鬼は旅をしてきた。
歩んでも、草花は、木は、動物は、命は、黒灰と散らない。
黒朗がいた死と破壊の世界は、輝く生命溢れる世界になったのだ。
(束の間の、夢、そうだとしても)
黒朗は、アルシャンの白い額に、灰色の額をくっつけた。
『…誰かに、ふれられた…。…このオレが…。』
黒朗は、小窓の月に手を伸ばす。
満月が、ぐにゃぐにゃになって消えていって、
『…さよならだ。友よ。』
石牢には、白い髪した神様が、ひとり。
タ・カランは、息をのんだ。
闇の中、憎らしく輝く白い光から、手が出てきた。
腕が出てきた。
髪を揺らめかせて、何かが出てきた。
【何あれ?】
ア・モースーは、紫色の身体を震わせた。
【あれは、まさか…】
ジ・タラは、一歩退いた。
昔見た懐かしい人間の形をしている。
灰色の人間、その頭には、一本の角。
こちらを見た丸い目も、懐かしい色、美しいあれは…
【逃げよオオオオオオオオオオオオ!!】
闇の中、誰かが吼えた。
誰もが吼えた。
出口を目指す、魔物の群が震え逃げ惑う。
黄色の目は、炎のように爛々と赤く輝き、
灰色の肌は、闇のような漆黒に染まる。
陽炎のように波打つ黒髪からのぞく、黒の一本角。
爪の先まで真っ黒な黒い手が、するりと動いて、
地上への出口に群がる、魔物たちが悲鳴を上げた。
出口が、真っ赤な壁に変わった。
溶岩のように蠢くそれに近づくと、魔物の身体は音を立てて消えた。
闇の世界の空が、赤色に染まっていく。
その光に照らされて、細く長く蛇のようにとぐろをまいて下からのびている、黒い石階段が見える。
その上にいる、何千頭もの魔物が、ふいに現れた赤い光に目を見開いている。
ぽたり、ぽたりと、赤い雨が降り始めた。
魔物たちに降り注ぐ。
魔物たちは、悲鳴を上げて、歩み進んでいた階段を蹴り、闇の底へと落ちていく。
黒朗は、黒い石階段に、すたりと降り立った。
『……。』
こつり、こつり、石階段を下っていく。
鉄籠の隙間から、朱色の本に手を伸ばす、海藻頭の髭面中年男、春風と目があった。
化け物を見たような顔をされる。
(無礼な人間だ。)
籠をぶち壊して飛び出した小鳥は、自分の体当りを風で反らして逃げる小賢しい中年男を眺めつつ、周りを見回す。
青空の下、草原は灰色に変わり、街では魔物が咆哮を上げている。
狐の破邪の青い炎と、狼の浄化の白い炎が、魔物を、辺りに漂う黒い煙を燃やす。
赤髪の人間が、人間を助け、踊るように魔物と戦っている。
人間たちが、魔物を四方から封じの鎖で捕らえていた。
それは、小鳥が遠い昔に見た術と同じものだった。
(やはり、か。)
小鳥は、空に向かって突っ込んだ。
遠くで中年男の、げえッ?!という声が聞こえたが、無視する。
空へ、
空へ、
見下ろした地上に散る金色の光、それは、街のある平地一帯に広がっていた。
その術に、小鳥は見覚えがあった。
黒鬼が暴いた、ラユシュの記憶。
(あれの術だ…)
金色の王の側にいた、金色の髪と金目の予言者。
偽りの予言で、大切な子供たちを死に追いやった男。
青い髪と黒い翼を持つ、暗い目をもって嗤う男。
あの男の使う術と同じだった。
小鳥の禍々しい闇色の目から、涙が、とつ、とつと流れた。
それは、黒い雫となって地上に落ちていく。
(壊してやる)
(キサマの)
(すべてを)
(必ず)
(壊してやるぞ)
小鳥は、まず、人間どもを守る結界は、ヤツが造ったものだから、それを破壊しよう、と思った。
だが、赤髪と黒藻の人間と、狐と狼が守っている。
黒鬼に一度消されかけた今の小鳥の力では、手に余る。
やはりここはどうにかして、灰色の鬼を、黒鬼にし…、
あの白い服をなんとかして脱がせ…、て…、
『……………。』
(どうすればいいか…。)
頭と身体が冷えた小鳥は、地上を見下ろし違和感に気づく。
『?』
小鳥の目が見つけた、地上の光が、1つ消えていた。
しばらくすると、また1つ、また1つと消えていく。
『あれは…。』
春風は、小鳥の飛んでいった空を見上げた。
あれから、いつどこから隕石のように春風の脳天に落ちてくるのか、と、ひやひやしながら異国の神官たちが、結界を修復するのに、邪魔(魔物)が入らないよう守っていた。
とてもまずいモノ(黒朗)が結界の穴から出てきていない事実に目を反らしながら…。
(まずいよなァ。)
魔物避けの結界を造るため、封じられていた天虎は、とても強い神だった。
黒く変化した黒朗の荒ぶる力を押さえこんでまでいた。
そんな神を、騙しているとはいえ封じている結界なら、きっと、あと何百年か、あの鬼を封じてくれる。
黒朗は、暴走するのを気にしていたのだ。
結界の中で、寝てればいいじゃあないか。
友人の神と、時々、碁でも打っていればいいのだ。
天下太平、である。
(って、ないな。…あの神様は、もう堕ちる。)
偽りで結ばれた神と人との約束。
それは、神を穢した。
(いや、もう堕ちている。)
穴から出てくる黒い煙、魔物たち、この土地から溢れ出す邪悪な力、それには、あの神の気配がする。
あの神の憎悪による、呪いが。
人間の女への愛を語っていた、美しい神の微笑みの奥、思い出すだけで寒気がする。
(これは、報いだ。ここに住む人間たちは、報いを受けているだけだ…。)
「…アーー!!」
春風は、ぼさぼさの黒髪をかきむしった。
「くそー、しかも、もっと奥底にいたぞ、まずいのが…。」
湖よりも、大きなあれは、目玉。
真っ黒な、その目には、喜悦。
巨大な身体を地の奥底に埋もれさせながら、
にたり、嗤う。
流れ込む思考が、春風の心と身体を侵し、すりつぶした。
理解不可能な、その巨大な意識。
(あれは、外道の神だ。)
すべての事象に縛られない神。
善の道、
悪の道、
そんなもの、
彼らにとって、なんの意味もない。
ただ、其処に在る。
(人間なんぞ、魔物なぞ、どこ吹く風、ってな…)
黒い鬼の姿が、脳裏をよぎる。
春風は着物の胸元を押さえた。
そこにあるのは、朱色の本。
「においます、ね~」
狐仙人は、鼻をひくりと動かした。
「においますよ、においます。」
「どうしたんすか?」
春風は、青い炎で、魔物を黒焦げにしていく狐仙人が、あちらこちらと鼻先を向ける姿に声をかける。
狐仙人は、魔物の中には、元人間もいると伝え、手加減をしろと伝えても、知らんぷりで半死半焼にしていた。
「ヤバいにおいが、プンプンします!」
「だから燃やしすぎなんすよ!」
「ハァ?!燃やして何が悪いんですか?!それじゃない、それじゃないんです。」
狐仙人は鼻を動かし、赤い目を細める。
狐仙人の鼻は、なんでも嗅ぎ付ける。
狐仙人の目は、なんでも見つけだす。
過去も、未来も、ちょっとだけ。
「これは、まずい…。」
狐仙人は、足元を見下ろし呟いた。
「出てしまう。」
カギャギャとひきつる音をたて、青と金色の混じりあい輝く顔を震わす。
【おぉ…、おぉ…、出られる。】
昆虫のような顔を持つ、人間のようなそれは、頭に生えた触覚をゆさりと上へ向ける。
闇の中、歩き出す。
【日の光が見られるのか?オレは、あれが忘れられない。】
ザンバラ髪の少年は、薄紫色の鼻をすっと上に向ける。
【ア・モースー、おめえの目じゃ見れないだろが】
むしゃむしゃと白の混じる紫色の大きな昆虫の脚を食べていた巨人が、足元をシャカシャカと昆虫の身体を揺らして進む少年を見下ろす。
【見れなくとも、わかる。あれは、あったけぇ、オレはあれが好きだ。】
少年は、うっとりと頬を染める。
【あと、人間の身体の中もあったかくて、好きだ。あと、うまい。】
巨人は、またブチリと少年の脚を引きちぎり喰らいながら、全身の鋼色と金色のトゲを揺らし笑った。
【おめえのもなかなかうまいがなー!】
【うざいぞ、ジ・タラ!触るな!】
少年は、また、身体に伸ばしてきた巨人の手を払う。
巨人がちぎった少年の脚があったところに、みるみる新しい脚が生えた。
【…おぉ!おぉ!あそこだぞ、出口だ。ゆくぞ!!皆の衆!】
タ・カランが、闇の中、波打つ一点を指さす。
【興奮して細切れにしてくんなよ、タ・カラン。】
【そんなことはせぬ。仲間にそのような無体を働くはずがなかろう!】
【したぜー、そのせいでアンタの数少ない友だち死んだろうが。…いや、大分前に全部殺してたから、この前のは、運のいい通りすがりだったかな。】
【記憶にござらぬ!】
【ござらぬ!じゃねぇよ。これだからボケた爺は…】
昆虫の頭を持つそれ、タ・カランは、立ち止まった。
くるりと振り返る。
【あ?やるか?】
トゲだらけの巨人、ジ・タラは、赤い目を光らせガチンと歯を鳴らす。
【あそこに】
タ・カランは、どろつく闇の中を指差す。
白くて丸い、光が見える。
それは、彼らを地の底に封じた…
【クソったれ、が居やがるな!】
ジ・タラは、震え出す。
憎悪と怒りに彼の身体が膨れていく。
【手を出すな…、ジ・タラ】
タ・カランの制止の声に、ジ・タラは、渋面を作り、タ・カランを見る。
【どうしたのさ、タ・カラン…】
恐る恐るア・モースーは、タ・カランに声をかける。
【そうじゃない…、ヤツではない…、あの死に損ないではない…、こちらを見ている…】
苔むした石牢の中、黒朗は、小窓から見える月を眺めていた。
満月の目で、じっと見ていた。
ふと、床に寝ているアルシャンに視線を移す。
アルシャンは、動かなくなっていた。
牢に広がる長く白い髪が、少しずつ暗闇に消えていく。
黒朗は、身に付けていた白い長衣を脱いだ。
裸の上半身に、黒い長布を掛け、茶色がかった黒いズボンと、黒靴、手には黒手袋と、それだけの姿になった。
アルシャンから昔もらった黒い服で造ったモノだ。
白い長衣を眺めて、焼け焦げてしまっている部分にため息をつく。
黒朗はしゃがみこみ、その服を動かないアルシャンの上に置いた。
『…この服は、オマエの故郷で、天虎たちがくれた。オマエの毛よりもいいヤツがいないと言ったら、怒りながら造って、オレにくれたんだ。きっと、オマエを癒してくれるだろう。』
黒朗は、アルシャンの美しい黄緑色の目をのぞきこんだ。
『ありがとう、アルシャン。オレは、オマエのおかげで、色々なところへ行けた。色々なヤツと話せた。オマエが、オレの世界を変えてくれたんだ。』
破壊ばかりの黒鬼に、雲の上から声をかけてきた、黒と白の斑な天虎。
差し出された黒服に袖を通し、鬼は旅をしてきた。
歩んでも、草花は、木は、動物は、命は、黒灰と散らない。
黒朗がいた死と破壊の世界は、輝く生命溢れる世界になったのだ。
(束の間の、夢、そうだとしても)
黒朗は、アルシャンの白い額に、灰色の額をくっつけた。
『…誰かに、ふれられた…。…このオレが…。』
黒朗は、小窓の月に手を伸ばす。
満月が、ぐにゃぐにゃになって消えていって、
『…さよならだ。友よ。』
石牢には、白い髪した神様が、ひとり。
タ・カランは、息をのんだ。
闇の中、憎らしく輝く白い光から、手が出てきた。
腕が出てきた。
髪を揺らめかせて、何かが出てきた。
【何あれ?】
ア・モースーは、紫色の身体を震わせた。
【あれは、まさか…】
ジ・タラは、一歩退いた。
昔見た懐かしい人間の形をしている。
灰色の人間、その頭には、一本の角。
こちらを見た丸い目も、懐かしい色、美しいあれは…
【逃げよオオオオオオオオオオオオ!!】
闇の中、誰かが吼えた。
誰もが吼えた。
出口を目指す、魔物の群が震え逃げ惑う。
黄色の目は、炎のように爛々と赤く輝き、
灰色の肌は、闇のような漆黒に染まる。
陽炎のように波打つ黒髪からのぞく、黒の一本角。
爪の先まで真っ黒な黒い手が、するりと動いて、
地上への出口に群がる、魔物たちが悲鳴を上げた。
出口が、真っ赤な壁に変わった。
溶岩のように蠢くそれに近づくと、魔物の身体は音を立てて消えた。
闇の世界の空が、赤色に染まっていく。
その光に照らされて、細く長く蛇のようにとぐろをまいて下からのびている、黒い石階段が見える。
その上にいる、何千頭もの魔物が、ふいに現れた赤い光に目を見開いている。
ぽたり、ぽたりと、赤い雨が降り始めた。
魔物たちに降り注ぐ。
魔物たちは、悲鳴を上げて、歩み進んでいた階段を蹴り、闇の底へと落ちていく。
黒朗は、黒い石階段に、すたりと降り立った。
『……。』
こつり、こつり、石階段を下っていく。
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その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
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